サーキュラーな社会を金沢大学300人の学生とともに(中編)
中編では、ワークショップの7つのプロセスごとに筆者が見たワークショップのポイントを紹介する。前編の最後に紹介した、2日目の授業の大まかな流れがこちら。
7つのプロセスを分解 | ワークショップ・ポイント解説
1. 頑張らない連想ゲーム
アイスブレイク(緊張感を解きほぐす雰囲気作りのゲームなど)として行ったのが「頑張らない連想ゲーム」。文字通り、考えることなく順番に前の人が発した単語を聞いて頭に浮かんだものを口にする。浮かばないときは「真っ白!」と言って次の人へ。
このアイスブレイクのポイントは、自分の頭の中で常に「これでいいんだっけ?」と問い続けてくる「検閲官」を黙らせること。自由な発想でアイデアを積極的に口にするのにピッタリなウォーミングアップだ。
2. 配られたサーキュラーカード
サーキュラーカード(Circularity DECK)は全部で51枚。それぞれのカードには、5つの資源戦略と3つの階層から成る「サーキュラー戦術」が、事例や視点とともに書かれている。サーキュラーエコノミーの原則理解や、アイデアの拡張、そのほか自社のサーキュラー戦略の確認などにも用いることができる。
この日は約半分の26枚のカードに限定して、サーキュラーワークショップを行った。なお、5つの資源戦略と3つの階層は以下のとおり。
3. 付箋に書いたアイデアを戦略カードに貼っていく
ここでの重要なポイントは、今はまだ実現していない技術であっても「それができたら社会が変わる」という発想を大切にすること。河内准教授は以下のように学生たちに伝えていた。
「技術は進化するものなので、今はまだ何らかの制約により存在していなくても、ある一つ発見やブレークスルーが状況を大きく変化させ、一気に実現することもあるものです。もしかしたら今、誰かがどこかでそれを発見しているかもしれません。」
4. アイデア・スパイタイム!
ワークで一番盛り上がったのがこの時間です。
たとえば「歯ブラシ」のサーキュラーデザインを考えていたチームが、「ストロー」「乾電池」「コーヒーフィルター」チームのアイデアを聞く。そして歯ブラシへのアイデア転用を考える——それまで考えもしなかった、新たなアイデアの種が頭に浮かぶかもしれません。
5. アイデアとカードのグループ内共有!
スパイタイムで聞いた話や新たに浮かんだアイデアを付箋に書き、グループに共有します。
ここでのポイントは、自らの言葉でアイデアを説明すること。言語化しているうちに、さらに新たなアイデアや疑問が湧いてくることもあるでしょう。またグループでの対話は、自分が見逃していた特性や制約を気づかせてくれるものになることが多いものです。
6. 3種類の異なる資源戦略
5種類の資源戦略の中から少なくとも3種類を用いることで、サーキュラーデザインの適用範囲と有用性を高めることができます。以下、資源戦略の種類です。
5種類の資源戦略
より少なく使う|Narrow - 製品、部品、原材料、エネルギーの使用量を減らす
より長く使う|Slow - 製品、部品、原材料をより長く使用し、使用エネルギーも節約
繰り返し使う|Close - 循環サイクルから外れないよう、製品、部品、原材料を繰り返し使う
再生する|Regenerate - 再生可能で無害な原材料とエネルギーを使用する
データ活用する|Inform - 情報技術を使用して、資源戦略と階層の実効性を高める
7. フィードバックをもらう
フィードバックは宝もの!アイデアの説明を聞く側は、「それが環境面でどのようなメリットを生みだすのか?」「誰にとってより良い社会になるのか?」を意識して確認の質問することで、相手の脳に刺激を与える。
ワークショップふりかえり
以前、筆者は同じサーキュラーカード(Circularity DECK)を用いた別スタイルのワークショップに参加したことがある。
その際に感じたのは、製造〜流通〜販売〜廃棄という製品のライフサイクルに関する自分の知識がとても断片的であること、そして自分を含めて多くの人が、事業のビジネスモデルやエコシステムに関して、先入観や思い込みに捉われてしまっているということだった。
今回のワークショップでは、「知らない分野に対してアイデアを出すことは難しい」「固定概念を打破するには異なる視点や事例が必要」、そして「理解が浅いものに対しては消極的になりやすい」という、人間の認知特性・行動特性を踏まえたものになっていることを強く感じた。
自ら実践することをシミュレーションするこのワークショップは、身近な実践例がまだ少なく多くの人にとってなじみが薄いサーキュラーエコノミーを、知識にとどめることなく、「使える道具」へと転換させるものであり、早く体験すればするほど、サーキュラーの概念・視点を踏まえたアプローチを身につけることができるだろう。
もう1つ。今回のサーキュラーカード(Circularity DECK)の使い方は、筆者が1年ほど前に参加したワークショップとは、異なる使い方だった。
意外かもしれないが、サーキュラーワークショップには1つの決まった「正しいやり方」があるわけではない。今回のように、51枚のサーキュラーカードすべてを使わない方法や、製品ライフサイクルマッピング図を用いないやり方もある。
参加者の知識、関心分野、業務内容に合わせてカスタマイズすることで、ワークショップ参加者が得られる効果は大幅に変化する。サーキュラーワークショップの実施と進め方については、日本語版Circularity DECK提供元であるメンバーズに相談するのがよいだろう。
また、別形式でのサーキュラーワークショップの進め方については、下記のページが参考になる。
最終回となる後編は、河内准教授と、ティーチングアシスタントの艫居さんが語ってくれたことを記していきます。