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地球温暖化対策推進法が改正、わかりやすく解説!企業にも◯◯な変化が

先月26日、参議院本会議において地球温暖化対策推進法が成立しました。2050年までの脱炭素社会、いわゆるカーボンニュートラルの実現が明記され、国や自治体、国民の連携が求められることとなりました。

具体的にどのような内容が決まり、これから企業にはどのような取り組みが求められるのでしょうか?

背景は?

地球温暖化対策推進法は「地球温暖化対策の推進に関する法律」の通称であり、1998年に成立しました。97年に京都議定書が採択されたことを受けて、国内における対策の枠組みが定められたことが始まりです。

その後、時代状況に合わせて6度の改正がおこなわれ、たとえば京都議定書で定められた温室効果ガスの「90年度基準での6%削減」を実現するための指針などが明記されており、今回はパリ協定や2050年までのカーボンニュートラル宣言などを踏まえて、7度目の改正となります。

これまで上記の6%以外、温室効果ガスの具体的な削減目標が掲げられることは殆どなかったため、今回の改正によってカーボンニュートラルが明記されたことが法律上の大きな変化と言えます。

では、具体的に今回の改正によって変更された箇所を見ていきましょう。

改正法の中身

今回の改正法のポイントは、大きく以下の3つにまとめられます。

①パリ協定・2050年カーボンニュートラル宣言などを踏まえた基本理念の新設
②地域の再エネを活用した脱炭素化を促進する事業を推進するための計画・認定制度の創設
③脱炭素経営の促進に向けた企業の排出量情報のデジタル化・オープンデータ化の推進

まず1つ目については、前述した通りパリ協定やカーボンニュートラル宣言を踏まえた基本理念の新設です。

その背景には、前回改正された2016年から、地球温暖化対策やカーボンニュートラルに関する国際的な動向が大きく変化したことが挙げられます。

2016年にパリ協定が発効されてから、2018年に「気候変動に関する政府間パネル(IPCC)」が、気温上昇を1.5度に抑えるべきとする報告書を公表したことなど、国や企業を問わず、気候変動への危機感が大きく高まりました。2050年までのカーボンニュートラルを宣言する国も増えた他、企業の動きとしても、世界最大の資産運用企業であるブラックロックが投資先にカーボンニュートラルを求めるなど、国際的な取り組みが次々と進んでいます。

こうした動向を受けて、菅首相は2050年までのカーボンニュートラルを宣言しましたが、今回の改正によってその宣言に法的根拠が与えられました。政権や与党が変わったとしても、脱炭素社会に向けた取り組みを進める義務が生まれたわけです。

2つ目については、自治体に関連する具体的な取り組みで、その中身は大きく2つのポイントに分かれます。

1つは、地方自治体が再生可能エネルギーの導入目標を開示するように義務付けられたことです。これにより、都道府県には再エネの導入や事業者・住民による温室効果ガスの削減活動の促進などについて、目標を立てて開示することが求められます。これまでの法律では、実施目標の設定は求められていませんでしたが、今回の改正によって義務化されました。

もう1つは、自治体が「促進区域」の設定に努めることです。「促進区域」では、太陽光発電や風力発電など再エネの事業者に対して、許認可手続きのワンストップ化や環境影響評価(環境アセスメント)が簡略化されるメリットなどが与えられます。

自治体は「促進区域」を制定する努力が求められ、再エネ事業について経済合理性や地域の環境への影響などを分析した上で、地域住民の合意を図っていく必要があります。

地域住民との合意については、過去に「再エネ施設の建設を巡って、地域の環境や景観、防災への影響を懸念する地元住民と事業者とのトラブルが頻発」したことで「普及を阻む大きな要因」となった背景があります。そのため、災害時の電力供給による地域へのメリットや自治体の関与を通じたトラブル回避を目指して、地域の理解を踏まえた円滑な事業運営をおこなうための制度が整備されたわけです。

そして3つ目については、企業に求められる取り組みです。以下で具体的に見ていきましょう。

企業に求められる取り込みは?

企業に求められる変化としては、温室効果ガスの排出量に関するデータのデジタル化・オープン化が挙げられます

これまで温室効果ガスを一定量排出する企業は、国に対して事業所ごとの排出量を提出してきましたが、開示請求がない限り情報開示の必要はありませんでした。これを閲覧可能な形で公表していくことで、企業の排出量が可視化され、削減を促進することが狙いです。

排出量の公表は、「ESG(環境・社会・企業統治)の観点で投融資先を選ぶ目安になる」ため、「脱炭素の取り組みは資金調達に影響し、企業の経営課題の一つ」となっています。

今後ますます企業にとっては、自社の温室効果ガスの排出について透明性が求められていくと予想されますが、デジタル化が国を挙げて推進される中で、その端緒となる取り組みだと言えるでしょう。

今後の課題

一方、今回の改正によって気候変動についての日本の対策が全て定まったわけではありません。具体的には、2050年までの詳細なロードマップや電源構成などは未定です。

2050年のカーボンニュートラルを前にして、日本は2030年度までに「2013年度比で温室効果ガスを46%削減」という目標を掲げています。この高い目標を実現するためには、業種やセクターなどで、どのように温室効果ガスを削減していくかのロードマップが必要となります。また石炭火力発電や原子力発電、再生可能エネルギーをどのような比率で活用するかという電源構成についても、国の指針である『エネルギー基本計画』が今年の夏に更新されるまで、不透明な点が多くあります。

こうした具体的な指針が見えなければ、企業のカーボンニュートラルへの取り組みについても、中長期的な計画が立てづらい側面はあります。具体的に言えば、再生可能エネルギーの調達比率や具体的な削減目標、中長期の経営戦略やSDGsに関する指針との整合性を取るためには、今後の国や経済産業省の動向を注視しなければならないということです。

カーボンニュートラルに法的根拠が与えられたことで、気候変動問題はいまや日本の国家戦略の柱となりました。野心的な温室効果ガスの削減目標を達成できるかは、今回改正された地球温暖化対策推進法を起点として、政府や企業そして市民一人一人が実行可能なアクションへと落とし込めるかに掛かっていると言えるでしょう。

ライター:石田 健
株式会社マイナースタジオを創業後、メンバーズにM&Aで参加。現在は同社を継承した部署で、企業向けにコンテンツ・マーケティングやデジタルにおけるグロース戦略の支援などを担当。

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