スコープ3の課題とその解決の方向性(基礎編)|脱炭素DX研究所レポート#03
企業経営と生活者行動の両軸から、脱炭素社会の実現を目指す脱炭素DX研究所。脱炭素推進に役立つような情報発信を、さまざまな切り口から行っています。
本レポートでは、企業にとってのスコープ3の課題とそれに対する解決法についてまとめてみました。基礎的なことではありますが、これらをきちんと押さえておくことが重要です。
スコープ3とは?
スコープ3とは、企業活動において直接的には制御できないが、間接的に企業に影響を与える温室効果ガス(GHG)の排出源を指すものです。
排出量算定について
スコープ3における温室効果ガスは、スコープ1、2含むサプライチェーン全体での排出量の約80−90%(業種、業態により変わる)と大半を占めています。既に上場企業の多くは、自社における排出量の算定と削減計画を立案・実行していますが、スコープ3への対応は企業の持続可能性と脱炭素化への取り組みにおいて重要な要素となっています。
ちなみに、スコープ3は15のカテゴリーに分かれており、製造業ではカテゴリー1とカテゴリー11の割合が大きくなる傾向にあります。
企業は、自社で制御できない部分が多いからといって、免除されるわけではなく、多くの評価機関から、スコープ3の算定結果とその削減計画の提出が求められます。算定に取り組む企業からは「サプライチェーン排出量の把握・管理は1つの評価基準として、国内外で大きな注目を集めている」、「グローバルでは、投資家などの社会的価値信用性にも繋がり、ビジネスチャンスの拡大が期待されている」といった声が上がっています。(環境省「サプライチェーン排出量とは」)
スコープ3の温室効果ガス排出量削減方法とは?
それでは、大半を占めるスコープ3をどのように削減していけばよいのでしょうか。ここからはそのヒントを少しご紹介します。
1.サプライヤーにおける温室効果ガスの排出
サプライチェーンにおける温室効果ガス排出の削減は、企業のスコープ3へのアプローチとして重要な1つです。サプライチェーンによる温室効果ガス排出削減に向けた解決法としては、以下のようなアプローチがあります。
解決策のアイデア
サプライヤーとの協力関係の構築(サプライヤー・エンゲージメント)と持続可能な調達プロセスの導入:
サプライヤーの評価と報酬制度の導入により、持続可能な調達プロセスを促進します。温室効果ガス排出削減目標の共有とサプライヤーとの協力による持続可能なサプライチェーンの構築を行います。また、サプライヤーに対しての脱炭素化に関する教育やワークショップなども重要で、CDPにおいてもこれらの活動を重要視しています。エネルギー効率の向上やクリーンテクノロジーの採用:
エネルギー効率の向上を図り、省エネルギー設計や再生可能エネルギーの利用をサプライチェーン内で促進します。クリーンテクノロジーの導入により、温室効果ガス排出を削減する製造プロセスや物流手段を採用します。
事例
Appleは、クリーンエネルギーアカデミーを通じて一連の無料学習リソースとライブトレーニングを提供し、クリーンエネルギーと炭素除去のソリューションの特定と実施に向けてサプライヤーと密接に協力しています。
2.製品使用時の温室効果ガス排出
製品の使用時における温室効果ガス排出も、スコープ3の温室効果ガス排出において重要です。解決法としては、以下が考えられます。
解決策のアイデア
製品のエネルギー効率の向上と省エネルギー設計の導入:
製品のエネルギー使用量を削減するために、エネルギー効率の向上や省エネルギー設計にすること。また、持続可能な設計原則にもとづき、製品の寿命を延ばすことで、環境への負荷を軽減することが可能です。再生可能エネルギーの利用促進:
再生可能エネルギーの導入により、製品の使用時に発生する温室効果ガス排出を削減することに加え、顧客が再生可能エネルギーを利用できるような仕組みを提供することで、エネルギーの持続可能な使用を促進することも可能です。顧客の共感、共創を促進:
顧客が製品やサービスを使うときに消費する電気、水などの資源を節約できるよう、顧客へ利用についても訴求することも重要です。企業だけでは解決できない課題のため、顧客に共創を促進することで、ブランド価値を高めることにもつながります。
事例
ロレアルは、主力商品であるシャンプーの利用時の水量を削減するため、少量の水で洗い流せるシャンプーを開発。さらに、水滴の速度を加速させながらも水流を減少させる低水流量シャワーヘッド「ロレアル ウォーターセーバー」を環境イノベーション企業と共同開発しました。
3. 製品の廃棄物処理
製品の廃棄物処理における温室効果ガス排出は、サーキュラーエコノミーの観点からも欠かせません。解決法としては、以下が有効と考えられます。
解決策のアイデア
廃棄物リサイクルとリユースの推進:
サーキュラーエコノミーの原則に基づき、廃棄物のリサイクルとリユースを促進します。リサイクル施設の設計・建設と廃棄物管理システムの改善を行い、廃棄物処理における温室効果ガス排出を削減します。製品のデザインと素材の選択におけるリサイクル可能性の考慮:
製品のデザイン段階からリサイクル可能性を考慮し、環境に配慮した素材の選択を行います。リサイクルに適した素材や部品の使用により、廃棄物の最小化と資源の循環利用を促進します。
事例
日本環境設計が提供するBRINGは、使われなくなった服のごみを回収し、その中のポリエステルをもう一度ポリエステルの原料に再生し、その素材を使い新たな服作りなどに活用しています。この仕組みには、2023年7月18日現在、205ブランドが参加し、4007店舗に回収ボックスが設置されています。
4.顧客の使用後の温室効果ガス排出
顧客の使用後における温室効果ガス排出は、顧客とのエンゲージメントが必要になる企業の責任範囲外でありつつも、重要な課題といえます。有効なアプローチとしては、以下が考えられます。
解決策のアイデア
製品のライフサイクル管理とリユース・リサイクルプログラムの設計:
製品のライフサイクル全体を管理し、製品の再利用やリサイクルを促進するプログラムを設計します。顧客への情報提供やエンゲージメントを通じて、持続可能な使用と廃棄物削減を促進します。顧客へのエネルギー効率向上の啓発と持続可能な使用方法の促進:
顧客に対してエネルギー効率向上の重要性を啓発し、持続可能な使用方法に関する情報を提供します。エネルギー効率の向上やカーボンオフセットなどの持続可能な選択肢を顧客に提案し、温室効果ガス排出削減を支援します。
事例
パタゴニアは、自社のサイトや店舗で環境問題の重要性を動画やコンテンツなどを通じて効果的に訴求しています。店舗には「修理は急進的な行為」と謳う修理コーナーが設置されています。顧客に一緒に環境を守ろうというグローバル・コミュニティへの参加を促しています。
5.出張や従業員の通勤に伴う温室効果ガス排出
出張や従業員の通勤にともなう温室効果ガス排出への対応も求められます。
解決策のアイデア
テレワークの導入やオンライン会議ツールの活用によるビジネス旅行の削減:
テレワークやリモート会議の導入により、ビジネス旅行を削減します。 オンライン会議ツールの活用により、遠隔地のビジネスミーティングを促進します。従業員の持続可能な交通手段への切り替えの促進:
公共交通機関や自転車、カーシェアリングなどの持続可能な交通手段の利用を従業員に促します。 交通インフラの改善と従業員の意識向上により、従業員の通勤に伴う温室効果ガス排出を削減します。
まとめ
スコープ3の課題に対処するためには、サプライチェーンの透明性と協力、製品の設計とライフサイクル管理、顧客との関与、従業員の意識向上など、総合的なアプローチが必要です。企業はこれらの解決法を組み合わせ、持続可能なビジネスモデルの構築と脱炭素化に向けた取り組みを推進することが求められます。
弊社では、上記のようなタスクやさまざまな課題に対して、デジタルスキルとカーボンリテラシーの両スキルを保有する「GX人材」を企業に常駐させ、伴走型でパートナーとともに課題解決の支援が可能です。
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