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本当はどうなの?EVシフトへの疑問をスッキリ解消!

世界で進む電気自動車(以下、EV)シフトの波。しかし、日本では普及が進んでいるとは言えません。性能面の懸念や充電環境の整備についてなど、さまざまな課題も指摘されています。そのようなEVにまつわるさまざまな疑問を、工学博士でEVユーザーでもある櫻井啓一郎さんに伺いました。

今後10年で爆発的に普及

Q:まず、国際的にEVシフトはどれほど進んでいるのでしょうか?

櫻井:国際的な複数の調査機関の2−3年前の予測では、2030年に販売される新車のうち、EVの割合はおよそ1割から2割程度とされていました。しかし、最新の予測ではその数字が大幅に修正され、3割から4割程度になりました。これは、EVシフトが欧米や中国を中心に、調査機関の予測を遥かに上回るペースで進んでいることを示しています。また、各国はガソリン車販売を禁止する年数を決めていますが、中にはイギリスのように、一度決めた期限を前倒しして早める国も現れています。そうした影響もあって、ここから2−3年後には将来予測がさらに上乗せされる可能性もあります。

Q:日本では、ハイブリッド車やプラグインハイブリッド車なども含めた形で、「電動車」という扱いでシフトしていこうとしています。日本メーカーが優位性を持つハイブリッド車が中心の政策ではなぜ難しいのでしょうか?

櫻井:予測では、ハイブリッドもしばらくは売れることになっています。でもそれも2040年までくらいでなくなり、販売台数ではあと数年でEVが上回るとされています。いまはハイブリッドが売れているからと安心していると、各国で規制が始まり、さらにアフリカのような新興市場は中国のEVなどに抑えられてしまうかも知れません。

特に重要なのはバッテリーの生産です。いまは中国が世界のトップシェアを持っていますが、欧米は中国に対抗して次々にバッテリー工場に投資して体制を整えています。米国ではテスラが有名ですが、GMやフォードのような会社が本気になってEVのバッテリー生産工場を作っています。日本国内で大量生産する体制ができていないということは、外国からの供給が止まれば日本の自動車産業が止まることになります。これは、安全保障上も問題だと思います。

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EVの性能はどれほど向上したのか?

Q:日本では、充電ステーションの減少が伝えられるなど、EVシフトが進む気配がありません。その原因には、よく言われるEVの航続距離の短さやバッテリーの劣化の速さといった性能面も関係しているのでしょうか?

櫻井:性能面の課題は、この10年間で技術革新が飛躍的に進み、問題ではなくなっています。例えば10年前の日産リーフは、航続距離が100kmちょっと、バッテリーの劣化も早かったのです。日本では、この当時のイメージを持たれている方も多いかもしれません。しかし新型リーフでは航続距離が400kmに近づき、バッテリーも8年保証を謳うようになりました。そしてテスラのモデルSは、航続距離は600kmを超え、25万km走ってもバッテリー容量は初期の9割以上を保つというデータが出ています。これはバッテリーの温度管理の仕組みが向上したためで、日本のパナソニックの技術も活用されています。

Q:EVの価格はまだ高いですよね?

櫻井:確かにそうなのですが、国際的には価格も劇的に下がってきています。あと数年で、補助金がなくてもガソリン車と同じ値段になると予測されているので、価格面の問題もなくなってくるはずです。特に大きいのは、バッテリー価格が10年前と比べて10分の1になっていることです。これは、中国で量産体制が確立されたことが大きく影響しています。いずれにせよ、性能も価格も進化し続けているので、数年前の古い情報をベースに判断すると動向を見誤ってしまうと思います。ちなみに、EVはメンテナンス費用がガソリン車のおよそ半分なので、その面でもユーザーの経済的メリットが大きくなります。

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カギを握る充電スポットの数と速さ

Q:最大の課題は、充電スポットが少ない点でしょうか?

櫻井:その通りです。EVが普及しない理由は、技術的な問題よりも、充電環境の不足にあります。充電器の数はもちろん大事ですが、充電時間の速さも重要です。日本は急速充電器の普及が決定的に遅れています。
欧米では、政府が補助をしつつも、民間がサービス展開に有利な場所を取り合うような形で幹線道路沿いにどんどん普及しています。そこが欠けている日本では、今のままならEVは普及しないと思います。自宅や職場で行う日常の充電であれば、それほど充電スピードを気にする必要はないのでしょうが、長距離移動となると充電時間が使い勝手に大きく影響します。

現在の日本の高速道路にある充電器の最大充電電力は、ほとんどが50kW以下です。一方、欧米や中国では、150kWから400kWのものが増えています。この違いには大きな意味があります。例えば800kmの距離を走った場合、50kWの充電器では必要な充電時間が合計で88分以上かかることになってしまい、実用的ではありません。これが平均100kWで充電できると、合計の充電時間は44分となり、平均的な小型車ドライバーならば、休憩時間中の充電だけで間に合うようになります。

さらにテスラ・モデル3の上位グレードでは250kWもの電力で充電できるので、18分程度に短縮できる。日本のおよそ5倍の速度です。しかも、ガソリンスタンドに寄る手間が省けます。一度そうした仕組みをつくりさえすれば、ユーザーにとってはガソリン車より便利なのです。日本では欧米のような速度の速い充電器の導入が遅れていますが、他国にできて日本だけできない理由はないはずです。

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参考:EnergyShift 電気自動車が普及するには、どれぐらいの性能が必要なの?(櫻井啓一郎さん執筆記事)

EVの普及はCO2削減にはつながらない?

Q:環境面の疑問についてお聞きします。普及が劇的に進むと、リチウムイオンバッテリーに使用されているレアメタルが足りなくなる恐れはないのでしょうか?

櫻井:それについては、リユースやリサイクルに力を入れることが重要で、それを怠らなければ足りそうだと言われています先ほどお伝えしたように、バッテリーの寿命自体は飛躍的に長くなっていますが、そのあとも例えば定置型の蓄電池として再利用することが可能です。また、すでにハイブリッド車などのバッテリーのリサイクルは日本でも始まっています。工夫次第で何度も繰り返し使えることは、石油と決定的に違う部分ではないでしょうか。

Q:複数の自動車メーカーなどから、EVシフトをしてもCO2削減にはつながらないというリポートが出ています。これについてはいかがでしょうか?

櫻井:私は「EVの普及がCO2削減にはならない」と結論づけたリポートを見つけ次第全部調べていますが、どれも古いデータを基に計算していたり、ガソリン車の排出量を非現実的に良く見せていたりしていて、現在や将来の一般論として不適切です。例えば日本のM社のリポートは、10年以上前のEVの性能を基に計算していました。こうした誤った情報や古いデータに基づいたリポートには注意が必要です。実際には、世界中95%の地域で、EVはガソリン車よりもCO2排出が大きく削減できることが明らかになっています。

化石燃料とEVの排出量比較

車体やバッテリーを製造する際の排出はEVの方が多いが、走行用の電力調達に伴う排出は概して少なく、ある程度以上の距離を走るとEVが全体的に排出削減になる。また購入後に電力の脱炭素化が進むと、その分さらに排出削減幅が拡大する。 出典:2021.1.16 K.Sakurai (AIST) CC-BY 4.0

Q:EVシフトしても、火力発電が増えてしまっては意味がないという論調もあります。

櫻井:EVが増えたから、火力発電所を増やそうとはなりません。これからは全世界的に再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入率が高まることは確実です。再エネが爆発的に増えると、一時的に電力が余る時間帯が出てきます。欧州などでは、そのような余った再エネの電力の有効利用について議論されていますが、EVが普及して余った電力で充電できるようになれば、国全体で燃料を節約することができます。

そして、その国の電源の再エネ比率が高ければ高いほど、EVのCO2削減率は高くなります。ガソリン車は購入した時点で排出量が決まってしまうのですが、EV(やPHV)はその後も電力が低排出になれば、買った後からでも排出削減効果が増えていきます。再エネ設備との連携に関しては、充電できないエンジン車では太刀打ちできません。

Q:日本も出来る限り早くEVシフトに舵を切る必要がありそうですね。

櫻井:自動車メーカーでは、何か逆転の秘策をお持ちなのかもしれません。一方で他国ではすでに巨額の投資が行われ、規模の経済も発揮し始めています。スマート充電等、関連するサービスや技術の開発・実用化も聞かれます。後発技術が参入するハードルが時と共に上がっているようで、日本だけが普及で遅れている現状には不安を覚えます。日本は継続的ではない変化、つまり破壊的な変化に対応するのが弱いと感じています。再エネとEVの普及は車の両輪のような関係で、組み合わせることでみんなが得をする仕組みをつくることができます。変化を拒むよりも、うまく活用する方策を考えていただいた方が、良さそうに思います。

参考:EnergyShift EVは本当にCO2排出削減にならないのか?(前編) 〜欧州で検討中のLCA規制とは(櫻井啓一郎さん執筆記事)
ライター:高橋 真樹 
ノンフィクションライター、放送大学非常勤講師。サステナブルをテーマに国内外で取材、執筆を続ける。新刊『日本のSDGs それってほんとにサステナブル?』(大月書店)をはじめ、著書多数。

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