日本ロレアルの取り組み大公開!サステナビリティを事業成長エンジンに!
メンバーズでは「脱炭素を事業成長エンジンへ」と題して、2023年7月25日にセミナー&ネットワーキングを都内で開催しました。基調講演には日本ロレアル株式会社より楠田倫子さまをお招きし、「サステナビリティを企業成長の源泉に ―顧客やサプライヤーと共創する、ロレアルのサステナビリティ変革―」をテーマにお話しいただきました。KPI設定や商品開発の仕組みや組織文化など、サステナビリティ推進のヒントが盛りだくさん!その内容をお届けします。
美には世界を変える力がある。
美を通じて世界によりよいインパクトをもたらそうとするロレアルは、パーパス(存在意義)として「世界をつき動かす美の創造」を掲げています。その背景には、「美は単に表層的なものではなく、人間が人間らしくあるための本質的な願いであり、美には世界を変える力がある。」という信念が込められています。サステナビリティはパーパスを支える重要な概念として位置づけられており、2020年に発足したサステナビリティプログラム「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」は、事業を通じたサステナビリティの追求を推進する大切な取り組みとなっています。
事業成長とサステナビリティを両立する戦略と目標設定
「ロレアル・フォー・ザ・フューチャー」は、「自社ビジネスの変革」「ステークホルダーのエンパワーメント」「社会課題解決への貢献」の3つの柱で構成されています。特に「社会課題解決への貢献」については、事業活動との結びつきの強い「気候変動」「水資源」「生物多様性」「資源」の4つに注力しています。これらの取り組みを全社で推し進めるうえで肝要なのが、SBT(Science Based Targets)に基づいた具体的な数値目標です。気候変動や水資源など各領域に関する目標が定量的に定められ、どの部署が主体となって、いつまでに何をどう達成していくのか、部署別、年度別に事業へ落とし込まれています。例えば、資源循環に関しては「2030年までに事業ごみリサイクル率100%(焼却処分を含まない!)」。かなり野心的な目標に会場から驚きの声が聞かれました。
チャレンジングな目標のもとでアクションが実行され、110拠点(全事業拠点数の65%)でのカーボンニュートラル達成や5つの工場での水利用の完全循環達成など成果が出ています。また、2005年比で生産量を45%増加しつつも生産・物流拠点でのCO2排出量は91%削減するなど、デカップリングも実現しています。
環境負荷が少ない製品開発を促す仕組み「SPOT」とは
スキンケアやメイクアップなど約40のビューティーブランドをもつロレアルですが、製品のライフサイクルにおける環境負荷を可視化する取り組みにも非常に積極的です。環境負荷の削減と性能向上を科学によって達成しようとする「グリーンサイエンス」という考えのもと、独自の指標としてSPOT(Sustainable Product Optimization Tool)を開発しました。原料調達から生産、物流、販売、製品廃棄にいたるまで製品のライフサイクルにおける環境負荷を数値化しています。
シャンプー、美容液など製品カテゴリーごとに平均値が集計されており、新製品やリニューアル品はその平均値を上回っていないと製品化できないという社内ルールが設けられており、製品開発を通して環境負荷を減らしていく仕組みとなっているのです。
こうした、製品のライフサイクルにおける環境負荷データは実際に製品開発にも役立てられています。ロレアル製品の中で最も環境負荷が高いことが明らかになったのは、シャンプーなどの洗い流すヘアケア製品。使用時に大量の温水を使うことが要因でした。そこで、スイスの環境イノベーション企業「Gjosa」と共同でシャワーヘッドを開発。水の粒子を細かくし、洗い流す効率を上げることで、温水の量を最大80%削減することに成功しました。ライフサイクルにおける環境負荷の高い段階を明確にすることは自社の環境負荷の削減につながるとともに、商品開発や新しいビジネスチャンス創出の起点となることが分かります。
環境負荷削減を生活者、そして業界リーダーとともに
SPOTスコアを自社の製品開発に活かすだけでなく、顧客に共有する取り組みも始まっています。第三者機関の協力のもと、製品の環境負荷をA~Eの5段階に分け、顧客が製品のQRコードから情報を得られるようにしています。環境負荷のわかりやすい情報開示は顧客ニーズであり、こうした消費者とのコミュニケーションはマーケティングの観点から考えても非常に重要であると言えます(参考:メンバーズ「第8回 気候変動と商品・サービスの購入に関する生活者意識調査」)。
また、SPOTの仕組みはロレアル独自に始めたものでしたが、業界内でスコア基準にばらつきがあると消費者が混乱しかねません。そこで、業界全体で化粧品の環境影響評価とスコアリングシステムの開発を目指すべく、2021年に「Eco Beauty Score Consortium」を発足。資生堂や花王を含む約40社が参画し、まずはEC内で基準を統一しようと取り組んでいるそうです。
他社との共創文化の醸成はここ10年の変革にあり
他社とのコラボレーションはEco Beauty Score Consortiumだけでなく、テラサイクル社との包括的パートナーシップによる容器回収、繊維専門商社との協働による美容部員の制服のアップサイクル(自動車の内装の吸音材へ)など多岐にわたります。
このように他社との共創に積極的なロレアルですが、昔からそうしたパートナーシップ文化が根付いていたわけではなく、むしろ業界No1の立場もあり、他社との協働には消極的だった、と楠田氏は語ります。しかし、そのスタンスを大きく転換したのが「サステナビリティの課題は自社だけではどうにもできない」という強い問題意識だったそう。ロレアルが設立したベンチャーキャピタル・ファンドではグリーンサイエンスを実践するスタートアップを投資領域に含めるなど、他社との共創によるイノベーションがロレアル全体で広がっています。
サステナビリティが事業成長に結びつく秘訣は、社員の日々の業務に結びついているから
サステナビリティ推進の鍵は、経営層のコミットメントはもちろん、社員のエンゲージメントにもあります。ロレアルでは社員が自分事としてサステナビリティを捉えられるような部門KPIの設定が行われています。たとえば、製品開発部門のKPIはSPOTスコアの改善、物流部門は製品輸送に伴うCO2排出量の削減、営業部門は返品率の削減。日々の業務そのものが環境負荷の削減にも直結するようなストーリーが社員一人ひとりに共有されているのです。また、2022年度からはボーナス査定にサステナビリティのKPIの一部が盛り込まれるなど、社員の意識をより一層高めるための取り組みが加速しています。
「サステナビリティはサステナビリティ推進室の仕事」ではなく、製品開発部門の仕事でもあり、物流部門の仕事でもあり、営業・マーケティング部門の仕事でもある。ロレアルが、全社一丸となってサステナビリティを事業成長に結びつけていることが伝わってくるご講演でした。
最後に…
サステナビリティや脱炭素の取り組みを事業成長のエンジンにするためには、サステナビリティ推進室のような、会社組織全体を統括する部門だけでなく、製品開発や営業マーケティングに携わる部門が事業・プロダクト単位で環境負荷の削減を考えていく必要があります。その起点となりうるのが、ロレアルのSPOTのようなLCA計測でしょう。また、Scope3の削減にはサプライヤーや顧客との共創も不可欠です。
その考え方やサービス内容にご関心がある方はぜひこちらをチェックください!
また、楠田さまによる基調講演の資料は下記リンクからダウンロードいただけますので、ご興味のある方はぜひご覧ください。
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