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サーキュラーを学ぶ「循環縁日」—— 無印良品 白山北安田店 開催レポート

お祭りみたいに楽しみながら「サーキュラー(循環)」を学ぶ一日——。無印良品 白山北安田店で金沢大学ぐるぐるラボ(代表:河内幾帆)主催の「循環縁日」が開催されました!

「テープとか色紙の切れ端とか、ごみがたくさん出ちゃいましたね」

会場の無印良品 白山北安田店は、2022年末にオープンした北陸地方有数の大型店舗。
この日は7月最後の日曜日ということもあり、会場には夏やすみ中の子どもたちを連れたご家族の姿も数多く見られました。

「サーキュラー(循環)は、物を作って使って捨てるのではなく、長く使ったり再利用したりして、資源を無駄にせず守る方法です。さあ今日は、いろんなやり方でサーキュラーを試してみましょう!」
こんな掛け声でスタートしたのが、この日最初の「サーキュラーデザインワークショップ」です。
サーキュラーの基本を学ぶクイズや、大人と一緒に店内を探索する「無印良品のサーキュラーを探せ」、海岸で拾い集められたプラスチックごみを使った「サーキュラーデザイン工作」など、サーキュラーな行動や判断を身につけるための親子で楽しめるさまざまなアクティビティーが満載の2時間でした。

夏の太陽のように、このワークショップの本質がギラリと光った時間が終盤にありました。
「ステキな作品ばかり。みんなすごい!気に入った作品は持ち帰ってもいいですよ。でも、『置いて帰る』という人は、次回のワークショップでまた使えるように元に戻していってね。はい。じゃあお片付けスタート!」

工作作品発表を終えた子どもたちに、ファシリテーターの河内幾帆准教授(金沢大学)が言います。

「はい、ご苦労さまでした。…ところでみんな気付いたかな。セロハンテープとか色紙の切れ端とか、結構ごみがたくさん出ちゃいましたね…。
次に今日と同じようなワークショップがあったら、どうすればもっとごみの量を減らすことができると思いますか?」
「最初から『ごみをあまり出さないようにね』って言われていたら、きっとごみをほんの少しか、もしかしたらゼロにできたかも。」
「そうだよね。そういうふうに最初から意識して取り組めば、ごみの量をグッと減らせるよね。それに、『次の人が材料として使いやすいように』って気にしながら作ることもできるよね。
そう。そういうのをサーキュラーデザインって言うんだよ。」


Hiro Yamashinaさん撮影(Hiroさんは子どもたちにも大人気でした!)

『消費者』という役割だけに自身を留めておく必要はない

午後も「サーキュラーキッチン」「端材ワークショップ」「りめいくであそぼ」「店舗バナーで作る小物ケース」など、たくさんのワークショップが続きます。
「サーキュラーキッチン」では、食料と燃料に制限がある中でいかに「ごみを出さず」「エネルギーを無駄にせず」「食材を使い切る」メニューを考えるか。グループワークを通じ、環境負荷を抑えるだけではなく、被災時への備えや地産地消実践の意義などを考える参加者の姿が印象的でした。
その他、木材の端材を使ったカッティングボード作りや、使用済みの店舗装飾バナーを材料とした小物ケースづくりのワークショップでも、ものづくりの楽しさや尊さを通じて「『消費者』という役割だけに自身を留めておく必要はない」というメッセージが伝わった様子でした。


Hiro Yamashinaさん撮影

あるある懺悔 |わかっちゃいるけどやめられない…

この日最後のワークショップは、よりサーキュラーな暮らしに近づくためのデザインを、無印良品の商品を題材として考える「サーキュラーデザインワークショップ」です。
循環縁日最初の同名ワークショップが子ども中心だったのに対し、こちらは事業性と社会性の高い「サーキュラーデザイン」を追うもので、参加対象は18歳以上。
オランダ発のサーキュラーエコノミー戦略カード「Circularity DECK(サーキュラリティデッキ)」を用いてグループに分かれて実施するもので、普段は企業や行政などで設計や開発、デザインに関わっている方が主に参加しています。

ただこの日は無印良品の店舗での開催ということで、「大学生」「主婦や会社員」「無印良品の店員」が混ざった3つのグループに分かれ、意見やアイデアを交換し合い、サーキュラーな商品を共創していく場となりました。
メインファシリテーターを務めるのは、メンバーズ 脱炭素DX研究所 所長の我有さんです。

Hiro Yamashinaさん撮影

セッションは、「わかっちゃいるけどやめられない…。」ついついやってしまうことや、やったほうがいいと思いつつもなかなかできない「環境にいい」行動について、参加者が打ち明け合う「あるある懺悔」からスタートしました。
とは言うものの初めて出会った人同士、いきなりの懺悔はハードルが高いもの。そこでまず、河内幾帆准教授が金沢大学の学生たちに聞いた回答データをみんなで一緒に見ながら、グループ内で「あるある」について話してもらいました。

・ エアコンの温度設定(学生回答17票)
「28度が環境にいいのは知っているけど、それだと僕には暑すぎて…。なのでこっそり26度に設定して過ごしています。」

・ マイバッグを使う/レジ袋をもらわない(学生回答17票)
「使っていたんですよマイバック。でも荷物を減らしたくて一度カバンから出したら、結局そのまま買い物袋をもらう生活に戻ってしまいました…。ごみ出しの袋にも使えるから『まあいっか』って。」

・ 節電(学生回答4票)
「僕は一人暮らしなんですが、つい部屋の電気を消し忘れて出かけてしまうんですよね。実はこないだ、バイトから帰ったら部屋のテレビが点けっ放しになっちゃってて…。ダメだなぁ自分ってなりました。」

他にも、ごみ分別や節水、マイボトルや食品を食べきれずにダメにしてしまう…など、たくさんの懺悔とたくさんの共感が飛び交うオープニングとなりました。

持続可能性のためのデザインと5つの資源戦略

アイスブレイクの後は、サーキュラーな製品やサービス、ビジネスモデルの成否を決める重要要素である「持続可能性のためのデザイン(Design for Sustainability)」について、以下「5つの資源戦略」を中心に学んでいきます。

5つの資源戦略のポイント図解
  • Narrow | より少なく使う - 製品、部品、原材料、エネルギーの使用量を減らす

  • Slow | よりゆっくり使う - 製品、部品、原材料をより長く使用し、使用エネルギーも節約

  • Close | より閉じた環境で使う - 循環サイクルから外れないよう、製品、部品、原材料を繰り返し使う

  • Regenerate | 再生して使う - 再生可能で無害な原材料とエネルギーを使用する

  • Inform | データ活用する - 情報技術を使用して、資源戦略と階層の実効性を高める 

そしてサーキュラリティデッキから数枚のカードをピックアップし、上記5つの資源戦略が実際の製品やビジネスでどのように適用されているのかを確認していきました。

SP6(Slow / Product) - メンテと修理を考慮したデザインにする
CB2(Close / Business Model) - 製品回収でできることやインセンティブを提供する

ここまでは知識や情報のインプットが中心。
いよいよここからは、主婦や大学生、無印良品で働く店員という立場に関係なく、自身の体験や日常生活の中で生まれた「あったらいいな」や「なぜないの?」を、生活者視点を活かして見ていくワークのスタートです。
 
グループにはそれぞれ「晴雨兼用 しるしのつけられる傘」「ベビー あたまするっと プリント半袖Tシャツ」「紳士 疲れにくい 撥水スニーカー」というMUJI製品が渡され、17枚のサーキュラリティ・カード(実際のサーキュラリティデッキは51枚ですが、この日は時間が限られていたので17枚に絞って行われました)に書かれた資源戦略が実行されているか、いないかに仕分けられていきました。
「立場に関係なく」とはいえ、「主婦だから感じやすいこと」や「店員だから気づきやすいこと」はもちろんあります。そうした視点から生まれる気づきや意見をしっかりと伝えて話し合えるよう、グループワークの合間には個人ワークも用意されていました。

よりサーキュラーなMUJI製品へ | 実現の鍵は私たち一人ひとりの参画

その後、いくつかのワークを通じて「よりサーキュラーなMUJI製品」へと改良するためのアイデア出しとブラッシュアップを繰り返し、グループワークの仕上げには、各グループによる新しい商品名と商品タグの作成と発表が行われました。
 
ワークショップの最後には、振り返りと感想シェアタイムが設けられました。
「製品を長く使用してもらうための取り組みにも、いろいろな方法があることがわかった」
「良い商品でも、それがなぜ良いのかあまり伝わっていない。伝える工夫をもっと考えたい」
「同じ商品でも違う属性の人に違う使い方をしてもらえるデザインの仕方もあると思った」
など、多くの参加者が「もっとサーキュラーにする方法はまだまだあるし、これからもどんどん考えていきたい」と、2時間を終えてもまだワークを続けたそうな様子が印象的でした。

Hiro Yamashinaさん撮影

循環縁日の最後を飾ったのは、3人の締めの挨拶です。

無印良品 白山北安田店の鹿店長からは、「お客様や学生の皆さんと当店のスタッフがワイワイと無印の未来の商品について語り合う姿が、私の目には『これが社会のあるべき姿、理想的なお店の姿』に映りました。感無量です」という言葉が。
そして河内准教授からは「今日の体験の余韻を味わい、自分たちには変えるパワーも、変えられる範囲もあることを忘れないでほしい」と。そして我有さんからは「サーキュラー社会実現の鍵を握っているのは、私たち一人ひとりの参画!」という言葉が参加者の方がたに贈られました。


後日、サーキュラーデザインワークショップに参加いただいた、無印良品 白山北安田店の3名の店員の方に、改めて感想をお聞きする機会をいただきました。
レポートの最後にそちらをご紹介します。

  • 楽しかったです。お客様とあんなにフランクに、そして深くコミュニケーションする機会は、私にとってもお店にとってもとても貴重な機会でした。

  • 私自身、あの日から自分の意識が変わったことを感じています。循環経済という言葉が目や耳に入ってくるようになり、自然と意識が向くようになりました。

  • 地域とのコミュニケーションを大切にし、そこで暮らす方たちのプラットフォームになりたいという無印良品の思いを、白山北安田店で初めて大規模に示せたイベントだったのではないでしょうか。嬉しかったし楽しかったです。

河内幾帆准教授と株式会社メンバーズ 脱炭素DX研究所は、今後もさまざまな機会でのサーキュラーデザインワークショップの開催を検討しています。ご興味をお持ちの方はぜひお気軽にご連絡ください。

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ライター情報:八木橋 パチ
コラボレーション・エナジャイザーとして、日本アイ・ビー・エムを中心に、持続可能な未来の実現に取り組む組織や人たちとさまざまな共創活動を取材・実践・発信中。メンバーズとは未来デザイン・ワークショップやイベントの共創を2018年から定期的に行っている。合言葉は #混ぜなきゃ危険


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