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「アースデイはイベントではなく”地球のことを考える日”」谷崎テトラ氏インタビュー

4月22日は「アースデイ(地球の日)」。”地球のことを考えて行動する日”として、世界中で環境活動が行われ、アースデイに合わせた取り組みを行う企業も多くあります。日本国内では「アースデイ東京」をはじめとして、全国各地で環境イベントが行われています。
今回は、アースデイ東京の立ち上げ人であり、様々な環境活動に取り組む谷崎 テトラ氏に、アースデイの成り立ちや、時代とともに移り行く市民や企業の環境に対する意識、社会の変化についてお話を伺いました。

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谷崎 テトラ氏
アースデイジャパンネットワーク共同代表、放送作家、一般社団法人ワールドシフト・ネットワーク・ジャパン代表理事、京都造形芸術大学 客員教授 ほか。
環境・平和・社会貢献・フェアトレードなどをテーマとしたTV、ラジオ、Web番組、出版、イベントの企画・構成を通じて、新しい価値観(パラダイムシフト)や、持続可能な社会への転換(ワールドシフト)の発信者&キュレーターとして活動。


テトラさんは環境問題に対し多方面で積極的に活動されていますが、始めたきっかけは何でしたか?

30年前からテレビやラジオの放送作家をしていて、エンタメ番組やお笑い番組などを作っていたのですが、1995年に取材の一環でインド・アフリカ・南米アマゾンなど世界を旅した経験が大きなきっかけでした。インドで貧困層の姿を見たり、アフリカで環境破壊の現場を見たり、先住民の伝統的な暮らしが脅かされていることを目の当たりにしました。その時に東京へ帰る飛行機の中で、今後もいままでと同じようなテレビ番組を作るような気持ちになれず、いま自分が感じたことを番組にしていきたいと思い、そこから環境番組を作ろうと考えました。
その後、1997年に、京都議定書が採択された地球温暖化防止京都会議(COP3)について取材する機会がありました。その当時、市民の間では地球温暖化についてほとんど知られておらず、私自身も環境運動に関わったことがなかったのですが、その取材ではじめて気候変動問題について調べていくうちに、これはとんでもないことだと気づいたのです。ただ地球が暖かくなって気温が上がるという話ではなく、食糧問題、生物多様性の問題、モノをつくる産業構造の問題など、いろいろな問題が重なっていて、想像以上に危機的な状況だということが分かりました。そこから25年間、地球環境系の番組を立ち上げたり、構成を考える仕事をするようになりました。

番組づくりからアースデイ東京などの立ち上げへと発展されたのですね。

環境番組を作るうえで最初は何も知らなかったので、環境問題や気候変動の研究をしている学者の方にお話を伺ったり、環境活動を実践しているNGOやNPOの活動を取材することから始めました。次第にただメディアとして伝えるだけでなく、自分自身も活動そのものにコミットしていかなければいけないと感じるようになりました。そこで、それまで自分がやってきた仕事と重なる領域で考えたときに、いかに多くの人にこの問題を伝え、関心を持ってもらえるかが重要だと思ったのです。そして、誰もが環境問題について考えるきっかけを持つ最初の一歩のイベントとして、2001年にアースデイ東京を立ち上げました。それまでもNGOやNPOがアースデイの日に様々な活動を行っていましたが、アーティストや学生、企業など、市民の誰もが参加できるイベントが必要だと考えたのです。

実はアースデイ東京の立ち上げ以前にも、1997年にCOP3が京都で行われた際に、地球環境問題についてみんなで考え、誰もが参加できる「レインボーパレード」をいくつかの環境団体とともに開催しました。その当時は野外フェスティバルの文化が生まれてきた時期でもあり、森やビーチなど自然の中でライブ活動が行われるうちに、アーティスト側が環境に目を向け始めるようになっていました。ライブで太陽光パネルを使ったらどうか、フェスで出るごみはどうしようなど、アーティスト達が環境に関心を持ち始めるタイミングだったわけです。そういった時代背景から、市民パレードとアーティストの参加を掛け合わせたレインボーパレードの企画に至りました。のちにその時のメンバーを含む様々な有志が集まり、アースデイ東京立ち上げが実現したのです。

それまでは環境問題というと公害のイメージが強く、反対運動や市民運動では企業が敵として見られることが多かったと思います。市民と企業は対立の図式になっていました。しかし、気候変動問題は、私たち全員がCO2を出しているわけなので、誰もが加害者であり被害者であり、私たち自身が生活を変えていかなければいけない問題です。だからこそ、環境活動家や専門家だけでなく、企業やメディア、アーティスト、市民が一体となって取り組むことが必要で、そういう場としてアースデイ東京を立ち上げました。

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日本企業の環境への取り組みについては、どうご覧になっていますか?

アースデイ東京を立ち上げた2001年の段階では、まだ企業が環境に対してアクションすることは稀で、正直とても少なかったですね。一方で「CSR」が言葉として徐々に広まってきた時期だったので、環境に貢献することが企業の役割として求められ始め、先進的な企業は取り組んでいたと思います。
決定的に変化があったのはここ5年ではないでしょうか、「SDGs」という言葉が出てくるようになってからですね。むしろ、SDGsが広まってからは経団連が旗を振っている状態ですから、企業もやらざるを得ない状況にあります。しかし、ここ最近はSDGsへの取り組みを免罪符にしているSDGsウォッシュの企業も目立ってきている印象です。ウォッシュと言われることは企業にとって大きなダメージとなるので、本気で取り組まなければいけない。また、投資家によるESG投資やダイベストメントの動きなど経済の仕組みそのものも変わってきているので、環境問題に取り組んでいる企業はどこか?というより、取り組んでいない企業はどこか?という時代が来ていますよね。環境問題に取り組むことはむしろ当たり前とされていて、そうでないとマーケットには入れないというところまで来ていると思います。

やはり海外のほうがより投資家や生活者から厳しい目で見られていることは確かです。環境に配慮していない企業は市場から締め出されてしまいますし、生き残っていけないはずです。
私が2012年にリオデジャネイロで行われた国連・地球サミット(RIO+20)に参加した際、そこで初めてSDGsについての議論がされたのですが、その議論には環境団体だけでなく、先駆的な企業が全面的に入り込んでいました。地球にいいことをしているという免罪符として環境問題に取り組む日本企業に対し、環境に対するレギュレーションづくりから参画しコミットしている海外企業の存在がある。その光景に当時の私は衝撃を受けたことを憶えています。そういった企業が新しい技術を用いて新たな市場を開拓し、見事に世の中が変わっていきました。つまり、先進的な企業が新しいマーケットに飛びついているわけではなく、企業自身が新しいエコマーケットを作り出しているのです。一方でそこに後から飛びついた日本企業は、新しい市場に入ることが難しいと思います。四半期ベースの売上や短期的な利益を重視している企業は、残念ながら今後5年10年の間に市場から消えてしまうでしょう。企業には、新しいマーケットを作り出すことが求められます。地球環境や人権に配慮して社会益を明確に打ち出し、実態が伴う企業が生き残っていくと思います。

ここまで世の中の動きが変わってきたのは、地球に生きる私たち人類の意識変革が大きいですね。

1968年12月24日に、アポロ8号の宇宙飛行士が、月から昇る地球の姿「アースライズ(地球の出)」を撮影したのをご存知でしょうか。この写真が、人類が初めて見た地球の姿です。いまでこそ地球は青くて丸いと誰もが知っていますが、その姿を人類が認識したのは、たった50年ほど前のことなのです。

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「アースライズ(地球の出)」1968年12月24日 NASAアポロ8号乗組員 撮影

その時の宇宙飛行士たちはこう言っています。「我々は月に来ようと頑張ってきたけれど、本当の目的はここに来て地球のことを振り返ることだった」と。そして、この写真が20世紀最大の人類へのクリスマスプレゼントとなり、世界中の新聞や雑誌の表紙を飾りました。ここで初めて、人類は地球という惑星に住んでいる1つの種族だということを実感し、地球上の限りある資源を分かち合っていかなければいけないことに気づいたわけですね。
このアースライズから15ヵ月後、1970年にアメリカで誕生したのが、「アースデイ(地球の日)」です。地球の姿を見て何か感じた人々、特に若い世代が自分たちの住む地球に対して行動しようと考えたことが始まりでした。母の日や父の日と同じように、地球のことを考える日として、当時アメリカの上院議員であったゲイロード・ネルソンが、4月22日をアースデイとしました。そしてスタンフォード大学の1人の学生を中心に全米へと広がり、現在では世界190カ国以上の人が関わる環境アクションへと成長しました。アメリカではアースデイがきっかけで「環境庁」が生まれ、「環境法」の整備のきっかけとなるほどでした。

つまり、今から50年以上前の社会は、地球を見たことのない人たちが作った仕組みだといえます。アースライズやアースデイをきっかけとして人々の地球に対する意識が変わり、ようやくそういった人たちの考えが社会の中に実装されてきたのは、ここ50年の話なのです。

初めて人類が地球の姿を見たことで生まれたアースデイ。当時の人々の想いをこれからも繋いでいきたいですね。

いまやアースデイ東京は日本最大規模の環境イベントへと成長しました。それゆえに、アースデイというのはイベントに参加する日だと捉えられる節もあるのですが、そうではありません。一人ひとりが地球のことを考え、自分たちが作りたい世界のために行動を起こし実践する、1つの文化運動なのです。
森の中で過ごすもよし、環境にまつわる映画や書籍など文化作品に触れるもよし、もちろんイベントに参加してアクションするもよし。一人ひとりがそれぞれの形で良いので、地球のことを考える1日にしてもらいたいと思います。

ライター:山崎 こころ
2018年にメンバーズへ新卒入社。EMCカンパニーの広報・マーケティング担当として、メルマガや自社サイトなどを通じメンバーズの取り組み・サービスを発信中!

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