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TNFDの動向と企業の対策とLCA

メンバーズの「GX人材」による本マガジン。「脱炭素経営」を目指すために必要なプロセスや手法について、読者の皆さんとともに学びを深め、ともに歩んでいきます。この記事ではNTFDとLCAの関連性についてお伝えします。

TNFDとは

 TNFDは、自然資本に関する情報開示の枠組みを提供する組織であり、企業と金融機関が自然環境の安定と保護、特に生物多様性の影響を理解することを目的としています。
 TCFDが気候変動をメインテーマとしCO2の排出削減を目指して行動しているのに対し、TNFDは生物多様性をテーマとし、より広い範囲を対象としています。

TNFDとGBF(ポスト2020生物多様性枠組)の関連性

TNFDは、ポスト2020生物多様性枠組(GBF)と連携し、新たな国際目標に合わせて生物多様性に関する情報開示を推進します。GBFはビジネスにも関連する多くの目標を掲げており、企業はこれらの目標に対応する必要があります。

TNFD設立の理由「生物多様性が社会や企業にもたらす影響を知るため」

TNFDは2021年6月に設立されました。その主な目的は、企業と金融機関が自然資本、特に生物多様性に関する情報を開示することで、社会の安定と企業の業績に及ぼす影響を理解することです。

生物多様性に焦点: TNFDは、気候変動に焦点を当てたTCFD(Task Force on Climate-related Financial Disclosures)に続く取り組みとして設立されました。生物多様性の保護が重要視され、自然資本への依存と影響について企業が情報を提供することが求められています。

自然環境へのリスク評価: TNFDは、企業が自然環境に与える影響を評価し、それに伴うリスクと機会を特定し、適切な戦略を策定するための枠組みを提供しています。企業は、自然関連のリスク分析と情報開示に取り組む必要があります。

TNFDは、生物多様性の保護と企業の持続可能なビジネス運営に貢献するための新たな情報開示の基準を提供する重要な取り組みとして注目されています。

TNFDの主な構成要素

TNFDは、TCFDと共通する「提言」「開示提言」「すべてのセクター向けのガイダンス」「特定のセクターとバイオームに対する追加ガイダンス」と、ISSBと整合する要素となる「基本概念」「一般要件」の6つから構成されます。

ガバナンス(Governance)
 企業の自然関連リスクと機会に対するガバナンス体制についての情報を開示する。対応ポイントとして、企業はリーダーシップの確立、戦略の統合、責任体制の明確化を検討する。

戦略(Strategy)
 自然関連リスクと機会に対する戦略や目標を開示する。企業は自然資本への依存を評価し、ビジネス戦略に組み込む方法を考える。

リスクとインパクト管理(Risk and Impact Management)
自然関連のリスクや機会を特定し、管理するプロセスについて情報を提供する。企業は自社の活動が自然環境に及ぼす影響を評価し、リスク軽減策を策定する。

指標と目標(Metrics and Targets)
生物多様性に関連する指標と目標を開示する。企業は具体的な指標を設定し、進捗をモニタリングすることで、持続可能性の進化を示す。

対応ポイント

1.自社の事業活動による生物多様性や自然資本に対する依存や影響を評価し、リスクを把握する。

2.事業展開する地域や国が生物多様性のリスクが高いかどうかを把握し、その情報を開示するプロセスを含める。

3.自社の活動が自然環境に悪影響を及ぼす場合、評判の低下や法的措置、経済的損失などの負の影響を考慮する。

4.リスクの把握と整理を徹底し、事業活動を行うことで、ステークホルダーに事業活動への理解を深める。

TNFDの開示項目に対応するためには、企業は自然関連のリスク評価と戦略策定に取り組む必要があります。これにより、企業は生物多様性への貢献を強化し、持続可能なビジネスモデルを構築することが期待されています。

TNFDの情報開示・開示項目

TNFDv0.4では、ガバナンス、戦略、リスクとインパクト管理、測定指標とターゲットの4つの柱で成り立っています。に関する開示項目が示されています。これらの項目は、TCFDと似ています。
しかし、自然の場合は気候変動とは異なり、企業が自然から影響を受け、自然にインパクトを与えるという相関性で成り立っているという点で異なります。
企業は自然資本への依存と影響を詳細に開示する必要があります。

LEAPアプローチ

LEAPアプローチは、開示に必要な情報を抽出していくためにTNFDが提唱するプロセスです。
企業は、自然本に資依存し、影響を受ける場所やプロセスを特定し、それに対処する戦略を策定し、投資家に報告する必要があります。シナリオ分析に関するガイダンスも提供され、気候変動と自然を統合的に考慮できるようになっています。

以下はLEAPアプローチの4つのフェーズとそれに関連するポイントです。

Locate(特定)
企業は自然資本との接点を特定します。これには、企業の拠点、サプライチェーン、および活動が影響を与える生態系の特定が含まれます。特に、喪失危機に瀕している地域や重要な生態系を優先的に特定します。

Evaluate(評価)
特定した接点における企業の活動を明らかにし、自然資本への依存度と影響度を評価します。オンラインツールを使用して、自然状況や生態系サービスに対する影響を分析します。これにより、企業はどのように自然と関わり、影響を与えるかを理解します。

Assess(評価)
 評価の結果から、自然関連のリスクと機会を特定します。企業はリスクを評価し、戦略と資源配分に組み込みます。特に、自然資本の調達に関連するリスクや気候変動、自然災害のリスクを評価し、ビジネスにどのように影響するかを考えます。

Prepare(準備)
特定したリスクと機会に対処するための準備を行います。企業はこれらの情報を基に、持続可能なビジネス戦略を策定し、リスクの最小化や機会の最大化に向けたアクションプランを立てます。また、この情報を投資家や利害関係者に報告することも重要です。

シナリオ分析のための指針は、このLEAPアプローチを実施する際に組織が遵循すべきステップやプロセスについて詳細に説明します。また、シナリオ分析が気候変動や自然に関するリスクにどのように適用されるかを示し、組織がリスクに対処し、機会を活用するための具体的な方法を提供します。

LEAPアプローチを通じて、企業は自然関連のリスクと機会をより具体的に把握し、それをビジネス戦略に統合する手助けを受けることができます。これにより、企業は自然環境への影響を最小限に抑えつつ、持続可能なビジネスを推進するためのステップを踏むことができます。

TNFDで開示すべき指標

TNFDの開示提言は、TCDFの開示提言の11項目が全て引き継がれています。自然変化のドライバーや汚染、資源利用に関する情報を開示する必要があります。
TNFDでは追加で、自然関連で重要となる「エンゲージメント」「優先地域」「バリューチェーン」の3つの内容についての開示項目が追加されています。

以下に、TNFDの開示指標の14項目を要約して説明します。

自然への依存および影響に関する9つの指標

・エコシステムおよび生態系サービスの依存度
組織の事業やバリューチェーンがどれだけエコシステムと生態系サービスに依存しているかを評価します。

・生物多様性の依存度
組織が生物多様性にどれだけ依存しているかを評価し、その依存度を示します。

・自然資本の影響
組織が自然資本に与える影響を評価し、具体的なデータを提供します。

・生態系へのリスク
組織が生態系に対してどのようなリスクを抱えているかを評価し、リスクの種類や影響を説明します。

・生態系への機会
組織が生態系から得られる機会や利益について説明し、具体的なデータを提供します。

・生物多様性の保護
組織が生物多様性を保護し、回復させるために採用している取り組みを説明します。

・自然への影響評価
組織が事業活動の影響を評価し、具体的なデータや評価結果を提供します。

・リスクと機会の特定と評価:
組織が自然関連のリスクと機会を特定し、それらを評価した方法について説明します。

・影響測定および評価

自然関連のリスクと機会に関する5つの指標


組織が自然関連の影響を測定し、評価した方法について、下記に示します。

・自然関連リスクの管理:
組織が自然関連のリスクをどのように管理しているかについて説明します。
・自然関連機会の活用:
組織が自然関連の機会をどのように活用しているかについて説明します。
・リスク低減:
組織が自然関連のリスクを低減するための具体的な取り組みを説明します。
・機会獲得:
組織が自然関連の機会を獲得するための具体的な取り組みを説明します。
・自然関連リスクおよび機会の報告:

組織が自然関連のリスクと機会に関する情報をどのように報告しているかについて説明します。

コアグローバル指標

※コアグローバル指標は、業界を問わず、異なる企業や組織が自然環境に対する影響を評価し、情報開示する際に共通して適用される指標のことを指します。これらの指標は、企業の生態系への依存度や環境への影響を詳細に測定し、他の組織やステークホルダーとの比較を容易にするために設計されています。

・気候変動に関連する温室効果ガス(GHG)の排出量(スコープ1・2・3のGHG排出量を含む)
・陸地・淡水・海洋の利用の変化(土地・淡水・海洋の広さの変化を含む)
・優先度の高い生態系における土地/淡水/海洋利用の変化。
・土壌に放出された汚染物質の種類別の合計。
・排水量と排水中の主な汚染物質の濃度。
・有害廃棄物の総発生量。
・大気汚染物質の総量(粒子状物質、窒素酸化物、揮発性有機化合物、硫黄酸化物、アンモニアなど)。
・水ストレス地域からの取水と使用量。
・陸地・海洋・淡水から調達されるリスクの高いコモディティの量。
・優先度の高い生態系から供給されるコモディティの量。

TNFD v1.0

これらの指標は企業が自然資本に対する影響を定量的に評価し、開示するためのものです。特にコアグローバル指標は、業界に関係なく共通して開示されるべき項目を示しています。企業はこれらの指標を通じて、自社の生態系への依存度や環境への影響を理解し、持続可能な経営戦略を構築するための情報を提供します。

TNFD4.0で追加された項目

1)エンゲージメント
 「ガバナンス」c.の開示提言に追加。

C.自然関連の依存、インパクト、リスク、機会の評価と対応における、先住民族、地域コミュニティ、影響を受けるステークホルダーに対する組織の人権方針とエンゲージメント活動、取締役会と経営陣の監督について説明する。

先住民族と地域コミュニティは、世界の生物多様性の80%を保護しているといわれています。

2)優先地域
 D.の開示宣言に「優先地域」を追加

D.組織の直接操業および可能であれば上流、下流において優先地域の基準を満たす場所における資産や活動がある場所を開示する。

センシティブ・ロケーションとマテリアルロケーションを合わせて開示すべき優先地域としています。


IISE作成

3)バリューチェーン
気候と自然とは下記のように区別することができます。

気候の文脈   自然の文脈
<SCOPE1> ⇒ 直接操業
<SCOPE3> ⇒ 上流  
          下流
          投融資先(金融機関向け)

※TNFDにはSCOPE2は含まれません。

A.(i) 組織が直接操業において、自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を特定し、評価、優先付けするプロセスを説明する。

A.(ii) 上流・下流のバリューチェーンや投融資先活動・資産における自然関連の依存、インパクト、リスク、機会を特定し、評価、優先付けするための組織のプロセスを説明する。

セクター向けの追加ガイダンス

2023年11月には下記のセクター向けに追加ガイダンスが公表される予定です。

・アパレル・テキスタイル Apparel & textiles
・抽出物・鉱物加工 Extractives & minerals processing
 -建設資材 Construction materials
 -石油・ガス Oil & Gas
・食品(農業) Food(agriculture)
・食品(養殖) Food(aquaculture)
・林業 Forestry
・インフラ & 不動産 Infrastructure & real estate
・電力・発電事業者 Electric utilities & power generators

TNFDとLCAの関連性

TNFDとLCAは、企業が自然環境に対する影響を評価し、開示するための異なるアプローチを提供します。TNFDは主に財務およびリスク管理に焦点を当てており、投資家や金融機関に情報を提供します。一方、LCAは製品の環境影響を評価し、持続可能な製品設計に役立ちます。
企業は、LCAの結果を使用して、TNFDの要件に従って自然環境に関する情報を開示することがあります。具体的なデータや評価結果を通じて、製品や業務における環境への貢献度やリスクを説明するのに役立つことがあります。
要するに、LCAは製品やサービスに焦点を当て、その環境影響を評価しますが、TNFDは企業全体のビジネスおよびファイナンスへの自然環境の影響に焦点を当てています。両方のアプローチは、持続可能性と環境への関与を向上させるのに役立つ重要なツールです。

TNFD(自然関連金融開示タスクフォース)の開示要求には、LCA(ライフサイクルアセスメント)の計算結果が一部で反映される可能性があります。具体的な反映方法は、業界や企業の特定の状況に依存するため、一般的なガイダンスではなく、個別のケースバイケースのアプローチが必要です。

LCAの計算結果がTNFDの開示にどのように影響を与えるか


以下は、LCAの計算結果がTNFDの開示にどのように影響を与えるかに関する一般的なガイダンスです:

リスク評価と機会特定:

LCAは製品やサービスの環境影響を特定し、評価します。これらの影響は、企業が自然環境に対するリスクと機会を評価する際に役立つ情報を提供できます。たとえば、製品の製造段階における温室ガス排出量が高い場合、気候変動に関連するリスクを議論する際に重要な要素となります。

持続可能な戦略の策定:

LCAの結果は、企業が環境に対する持続可能な戦略を策定する際に活用できます。例えば、環境への負荷を低減するために製品の設計や製造プロセスを変更する決定を裏付ける情報として役立ちます。

メトリクスとターゲットの設定:

LCAは、環境影響を数量化するのに役立つメトリクスを提供します。これらのメトリクスは、TNFDの要求に合わせて使用され、環境への影響を定量的に示すのに役立ちます。企業は、LCAの結果をもとに、自然環境に関連するメトリクスやターゲットを設定することができます。

開示の透明性:

TNFDは、開示情報の透明性を重視しており、LCAの計算方法や前提条件を含む情報を開示することが求められるかもしれません。これにより、ステークホルダーは計算結果の信頼性と妥当性を評価できます。
重要なのは、LCAの計算結果が企業の特定のリスク、機会、戦略、メトリクスに合わせてカスタマイズされ、TNFDの要求事項に適合することです。企業は、環境に対する影響を包括的に理解し、持続可能性の観点からビジネス戦略を展開するために、LCAを効果的に活用できるでしょう。

今後の展望

TNFDは、気候変動に関するシナリオ分析と同様に、自然関連のシナリオ分析に関する高度なアプローチの開発に取り組む予定です。
最終的に、このフレームワークは企業にとって、自然に関連するリスクと機会を理解し、持続可能なビジネス戦略を策定し、適切な情報を開示するための重要なツールとなります。企業は、TNFDの指針に沿って行動し、自然環境への影響を最小化し、ビジネスの長期的な持続可能性を確保するための取り組みを進めるでしょう。

巻末用語集

TNFD(自然関連金融開示タスクフォース):
TNFDは、金融機関や企業が自然に関連するリスクや機会について開示するためのフレームワークを提供しています。主な焦点は、金融業界やビジネスが自然資本に対する影響をどのように評価し、開示するかにあります。これにより、環境に対する影響や依存度、リスク、機会に関する情報を提供し、投資家や他の利害関係者に提供することが求められます。
LCA(ライフサイクルアセスメント):
LCAは、製品やサービスのライフサイクル全体にわたる環境への影響を評価する方法論です。これは、製品の設計、原材料の調達、製造、運搬、使用、廃棄などの各段階における環境への影響を詳細に分析します。LCAは製品の環境性能を評価し、持続可能性向上のための情報を提供します。
関連性:

参考文献:TNFD V1.0

終わりに:メンバーズの脱炭素サービス

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メンバーズでは、これらのサービスをご活用いただくことで、サステナビリティに関連するリスクを軽減し、持続可能な成長を促進するお手伝いができると考えております。企業が社会的な責任を果たすだけではなく、環境や社会に対してポジティブな影響を与えるための戦略と実践を支援するサービスをぜひご活用ください。

ライター情報:TOM
(株)メンバーズ CSV本部所属。大手小売業を経て、国際協力NGOへ入職。地方創生のPMとして若者流入率県内一を獲得。”明日の農を担う100”に選定。域内循環型のプロジェクト立案実践も担う。BR・CDを経て現職。

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