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「RE Action」で中小企業も再エネ100%に!

企業で使用する電力を、現在もしくは近い将来に100%再生可能エネルギーに切り替えると宣言する、RE100という国際的な枠組みがあります。RE100は大企業を対象としていますが、日本には中小企業が参加できる「再エネ100宣言 RE Actionアールイーアクション(以下RE Action)」という枠組みもあります。世界に先駆けて日本で設立されたRE Actionと、参加企業の再エネ100%を実現した取り組みを紹介します。 

 取材時期:2022年4月

RE Action のWebサイト

RE Actionアールイーアクション とは?

はじめに、RE100についてご紹介しましょう。
RE100は、企業の消費電力を「Renewable Energy(再生可能エネルギー)」で100%にするという宣言で、世界中の名だたる大企業が参加しています。参加にあたっては、グローバル企業であることや、電力消費量が100GWh(日本では50GWh)以上あることなどが条件となります。RE100には、日本では67社(※1/2022年4月現在)が参加しています。

RE100に取り組むことで、企業はCO2排出量削減など、環境問題に積極的に貢献できることに加え、自社のエネルギーとの関わりを整理し、浪費やコストを見直すきっかけにもなります。また、再エネの市場規模を増やし、ESG投資に対応できるといったメリットもあります。

しかし日本では、企業の99%以上を中小企業が占めています。国際的には、そうした企業が再エネ100%を推進する際の枠組みがありません。そこで、2019年に日本で中小企業版のRE100として設立されたのが、RE Actionというプラットフォームです(※2)。RE Action は、電力消費量が50GWh以下の中小企業に加え、自治体や教育機関、医療機関、金融機関、生協なども対象になっています。2022年3月現在では、239団体が参加しています(※3)。

RE Action 参加団体の推移(2022年3月現在)

RE Action 事務局の金子貴代さんは、「近年、再エネの電力価格が下がっていることもあり、切り替えのコストは問題にならなくなってきています。また、電気代の高騰もあり、自分たちで電気をつくることの重要性に気づいた企業が増えていると感じます」と語ってくれました。

なお、このnoteを運営しているメンバーズも、RE Actionに参加しています。メンバーズでは、千葉県に出力210kW の太陽光発電所を設置、またJ -クレジットという証書を活用して、2020年に消費電力を100%再生可能エネルギーに切り替えています。詳しくはこちらのインタビュー動画を参照してください。

RE Actionのインタビュー動画に出演するメンバーズの高野 明彦取締役(左)とRE Aciton事務局の金子 貴代さん(右)

ここからは、RE Action に参加し、すでに再エネ100%を達成した2つの企業の取り組みを紹介します。

再エネへのシフトが評価される時代に(エコワークス)

1社目は、九州を拠点に木造住宅を設計、施工しているエコワークス(社員約80名)です。エコワークスは、建物を高断熱化して、省エネルギーで快適に過ごせる住宅を提供してきました。また、「ZEH(ネット・ゼロ・エネルギー・ハウス)」についても力を入れています。ZEHとは、高断熱化に加え、高効率設備の導入と太陽光発電システムを搭載することで、その住宅が一年間で使う一次エネルギー消費量の収支が差し引きゼロになる住宅のことです。エコワークスでは、年間に建てる住宅の96%(2021年度実績)が、ZEHの基準を大幅に上回っています。

エコワークスの春日モデルハウス(福岡県)。エネルギー性能の良さに加え、居心地も快適。

エコワークスは、RE Actionの発足当時からのメンバーです。エコワークス社長の小山貴史さんがRE100について知ったのは、2017年にドイツのボンで行われた気候変動に関する国連会議「COP23」に参加した時でした。「再エネにシフトする企業が評価される社会になる」と肌身で感じた小山さんは、中小企業でも参加できる仕組みがあればと、さまざまな団体に声がけをしました。そのため、2019年にRE Action が設立される際に、一番に手を挙げたのです。

エコワークスは、2020年の段階で、すでに再エネ100%を達成しています。具体的には、オフィスやモデルハウスなど全16ヶ所の事業所で使う電力を、新電力の再エネ100%プランに切り替えました(※4)。また、屋根に太陽光発電を設置して、売電の余剰分を自家消費している施設もあります。さらに、営業車両のEV化も進めています。なお、工事現場の電力だけは再エネ100%プランがないため、再エネ電力証書の購入により相殺しています。さらに2030年には、CO2排出を実質ゼロにしようと準備を進めているところです。

エコワークスの福岡ショールーム

100%の近道は「省エネ」

再エネ電力が身近になったいま、100%を達成すること自体はそれほど難しくなくなってきています。しかし、エコワークスのように建物の省エネ化を徹底している企業はまだ多くはありません。建物を省エネ化すれば、消費エネルギーそのものが削減さるため、購入する電力量も大幅に減少します。それは、再エネ100%を達成する近道になるのです。

エコワークスは、2020年の本社移転に伴い、入居先の賃貸ビルの断熱リフォームや設備の入れ替え、および45kWの太陽光発電を屋根に搭載することで、福岡県初の「ZEB(ネット・ゼロ・エネルギー・ビル)」認定を取得しています。

「築40年くらいの古いビルですが、改修工事では窓にペアガラスの内窓を入れて、ガラスを3重にしました。さらに照明をすべてLEDにして、エアコンも高効率のものに入れ替えました。これによって、従来のエネルギーの58%を削減しています。」(小山さん)

エコワークスの福岡オフィスはリノベーションで高性能化を実現した。

エコワークスの取り組みは、賃貸物件でも、エネルギーを半分以下に削減することは十分可能であることを証明しています。なお、断熱したことで寒さや暑さの軽減など、就業環境も向上したため、社員にも喜ばれているとのことでした。

現在、さまざまな企業や自治体から、再エネ、省エネの相談を受けているエコワークスの小山さんは、世界が脱炭素に向かう中で、中小企業が再エネや省エネに取り組む必然性は増していると語ります。「RE Action などの動きは、社会にとってはもちろんですが、企業自身の持続可能性を高めることにもつながります。そのことを、実際に取り組んだ私たちは実感しています。そして、こうした動きを広げていくために、各自治体には、RE Actionに参加している地元企業や団体を応援する仕組みをつくってほしいと考えています」。

エコワークスが手がけた熊本県の保育施設。断熱性能が高く、園児にも優しい。

ゴミのリサイクル率ワーストからの出発(みぞのくち新都市株式会社) 

2社目は、ノクティという商業施設の管理運営をする「みぞのくち新都市株式会社」です。ノクティは、川崎市にある溝の口駅(東急線)および武蔵溝ノ口駅(JR線)の駅前にあるビルで、1日に約6万人、年間では2240万人が訪れる大型の施設です。同社は、まちづくりの発展に寄与する目的で設立されました。

RE Action に参加した直接のきっかけは、会社の拠点となっている川崎市が、自治体としてRE Actionに賛同を表明していたことから、紹介を受けたことにあります。参加の背景としては、ノクティを利用するお客さんの環境意識の高さが影響しました。お客さまへのアンケート結果からは、「地球温暖化」や「ムダなゴミを出さない」といった項目に対して関心が高いことがわかりました。

ノクティ

にもかかわらず、ノクティの2017年度時点のゴミのリサイクル率は30%程度で、川崎市の商業施設でワーストでした。会社としても、エネルギーとゴミ問題をなんとかしなければならないと考えていたのです。

RE Actionに参加してからは、各分野で積極的に取り組みました。まず、2021年には再エネ100%を達成しました。次にCO2排出量は、2013年度を基準として2021年度に88%削減しました。そして、2017年に30%だったゴミのリサイクル率は、2021年度にはなんと83%にまで上がりました。なぜこのような変化を起こせたのでしょうか。

ノクティの使用電力量と電力料金の推移(2013年度〜2021年度)

省エネ化で1億円以上の削減

電力を、再エネ100%プランに切り替えました。さらに、力を入れたのが設備の省エネ化です。ノクティでは、CO2排出量の約9割が電力から発生していました。中でも、空調がもっとも大きな割合を占めていました。ビルには、大型空調機が50台と個別のエアコンが370台設置されています。それらを、省エネ型の設備に更新しました。

大型空調機のインバーター化工事には約1億5,000万円の費用(うち5,000万円が環境省の助成)がかかりましたが、電力料金は年間で1億2,000万円削減されました。投資したコストは、十分に回収できる見込みです。なお、電力使用量も2013年度と比べて、2021年度には21%削減しています。

みぞのくち新都市株式会社の管理運営を担当する齊藤和宏さんは、省エネ化を通じた経済効果を口にします。「ノクティには核店舗となる『マルイファミリー溝口』さんと、約60店舗のテナントさんが入っていて、店舗部分の光熱費は各テナントさんが支払っています。そのため、電気料金が下がったことで、とても喜んでいただきました。いまは燃料費がとても高騰しているので、よけいにその効果を実感しています。」

ゴミ庫ではリサイクルをしやすいように改装
ゴミ庫に設けられた案内板

ゴミ削減については、ゴミ捨て場の運用を抜本的に見直しました。
「ゴミは開業以来、大型ダンプカーのような貯留機に入れていました。便利なものですが、これがゴミを分別しない原因になっていました。そのため、貯留機を撤去しました。やる前は、分別の手間が増える懸念もありましたが、テナントの皆さんの理解と協力もあって、とてもスムーズに移行できました。」(齊藤さん)

さらに現場の話を聞き、「暗い、臭い、怖い」というゴミ庫のイメージを一新しました。ゴミ庫の照明を売り場よりも明るくしたり、フロアをカラフルに彩ったりといった工夫をしたのです。それによって、「さっさと捨てて帰りたい場所」から「また来たくなるゴミ捨て場」に変わりました。

「『社会の課題解決と企業の収益は別』という考えがまだ一般的ですが、うちの会社は省エネ化やゴミの削減を進めたことで、経費が大きく減少しました。このように、中小企業でも環境への取り組みと収益の両立は可能だと考えています。」(齊藤さん)

ゴミ庫を売り場よりも明るくした

今回取り上げたエコワークス、みぞのくち新都市株式会社を含め、RE Actionのこちらのページでは、再エネ100%を達成した企業へのインタビュー動画が並んでいます。ぜひ参考にしてください。

再エネ100%をめざす取り組みは、大企業でないとできないと思われがちですが、ここで紹介したように、決してそんなことはありません。むしろ全体の消費エネルギーが少ない中小企業だからこそ、ひとつの取り組みで大きな成果を収めることができます。また、RE Actionに参加することで、先行する企業、団体とのネットワークを築き、アドバイスをしてもらうことも可能になります。中小企業が、脱炭素の担い手となるRE Action という日本ならでは仕組み。これをさらに広げていくことが、ますます重要になってきています。

※1 RE100の参加企業の最新情報などはこちら 
※2  RE Action は以下の5つの団体が協議会を構成している。グリーン購入ネットワーク(GPN)、イクレイ日本(ICLEI)、公益財団法人 地球環境戦略研究機関(IGES)、日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)、一般社団法人 地球温暖化防止全国ネット(JNCCA)
※3 RE Actionの参加団体と各団体の目標についての最新情報などはこちら※4 電気価格の高騰にともなって、2022年4月に電力の購入先を一時的に大手電力会社に戻し、再エネ電力証書の購入により、カーボンオフセットを行なっています。

写真および画像提供:RE Action、エコワークス、みぞのくち新都市株式会社

ライター:高橋 真樹ノンフィクションライター。サステナブルをテーマに国内外で取材、執筆。著書に『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』(大月書店)、『こども気候変動アクション30』(かもがわ出版)ほか多数。

高橋 真樹によるこちらの記事も合わせてご覧ください。


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