サーキュラーな社会を金沢大学300人の学生とともに(前編)
「SDGs疲れ」や「サステナブル疲れ」という言葉を残念に感じている人にこそ、ぜひ参加して欲しい。
そんなことを強く思わされるワークショップが、石川県の金沢大学で行われていた。
「サーキュラー」と「サーキュラーエコノミー」
サーキュラーワークショップの内容の前に、まず、「サーキュラー」の概念と、近年注目を増し続けているサーキュラーエコノミーについて確認しておこう。
サーキュラーは「サークル」の形容詞形で、「円形の」「循環する」などの意味を持つ。それが経済を意味するエコノミーとつながったのがサーキュラーエコノミーだ。
日本語では「循環経済」とも呼ばれていて、これまでの「始まりと終わり」のある、自然界から取り出した資源やエネルギーを使い捨ててしまう「線型」のビジネスから脱却し、始まりと終わりをつないで「円型」とし、資源や製品を可能な限り長く円型の中にとどまらせ循環させ続ける。
別の言い方をすれば、「ごみが出る」ことを前提とした「3R」(Reduce=ごみの発生を減らすこと、Reuse=くり返し使うこと、Recycle=資源として再生利用すること)から大きく発想を転換し、そもそもごみが出ない(廃棄物が発生しない)経済と社会を目指しているのがサーキュラーエコノミーだ。
それでは、サーキュラーワークショップが生まれたストーリーについて、金沢大学の河内幾帆准教授に話を聞いてみよう。
サーキュラーワークショップが生まれたストーリー(河内幾帆准教授)
「サーキュラー・エコノミーは『大量製造・大量廃棄によるごみ問題』への答えであり、それは気候変動、資源枯渇、生物多様性などのさまざまな社会問題の解決の糸口でもあります。
私が本格的に教育の現場に入っていった2008年ごろは、世の中にまだSDGsという言葉はありませんでした。しかし、複雑に絡みあう多くの社会課題を1つずつ捉え1つずつ解決しようとしても状況を変えることはできない、もっと包括的な取り組みが必要だと叫ばれていました。
当時、私はメキシコの大学で経済学部教授として学生たちに向き合っていましたが、経済学が単独でできることの限界を強く感じていました。
ですから、日本帰国後は、持続可能な開発のための教育であるESD(Education for Sustainable Development)に注力し、社会課題の解決に寄与する人材の育成のために、金沢大学に着任しました。
…でも、そこでの最初の数年間、私はすっかり打ちのめされてしまったんです……」
河内准教授は顔を上げ言葉を続けた。
「世界の社会課題とその成立背景を伝え、正しい知識を増やしても、学生たちはむしろ『自分たちに一体何ができるというのだ…』と、無力感に苛まれてしまうのです。
…そして、それは私自身にも起こってしまいました。
マイバッグを持参し、ごみを細かく分別し、教室の電気をこまめに消す——。それはたしかにやるべきことです。でも、もはやそうした行動だけでは、気候変動問題の解決や持続可能な社会への転換は不可能です。問題の核心は経済構造自体にあるのですから。
自分たちが根本的な解決手段をなにひとつ手にしていないという絶望感から、私は今後の活動の指針を立て切れず、苦しい時間を過ごしていました…。
そんな状況を一変してくれたのが、サーキュラー・エコノミーでした。この取り組みを単なる「アプローチのひとつ」として終わらせてはならない。学生たちに体感覚を通じて理解し、手応えを掴んでもらいたいと強く思いました。
そして出会ったのが、メンバーズのCircularity DECK(サーキュラリティ・デッキ)であり、それを活用したサーキュラー・ワークショップだったんです。」
サーキュラーワークショップの流れ
金沢大学でのサーキュラーワークショップは、河内准教授担当の8週連続講座「環境とESD」コースの一環として実施されており、2024年度は金沢大学生300人が受講する。
参加者数の多さから、講座は50名程度に分けられて複数回に分けて行われており、今回筆者は2日続けて取材できたのだが、教室で感じたのは「アプローチの多様さ」だ。
2日目のワークショップは初日とはさまざまな点で異なるもので、それはワークショップ参加グループの理解度や、進捗具合にあわせてアレンジされているという。
ここでは、2日目の授業の大まかな流れを紹介する。
河内准教授にガイドされながら、50人の学生たちは90分間でこれらの作業をスピーディーに行った。
次回のnoteでは、7つのプロセスごとに筆者が見たワークショップのポイントを紹介する。
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