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COP26で決まったこと ~脱炭素社会への分水嶺となるグラスゴー~

日本政府がカーボンニュートラル宣言をしたのは、約1年前。カーボンニュートラルや脱炭素といったキーワードをニュースで目にしない日はないほど社会にも浸透しています。当社の調査(※)でも、気候変動に対する生活者の関心や理解が高まっていることが示されています。

※「CSVサーベイ2021年10月」より
CSVサーベイの詳細調査結果は、以下ページよりご覧ください。
当社ニュースリリース「気候変動と企業コミュニケーションに関する生活者意識調査」
コラム 「脱炭素時代におけるサステナビリティ情報訴求の有効性~CSVサーベイ 2021年秋」

こうした中、IPCCが今年8月に発表した第1作業部会による第6次報告書では、「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」と明記されました。
そして、コロナ禍で1年の延期を経て、スコットランドのグラスゴーで2021年10月31日~11月13日に開催されたのが、COP26(国連気候変動枠組条約第26回締約国会議)となります。世界各国から多くの首脳が参加したこの国際会議で、どのような気候変動対策が話し合われ合意に至ったのでしょう?

先進国による途上国への資金援助やパリ協定第6条の排出権取引に関するルール整備など、多くの内容が「グラスゴー気候合意(Glasgow Climate Pact)」としてまとめられました。また、民間企業が主導し、ネットゼロを目指すために450以上の金融機関が同盟をつくり、今後30年で100兆ドルの脱炭素資金の供給にコミットすることも重要なトピックスとして挙げられます。
今回は、その他、COP26についてビジネスパーソンの立場から知っておきたい主な内容をピックアップしてお伝えします。

1.5℃目標が公式文書として明記される

2015年のCOP21で合意されたパリ協定では、産業革命後の気温上昇を2℃に抑えることが求められ、1.5℃は努力目標とされていました。しかし、2℃の上昇は地球環境に及ぼす影響が大きく、1.5℃に抑えるために、最近では2050年までのカーボンニュートラルが必要であることが世界の潮流となっていました。

すでに日本を含む多くの国々が、2030年の削減目標や将来のカーボンニュートラル達成時期を目標として掲げていますが、今回のCOP26の開催を契機に、これまで目標時期を示していなかったインド(2070年)やロシア(2060年)、中東産油国のサウジアラビア(2060年)やバーレーン(2060年)が目標を掲げることになりました。(括弧内:カーボンニュートラル達成目標時期)

これまで、産業革命以降、今世紀末までの気温上昇は2.7℃に達すると言われてきましたが、こうした各国の新たな目標が達成できれば、気温上昇は1.8℃に抑えられるとの見解をIEA(International Energy Agency:国際エネルギー機関)が示しました。

こうした動きの中で、COP26では「1.5℃以内に抑える努力を追求」することが公式文書に明記され、温室効果ガス排出のさらなる削減を目指すことになります。

気温上昇を1.5℃に抑えるため、次回、エジプトで開催されるCOP27では、各国の新しい削減目標が求められています。2030年のCO2削減目標を2013年比46%に設定する日本も当然ながら、上積みが要求されることになるでしょう。

石炭廃止の表現は弱まるも化石燃料の座礁資産化は加速

温室効果ガス排出を抑えるための有力な手段の1つが、化石燃料の利用を抑えること。その中でも、温室効果ガス排出量の多い石炭火力発電には厳しい目が向けられています。
しかし、合意文章の草案にあった「排出削減対策を講じていない石炭火力発電所の廃止、および化石燃料への非効率的な補助金の段階的廃止」という文言は、「段階的に削減」に修正され、表現が弱まるかたちとなりました。

一方で、COP26の成果として挙げられるのが、デンマークとコスタリカが主導し、石油・天然ガス生産の新たな認可を認めず、段階的廃止を目指す有志の国・地域の連合体「ビヨンド石油・ガス同盟(BOGA)」に8カ国・3地域が賛同したことでしょう。
また、最近のエクソンモービルやシェルの株主総会では、物言う株主により環境対策のさらなる強化が求められました。その圧力は今後も強まり、石炭や石油など化石燃料の座礁資産化はこれまで以上に加速することになるでしょう。

今年10月に閣議決定した、第6次エネルギー基本計画による2030年の日本政府の目標は以下の通りとなりました。2030年時点でも約4割を占める化石燃料。物言う株主と世界の潮流により、化石燃料比率のさらなる削減努力が求められることになるでしょう。

〈総発電量に占める電源構成 実績と2030年度目標〉

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2030年での終焉を目指す森林破壊

脱炭素を目指すことに同意はしているものの、先進国と新興国との綱引きにより、すんなりと満場一致とはいかない合意事項の中で、多くの国々の賛同により合意したこととして、森林保全が挙げられます。
その内容とは、2030年までに森林破壊を止め、回復させることに100カ国以上が合意し、官民あわせて2兆円以上の資金が森林保護や修復に使われるということです。

合意国には、日本や米国に加え、違法伐採や森林火災の課題を抱えるブラジルの他、中国やインドネシアも参加し、それら国々の総面積は、世界の約85%の森林をカバーするそうです。

温室効果ガスの吸収源としてその機能が改めて見直されている森林保全というテーマが、生物多様性ではなく、気候変動の会議で合意されたことには驚くべきことですが、いまや気候変動と生物多様性は同時に解決すべきテーマであることが世界で認識されています。

こうした動きは、これまで以上に、FSC(Forest Stewardship Council:森林管理協議会)などの認証された木材の利用、森林の厳重な管理が求められることになります。燃やすことにより大量のCO2が排出される化石燃料の使用がはばかれるのと同様に、今後は違法に伐採されたり、管理下におかれていない木材の使用やそれを原材料とする商品の流通や販売は許されず、国際的な罰則のルールも整備されることでしょう。

先進国ではダントツの国土面積の67%を占める森林面積を保有しながらも、木材自給率は40%程度に留まり、中国や米国と並び、木材輸入国の上位に位置する日本。林業の再生、国土の有効利用が今、問われています。

産業革命のメッカとも言えるその地が、脱炭素社会の分水嶺となる

蒸気機関の発明や電力の単位で知られるジャームズ・ワットが学生時代を過ごしたのが500年以上の歴史を有するグラスゴー大学。そして今、そのグラスゴーは、再生可能エネルギーとアートによる新しい街づくりを目指しています。
産業革命メッカとも言えるグラスゴーで開催されたCOP26が、来るべきカーボンニュートラル社会への分水嶺であったと将来語られることを願って。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月よりメンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長を務める。

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