「プライム」市場が登場!東証一部との違いは?いつから何が変わる?わかりやすく整理
2022年4月から東京証券取引所(以下、東証)は、現在の「市場第一部」や「市場第二部」などから、新たに「プライム」「スタンダード」「グロース」という3つの市場区分に移行します。
こうした中で7月9日、現在「市場第一部」に上場する企業2,191社のうち、664社が「プライム」への上場維持基準に達していないことが明らかになりました。また週明け12日には、東証からの維持基準の未達通知を受けた100社以上が「プライム」への適合通知を受けたことを適時開示で公表しています。
株式市場のみならず、日本経済全体から注目を集めている新たな市場区分の誕生。一体なぜ再編がおこなわれ、どのような変化が生まれるのでしょうか。
変更のポイント
まず今回の変更点は、以下のとおりです。
(現在)
「市場第一部」「市場第二部」「マザーズ」「ジャスダック」(スタンダード・グロース)
(来年4月以降)
「プライム」「スタンダード」「グロース」
これらは単純に区分が変わるだけでなく、たとえば「市場第一部」に上場していた企業が「プライム」に上場する場合は、現在よりも厳しい基準が課されます。具体的には、以下のような内容です。
●市場で流通する株式の比率(流通株式比率)が35%以上
●市場に流通する株式の数に株価をかけて算出した時価総額(流通株式時価総額)が100億円以上
上記の「プライム」の基準を満たさない場合は、流通株式比率が25%以上・流通株式時価総額が10億円以上の「スタンダード」に上場することになり、その基準を下回っている場合は「グロース」となります。
各市場で求められる基準は、大きく「流動性」、「ガバナンス」、「経営成績・財政状態」の3つに分かれており、東証がこれらの項目を重視して再編をおこなっていることが伺えます。
また各市場への移行については、基準に基づいて機械的に行われるわけではありません。現在は「プライム」基準を満たさない企業も、その基準を目指しながら「プライム」市場を選択することが可能であり、そのためには「新市場区分の上場維持基準の適合に向けた計画書」を提出・開示する必要があります。
再編のスケジュールは?
今回の再編は、東証の歴史で見ても大きな変更であり、同時に上場企業にとっては厳しい基準が課される出来事であるため、様々なステップを経て実施されます。
①2021年6月末日 移行基準日(この日の時価総額などのデータに基づいて、各社が上場維持基準に達しているかが判断されます)
②2021年7月9日 東証からの適合通知(本記事の冒頭でお伝えしたように、「プライム」の基準を満たしているかが各社に通知された日です)
③2021年9月-12月 上場会社による市場選択手続き(東証からの通知を踏まえて、各社が主体的に市場選択をおこない、手続きをすすめる期間です)
④2022年4月1日 一斉移行日(この日に移行がおこなわれます)
つまりこの後は、上場各社が実際に「プライム」「スタンダード」「グロース」の3つから市場を選択することになります。先ほどお伝えしたように、基準を満たさない企業にとっては上場維持基準の適合を目指すか、あるいは適合する市場を選択するかを今年中に決定しなければなりません。
背景は?
ではなぜ、このように大きな再編が実施されることになったのでしょうか。東証は、以下のように説明しています。
市場区分を明確なコンセプトに基づいて再編することを通じて、上場会社の持続的な成長と中長期的な企業価値向上を支え、国内外の多様な投資者から高い支持を得られる魅力的な現物市場を提供すること
つまり、再編の背景は大きく3つのポイントから説明できます。順番に見ていきましょう。
まず1つは「市場区分の明確なコンセプト」です。これまでの区分では「各市場のコンセプトに重複やわかりづらさがあったり、マザーズから市場第一部、ジャスダックから市場第一部に市場変更する際の基準が違う」ことが指摘されてきました。
実際、「市場第一部」といえば日本を代表する大企業が集まっているイメージがある一方、「市場コンセプトが明確でなく、パッシブ投資隆盛により流動性の低い銘柄の価格形成にゆがみ」が生まれる問題も指摘されてきました。また、「ジャスダックから東証1部への上場には250億円以上の時価総額が求められているのに、東証2部やマザーズからは40億円以上で可能といった、ダブルスタンダードの問題」も解消しないままでした。
こうした基準が明確化されることで、成長性や投資家層など各企業の特性に合わせた市場の選定が可能になります。
もう1つは、「持続的な成長と中長期的な企業価値向上」です。
持続的成長と企業価値向上を目指すのはもちろん企業自身ですが、市場がそれを「動機づける」ことは必要不可欠です。しかし、これまで「市場第一部へのステップアップ基準は、上場会社の持続的な企業価値向上の動機付けの観点から十分に機能せず」にいたと指摘されます。
上場維持に際して、ガバナンスや収益性に対して課される基準が不十分であったため、継続的な企業価値向上を怠る企業も散見されました。この結果、かつては強いブランド力を誇っていた最上位の「市場第一部」ですら、企業数が増えすぎたことで相対的にブランド価値が低下し、企業にとっても時価総額の低下などに対して、改善圧力が十分に働かない状況に繋がりました。
今回の再編では、各市場への昇格要件および上場廃止要件の緩さを見直すことで、経営陣が企業価値向上に奔走することが期待されています。
そして最後に、各市場の魅力が「国内外の多様な投資者からの高い支持」に繋がっていくかという問題です。
今回の再編の最上位に位置づけられる目的は「米国や欧州をはじめとする海外の株式市場では、ESG投資を呼び込むための競争が激化」する中、「こうした競争に勝ち、海外投資を呼び込む」ことだと言われます。
現在、ESG投資をはじめとして、女性取締役の増加やコーポレートガバナンス・コードの遵守など、企業経営に期待される論点は多く、これらの取り組みを適切に実行・開示していくことが必要となります。言い換えれば、単なる時価総額の向上だけでなく、気候変動がもたらす自社事業へのリスクやサステナビリティへの取り組みなどについても、説明責任が求められている状況です。
しかし現状では、こうした取り組みが必ずしも十分に浸透しているわけではありません。例えば、今年6月に東証と金融庁がコーポレートガバナンス・コードを改訂しましたが、その主なポイントは以下のとおりです。
●プライム市場上場企業において、独立社外取締役を3分の1以上選任
●経営戦略に照らして取締役会が備えるべきスキル(知識・経験・能力)と、各取締役のスキルとの対応関係の公表
●管理職における多様性の確保(女性・外国人・中途採用者の登用)についての考え方と測定可能な自主目標の設定
●サステナビリティについて基本的な方針を策定し自社の取組みを開示
コーポレートガバナンス・コードが導入されて以降、日本企業は株式持ち合いを解消するなど、従来の慣習を少しずつ変えてきました。しかし上記のようなポイントは未だ多くの企業で十分ではなく、国外投資家らからの支持を得るためには、こうした取り組みを進めていく必要があるでしょう。
以上のように今回の市場再編は、東証がより魅力的な市場となり、多くの投資家から資金を呼び込む上で不可欠な取り組みだと言えます。しかし同時に、ESGやサステナビリティ、コーポレートガバナンスなど日本企業がこれまで十分に取り組みを進めてこなかった領域について、アクションと説明責任を求めるものでもあります。
再編や新たな市場基準について、単なる「規則」や「規制」として捉えるのではなく、企業価値向上のための「契機」と捉えることが重要だと言えるでしょう。
ライター:石田 健
株式会社マイナースタジオを創業後、メンバーズにM&Aで参加。現在は同社を継承した部署で、企業向けにコンテンツ・マーケティングやデジタルにおけるグロース戦略の支援などを担当。
石田 健によるこちらの記事も合わせてご覧ください。
編集部オススメ記事も合わせてご覧ください。