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クライメート・ショック下のモノづくりに求められるムーンショット

本記事は、秀逸でユニークなソーシャルグッドな取り組みなどを行う企業・団体のインタビュー記事「SocialGoodCompany」の編集長として、60本以上の記事作成に携わってきた株式会社メンバーズの萩谷 衞厚による連載コラムとなります。

温室効果ガスの削減にむけて、世界中の企業で商品・サービスの在り方が見直されています。今回は、自動車業界からみる日本のモノづくり・現在どのように自動車業界が変革しているのか・更なるイノベーションには何が必要なのかをご紹介します。

実現不可能とされた法規制を乗り越えた日本のモノづくり

欧米や日本において、環境問題と言えば公害対策が主なテーマであった1960年代から70年代当時、公害発生源の自動車をターゲットとして、大気汚染の改善を目的とした規制「マスキー法」が米国で制定されました。

自動車からの窒素酸化物排出を大幅に削減する必要があるマスキー法の順守は、当時の自動車メーカーにとって非常に高いハードルとなっていました。そして、中東戦争に端を発するオイル・ショックやビッグスリーと呼ばれる米国の自動車メーカーの強力なロビー活動により、規制内容は骨抜きとなり、実施も延期となりました。しかし、規制をクリアするために技術を磨き続けたホンダは、新しいエンジンを搭載した新車の販売にこぎつけていました。

そして、マスキー法の延期決定から数カ月後、マスキー法にいち早く対応し、低燃費のCVCCと呼ばれる新技術のエンジンを搭載したのがホンダのシビックでした。当時のオイル・ショックや価値観の多様化といった環境の変化を味方につけ、大ヒット商品となりました。

日本車の高い環境性能や品質は、モノづくりニッポンの代名詞となり、世界での快進撃が始まるきっかけとなった歴史的なトピックスでした。

音楽を持ち歩くという新しい文化を提案したソニーのウォークマン、ノート型PCというジャンルを確立した東芝のDynabook。様々な分野で世界初の冠がつく商品や新しいコンセプトを提供してきたのがかつての日本企業でした。

キーワードはCASE。大変革期の自動車業界

CVCCエンジン搭載のシビック登場から約50年、自動車業界には、100年に一度と言われる大変革期が訪れています。CASE【Connected(IoT化)、Autonomous/Automated(自動化)、Shared(シェアリング)、Electric(電動化)】と呼ばれる4軸をもとに、これまでの移動手段としての在り方を変える新しい技術やサービスを各社が開発しています。

CASE事例① テスラ
CASEの先進事例として、EVの販売台数で世界一を誇るテスラを紹介しましょう。
自動運転などの機能追加をソフトウェアのアップデートで実現するテスラ車。それは、常にネットワークと接続され、アプリやOSまでも自動でアップデートするスマートフォンを思わせます。今では、パーキングブレーキやヘッドライトON/OFFなどのスイッチまでも取り除かれています。
ロボタクシーと呼ばれる完全自動運転車によるシェアリングサービスの導入も発表されました。(テスラジャパン Webサイト MODEL Sより

CASE事例② トヨタ
自動車会社からモビリティカンパニーへ変革していくことを宣言したトヨタは、自動運転、パーソナルモビリティ、ロボット、人工知能(AI)技術など新技術の実証都市「コネクティッド・シティ」を東富士(静岡県裾野市)に設置しています。
そして、移動や物流、物販など多目的に活用できるモビリティサービスを目指したMaaS専用EVとして「e-Palette」を開発し、東京オリンピック・パラリンピックの選手村での運用が検討されています。ソフトウェアのエンジニアやまちづくりのデザイナーたちがクルマを作ればどうなるか、という視点からうまれたことも興味深いポイントです。(トヨタ自動車 Webサイト ニュースリリースより

そして、Electric(電動化)については、2025年のノルウェーを皮切りに、2030年の英国やスウェーデンなど、各国政府によるガソリン車やハイブリッド車の販売規制を様々な国が発表し、ガソリン車からEVへの転換が着々と進んでいます。

ガソリン車からEVへの移行は、これまでのエンジンやマフラー、オイルタンクやラジエターなどの部品が、モーターやバッテリー、インバーターなどの部品に取って代わられることになります。近い将来、従来の自動車会社を頂点とするサプライチェーンは過去のものとなるでしょう。

そして、続々と他自動車メーカーもEVへの転換を進めています。
・ジャガー:2030年までにEV100%
・ボルボ:2030年までにEV100%
・フォード:2030年までにEV100%(EU販売車)
・フォルクスワーゲン:2030年までにEV70車種投入
・GM:2020年代半ばまでにEV30車種投入

国内メーカーでは初めて、ホンダが世界で販売する新車を2040年を目標に、EV、燃料電池車にするという目標を掲げました。また、EV事業は自動車メーカーだけではなく、ソニーやアップルなどの他業種企業による事業参入が報道されています。

垂直統合から水平分業産業へと転換し、サプライヤーやサプライチェーンが一変する自動車業界。
誰もが知る企業やブランドが、スマートフォン事業やバンキングサービスを提供しているように、EVを提供する企業が乱立する時代が到来するかもしれません。脱炭素がきっかけとなり、新しい技術やDXは、産業そのものを変容させルールメーカーの担い手となることでしょう。

クライメート・ショック下のモノづくりに求められるムーンショット

ヘンリー・フォードが、新しい生産方式により、歴史を変えたと言われるT型フォードの販売をスタートしたのは、1908年のこと。彼は、『もし顧客に、彼らの望むものを聞いていたら、彼らは「もっと速い馬が欲しい」と答えていただろう』という名言を残しています。

顧客を理解し、そのニーズに応えることはもちろん重要です。しかし、オイル・ショックならぬ、気候変動が発端となり産業や生活者に求められる社会転換である“クライメート・ショック” 下では、気候変動による制約を源泉とした新たなイノベーションが必要になるでしょう。

自動車業界では、脱炭素社会のなかで、これまでの移動手段としての価値をCASEを通じて変革しようとしています。しかし、将来のカーボンニュートラルの実現には、CASEを超えるムーンショットが求められると言えます。

ちなみに、マスキー法延期決定の直前に米国が主催した自動車メーカーに対する公聴会で、当初の期限通りに法規制をクリアできると回答した自動車メーカーは、ホンダとマツダ(当時の東洋工業)の2社でした。

日本政府は、2050年のカーボンニュートラル宣言に続き、先日の米国主催による気候変動サミットで、2030年の温室効果ガスの削減目標を2013年度比で、46%削減することを表明しました。
自動車業界に限らずあらゆる業界で、日本のモノづくり力と新しい社会や新しいルール下での想像力や構想力、未来を見据えた予見力を用いたムーンショットで、引き上げた削減目標をどう実現するのか?クライメート・ショック下の今こそ、先人たちが示したムーンショットを社会が渇望しています。

なぜ、ムーンショットと言われる大胆で野心的な目標を掲げ取り組む必要があるのか?別の機会に、ユニークなプロジェクトの紹介も含めてお伝えしましょう。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月よりメンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長を務める。

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