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企業が脱炭素に取り組むべき4つの理由

2020年10月、菅首相が2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を表明したことで、日本でも脱炭素社会に向けた動きが本格的にスタートしました。特に2021年に入ってからは、大手企業が続々と脱炭素に向けた投資や取り組みを表明しており、その流れは加速しつつあります。

今回は、なぜ企業にとって脱炭素への取り組みが重要になっているのか?という点について、4つのポイントから見ていきます。

機関投資家の関心

多くの企業にとって、自社への投資を呼び込むことは重要な企業活動の一環ですが、お金の出し手である投資家が脱炭素への関心を高めていることは、重要な背景となっています。

特に、巨額の資金を運用する機関投資家は、2020年頃から脱炭素への投資姿勢を明確化しています。世界最大となる7.4兆ドル(約817兆円)の運用資産を誇るブラックロックは、2020年の年頭所感で「気候変動に関するリスク認識は急速に変化しており、今、金融の仕組みは根本から見直される事を余儀なくされている」と述べました。さらに、2021年はそこから一歩踏み込み、投資先企業に対してカーボンニュートラルを実現する事業戦略やデータを具体的に開示するように求めています。

欧米の金融機関は、毎月のようにカーボンニュートラルへの投資を明らかにしており、2021年に入ってからもゴールドマン・サックス・グループやシティグループ、JPモルガン・チェースなどが投資先の気候リスクを判断したり、石炭産業への融資を停止しています。

同様の動きは日本でも進んでおり、日本の厚生年金と国民年金の積立金を管理・運用している年金積立金管理運用独立行政法人(GPIF)は、2017年からESG指数に連動する投資を進めています。ESGとは環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)の頭文字を指しており、これらを重視・配慮した企業の評価はますます高まっています。

消費者の意識変化

投資家に限らず、消費者による関心の高まりも、企業の脱炭素への取り組みを加速させています。

たとえば三菱商事などが計画し、三菱UFJフィナンシャル・グループ、みずほ銀行、三井住友フィナンシャルグループが融資を行う予定であったベトナムの石炭火力発電所「ブンアン2」については、環境活動家のグレタ・トゥンベリ氏らが見直しを要請し 、2021年2月に三菱商事が後続プロジェクトの「ビンタン3」から撤退を決めました。

2020年11月には、東芝が石炭火力発電所の新規建設から撤退を表明し、 三井物産も2021年1月に撤退を表明するなど 、企業の「石炭火力離れ」は進んでいますが、一方で日本は主要7カ国(G7)で唯一、海外輸出への公的支援を続けています。日本の脱石炭火力への遅れた取り組みは各国から批判を浴びていますが、特に消費者やNPOなどからの批判が高まっています。

近年の消費者における意識変化は、これまでの環境などへの意識の高まりとは一線を画しています。単に「環境や社会に良いことをしよう」という動きから、消費者アクティビズムや従業員アクティビズムといった形で、企業の姿勢・対応に具体的な批判が向けられるようになりはじめました。環境に限らず、ジェンダーや人種差別などの問題に関して、SNSなどで企業への批判が高まり、対応を迫られる場面が増えてきました。

前述したメガバンクのように、企業としてSDGsやESGを掲げていても、石炭火力発電に関する取り組みが進まないことで批判を集めるケースも増えてきており、看板と実態の乖離についても厳しい目が向けられるようになったのです。

炭素税の開始

日本において炭素税の導入が検討されていることも、企業にとって脱炭素の取り組みを加速させる大きな理由となっています。

2021年3月、環境省が排出量に応じて企業に税負担を課す炭素税の本格的な導入検討が報道されました。政府は、二酸化炭素の排出量に応じて、企業や家庭がコスト負担をおこなう「カーボンプライシング」について様々な手段を検討しており、炭素税もその一環です。

日本ではすでに2012年から「地球温暖化対策のための税(温対税)」の名称で導入されていますが、欧州各国では1トン当たり数千円から1万円の税率であるのに対して、日本は289円に留まっています。今回の炭素税の本格導入によって、日本でも規制が強まっていくかが注目されます。

具体的な時期や制度は未定でありながら、今後企業にとっては環境負荷に対して様々な規制が強まっていくことが予想されます。

デジタル化との関係

このように政策的な圧力が加わる中、脱炭素の波がデジタル化と共に押し寄せてくることも、企業に変革を促す理由となるかもしれません。

脱炭素とデジタル化は、異なる課題として認識されることが多いですが、「同一のトピック」だと言われます。両者は、「産業とセクターに構造的変化を強いて、従来のビジネスモデルを根本的に変革するメガトレンド」だからです。両者は、グローバリゼーションや人口動態の変化などと並び、現在私たちの社会が直面する不可逆的な変化であり、対処すべき課題だからです。

脱炭素化を実現するにあたって、デジタル化が必須であること(たとえばカーボンフットプリントの追跡などデータを活用した温室効果ガスのモニタリング)はよく知られていますが、反対にデジタル化の加速によって、社会が脱炭素へとますます舵を切る可能性もあります。たとえば、デジタル化によって製品とサプライチェーンの透明化が加速したり、運送や流通のカーボンフットプリントが明らかになることで、その低炭素化が求められるような変化が指摘されています。

すなわち、これまで製造業として成長を続けてきた企業が、デジタル化やサービス化というビジネスモデルの転換を余儀なくされることで、その過程で脱炭素への動きがますます求められ、加速していく可能性があるのです。企業の成長戦略にとってデジタル化が不可避なものとなっている中、結果的に、ビジネスモデルを転換してソフトウェアへの投資に成功した企業が、脱炭素社会にも整合的だという指摘もあります。

投資家や消費者からの厳しい目線に加えて、経済的なコストの増大やデジタル化との関係を考えれば、脱炭素への流れは不可避だと言えるでしょう。もはや企業にとって、脱炭素はESGやSDGsなどに含まれた個別のトピックではなく、企業戦略に内包して考えるべき課題となっています。

ライター:石田 健
株式会社マイナースタジオを創業後、メンバーズにM&Aで参加。現在は同社を継承した部署で、企業向けにコンテンツ・マーケティングやデジタルにおけるグロース戦略の支援などを担当。

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