「脱炭素DXってうまくいってるの?」——脱炭素DXカンパニー社長に聞いてみた
脱炭素DX、ぶっちゃけうまくいっているんですか?
パチ:脱炭素DX事業がスタートしてほぼ1年ですよね。ぶっちゃけ、うまくいっているんですか?ひとまずこの1年を手短に総括してもらえますか。
西澤:いきなりな切り込みですね…。実は先日、動画インタビューを受けたんですけど、そこでも関連する話をしているので、パチさんも後で観て、ぜひ感想を教えてください。
今日はざっくばらんに行きましょうってことだったので、普段着の自分のままで答えますね。まず、概況的な話を少しすると、「はかる」「減らす」「稼ぐ」——この3領域を軸として推し進めていくことが重要だということは、私たちも企業の皆さんも理解しています。それにもかかわらず、日本ではまだ「はかる」のところで足踏みしている企業が圧倒的に多いという状況です。なので、それを踏まえつつ足場固めをした1年だったかなと自分では思っています。
「うまくいっているのか」は、正直わかりません。でも、それは想定していた通りです。パチさんにはどう見えますか?
パチ:「はかる」は主に数値化や比較を意味すると思うので、「デジタルとの相性も良さそうだし簡単なのでは?」と思われる読者もいると思います。なぜそれが難しいのでしょう?
西澤:「はかるべきもの」はいくつかありますが、中心となるのは温室効果ガス排出量です。そしてそれを分解していくと、直接管理の範囲内であり自社内で計算が完結するスコープ1とそれに準ずるスコープ2、そしてそれ以外のスコープ3の話となります。実際にはそれほど単純な話ではないですけれど、スコープ1および2はたしかに簡単と言えなくはないかもしれません。
しかしスコープ3となると、自社事業活動のいわゆる「上流・下流」と呼ばれるサプライチェーンの排出量が対象の中心となってくるので、どう考えても難しいです。取引先など直接管理の範囲外となりますから。
パチ:でも、大企業であれば取引先に「排出量を詳細に開示してください」「環境負荷の低いものを納品してください」と要求しやすいのでは?
西澤:僕たちも最初はそう考えていました。でも、現実にはそんなに簡単な話ではないんです。排出量を調べるのにもコストがかかるし、環境負荷の低い原材料や部品などに変更することもほとんどのケースで費用増加につながりますから。
それに、大企業であろうと命令的な指示はできませんよね。下請法もあるし、乱暴なやり方をすればコンプライアンス問題にもつながりかねません。
大企業を中心に、悩みながらも「サプライヤーエンゲージメント」という考え方や指標を取り入れながら進めているというのが現状ですね。
脱炭素DX事業リーダーに必要なスキル = 科学的リテラシー × 人間力
パチ:とは言え、「ここがツボ」みたいなものが見えてきたんじゃないですか?
西澤:この1年で100社以上のサステナビリティ推進担当の役員や現場の方たちの話を聞いてきましたが、彼ら彼女らがいかに社内で孤独な立場かということに驚かされました。
これはメンバーズのビジネスの特徴ですが、僕らはお客さま先に専門家として常駐して、社内の担当部門の方たちと一緒に粘り強く問題解決を進めていくところに強みを発揮して、それをご評価いただいたことで成長してきた会社です。
これからは従来のデジタル・マーケティング領域に加えてサステナビリティ分野へ、中でも特に注力すべきものとして脱炭素をしっかり実現していこうと考えています。
パチ:なるほど。しかしサステナビリティの取り組みはセールスなどとは異なり、部門単位ではできません。そして必要とされる知識範囲も膨大です。これまでよりも難易度はかなり高いですよね。
西澤:そうですね。でも、だからこそ僕らの強みが活きてくるだろうと思っているんです。
メンバーズは社員全員参加型でミッション・ビジョンを策定し、経営の主体にデジタルクリエイターである社員を位置付けています。そして脱炭素DX事業に所属しているクリエイターたちは皆、脱炭素とデジタル変革を通じてお客さまの成功と、地球環境問題の反転を実現させたいとぶれずに思っているメンバーたちです。
デジタル分野に強いだけじゃなく、必要とあらば臆せずお客さまの懐に飛び込んでいく。そういう芯の強さがありますから。
パチ:「人間力」的なものもかなり必要とされる役割ですね。
西澤:1年前に事業をスタートするとき、チームみんなで「お客さまとともに脱炭素DXを進めるリーダーに必要なスキルってなんだろう?」と対話したんです。
もちろん脱炭素に関する知識や科学的なリテラシーは必須です。でもそれと同じくらい、人々を巻き込んで一緒に進んでいける力が欠かせないねって話になりました。
お客さま社内のステークホルダーも含め、みんなが最高のパフォーマンスを発揮できる環境や体制を整え維持していく。そのためのことであればなんでもやる——そんな、コンサルでもPMでもない、より包括的なチーミング力とソリューショニング力が成功には必要だねって。
みんなそれを理解して意識しています。そこから「はかる」をまずは入り口とし、先ほどの「はかる」「減らす」「稼ぐ」でお客さまのご要望にお応えしていきます。
COPという巨大チャンスに目の色を変える世界中のビジネスパーソンたち
パチ:ところで、数ある社会課題の中で気候変動に、とりわけ脱炭素にフォーカスしようと西澤さんが思ったきっかけってあるんですか?
西澤:以前から気候変動対策には興味はありました。そして脱炭素がそれにおける大きな要因だと知っていたので、必要性も感じていました。でも、自分がどうそこに関わっていくのかって、あまりピンときていないというか…そこで自分が何をどうするのがよいのか、方法みたいなものがわからないなって思っていたんですね。
そんな中で、2021年11月にCOP27(国連気候変動会議)に参加したんです。そこで世界の本気度を目の当たりにして僕自身が大きく変わりました。日本で聞いていることと、世界で捉えられていることがまるで違うってことを、肌で感じました。
パチ:「日本と世界の違い」を端的に表すような、何か具体的なものってありました?
西澤:まあ何もかも違うわけですけど、わかりやすい具体例は、COPに参加している外資系コンサルティング企業のお金のかけ方ですね。COP27という、世界の動向を左右する場にビジネスセクターの人たちが世界中から集まるのは、ビジネス的な意味合いをそこに大いに見出しているからですよね。要するに、リターンの巨大さを知っている。
自分たちのブースに世界の要人たちを招き入れ囲い込むためにものすごい金額を投資しているのが、ありありと見えました。彼らは目の色を変えて必死になってやっています。
パチ:COP27は自分から「行きたい!」と手を挙げたんですか?
西澤:全然そんなことはなくて。現在はメンバーズ代表取締役社長になっている高野さんに「西澤さん、行ってきたらどう?」って言われたんです。「エジプト開催でしょ?めんどくさっ!!」って正直思っていました。
でも、今は感謝しています。あのタイミングでCOPに参加していなかったら、今頃僕はまったく違うことをしていたかもしれません。COP参加があったから、脱炭素に向き合う事業アプローチを掴むことができました。
…おそらくですが、高野さんが僕に声をかけたのは、僕の中の迷いが大きくなってきているのを感じていたからなのかもしれません。
「なんのために…?」自分だけ採点者ではいたくない
パチ:迷いが大きくなっていた…。詳しく聞かせてください。
西澤:僕はそれまで、まあとんとん拍子に大きな規模の組織を任されるようになっていて、気がつけばその頃は2000人規模の事業部を任せていただけるようになっていたんですよね。でも、その中で、しっかりすべてを自分の中で腹落ちさせて、100%納得してやっていたかといえば…そんなことなかったんです。
それで、それが続くうちに「あれ?自分なんのためにこれやっているんだっけ?」って気持ちが募っていき。気づいたら、やりたいことと違うこともかなり増えている。「あれ、これ僕の認知が追いついていないな」と…。
それで、新たに自分のやりたいこととビジネスの接点をしっかり見つめ直した結果が、現在の脱炭素DXという事業になっています。自分のやりたいことをしっかり追っていこうと。その上で100人、1000人、3000人とスケールするのならば、それはいいんじゃいかなって。
パチ:なるほど。それでは今は何に気をつけていますか?
西澤:「自分がやらない方がいいことがある」ということですね。苦手なことは、積極的に人に任せた方がいい。僕の場合、顕著に育成が苦手なんだと思います。
以前は自分が持っていたリーダーシップ像に捉われてしまっていたのかもしれません。あんまり、何が苦手かって意識に上がらなかったんですよ。「それが自分に与えられた役割なら、得手不得手も好きか嫌いかも関係ない。やるべきことだからやる。以上」って。
でも、やっぱり違うんじゃないかなって。自分よりそれが得意な人ややりたい人がいるのなら、任せた方がいいじゃないって思うようになりましたね。
育成以外も、今は、「自由に思うままにやってほしい」とみんなの背中を押すことを意識していますね。
パチ:それはずいぶんと大きな変化じゃないですか。
西澤:そうですね。昔の僕は、「さあみんな、この中で頑張ってくれ!」と規定演技でみんなを競わせていたような感じだったかなと思います。
でもこの変化も必然じゃないかと思うんです。だって、脱炭素DXの取り組みに1つだけの決まった正解があるわけじゃないし、何がベストな答えかは世界中の誰にもわからないわけですから。
だから、僕も含めて、みんながそれぞれに自分に見えているものに対して、しっかり取り組んでいけばいいと思っています。自分だけ採点者ではいたくないなって。
パチ:それはとてもいいアプローチだと思います。まさにVUCA時代に必要とされているマネージメントスタイルだし、組織カルチャーですね。
西澤:そのカルチャーを育てていくのが僕の役割だと思うし、メンバーズのミッション・ビジョン経営をより強くしていくものだろうとも思うんです。
だから、僕があまり饒舌すぎるのもよくないですよね。「あの人は答えを持っているんだ」という誤解をチームに招きかねないから。そこはすごく気をつけています。
だって、カンパニーの社長という立場的に、僕が右と言えば右になってしまいがちじゃないですか、組織って。
「自社ならではの取り組み」で想定炭素削減量1,011t-CO2
パチ:今後脱炭素とデジタル変革がちゃんと進んでいけば、どんな社会になりますか?
西澤:現在の収支決算書と同じように、日次か週次か、少なくとも月次での排出量チェックが当然のものとして意思決定に用いられるようになるでしょうね。そして生活者側も、ESG観点での企業選択を習慣の中に取り込んでいき、それが社会的な価値観へと組み込まれていくんじゃないでしょうか。
地域や世代、スピード感の違いはあれど、そうした企業選択の変化はすでに世界的なトレンドへと向かっていると思います。そして同時に、炭素に関する税制の見直しやカーボンプライシングなどの制度も当然必要なものと見なされるようになっていくでしょうね。
パチ:たしかに、そうやって企業側と生活者側が手を取り合って進んでいくのが理想的ですよね。とは言うものの、やはり社会をリードする役割を企業は担っているとも思います。お客さま企業をリードするだけではなく、メンバーズ自体として脱炭素DXに取り組んでもいるんですよね?
西澤:もちろんです。生活者として個々に脱炭素に取り組むだけではなく、企業として業務を通じてインパクトを生みだそうと約3000人の社員みんなが取り組んでいます。
他社の皆さんにも取り入れてもらいたいということで、昨年、その実践プロセスと実績をまとめたレポートを公開してリリースを出しました。
簡単に真似してもらえる部分も多いと思います。
また、メンバーズの場合はデジタルやマーケティング関連の取り組みが多いですけど、これは企業や業界によって異なってくると思います。「自社ならではの取り組み」を見つけたいという方にはお問合せいただきたいですね。
利益と持続可能性の正のスパイラルを力強く回していく
パチ:脱炭素DX事業は今後どう展開されていくのでしょうか。
西澤:改めて説明すると、脱炭素DX事業はカンパニーと研究所の両輪で活動しています。
カンパニーの活動は、お客さま企業の担当者と共に課題に向きあい、1つずつしっかり解決に向けて取り組んでいく。やり方としては従来からのメンバーズの事業モデルに近く、サステナビリティ業務の現場を常駐型で伴走支援するというものです。
一方の研究所は、カンパニーのそうしたボトムアップ的な取り組み結果の発信や社会的エンゲージメント活動だけではなく、ものづくりや流通の上流工程にぐっと近づき、LCA(ライフサイクルアセスメント)や、サーキュラーエコノミー(循環経済)型のサービス開発などを支援していきます。
この「現場からのボトムアップ」と「上流工程での取り組み」が相乗効果を生みだし、お客さまの利益と社会の持続可能性の正のスパイラルを力強く回していく——このモデルを確立したいですね。
パチ:それでは最後に、西澤さんの個人的野望を教えてください。
西澤:今お伝えした、ボトムアップ的な取り組みにも上流工程からの取り組みのどちらにも欠かせないのは、ビジネス上の価値創出とサステナビリティを同時実現していこうとするクリエイターたちです。
彼らが活躍すればするほど、社会は自ずと脱炭素へのスピードを早めていきます。そうなればまだ脱炭素DXへと舵を切っていない会社も、市場の要請に応えざるを得なくなりますよね。
社内外での積極的な脱炭素DX活動を通じて、社会にそういうクリエイターをもっと増やしていきたいですね。彼らこそが、社会をサステナブルな方向へと向かわせる原動力だと思うので。
以上、インタビュー記事はいかがでしたか?西澤さんはこの脱炭素やサステナビリティ領域を真剣に面白がっていて、その様子やメッセージは現場にも伝わってきます!今後は実際にお客さまのサステナビリティ業務を伴走支援しているクリエイターにも迫っていきたいと思いますので次回の記事をお楽しみに~
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