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なぜ今、LCA(ライフサイクルアセスメント)が重要なのか?|脱炭素DX研究所レポート#12

メンバーズ脱炭素DX研究所メンバーがさまざまな専門家や実践者と対談し、これからの企業経営やビジネスのあり方を探究していくシリーズ企画。

京都大学・諸富教授との対談に続き、第2回となる今回は、ライフサイクルアセスメント(Life Cycle Assement:以下LCA)のエキスパート「株式会社フルハシ環境総合研究所」代表取締役所長の浅井さんに、そもそもLCAとは何か、なぜ近年注目を集めているのか、お話をうかがいました。

語る人 ≫ ※文中敬称略
● 浅井豊司氏 (株式会社フルハシ環境総合研究所代表取締役所長)
名古屋工業大学大学院産業戦略工学専攻修士課程修了。
2011年より現職。専門は、環境ビジネス構築、CSRコンサルティング、環境教育、LCA・MFCAほか。
東京都新宿区、愛知県、名古屋市等、行政主催の講演会・研修での講師、ファシリテーターの実績多数。

● 我有才怜
2017年メンバーズ新卒入社。2023年4月より脱炭素DX研究所所長に就任。
「Climate Creative」や日本気候リーダーズ・パートナーシップ(JCLP)での広報プロジェクトなどを推進。サステナブルWEBデザインラボや循環経済ラボでも活動中。

ライフサイクルアセスメント(LCA)とは?

我有:今回はLCA基礎編ということで、まずそもそもLCAとは一体何なのか、簡単に解説いただけますか。

浅井:LCAとは、ライフサイクルアセスメントの略で、製品やサービスのライフサイクル全体(原材料の調達〜生産〜流通〜利用〜廃棄)における環境負荷を定量的に評価する手法です。

脱炭素社会への移行において注目されている「電気自動車」を例に解説いたします。

電気自動車は、走行中は排気ガスやCO2を排出しません。しかし、それだけではガソリン車より環境に良いとは断言できないのです。本当にガソリン車よりも環境に良いかはライフサイクル全体で考えていく必要があります。たとえば、動力となる電気がどこでどのように作られているのか、などです。

こちらのスライドをご覧ください。

これからは製品の一生(ライフサイクル)を通じた評価が必要

仮に、再生可能エネルギー100%で作られている電力が動力として用いられているのであれば、走行中のCO2排出量もゼロと見なすことができますが、今の日本や世界の電源構成を考えると、残念ながらそうではありません。

バッテリーの充電に用いられる電力が、石炭、石油などの化石燃料由来の電力である限りは、電気自動車もCO2を排出しながら走っていることと同義になります。

また、電気自動車はバッテリーを積む必要があるなど、ガソリン車と部品が異なるため、資源の採掘から輸送まですべて定量的に評価をしないと正しい比較はできません。当然、使い終わった後の廃棄やリサイクルについても同様に検討する必要があります。

また、LCAは、温室効果ガスを原因とする地球温暖化への影響だけではなく、酸性化や資源枯渇など、いろいろな観点で評価をするところに特徴があります。たとえば、リチウムは枯渇性の高い資源ですから、リチウムイオン電池を電気自動車に積んだとすれば、資源の観点でも環境評価をする必要があるでしょう。

つまり、LCAは環境への負荷を可視化するという点に狙いがあるのです。そして、可視化の先も重要です。どのライフサイクルの環境負荷が大きいのか、部品やサプライチェーンの見直しでどれくらいの環境負荷を削減できるのか、環境負荷改善のための「ものさし」として用いることができるなど、これからの脱炭素経営に非常に有効な手法であると思います。

我有:「きっと環境にやさしいだろう」という曖昧なイメージで商品開発を進めたり、顧客に対してコミュニケーションを取ってしまいそうですが、LCAの手法を用いて企業が科学的なエビデンスをもって事業判断をしていくことは重要ですね。

浅井:そうですね。LCAはグリーンウォッシュを予防するためのツールにもなると思います。

LCAが求められている背景

我有:LCA自体は数十年前から実践されていると思いますが、ここ数年で改めて着目されてきているように感じます。どのような背景があるのでしょうか?

浅井:こちらの資料にあるように、今は「2050年カーボンニュートラル」が社会全体の目標になっており、それに向けて「2030年CO2約半減」が1つの目安になっています。しかし、個人や企業の各々の努力だけで推し進めていくには難しいのが事実です。そのため、カーボンニュートラルに貢献できるような製品やサービスが社会全体にとって求められているのです。

C02排出削減経路の図

技術革新を遂げた製品やサービスが普及していかないと、社会全体でのカーボンニュートラルの達成は当然難しくなってきます。カーボンニュートラル時代に適応した製品を作るために、LCAが重要なツールとして機能し始めていると考えられます。

我有:たしかに、各企業でもカーボンニュートラル宣言を掲げ、スコープ1,2,3といった組織単位の温室効果ガス排出量の算出や削減の取り組みが加速していますが、事業を支える主力製品やサービス単位で算出・削減していかないと、自社やサプライチェーンの排出量をニュートラルにするための打ち手が定まらないですよね。

浅井:おっしゃる通りです。

LCAとスコープ3の違い

我有:組織のカーボンニュートラルと製品のカーボンニュートラルの話が少し出ましたが、スコープ3とLCAはどちらもサプライチェーンという意味で、とても似ているので混同されがちだと思います。スコープ3とLCAはどのような違いがあるのでしょうか。

スコープ3について詳しく解説した記事はこちら

浅井:はい。こちらのスライドをご覧ください。

LCAとSCOPEを比較した画像

LCAにしても、スコープ3にしても、現状把握のためのツールである、つまり「ものさし」であることは共通しています。違いはこの単位にあり、製品単位のものがLCA、組織単位のものがScopeという枠組みになっています。

また、LCAはISO(国際標準化機構)が規格を作っている一方、Scope1,2,3はGHGプロトコルがガイドラインとなっています。規格の発行元が違い、それぞれの特徴があるため、計算の手法も多少異なってきます。

LCA算出結果の活用については、資源や包装の減量化などの「環境配慮設計」に有効だと思います。環境配慮設計の前後で、どの程度LCAの評価が変わるかを可視化していくことが重要です。

一方でスコープ3は、サプライチェーン全体のCO2の排出量の可視化のため、ボリューム感としては、LCAに比べて圧倒的にスコープ3の方が多くなるわけですが、サプライチェーン上で具体的に何に取り組むべきかを可視化をする必要があります。

スコープ3算定の結果は、製品を通じた省エネや創エネ、あるいは再エネ調達、電化を推進するべきかといった議論材料になったり、サプライチェーンマネジメント、つまり材料メーカーや部品メーカーに排出量の削減を要請をしていくというケースも考えられます。

最近では「CO2の削減を〜%お願いしますね」というように、大手メーカーからサプライヤーに要請をかけるケースが増えてきています。同時に、部品や材料1個あたりのCO2の排出量を報告するように求められるケースも増えています。

そのため、混同しがちですが、LCAを基軸とした要求とスコープ3を基軸とした要求は今、両方の軸で社会全体に波紋が広がっていると言えると思います。

我有:ありがとうございます。両軸が必要ということですね。

組織の担当部門という観点でいうと、LCAは事業部や製品部門に直結する内容で、スコープ3はコーポレート部門やサステナビリティ部門に関連してくると思ったのですが、浅井さまは、組織の中での推進体制についてお考えはありますか。

浅井:最近はカーボンニュートラルの実現のために、サステナビリティ推進部やカーボンニュートラル推進室といった特設の部門が対応している企業も増えてきています。

生産、営業、輸送と、どの部門をとってもカーボンニュートラルへの取り組みが必須ですし、会社全体としての目標を立てている限り、そこに向けて各事業部門が取り組んでいかなければならないのは、もう当然のことです。

ではなぜ特設の部門を作る必要があるかというと、カーボンニュートラルに取り組むことが必須であるという社内文化を作っていくということと、各事業部がすべきことを横串で推進するためのセクションが必要になってくるからです。

各部門、もしくは経営企画部門がLCAをするケースもあれば、事業部で研究開発や設計の担当者がLCAをするケースもあります。部門は各会社によって異なるにせよ、全社的に推進していく必要があります。

我有:そうですね。LCAを部門の垣根を超えて行うことで新しいイノベーションの起点が生まれるのかと感じています。

LCAの進め方

我有:では、LCAはどのようなプロセスで進んでいくのでしょうか?

浅井:LCAを進めていく手順は、ISO14040で規格化されております。

4つのフェーズに分かれており、最初が「目的と調査範囲の設定」です。社内用の簡易的な算定でいいのか、外部に公表するための精緻な数字が必要なのか、といったように、目的に合わせてどの程度詳細にLCAを行うのかを設定します。

その次に「インベントリ分析」を行います。ひとつ前のフェーズで定めた目的と調査範囲に従って、対象となるライフサイクルにおいてインプットされる資源やエネルギー、そしてアウトプットされる製品や排出物、廃棄物に関するデータを収集し、整理するという工程です。

そして、第3のフェーズとして「インパクト評価」を行います。調査対象の製品やサービスが、地球温暖化やオゾン層破壊などにどの程度の影響があるのか評価します。インベントリ分析では多数の物質で示されますが、その環境影響を理解しやすい情報としてまとめる工程です。たとえば、地球温暖化の原因となる温室効果ガスは、CO2のほかメタンや一酸化二窒素、フロンなど多数の物質があるので、インパクト評価の工程を経て、それら多数の物質の気候変動への影響をまとめて示せるようにします。

先ほど申し上げたように、この過程で対象にする環境影響が、地球温暖化だけではなく、酸性化や生物多様性、人体への影響、資源枯渇などさまざまであることもLCAの特徴の1つです。

最後に「解釈」です。それまでの計算の結果を精査し、結論として言えることを明確にします。この4つのフェーズは一直線、一方向ではなく、反復しながら行うことも重要です。

我有:おそらくすべての工程を通して、さまざまなところからデータを集めることが必要になると思うので、やはり最初の目的設定や、何のためにLCAを行うのかをはっきりさせておくことがとても重要ですよね。

そういったプロセスを進めていくにあたり、企業ではいろいろなハードルを感じていると思います。浅井さん、また次回お話を聞かせてください!

ここまでありがとうございました。


今回はLCAの必要性やその背景、実施のプロセスについて見てきました。しかし、いざ実行しようとすると、データ収集をはじめさまざまなハードルがあるでしょう。次回は「LCAあるある」と題して、LCAにおける企業の課題を見ていきます。

第2回をお楽しみに!

株式会社フルハシ環境総合研究所さま
2001年創業。「環境」をテーマとし、サステナビリティの伴走支援サービスを提供するコンサルティング会社。LCAのほかにも、環境経営、環境教育、資源効率化、CSRレポーティングなど、企業や行政の環境活動や環境政策を多数支援。

動画版はこちら

ライター情報:田邊慶太朗
武蔵野大学 文学部日本文学文化学科卒。大学時代はオウンドメディアを運営する企業のインターンに参加し、主にSDGsを取り扱うWEBマガジンの記事執筆や企画運営に携わった。2023年春にメンバーズに入社し、現在はnoteの運営に携わっている。

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