Scope3とLCAの関係性とは?|脱炭素DX研究所レポート#05
脱炭素DX研究所では、2023年6月に「LCA専門家とともに、日経225のScope1,2,3独自調査から今後の脱炭素経営を考える」と題して、一般社団法人サステナブル経営推進機構(SuMPO)の専門コンサルタントである鶴田氏をお招きしてウェビナーを実施しました。本レポートでは、その内容をもとに、「Scope3とLCAの違いや関係性」に焦点を当てて解説していきます。
Scope3とは?
そもそもScope3とは、原材料調達・製造・物流・販売・廃棄など、一連の流れ全体から発生する温室効果ガス排出量のうち、Scope1(事業者自らによる温室効果ガスの直接排出)とScope2(他社から供給された電気、熱・蒸気の使用に伴う間接排出)以外の間接排出量です。
つまり、自社が排出する温室効果ガスではなく、自社の事業活動にともなって排出されている他社の排出量ということになります。
なぜScope3の削減が重要か?
では、Scope3の削減はなぜ重要なのでしょうか?脱炭素DX研究所が2023年5月に発表した「日経225銘柄企業 スコープ1・2・3独自調査」とその追加調査の結果をもとに考察します。
Scope3の割合が全体の91.72%を占める
日経225企業のうち、Scope1,2,3の内訳が分かる形で開示している企業が172社。その排出量比率を見てみると、Scope3は全体の9割以上を占め、企業の脱炭素経営にはScope3削減が極めて重要であると言えます。
また、Scope3は、このように15のカテゴリーに分けられています。
Scope3を削減するには、そのなかでもどのカテゴリーによる排出量が多いのかを見ていく必要があります。今回は3業種(小売・食品・電気機器)に対して調査してみました。
小売業界の最も多いカテゴリーは、カテゴリー1「購入した製品・サービス」で79%。食品業界はでもカテゴリー1「購入した製品・サービス」が最も多く64%で、カテゴリー12「販売した製品の加工」が13%、カテゴリー4「輸送、配送(上流)」が10%でした。一方、電気機器業界の最も多いカテゴリーは、カテゴリー11「販売した製品の使用」で91%で、カテゴリー1「購入した製品・サービス」は8%でした。
各業種の平均値をもとに算出しているため、企業単位や製品カテゴリ単位での実態と異なる可能性はありますが、原料調達・生産・流通・使用・廃棄とったサプライチェーン上のどこで排出量が多いのかを正確に把握し、削減インパクトをもつ領域の対策を優先的に対応していくことが重要になるといえます。
LCAとは?
では次に、LCAとは何かを見ていきます。LCAとは「ライフサイクル・アセスメント(Life Cycle Asessment)」の略です。ライフサイクルとは、製品の原材料調達から、生産、流通、使用、廃棄に至るまでのプロセスのことです。
Scope3もLCAも、原材料調達や素材生産に該当する上流から、使用や廃棄にあたる下流の領域までを対象とするという意味で似たような概念のため、混同しがちかと思います。そこで、両者の違いをまとめてみました。
言い換えると、Scope3は組織単位のマクロな視点、LCAは製品やサービス単位でのよりミクロな視点。企業がScope3を削減するには、主力製品や主力サービスのLCAを行い、どの製品がどの工程で多くの環境負荷を生んでいるのかを明らかにすることで、ビジネスモデルのリデザインや製品サービスの改良・開発を実行することが大切です。
つまり、LCAによる環境負荷の可視化は、Scope3削減の起点になるとも言えるでしょう。
LCAの必要性を指し示すシグナル
LCAの重要性やScope3削減との関係性は整理できたかと思いますが、本当にLCAは企業経営において必要な取り組みになるのでしょうか?日本の市場や政策にも影響を与えるであろう、欧州の最新動向について最後に少し紹介します。
エコデザイン規則
まず、エコデザイン規則です。欧州で販売されるほとんどのカテゴリー(食品、飼料、医薬品、動物用製品と自動車を除く)に対して適用されるものであり、耐久性、再利用可能性、改良・修理可能性、エネルギー効率性などの各種基本要件および消費者のための情報開示などが義務付けられます。
欧州バッテリー規制
また、バッテリー規則にも注目です。EVバッテリーや産業用充電池を対象にLCAを義務化する動きがあるようです。また、資源循環に関する規制も法案に含まれており、モバイルバッテリーは2023年末までに45%、2030年末までに70%の回収を求めるという内容の法案が審議されています。70%の回収を実現するには回収フェーズをユーザーや回収業者に任せる販売モデルではなく、回収を前提としたビジネスモデルへと転換が必要になるでしょう。
エコスコアの導入
フランスでは2021年8月、「気候変動対策・レジリエンス強化法案」が公布され、製品・食品・交通・住宅などの環境負荷の可視化やその削減がより一層ビジネスセクターに求められるようになります。この政策によって、製品・サービス消費による環境負荷を表示する制度として「エコスコア」や「プラネットスコア」が試験的に導入されるプロジェクトが始まっています。
このように政策が変わりつつあるなか、先行してLCAを進めていくことは企業の競争力向上につながるでしょう。詳細はぜひ、セミナー動画でご覧ください!
まとめ
ここまでScope3とLCAの解説をしてきました。ポイントをおさらいします。
Scope3の削減が脱炭素経営の実現において不可欠。
Scope3のカテゴリー別の分析によって組織単位でのマクロな視点での環境負荷の可視化は可能だが、具体的に環境負荷の削減施策を実行していくためには製品単位での可視化が必要。
Scope3が組織単位でのGHG排出量であるのに対し、LCA(ライフサイクルアセスメント)は、製品単位で、原材料調達から、生産、流通、使用、廃棄に至るまでの環境負荷(GHG排出量のみならず、水消費・土地利用・有害化学物質など)を評価する手法である。
LCAはScope3削減を具体的に落とし込み、ビジネスモデルや製品・サービスのリデザインを行ううえでの起点になる。
欧州ではLCAを義務化する動きも見られ、先行した取り組みは企業競争力になる。
以上、Scope3とLCAの関係性を紐解いてみました。メンバーズでは、Scope3削減に向けて、LCAによる環境負荷の可視化を起点にした様々なサービスをご提供しています。ぜひお気軽にお問い合わせください。
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