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5分でわかる!IPCCによる最新報告書の内容

8月9日、国連の気候変動に関する政府間パネル(IPCC)が第6次報告書を発表しました。IPCCの報告書は、産業革命前に比べた気温上昇を1.5度までに抑えることを求めた『1.5 °C特別報告書』など、各国の政策に多大な影響を与えてきました。

今回、2014年の第5次報告書から7年が経過する中、最新の報告書が公開されました。すでに各国が2050年前後のカーボンニュートラルに向けて目標設定をおこなうなど、気候変動への危機感が国際的に共有されている中、今回の報告書にはどのような内容が記されていたのでしょうか?

「人間の影響は疑う余地がない」

まず、同報告書については、政策決定者向け要約(SPM)の日本語版が経済産業省および気象庁のサイトなどで公開されています。報告書自体を読むのは少し大変ですが、日本語でポイントを概観したい方は、ぜひそれらをご覧ください。

その上で、今回の報告書における最も大きなポイントは「人間の影響が大気、海洋及び陸域を温暖化させてきたことには疑う余地がない」ことでしょう。すでに多くの報道がされていますが、前回の報告書では「人間の影響が、20世紀半ば以降に観測された温暖化の支配的な要因であった可能性が極めて高い」とされ、前々回は「可能性が非常に高い」だった表現が、断定的な表現に書き換わりました。

従来の報告書から大きな方向性の変更があったわけではないものの、研究が進んだことで「論点が精緻になった」と評されています温暖化の原因が人間の活動であることが断言され、改めて気温上昇を1.5度および2度まで抑える必要が強調されたと言えるでしょう。

では、本報告書の内容を参照しながら、気候変動の現状・将来のシナリオ・私たちがやるべきことの3つに絞って見ていきましょう。

気候変動の現状

気候変動の現状については、「大気、海洋、雪氷圏及び生物圏において、広範囲かつ急速な変化が現れている」と記されています。

今年も、ギリシャやトルコなどでの記録的な熱波や山火事米・カリフォルニア州での史上2番目の規模となる現在進行形の山火事など、気候変動との関係が疑われる自然災害が頻発しています。科学者たちは、気候変動と山火事の頻発の因果関係について慎重に見極めており、両者の関係性を示唆する研究は増加しています。報告書の中にも「熱波、大雨、干ばつ、熱帯低気圧のような極端現象」について、「人間の影響」だと考えられる証拠が「強化されている」と明示されています。

将来的なシナリオ

では、気候変動の将来はどのように予想されているのでしょうか?残念なことに、報告書にはどのようなシナリオであったとしても、世界平均気温は「少なくとも今世紀半ばまでは上昇を続ける」と記されています。

その上で「向こう数十年の間に二酸化炭素及びその他の温室効果ガスの排出が大幅に減少しない限り、21世紀中に、地球温暖化は1.5℃及び2℃を超える」とされており、逆に「排出の大幅な減少」を実現できるかが鍵になります。そして、気候変動の進行によって以下のような変化が予想されています。

・極端な高温
・海洋熱波
・大雨
・大雨の頻度と強度の増加
・いくつかの地域における農業及び生態学的干ばつの増加
・強い熱帯低気圧の割合の増加
・北極域の海氷、積雪及び永久凍土の縮小

日本でも、今年から気象庁が「線状降水帯」の発生を知らせるなど、大雨の警戒が高まっています。実際、今年8月は記録的な雨量となるなど、過去数年間にわたって大雨による被害が目立っています。すでに起こっている高温や熱波、大雨などが今後も増えていくことを考えると、直接的な被害に限らず、農業やインフラ、観光、ライフラインなど幅広い分野で壊滅的な影響が生じることが予想されます。

私たちがやるべきこと

では、こうした悲観的な未来を避けるために、わたしたちは何をする必要があるのでしょうか?報告書は「CO2の累積排出量を制限し、少なくともCO2正味ゼロ排出を達成し、他の温室効果ガスも大幅に削減する必要がある」と述べています。

この報告書は「自然科学的見地」にもとづく内容のため、政策的な示唆などは示されていませんが、各国が目指すカーボンニュートラルは最低限のラインであることが分かります。カーボンニュートラルの達成は、現状のライフスタイルやエネルギー構成などを大きく転換させる必要があるため、私たち一人ひとりが生活などを見直していく必要もあるでしょう。

また報告書では、世界全体でカーボンニュートラルが達成された場合、世界の平均気温の上昇は徐々に下降するものの、たとえば世界の平均海面水位が下降に転じるには「数世紀から数千年かかる」という予想もおこなっています。すなわち、一時的にCO2の排出を抑えても意味がなく、産業構造を抜本的に変化させる必要があると言えます。

脱炭素に向けた国際的な足並みは揃っているものの、日本国内でも、カーボンニュートラルに向けて再生可能エネルギーの割合を増やしていく動きに対して、電力の安定供給の面から懸念が出るなど、まだまだ実現可能性について多くのハードルや不安が残っています。今回の報告書は、こうした点を乗り越え、各国そして市民一人ひとりが問題を真剣に受け止めるように促す、IPCCからの強い科学的なメッセージだったと言えるでしょう。

ライター:石田 健
株式会社マイナースタジオを創業後、メンバーズにM&Aで参加。現在は同社を継承した部署で、企業向けにコンテンツ・マーケティングやデジタルにおけるグロース戦略の支援などを担当。

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