「みんなが集まるバザールを作り、日本を変える」 デジタル庁:Social Good Company 特別編 #67
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「みんなが集まるバザールを作り、日本を変える」 デジタル庁:Social Good Company 特別編 #67

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2021年9月1日、デジタル社会形成の司令塔を担う新しい組織、デジタル庁が誕生しました。新型コロナウイルスの感染下において、「デジタル敗戦」とも呼ばれる状況が露呈した日本の行政システム。将来の日本が目指すデジタル社会とは?社会が求めるDX人材とは?デジタル庁 統括官の村上 敬亮氏にインタビューの機会をいただきました。

・DXと脱炭素は共に追いかける2つの命題である
・業務システムのイニシアティブを現場に取り戻す
・DXとは、同じビジョンを信じるこれまでの産業セクターを超えたコミュニティ作りである

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<インタビューにご協力いただいた方>
デジタル庁 統括官 国民生活サービスグループ長
村上 敬亮 氏

<プロフィール>
1990年、通商産業省入省。地球温暖化防止条約交渉やPL法立法作業などに従事。その後、IT政策に携わり、著作権条約交渉、e-Japan戦略の立案やクールジャパン戦略の立ち上げ、再生可能エネルギーの固定価格買取制度の創設などを担当。2014年以降、内閣官房・内閣府で、地方創生業務に従事。2020年7月に経済産業省に帰任し、中小企業庁経営支援部長に着任。内閣官房 IT総合戦略室を経て、現在に至る。

●2021年9月、デジタル庁が設立されました。現在の役割を教えてください。

デジタル庁は、大臣以下、デジタル監、デジタル審議官のもと、戦略・組織、省庁業務サービス、デジタル社会共通機能、国民生活サービス、の4つのグループで組織化されています。現在、私は、国民生活サービスグループのグループ長を務めています。

庁内の総務的業務や戦略を練るのが戦略・組織グループで、省庁が自身のために使うシステムを検討するのが、省庁業務サービスグループとなります。また、署名や認証などを横串で管理するのが、デジタル社会共通機能グループで、グループ長は民間出身の方が務めています。

そして、それらの仕組みを教育や防災、インフラ管理などにどう使うのかを考えるのが、私たち国民生活サービスグループの担当になります。マイナンバーやワクチン接種システムなど、国民生活に必要なあらゆるサービスを担当しています。

●デジタル庁設立の目的の1つに、マイナンバー制度の整備や浸透が挙げられていますが、現在の交付率は3割程度に留まっています。交付率を高め、国民全体に拡げていくためにはどのようなことが必要でしょうか?

2021年10月には、マイナンバーカードは健康保険証として利用可能になります。2024年度には、運転免許証との一体化を予定しています。こうした流れの中で、新規発行枚数は増えていくでしょう。しかし、交付率を上げることはもちろん重要ですが、カードが普及したところで、利用されなければ意味がありません。交付率に加えて、利用する機会を増やすことが重要です。

実際、運転免許を取得しない層や高齢者などを考慮すれば、地道にマイナンバーカードの利用する機会を増やし、持っていて良かったと思われるマイナンバーカードを目指して行かねばなりません。

●マイナンバーカードと健康保険証が一体化することによる生活者のメリットはどのようなことが挙げられますか?

現在は、処方箋やカルテなどの医療記録は、健康保険組合ごとの被保険者番号に紐付けられています。それぞれの健康保険組合の了承なしに、現在の被保険者番号に紐付く情報はオープンになりません。また、転職などにより加入する保険組合も変わります。退職すれば、国民健康保険に移行し、紐づく情報の継続性も失われます。

つまり、マイナンバーカードと健康保険証の一体化とは、こうした情報を全てマイナンバーに紐付け直す作業になります。そして、技術的には、処方箋やカルテなどの情報が全てトレーサブルになるということです。

こうした医療情報が一体化し、かつアプリを提供すれば、例えば、「お薬手帳」をいつでもどこでも利用することができます。いちいち、薬局毎に作ってもらう必要はもうありません。本人の承諾があれば、過去の処方箋情報を医者が確認できることになりますし、過去の診療履歴も容易に確認できます。

とはいえ、いきなりいろいろ紐付ければ、抵抗も大きいでしょう。まずは分かりやすく、利用者の抵抗感が少ないアプリを提供し、少しずつ利用機会を増やしていきます。「マイナンバーに紐付けられた情報の活用って、本当に便利だな」と思っていただく、それが私たちの仕事なんだと思います。

●アプリの話がでましたが、マイナンバーカードの利用促進にまつわるデジタル施策は、民間企業も関わる可能性があるのでしょうか?

官民を問わず両方で関わっていくことが可能です。マイナンバーカードの本質の1つは、マイナンバーそのものではなく、カードが持つ利用者証明の電子証明書機能をうまく使っていただくことです。利用機会を増やし利便性を提供するのであれば、誰に関わっていただいても良いんです。ただし、番号利用事務となると、制度改正が必要となります。ですので、行政が民間の活用意欲を引き出し、必要な制度改革を躊躇なく行っていくことが必要です。今、デジタル庁は、税・社会保障・防災の3分野に限定されたマイナンバー利用事務をどんどん広げていきたいと考えています。検討している用途があれば、どんどん教えていただけるとありがたいです。

●デジタル庁では、民間の人材も積極的に採用していますね。

優秀な民間の方々の採用も進んでいます。採用することも重要ですが、私たちの役割は、デジタル庁の組織として、そうした優秀な人材を活かし、活躍できる場を提供することが重要となります。
これからの時代は、官の事情を知る民、民の事情を知る官、この両生類をどれだけ増やしていけるかがとても大切になります。デジタル庁は、そのために生まれた組織ではないかと思うこともあるくらいです。

●国連の調査による電子政府ランキング2020によれば、日本は14位でした。どのような点が課題と考えますか?

象徴的な課題は、戸籍法の考え方です。個人に紐付けるナンバーも、子どもが生まれたときに12ケタの数字を国が自動的に割り振ればいいと思います。しかし、今の日本は、個人の生活の公的管理は、必ずどこか1つの市町村に帰属することが前提になっています。マイナンバーも、あくまでも個人の申請により、あらかじめ紐付けられた市町村が、付与することとなっています。

こうした紐付けはマイナンバーだけではありません。投票権や住民税も然りです。2拠点で暮らしていようが、夫婦でバラバラに生活の拠点を持っていようが、必ずどこかの自治体に一意に紐付けられ、投票も住民税も、その紐付けられた自治体で行うこととなります。

こうした紐付けは、市町村事務だけではありません。例えば、労務関係手続きは、終身雇用を前提に、どこか一意に紐付けられた企業が全て代行する仕組みとなっています。このため、兼業・副業を始めた際に、誰がどの労働基準監督署に手続き書類を出すのか、どう出すのか、把握し対処することは大変です。労務手続きに関しては、今でも柔軟に対応しようと努力はしています。しかし、基本的には、個人の暮らしは、市町村事務、労務、教育、医療、資格管理その他の分野で、必ずそれぞれ1つのエージェントに紐付けられ、分断管理される仕組みとなっているのが今の日本の現状です。

これからの個人の暮らしは、複数の自治体と関係を持ち、複数の企業と関係を持ち、個人の判断で様々な医療機関や教育機関のお世話になり、個人が主体的に、多様化したサービスや就労機会を柔軟に使い込んでいく時代になると思います。

そうなってくると、重要なのは、ヒト・モノ・サービスいずれをとっても、エージェントの違いを超えてデータを紐付けていくためのIDの管理です。IDを付与してディレクトリー構造を整備する。そして、そのディレクトリー構造の中で異なるID同士を紐付けるからこそ、どの自治体に移ろうと、どの企業に移ろうと、複数の教育機会を上手に組み合わせようと、互いに必要なデータが追跡可能な仕組みを作ることができるようになります。そうした整備をした上でそれをどう使うのか、そして、個人情報保護法に基づいてどう管理するかを議論すべきです。

しかし、今の様々なIDは、横串で全く管理されていません。なので、デジタル化が進めば進むほど、個人の手元には、膨大なIDとパスワードの組み合わせが溜まり込み、あげく、途方に暮れることとなってしまいます。他方で、個人に関する情報は、紐付けられたそれぞれの自治体でしか取り扱えません。できるとしても、行政機関の間でその事務のために必要とされるときだけです。労務管理データも、そのデータを預かった企業は自由にそのデータを社用に使うことができますが、個人がそのデータをその社外に持ち出そうとすると、途端に難しくなります。教育履歴も、その学校の中で使うことはできますが、個人が希望してもそのデータを外に持ち出すことは難しいし、外のデータを学校が使う体制にもなっていません。

つくづく、個人の生活は、それぞれの生活シーンに応じて、それぞれの業務を遂行するエージェントに分断管理されているのが現状なんだなと思います。

何故この情報を、他の分野で上手に使えないのか。個人が使っても良いと思っているデータなら、どんどん使えば良いではないか。デジタル敗戦を実感している今だからこそ、個人の自由な振る舞いを促すようなデジタルデータの利用機会の拡充に挑戦できる機会が必要です。コロナ禍の今こそ、デジタル化を進めるチャンスです。デジタル庁の創設は、その挑戦ができる素晴らしい機会を与えてくれたんだと思っています。

●総背番号制度など、世論の合意形成なども含めて、道のりは長そうです。

それほど悲観する必要はないと思います。新しい社会変化は、5年単位で見ていくべきものです。携帯電話の世界も、5年前、10年前がどうだったか、思い浮かべてください。10年前、スマートフォンはほとんど普及していませんでした。5年単位で物事を見れば、日本でも、様々なことが大きな変化を遂げています。

マイナンバーに関しても、5年前と比べれば、今や4割前後の普及率となっています。e-Taxの利用率も5年前と比べれば大幅に増えており、確定申告では当たり前のように使っていただくことが激増していると思います。

●村上さんが以前にご担当だった固定価格買取制度もスタートから間もなく10年が経とうとしています。脱炭素目標を掲げるまで社会が変わるとは、当時想像できませんでした。デジタル庁として、脱炭素社会実現への貢献をどのように考えていますか?

デジタルと脱炭素は、様々な分野で関連するでしょう。デジタル化の本質の1つは、モノが人の指示を待たずに勝手に動くことだと思っています。スマートシティもそうですし、物流業界用語のVMI(Vendor Managed Inventory:「納入業者在庫管理方式」と言われ、顧客の在庫や出荷、販売情報を納入業者と共有し、納入業者が在庫を管理する仕組み)も同様です。

荷主の指示を待って、モノを動かしていては遅い。人の指示で最適化するやり方では、自動で最適化する仕組みを持つ、大手ECサイトやコンビニに勝つことはできません。コンビニやスーパーのプライベートブランドが増えているのもそこに起因していますし、プライベートブランドの方が価格競争力も勝ることになります。人の判断を待たずに、社会システム側が最適な振る舞いを考え、個人の意に即した形で、全てを先回りして動かしていくのが、デジタルの時代の本質です。

そして、こうした振る舞いの普及は、CO2排出の削減にもつながっていくでしょう。

例えば、共同配送を人為的に取り組むだけでは限界があります。共同配送の導入に伴い、自動的にモノを動かすところまで踏み込む必要があります。そこまでいくと、貨物の積載率も効率化でき、その結果として、物流作業の単位当たりのCO2排出量も削減できるでしょう。

モノが人の指示を待たずに勝手に動いて、社会生活と整合性を持った状態であれば、エネルギーの利用も効率的な社会になっているはずです。デジタル化そのものがカーボンニュートラルやエネルギーマネジメントへの貢献につながることもあるでしょう。

直接的なつながりというよりは、DXと脱炭素は、日本政府も掲げている通り、共に追いかける2つの命題であると考えています。

●2030年、デジタル庁はどのような社会を目指しますか?求められるDX人材と併せて、メッセージをお願いします。

とことんデジタル化をつき進めていきます。

各省庁のシステム構築は、ネットワークなどの専用線契約に加えて、サーバーなどのハードウェアやクラウドサービス、業務アプリケーションまで、各省がバラバラに購入しています。しかし、ネットワークやハードウェアなどの整備にはかなりの手間や費用がかかりますし、今の開発スタイルのままだと、業務アプリケーションを変更しようとすれば、それぞれの省庁やネットワークやハードウェアにも影響を与え、そのたびに、その開発・整備にまで手戻りしてしまいます。

しかし、今後は、ネットワークやハードウェア、クラウドサービスなどのインフラを共通化し、すでにあるものとして考えれば、業務アプリケーションの開発はスピード感を持って進められます。

批判もありますが、ワクチン接種の予約システムもデジタル庁の職員が極めて短期間に開発しました。ネットワークやシステムインフラの構造がライトになれば、現場は、その用途に集中してシステムを開発できるようになり、業務の現場がそのシステムの開発のイニシアティブを取り戻せることになります。

90年代の本ですが、エリック・レイモンドの『伽藍とバザール』になぞらえれば、今、必要なのは「伽藍」ではなく、「バザール」です。90年代から「伽藍」方式のシステム開発手法の問題点が指摘されていました。しかし、ITベンダーやSIerは、目の前の顧客の囲い込みやその売上を守ることに終始し、全体としてどういうシステムを追求するべきかを語る余裕を持たせてもらえませんでした。もし、顧客の売上の確保優先に異を唱えれば、その大企業の役員はマイノリティーとなってしまいます。結果として、日本のIT市場は、Windows95以降、この25年間、インターネット環境が当たり前となり、オープン化の重要性が叫ばれているにも関わらず、世界の動きを尻目に、バザールへの移行は、ついぞ進みませんでした。

デジタル敗戦の遠因は、ここにたどり着きます。みんなが集まるバザールをどう作るか、そうした日本にどう変えていくかをポイントです。それが実現できなければ、新しいことに取り組まないつまらない国に堕してゆき、新しいことにチャレンジしようとする若者は、海外に出て行ってしまうでしょう。2030年には、バザール型の楽しい社会づくりを最優先することに、誰もが賛同し、当たり前になっていること、それが私のゴールです。

サービス提供側と提供される側とが一体となって、ビジョンやコミットメントを掲げることができるか。DXは、突き詰めれば、同じビジョンを信じる、これまでの産業セクターを超えたコミュニティ作りです。結果として、デジタルは、それをお手伝いしているだけです。

理想は誰でも語ることはできます。しかし、その理想にたどり着く最初のプロセスをどのような集団が、どのようなビジョンでスタートするのか?それを決めることが重要です。そうしたことを辛抱強く進めていく。出口の楽しさや希望を信じて、デジタルを武器に、その地道な取り組みをしっかりと進めることができる人材が、真のDX人材と言えるでしょう。私も、そんなDX人材の1人として大成したいものだと考えています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月よりメンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長を務める。

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