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【事例紹介】屋上を農園化!CSA型水耕栽培「GVRenting」で地産地消

市民の多くがバイクを主要な交通手段とするベトナム最大都市ホーチミンでは、大気汚染が深刻な問題となっています。そこで、ホーチミン市内の不動産管理会社である「GVRenting(ジーブイレンティング)」は、アパートの屋上を活用したCSAモデルの水耕栽培サービスを展開し、排気ガスによる温暖化に対して取り組んでいます。

今回はこの「GVRenting」の取り組みを分析し、循環経済(サーキュラーエコノミー)に向けた新しいアイデアやアクションを考察してみます。分析には「※Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」というツールを使用します。

※サーキュラリティデッキについての解説記事はこちら

「GVRenting」とは?

不動産管理会社「GVRenting」は、所有するホーチミン市内の多くのアパートメントビルの屋上を活用し、都市生活と循環型農業を融合させた新たな取り組みを展開しています。「GVRenting」の主な特徴は以下の2つです。

・都市部での有機野菜の生産
アクアポニックス※1システムを導入し、有機野菜を生産。栽培された食材は地域の住民に提供され、CSAモデルを通じて健康的な食生活を促しています。

・ヒートアイランド現象の軽減に貢献
屋上農園における水耕栽培は、緑の面積を増加させ、蒸散による冷却効果や建物の遮熱効果をもたらすことで、都市のヒートアイランド現象の軽減につながります。

※1  
アクアポニックス:魚の排泄物を栄養源として植物を水耕栽培し、植物が水を浄化することで魚の飼育水に再利用する循環型農業の方法。

GVRentingによる屋上農園の様子(参照:https://gvrenting.com/gvfarms-tower-lease)

CSAの仕組み

CSA(Community Supported Agriculture:コミュニティ支援型農業)は、流通業者を介さずに生産者と消費者が直接契約を結び、有機野菜を定期的に購入する仕組みです。消費者が生産者へ前払いを行うことで直接的な関係が築かれる点が特徴です。

この前払いのシステムにより、農家は経済的な不安定さに左右されることなく、安定的に野菜を育てることが可能になります。また、農家は需要に応じた量を生産できるため、地域の食料供給を強化し、有機栽培で安全な野菜を育て、消費者に新鮮な野菜を届けることができます。

「GVRenting」のメリット

「GVRenting」の特長として、一般的なCSAと環境面で2つの違いが挙げられます。

① CO2の削減
一般的なCSAでは、消費者が畑まで野菜を取りに行きます。一方、「GVRenting」の場合は消費者が自宅の屋上から直接野菜を入手できるため、無駄な運搬や移動が削減され、CO2の排出量を減少させることができます。

② 環境改善
「GVRenting」は、建物の断熱効果を通じて、地域の環境改善にも貢献しています。さらに、植物が直射日光を遮ることにより、ビルの劣化を防ぐことにもつながります。

サーキュラリティデッキで分析・分類

「GVRenting」には、どのようなサーキュラーエコノミー的要素が含まれているのか、「Circularity Deck(サーキュラリティデッキ)」を用いて分析・分類してみましょう。サーキュラリティデッキのカードは、5つの資源戦略×3つの階層で構成されます。

サーキュラリティデッキの構成(参照:https://www.members.co.jp/services/csv/circularity-deck.html)

これらの頭文字を掛け合わせた51枚の戦術カードを用いて、現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸、直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸で分析・分類を行います。

現状(AsIs)ー 将来性(ToBe)軸では、「GVRenting」の現状とさらなる企業発展につなげるために将来性の観点で分析します。

直接的(Direct)ー 間接的(Indirect)軸では、その企業に対する利益が直接的か間接的かという観点で分析します。

「GVRenting」を、上記のサーキュラリティデッキを用いて分析した結果が以下の画像です。

デッキを使い「GVRenting」を分析

サーキュラリティデッキ 現状(AsIs)分析

以下が、現状(AsIs)分析の結果の一例です。

RE3:汚染されたエコシステムを再生する
「GVRenting」の屋上農園は、植物がCO2や熱を吸収することで都市のヒートアイランド現象を軽減することができます。さらには、エコシステムの健全性を保つ役割も果たしており、都市部の環境問題の改善に寄与しています。

RE4:持続可能なエコシステムの構築と維持を実現する
アクアポニックスを利用しており、廃棄物を資源として再利用することで環境への負荷を軽減しています。

NE1:使用効率を最大化する
都市部の空間を最大限に活用し、住居の屋上で野菜を育てることは、買い物に伴う排気ガスの排出量の削減にもつながります。

サーキュラリティデッキ 将来性(ToBe)分析

今後、「GVRenting」がさらなる発展を遂げるためには、どのような戦略を取り入れればよいでしょうか。
以下が、将来性(ToBe)分析の結果の一例です。

RP1:自己充電可能な製品をデザインする
屋上農園にソーラーパネルを設置することで、農業設備に必要な電力を再生可能エネルギーから供給することができます。また、ITを活用して再生エネルギーからの供給量や農園の温度管理を可視化できるようなシステムを構築することで、効率的に管理することもできるでしょう。

CE1:地域内で廃棄物から製品への循環ループを構築する
現在のように魚の排泄物のみを肥料とするのではなく、住民の日常生活における廃棄物も堆肥化することで、新たな循環を作り出すことができます。

NB1:環境配慮につながる選択肢を提供する
学校に「GVRenting」による屋上農園を設置することで、地域の子どもたちや住民と共に野菜を育てる環境を創り出します。これにより、「GVRenting」はさらに地域社会に深く根ざし、環境問題や循環型の思考を持った人材の育成に貢献できるでしょう。

分析の考察

以上の将来性(ToBe)分析から、「GVRenting」のモデル展開について考察してみます。

①再生可能エネルギーを使用した運用
屋上農園にソーラーパネルを設置することで、農業設備で必要な電力を再生可能エネルギーで賄うことができます。

また、再生可能エネルギーで生産した電力は、農業設備だけではなく入居している住民の電力として使用したり、余剰分はオンラインで販売することも可能です。さらに、ソーラーパネルの影になる部分でキノコの栽培を行うなど、屋上の空間を効率的に活用することもできます。

②コンポストの活用
屋外農場の肥料に関して、住民が日常生活の中で排出する廃棄物を利用して堆肥化する、つまりコンポストを活用するのはいかがでしょうか?

特に、屋上農園でできた野菜の不可食部分をコンポストして、水耕栽培の肥料として活用することで、CSAの農家と消費者の地域コミュニティの循環だけではなく、さらなる循環経済型ビジネスモデルへと発展させることもできます。

③ITを取り入れた効率的な栽培と教育
IT技術を活用することで、エネルギー供給量や給水、温度管理を可視化するシステムを導入し、農作業の効率化を図ることができます。

さらに、教育の観点では、地域の小学校の屋上空間を活用して地域の子どもたちとIT技術を用いた効率的な農業を行うことで、栽培過程を学ぶ機会を提供し食育につなげることができます。さらに、地域の小学生が育てた作物を販売することで、地域のブランディングにも寄与することができます。

このように、IT技術を活用した学びを通じて、地域や環境に貢献する意識も育むことができます。

まとめ

今回ご紹介した、廃棄物の削減と環境への影響を最小限に抑えることを目指した屋上水耕農園による「GVRenting」の取り組みは、いかがでしたでしょうか?
今後、「GVRenting」のような企業が増えることで、都市部における環境問題の改善に期待が持てますね。

メンバーズの「9割の人が知らない循環経済」シリーズでは、今後も最新の事例・アワードを紹介していきます。サーキュラーエコノミーにご興味を持っていただいた皆さま、ぜひお気軽にこちらまでお問い合わせください。

参考記事

ライター情報:宮崎 泉
株式会社メンバーズ CSV本部 脱炭素DX研究所所属
大学では映像メディア学を専攻し、Web構築や動画、音楽制作など、映像に関する幅広いクリエイティブなスキルを実践的に学んだ。また、人間と地球環境について学ぶ中で持続可能な社会の実現に対する関心が高まり、Web構築のスキルを活かして社会に貢献したいと考えるようになった。その思いから、デジタルマーケティングを通じて社会貢献を目指し、メンバーズに入社。
現在は、動画制作やマーケティング支援などの業務を担当し、自分のスキルを活かしながら、持続可能な社会の実現に向けた取り組みを行っている。

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