企業にとって見逃せない脱炭素・DXのトレンドとは?
国際社会が気候変動問題への取り組みを推進する中、日本政府は2021年1月に「第6期科学技術・イノベーション基本計画」の素案を公表しました。この中では、脱炭素社会やデジタルトランスフォーメーション(DX)の実現が重要な課題として取り上げられています。企業も、社会や消費者を通じて、この問題に対応を迫られつつあります。
では、気候変動問題が企業経営に影響を及ぼす中、見逃せない脱炭素・DXのトレンドにはどのようなものがあるのでしょうか。
産業競争力強化法の改正
具体的な政府の施策としてもっとも重要なのは、産業競争力強化法の改正です。2021年2月5日、「産業競争力強化法等の一部を改正する等の法律案」が閣議決定されました。ポストコロナに向けた「グリーン社会」への転換、「デジタル化」への対応、「新たな日常」に向けた事業再構築、そして中小企業の足腰強化等の促進を目的に、規制緩和や税制改革が目指されています。
まず規制緩和についてですが、注目すべきは新事業特例制度の活用です。これは、新しい事業を実施しようとする事業者が、事業の支障となる規制の特例措置を提案することができる制度です。
例えば、電動キックボードの道路交通法上の特例措置は、実証実験や仕組みづくりの段階から注目されてきました。この他にも、オンライン質屋や水素燃料関連事業など、脱炭素化やDXに関わる新事業で特例制度の活用実績があります。また、上場企業の株主総会の完全オンライン化を特例で開催可能にすることも、DXに向けた規制緩和の一環といえます。
加えて、こうした法改正によって事業再構築のための控除や融資でも優遇措置が取られる見込みです。脱炭素化やDXなどの事業再構築に取り組んでいる場合、赤字の場合は繰越欠損金の控除上限の引上げや、財政投融資を原資とした低利融資を受けられるようになっています。
税制面での優遇
産業競争力強化法の改正には、脱炭素化やDXに対する税制面での優遇措置も盛り込まれています。2021年度の経産省による税制改革では、カーボンニュートラルとDXそれぞれに投資促進税制が創設されました。
まず、カーボンニュートラルについては、大きな脱炭素化効果を持つ製品の生産設備や、生産工程等の脱炭素化と付加価値向上を両立する設備の導入に対して、最大10%の税額控除または50%の特別償却の優遇措置があります。
また、DXの実現に必要なクラウド技術を活用したデジタル関連投資(売上高の0.1%以上)に対しても、税額控除または特別償却をする優遇措置があります。
ただし、DX促進の優遇措置にはいくつか条件があります。まず、クラウド技術の活用やデータ連携・共有、サイバーセキュリティなどに関する監査、そして情報処理推進機構からの「DX認定」の取得といった、事業レベルでのデジタル化が求められます。DXによる一定以上の生産性向上や全社的な意思決定といった、企業変革も要件となっています。
なお、産業競争力強化法の改正とは別に、脱炭素化に向けては、炭素税の導入も検討されています。実は2012年から、環境省によって「地球温暖化対策のための税」(温対税)は導入されていました。しかし、欧州と比べて税率が非常に低いことが指摘されていました。このため、産業構造の変化を促す目的で、新たな炭素税の導入ないし温対税の増税とその段階的な引き上げが環境省で検討されています。
海外との連携
最後のトレンドは、投資やオープンイノベーションなどにおける海外との連携です。
国連持続可能な開発目標(SDGs)などを受けて、日本でも環境・社会・ガバナンスに配慮した経営を行う企業を重視・選別したESG投資が加速しています。
しかし、国内のベンチャーファンドは投資事業有限責任組合法(ファンド法)によって、出資額の50%以上を日本企業にするよう義務付けられていました。政府はこの規制を特例で撤廃して、海外投資家からの出資を募りやすくすることで、脱炭素やデジタル化などの分野で国内の新興企業への投資拡大を目指しています。
また、脱炭素化やDXに配慮したオープンイノベーションの促進に向けて、特に海外のスタートアップ企業との連携を図る動きもあります。日本企業の海外ビジネスを支援している独立行政法人 日本貿易振興機構(JETRO)は、日本企業と海外スタートアップ企業等とのオープンイノベーション推進を目的とするビジネス・プラットフォーム「ジャパン・イノベーション・ブリッジ(J-Bridge)」を立ち上げました。特に脱炭素化やDXなどの分野で、海外の有力なスタートアップとのマッチングや協業・連携を図ることを目指しています。
まとめ
脱炭素化とDXは別々の問題ではなく、国にとっては表裏一体の重要な政策として推進されています。企業経営にとっては、脱炭素化とDXを推進することで、法改正による規制緩和や税制面での優遇措置を利用できるようになります。
また歴史的に、肉体労働や設備投資などを要した第一次・第二次産業(農業や製造業など)から、IT・デジタルを中心とした産業へと資本主義のあり方が変化していることも関係している指摘もあります。前者は、大量の温室効果ガスの排出を余儀なくされる産業形態でしたが、後者は低炭素を前提とした産業構造となっており、低炭素のビジネスモデルに転換することは、デジタル化への転換とほぼ同義であり、全ての企業戦略にとって重要な基盤だと指摘されます。
こうしたトレンドを踏まえると、企業にとって脱炭素やDXは単なる政策的な名目ではなく、今後の成長を考える上でも戦略的に避けることができない課題だと言えるでしょう。
ライター:徳安慧一
早稲田大学文学部卒業後、一橋大学大学院社会学研究科にて修士号・博士号を取得。専門は社会調査・ジェンダー研究。
徳安 慧一によるこちらの記事も合わせてご覧ください。
編集部オススメ記事も合わせてご覧ください。