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「脱炭素の実現なしに豊かな社会を創ることはできない」イケア・ジャパン:Social Good Company #70

メンバーズでは、2018年よりこれまで、Social Goodな企業や団体などを対象に、社会課題解決型のビジネスや取り組みを紹介するインタビューコンテンツを発信しています。今後は、noteコンテンツとして掲載しますので、よろしくお願いします。

過去のインタビューコンテンツはこちらをご覧ください。
https://blog.members.co.jp/article/tag/social-good-company       また、定期的に発行している冊子のPDF版無料ダウンロードおよび、一部冊子の購入(オンデマンド出版)も可能です。
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1943年、スウェーデンでの創業以来、32ヵ国に465の店舗を展開し、今では誰もが知るホームファニッシングカンパニー「イケア」。人、社会、地球にポジティブな影響をもたらすことを使命として掲げ、気候変動問題などの課題に積極的に取り組んでいます。今回は、イケアのカントリーサステナビリティマネジャーにお話を伺いました。

・地球環境に大きな影響を与えているからこそ、社会にポジティブな影響を与えるチャンスも大きい
・サーキュラーエコノミーへの転換はデジタル技術があってこそ実現できる
・脱炭素社会に向けて制約があるからこそイノベーションが生まれる

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<インタビューにご協力いただいた方>
イケア・ジャパン株式会社 Country Sustainability Manager
マティアス・フレドリクソン 氏

<プロフィール>
2007年にイケア・ジャパン(株)入社。ロジスティックスとファイナンスで部門の責任者を経て、2014年から同社サステナビリティの取り組みをリードしている。

●御社は再生可能エネルギー(以下、再エネ)の導入など、気候変動対策を積極的に進めていますね。

私たちはサステナビリティの戦略として、「ピープル・アンド・プラネット・ポジティブ」を掲げ、イケアがいて良かったという状況をつくりたいと考えています。全世界で排出する温室効果ガスの約0.1%がイケアのバリューチェーン(サプライヤー・お客さまを含む)から発生し、地球環境に大きな影響を与えていますので、気候変動対策を進めるのは当然です。地球環境に大きな影響を与えてしまっているからこそ、社会にポジティブな影響を与えるチャンスも大きいと考えています。

また、全世界で取引される木材の約1%をイケアが占めています。気候変動が進むことにより、木材の使用に影響が出ることになれば、私たちのビジネスにも多大な危機が及ぶことになります。これまでも異常気象により、世界中の多くの店舗が一時的な閉鎖に追い込まれました。地球環境だけではなく、ビジネスへの影響も大きくなっています。こうした背景により、私たちは脱炭素や再エネ導入に積極的に取り組んでいます。

●すでに自らが発電する電力量が電力消費量よりも多いと報道されています。

イケア・ジャパンの親会社であるIngka Groupは、547機の風力タービンや100万枚を超えるソーラーパネルを保有し、1.7GWhの発電量があります。今後も再エネの投資を進めていきます。再エネ電源の拡大は、地球環境にとっても、ビジネスにとっても良いことであると考えています。

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近い将来、私たちは必ず再エネを使うことが求められます。自らが再エネで発電できていれば、手頃な価格での利用が可能になります。また、再エネがもっと広がれば、発電コストも下がることでしょう。コストの低下は、私たちに加えて、サプライヤーの皆さんのビジネスにも有利に働くことになります。

また、私たちは、お客さまや従業員とのコネクションを重要視しています。地球環境を守りたい、気候変動に対して何かアクションを起こしたい、自分が働く会社は社会により影響を与えている、ということを将来の地球環境はもちろん、ブランディングの面からも重要であると考えています。

●メンバーズも、気候変動対策を積極的に進め訴求することは、有効なマーケティング施策でもあることを伝えています。しかし、すべてのお客さまに実行いただくのはなかなか難しいのが現状です。

海外と比べると日本国内の意識はそれほど高くないと言えるでしょう。スウェーデンや欧州の国々には、環境保全を政策のメインに掲げる政党が存在しますが、日本には存在しません。しかし、日本国内でもSDGsが浸透し、2050年のカーボンニュートラル宣言も行われました。サステナビリティも誰もが理解するキーワードとなり、興味関心も高まっています。日本も急激に変わっていると感じています。

私たちはお客さまに対して、サステナブルな取り組みを推奨したいと考えています。また、お客さまだけではなく、社員も含めて、環境への意識を高めるためのアクションをとりたいと考えています。

●サステナブルな取り組みを進める上での社内浸透はどのようなことをしていますか?

社内教育のプログラムの一つに、サステナビリティをテーマとしたプログラムが含まれるeラーニングを提供しています。評価制度にも組み入れられ、社員全員で自分の仕事に関係したサステナビリティに対するアクションプランの設定を行っています。つまり、サステナビリティは社員一人ひとりの仕事の一部となっています。

また、各店舗には、サステナビリティ委員会があり、それぞれの地域やコミュニティで取り組む内容を店舗自らが決定し、進めています。一部の特定部署が進めるだけでは成果は上がりません。すべての社員が少しずつでも関わることにより、大きな成果を上げることができます。

●欧米と比べて、脱炭素化の国内の進捗状況はいかがですか?

イケアは2025年までに、お客さまに商品を届けるラストワンマイルをゼロエミッション車で配送することをコミットメントとしています。日本国内のイケアのゼロエミッション車の占める割合は5%程度ですが、欧米では全体の20~30%、中国では90%を占めています。上海、ニューヨーク、アムステルダムでは、100%を実現しています。

これまでの日本国内での大きな課題は、EVの商用車が存在しないことでした。しかし、私たちと同じように、様々な企業が同じ課題を抱えています。企業のニーズがあれば、自動車メーカーも変わっていくでしょう。JCLP(Japan Climate Leaders’ Partnership:日本気候リーダーズ・パートナーシップ、持続可能な脱炭素社会実現を目指す企業グループ)に参加することにより、同様のミッションを掲げる企業と同じ悩みを共有できていることはとても重要なことです。

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●海外ではDXを活用したモノづくりも積極的に進めています。今後のDXの活用や展望をお聞かせください。

イスラエルでは、「より快適な毎日を、より多くの方々に」という当社のビジョンに沿って、自社の商品などに取り付けることができる補助器具を開発し、誰もが3Dプリンターで作ることができるよう3Dプリントデータのファイルも提供しています。

ガラスの扉がついた家具を保護するためのバンパーや、手に障がいがある方でもドアの開け閉めが簡単になるハンドルなどがあげられます。

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IKEA ThisAbles Webサイトより

また、デジタルの活用ということでは、以前に社内でスマートフォンのアプリを活用し、ゲーミフィケーションでサステナビリティの活動をより促進する取り組みをしました。マイボトルや中古品の利用、再エネ電力会社への切り替えなどをアプリ上に入力し、その活動内容に応じてポイントを獲得するものです。社内でいくつかのチームを作り、ポイント獲得を競い合いました。活動内容によるCO2排出の削減量や節水した量を把握することができました。

サステナビリティの活動というと難しそうですが、小さなことでも継続することの重要性を学ぶことができました。そして、楽しみながらサステナビリティに取り組むことが重要です。

●サーキュラーエコノミーの観点からはいかがでしょうか?

当社では家具の買取りサービスをしています。お客さまは、不要になったイケアの家具を簡単に引き取ってもらうことができます。これまで、不要になった家具はそのほとんどが捨てられていましたが、その家具を必要とする次の人に渡すことできる仕組みを提供しています。

スウェーデンの店舗では、1960年代のイケアの家具が整備され、アンティーク商品として販売されています。これまでのリニアからサーキュラーへのビジネスモデルへの転換を図っていますが、こうした動きは今後さらに重要となるでしょう。マーケットに投入した原材料を取り戻すことができて、その商品のセカンドライフを作ったり、自分のサプライチェーンに組み込むことができます。こうしたことは、デジタル技術があって初めて実現することができます。

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●サーキュラーエコノミーを進めることにより、これまでのビジネスモデルや必要となるスキルも変化が求められます。

これまでの店舗での販売に加え、オンラインでの販売も進み、オムニチャネルの対応を強化しています。パンデミックにより、店舗の役割も商品の販売からオムニチャネル化への支援へとシフトしています。会社にとっても新しい挑戦となりますが、社員のキャリア形成の面でもとても良いことだと考えています。

●ビジネスモデルや業務の転換は、人材の交流が進み組織も活性化されます。

イケアでは以前より、「オープンイケア」という社内公募制度があり、誰もがキャリアを選択し希望する異動先や配属先を決めています。私も以前はロジスティック部署で、フォークリフトのドライバーでした。2015年以降、サステナビリティ部門やファイナンス部門を経て、2年前から現在の部署に所属しています。

●2015年頃と比べて、日本人のサステナビリティへの意識も変わりましたね。

とても良い意味で変化したと思います。その当時、サステナビリティはビジネスとは遠いもので、可能であれば進めるものであると考えられていました。しかし、今、社内ではメインビジネスの一つであると認識されています。

イケアのCEOは、CSO(Chief Sustainability Officer)も兼務していますが、サステナビリティをメインビジネスとして捉えていることの証となります。経営トップから現場に至るまで、サステナビリティは組織に組み込まれています。サステナビリティをビジネスとして取り組むためにはトップの理解は重要ですし、ビジネスの一部にして取り組むことが求められています。

●もはやサステナブルな対応をしない方がリスクとなります。

まさにその通りです。気候変動へのリスクも今後ますます大きくなるでしょう。これからはコンプライアンスや情報開示などの法整備がされていくことでしょう。早めに動かないと後で大きな代償を負うことになります。

90%達成の目標を立てても、大多数の人はできない理由を探して、10%の中に入ろうとします。変わることは痛みを伴うことになりますが、100%達成の目標を掲げれば、どうやって解決するのかに全力を注ぐことができます。つまり、野心的なゴールを定めることはとても重要です。制約がなければ簡単な方法を選ぶでしょう。制約があるからこそイノベーションが生まれると信じています。

●当社では、サステナビリティをデジタルコミュニケーションにより支援するケースが増えています。一方で、企業にとっては、グリーンウオッシュ、SDGsウオッシュのリスクに晒されることになります。ウオッシュに対して、どのようなことに配慮していますか?

私たちが重視しているのは、第三者とのコネクションです。原材料の木材であれば、環境NGOのWWFや認証機関のFSCとの関係性を重視しています。また、JCLPやRE100など信頼性の高い組織に参加しています。自らの情報発信も重要ですが、外部との連携をとても重視しています。信頼性の高い対応なしに、第三者の認証や組織に加盟することはできないからです。

●将来のカーボンニュートラル社会に向けてメッセージをお願いします。

脱炭素を実現するには、イノベーションが必要です。そして、誰もが取り組む必要があるのが脱炭素です。また、脱炭素の取り組みは、国や企業の競争力につながっていると考えています。日本から世界に素晴らしい商品やサービスをこれからも提供するには、脱炭素を実現する必要があります。脱炭素の実現なしに豊かな社会を作ることはできません。みんなで力を合わせれば必ず実現できるでしょう。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月よりメンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長を務める。

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