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企業DXを成功させるには?アメリカの成功事例から学ぶ

企業のDXについて、具体的にどのように進めていけば良いのかを考える上で、先進的な成功事例からそのノウハウを学ぶことができます。

この記事では、ビジネスプロセス、ビジネスモデル、ビジネスドメイン、文化・組織という4つの観点から、アメリカでのDX成功事例を紹介していきます。

効率化・コスト低減・品質向上(ビジネスプロセスの改善)

さまざまな企業がDXによって、会計・法務・バックオフィスなどといった、従来業務のビジネスプロセスを効率化したり、工程時間・コスト低減や商品サービスの品質向上を図ったりしています。例えば、Airbus社のVR技術を用いた機体点検作業の効率化や、Domino’s Pizza社のEコマース用プラットフォームの構築などは、日本でも知られた成功事例とされています。

ビジネスプロセスのDXは主な手法として、ロボットによる業務自動化(RPA)やデータ解析、API(アプリケーション・プログラミング・インターフェイス)、AIや機械学習などが用いられています。こうした手法はさまざまな企業で用いられていますが、アメリカではどのようなDXが成功しているのでしょうか。

物流・ロジスティクスでの成功事例

配送サービスを前提としたEコマースの発達やコロナ禍に伴う外出制限もあり、物流・ロジスティクスの重要性が高まりました。こうした物流・ロジスティクスを支えるトラック運転手が給油や休憩をおこなう、「トラックストップ」(日本でいうトラックステーション)や「トラベルセンター」(日本でいうSA/PA)で全米最大手のPilot Flying Jは、ビジネスプロセスのDXの好例です。

この会社は、運営するトラックストップやトラベルセンターのシャワーの予約、駐車場の空き状況、プリペイド式給油、クーポンなどの機能をAPIでデジタル化しました。これにより、顧客であるトラックドライバーが、上記のサービスを迅速かつ便利に利用できるようにしました。

地域医療での成功事例

また、医療業界でもDXによるビジネスプロセスの改善が進められています。フロリダ州にあるタンパ総合病院は、パンデミックが拡大する中、より良い患者へのケアのために、50以上の病院からなるタンパ地域の病院システム全体でデータを共有できるよう、技術力を拡張する必要性を感じていました。そこで、地域全体をサポートするために、重要な医療機器やスタッフ・専門家の稼働やその予測などに関するデータを共有する自動ワークフローを作成しました。

DXによるビジネスプロセスの改善には、消費者の購買行動の変化やコロナ禍といった時流も大きな影響を与えていることがうかがえます。ビジネスプロセスのDXは、企業側のDXニーズの多くを占めていますが、企業側のニーズはもちろん、消費者・顧客側や社会にとって、どのようなニーズに応えるものかを考えてみてはいかがでしょうか。

DXに伴う新しいビジネスの創出(ビジネスモデルの変革)

DXは従来業務に対する影響だけでなく、Netflix社やUber社のような新たなビジネスモデルを生み出すきっかけともなっています。

Amazon社やAlibaba社の名前を出すまでもなく、Eコマースの進展やコロナ禍もあり、小売業は店舗からオンラインへとシフトしつつあります。他方で、小売業はオンライン上での詐欺への対応を新たに迫られることとなりました。

こうした小売業のビジネスモデルの変化を受け、セキュリティに関してもDXに基づく新たなビジネスモデルが生まれています。

Eコマースのセキュリティでの成功事例

例えばForter社は、2,000億ドルを超えるオンライン商取引を処理し、クレジットカード詐欺、アカウントの乗っ取り、個人情報の盗難などから世界中の7億5,000万人以上の消費者を保護しています。不正の予測研究とモデリング、および顧客が特定のニーズに合わせてプラットフォームを調整できる機能を活かし、SNIPESのようなアパレル企業と提携しています。

ターゲット広告での成功事例

自社で収集したデータ(ファーストパーティデータ)を活用して自社の新たなビジネスモデル構築に注力する企業も出てきています。

もともとは懸賞によるダイレクトテレマーケティング事業をおこなってきたPublishers Clearing House社(以下、PCH)は、Webサイトやモバイルアプリケーションなどを通じて、数千万人のユーザーデータのようなデジタル資産を幅広く保有しています。そんな中、昨今のプライバシーの重視の流れを受けて、PCHは消費者に対する会社のブランド力を活かした成長機会と考え、ファーストパーティデータの活用によって、広告主がより効果的に消費者にリーチできるよう、DXを進めてきました。 PCHが新たなビジネスモデルとして進めてきたのは、プラットフォーム登録時に許可を受けた消費者に対し、ファーストパーティデータを使用して、適切なターゲット広告を配信するサービスです。PCHは、ファーストパーティデータの活用に関連する米国の新しい状況に適応し、AppleやGoogleによって引き起こされたサードパーティデータ(自社以外が収集した顧客データ)の利用制限を乗り越える試みを進めているとも言えます。

DXに基づく新たなビジネスモデルの普及は、消費者にとって利便性が高まる一方、企業によるプライバシーや顧客情報の扱いが気がかりとなります。こうした変化と共に、顧客データの活用・保護のためのソリューションもまた、DXによる新しいサービスとして展開されています。PCHのように、自社が持つリソースの中にビジネスモデル変革のヒントがあるかもしれません。

新規市場・ビジネスへの参入・開拓(ビジネスドメインの開拓)

DXの進展は、Amazon社がAWSによって、クラウドコンピューティング/インフラサービス市場に参入したように、従来では他業種と思われていた企業による新たなビジネスの開拓や市場への新規参入を進めました。

フィンテックと商業銀行での成功事例

金融業界では、DXによる新たな競合企業の出現が進んでいます。資産管理ツールの開発が進んだことで、Personal Capital社Wealthfront社Acorns社、そして日本でも注目を集めているSoFi社など、デジタル技術をもってファイナンス業界に参入していくフィンテック分野のスタートアップ企業が躍進しています。

資産管理にフィンテックのプラットフォームを使用している顧客は、2018年から2022年にかけて7%増加すると予想されていますが、商業銀行またはリテールバンクのシェアは同期間に6%減少するとの予測も出ており、DXによる金融業界再編は進行しています。

他方で、こうしたフィンテックの波による業界再編に対し、商業銀行やリテールバンクもDXによる対応に乗り出しています。アメリカで最も数多くの支店を有し、全米第3位の資産規模を誇る銀行、ウェルズ・ファーゴは、コロナ禍を受けて、モバイル機器で申し込める小切手の価値を高めたり、ATMでの引き出し限度額を増やすなど、支店を利用せずにできることを増やしています。 また、全米第2位の資産規模であるバンク・オブ・アメリカも同様のDXを進めています。

保険業でも、事業内容のデジタル化によって顧客ニーズを満たしつつ、市場投入までの時間を短縮する方法を模索しています。例えば、Sammons Financial Groupという保険会社は、病歴調査なしでオンライン上での保険商品を購入できるシステムを導入しました。

自動車販売での成功事例

自動車のデジタルマーケットプレイスを運営するTrueCar社は、自動車購入者がディーラーに出向くことなく自動車取引のすべてを完了できる「Buy-from-Home(自宅から購入)」機能を導入しました。当初、メーカー各社は取引の15~20%が移行する程度と見込んでいましたが、現在では30〜40%を超える取引がおこなわれるほど浸透しています。

旧来的なビジネスモデルが強かった金融業界や自動車販売業などでは、DXをふまえた企業による新規市場参入を受け、新しいビジネス分野・収益源の開拓や新たなニーズへの対応を迫られています。事業内容は変わらずとも、DXによって市場動向がどのように変化したのか、また顧客のニーズにDXでどう応えることが新規ビジネス開拓につながるかに目を向けるべきでしょう。

DX推進に向けた組織の変革(文化・組織の再構築)

DXの重要性はここまで見てきた通りですが、実際にDXを推進するにあたっては、組織の慣習文化、業務プロセス、人材・能力を再定義する必要があります。DX推進に向けて、こうした企業の文化・組織改革にどのように取り組むのが良いのでしょうか。

スニッカーズやM&M’sなどのチョコレート菓子で知られる大手食品メーカー Mars社は、マイクロソフト社と関係を深めています。両社はAIやIoTの活用による製造・流通の合理化といったビジネスプロセスのDXを進めています。こうした中、Mars社が特徴的なのは、全社員13万人以上を対象にした「Mars AI Festival-keynoted」の開催です。このイベントでは、AIを使って実際のビジネス価値を付加した200の実例紹介を通じ、全社的なDXへのコミットメントを図っています。DXの成功・失敗という過程に、エンジニアや技術者だけでなく、社員全員を当事者としてコミットさせ、企業文化や組織のレベルでDXに取り組んでいる好例と言えるでしょう。

DXによるビジネスプロセスの改善や新たなビジネスモデルの創出を進めるには、新しいプロセスやモデルに適した企業組織・文化を生み出していく必要があります。自社の組織・文化をふまえつつ、DXに向けてどのような企業変革をすべきかが問われています。

ライター:徳安慧一
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院社会学研究科にて修士号・博士号を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。

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