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環境ラベルの有効性と今後の展望|脱炭素DX研究所レポート #08

メンバーズでは、気候変動と商品・サービスの購入に関する生活者意識調査を2015年から行っています。第8回目となる今年は、生活者の気候変動への関心や環境に配慮された商品・サービスの購入意向に加え、「環境ラベル」や「カーボンフットプリント」などが、購入意向にどう変化を与えるかについても調査しました。

今回はCSVサーベイ調査結果をもとに、環境ラベルやカーボンフットプリントなどの表示の有効性と今後の展望について探ります。

環境ラベルとカーボンフットプリントについて

環境ラベルとは、製品やサービスの環境負荷を示したマークのことをさし、現在では食品のパッケージをはじめ、さまざまな製品や梱包に表示されています。実はその種類は多く、海外のものも含めると100種類以上あるとも言われています。

また、環境ラベルには第三者機関によって認証されてるタイプから、自己申告で表示するタイプまであり、各国の代表的標準化機関からなる「ISO」(International Organization for Standardization:国際標準化機構)では、3つのタイプに分類しています。※この3つに分類されないものもあります。

環境省 環境ラベルのタイプ

一方、カーボンフットプリントとは「Carbon Footprint of Products」の略称で、製品やサービスの原材料の調達から廃棄・リサイクルに至るまでのライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算して、商品やサービスに表示する仕組みです。一般的に、ライフサイクルアセスメント(LCA)手法を活用し、環境負荷を定量的に算定したものを表示します(※1)。

つまり、環境ラベルは製品やサービスの持続可能性を広範に評価するためのツールとして使用され、ラベルごとに基準や示す環境配慮がさまざまであるのに対し、カーボンフットプリントは温室効果ガス排出量に特化して測定される指標であり、環境ラベルの1つとしてとらえることができます。

環境ラベルの一部(国および第三期間による取組)

環境ラベル表示と消費者の購買意向

では、カーボンフットプリントを含む環境ラベルの表示は、生活者の購買に対して、どのような影響を与えているのでしょうか。今年度のCSVサーベイの結果より考察します。

今年の夏は猛暑が続き「地球沸騰」とも言われました。気候変動の影響を生活の中で自分ごととして体感し、より関心が強まった人も多かったのではないでしょうか。
調査結果によると、生活者の67.0%が気候変動問題に関心を持っていることが明らかになりました。また、積極的に気候変動問題に取り組む企業に対し、「その企業の商品・サービスへの関心が高まる」 「購入しようと思う」など、購入意欲に繋がる項目で65.5%の人が肯定的にとらえていることもわかりました。気候変動問題が深刻化するなか、日本でも関心を持つ層は一定数存在し、気候変動問題に取り組む企業の商品やサービスの購入意向が高まることがわかります。

積極的に気候変動に取り組む企業に対する「印象」(2023年CSVサーベイより)

また、環境ラベルで商品・サービスの購入意向が変化するかについても調査したところ、60.8%の人が購入意向が高まると回答しました。

環境ラベルの表示による商品・サービスの購入意向の変化(2023年CSVサーベイより)

特に、環境に配慮した商品・サービスに対する購入意向がある人はこの傾向が強く、環境に配慮された商品を多少高くても選びたいと回答した層の約83.6%が、環境ラベルにより購入意向が高まると回答しました。

環境ラベルの表示による商品・サービスの購入意向の変化(2023年CSVサーベイより)

さらに、カーボンフットプリントについても同様の質問をしたところ、約48.5%の人が「カーボンフットプリント」の表示により、商品・サービスの購入意向が高まると回答しました。

カーボンフットプリント表示による商品・サービスの購入意向の変化(2023年CSVサーベイより)

また、環境に配慮した商品・サービスに対する購入意向がある層に特に効果的である傾向は、カーボンフットプリントの表示でも同様でした。

カーボンフットプリント表示による商品・サービスの購入意向の変化(2023年CSVサーベイより)

以上の結果より、カーボンフットプリントを含む環境ラベルの表示は、生活者の購買意向を高める効果が期待できることがわかります。

第8回 気候変動と生活者の商品・サービスの購買(CSVサーベイ)のフルレポートはこちらからダウンロードいただけます。


実は企業のメッセージは生活者に届いていない?

上記の結果から、生活者に環境ラベルをはじめとしたラベル表示が有効であることが読み取れました。しかしながら、環境に配慮された商品を購入したいと思った購入意向層に、商品・サービスを選ぶための情報が十分に届いていないということも明らかになっています。

環境に配慮された商品やサービスを購入したいと回答したものの、半年以内にそういった商品を購入しなかった人へその理由を聞いたところ、「そもそも意識してなかった」や「金額が高かった」が上位にくるものの、購入しようと思った際に「どういった商品が環境に配慮されているかわからない」「どう環境に配慮されているかわからない」などいった理由もあがりました。一般的に企業の環境に関する取り組みについての情報発信がわかりづらいと回答する人が60.3%を占めるなど、いかにわかりやすく生活者にこうした情報を届けるかについては検討の余地がありそうです。

環境に配慮された商品・サービスを購入しなかった理由(2023年CSVサーベイより)

実際に、環境ラベルはそれぞれ独自の目的や基準で個別のマークが存在しているため、生活者にとって決してわかりやすいとは言えないでしょう。ここからは、環境ラベルの表示を活用し、わかりやすく生活者へ発信している事例をご紹介します。

生活者にわかりやすく伝える工夫:Amazon「Climate Pledge Friendly」

まずはじめにご紹介するのが「Amazon」です。
Amazonでは、生活者が環境負荷の低い商品を選びやすいように、数多く存在するサステナビリティ認証のうち1つ以上を取得している商品に、共通の緑色の「クライメイト・プレッジ・フレンドリー(Climate Pledge Friendly)」のラベルを表示する取り組みを2020年より開始しています。

このラベルは、食料品や家庭用品、衣類、化粧品類、家電製品などさまざまな分類の商品に表示され、2023年5月時点で掲載数は約55万点にのぼります。クライメイト・プレッジ・フレンドリーが付与されたものに絞って商品を検索できる専用ページも用意されており、ラベルがついた商品は閲覧数が10%程度増えているとも報告されています(※2)。

「クライメイト・プレッジ・フレンドリー(Climate Pledge Friendly)」

生活者にわかりやすく伝える工夫:ASKUL「環境スコア」

ASKUL(アスクル)は、事務用品を中心に食品・飲料・日用品など幅広く商品を扱い、オフィスやくらしに必要なものを届ける会社です。また、オリジナル商品の展開も行っています。

アスクルでは、2022年より独自の「アスクル商品環境基準」を策定し、ユーザーが商品を選ぶ際に参考にできるよう、提供するオリジナル商品が環境にどのくらい配慮しているかを可視化する取り組みを行っています。注目すべき点は、環境に配慮した商品のみ環境負荷を算定し、可視化するのではなく、すべてのオリジナル商品でそのスコアを開示しているところです。また、スコアは感覚的にわかりやすいよう葉っぱのマークで示しています。

ASKUL「環境スコア」のイメージ

自社の共通のマークではあるものの、自社サイト内では1つの基準でわかりやすく示す事例といえるでしょう。詳しくは、ぜひこちらの動画をご覧ください!

生活者にわかりやすく伝える工夫:欧州で進む「エコラベル」

フランスでは、環境負荷を5段階でわかりやすく表示する「エコ・スコア」が導入されています。分かりやすく明確な情報を消費者に提供することで、消費者が環境に配慮した製品を購入するよう促すとともに、食品メーカーに対し、環境により配慮した製品づくりを求めることを目的とされており、フランスの市民の声がきっかけで導入に至りました。環境負荷の低いものから高いものへ順に、A(緑)、B(黄緑)、C(黄)、D(オレンジ)、E(赤)という5段階評価のラベルが商品パッケージやWebサイト・アプリなどで表示される仕組みとなっています。

エコラベル

エコ・スコアの評価には、原材料の調達から生産、廃棄、リサイクルまで、製品のライフサイクル全体における二酸化炭素(CO2)排出量、水資源・再生不可能な資源の使用量、生物多様性の喪失量など、大気や水、海洋、土壌、生物圏への影響などが考慮されます。

具体的には、生産、輸送、製造、梱包までの環境への影響を示した製品のライフサイクルアセスメント(LCA)のデータによる評価をベースに、パッケージ等のリサイクルのしやすさや原理材料の産地、使用される食品の季節性(旬など)をLCAに含まれない観点を加味し、調整されたうえ最終的なスコアが決定されます(※3)。

エコスコアで考慮される影響

フランスでは、気候変動に大きなインパクトを与える分野である「食品」業界から導入が始まりましたが、今後は衣類でも実施することが示されています。また、アニマルフェアなど社会的側面を含めたラベルの表示の導入がドイツでは導入が検討されています。

エコスコアについてはこちらの動画でもご紹介していますので、よろしければご覧ください。

まとめ

パリ協定の1.5度目標が危ういといわれ、各方面で脱炭素化が求められるなか、弊社の独自調査では、環境に配慮した商品やサービスの提供は生活者のニーズでもあり、環境ラベルやカーボンフットプリントの表示により、購入意向が高まる傾向がわかりました。
こうしたラベル表示は、生活者へのコミュニケーションにおいて一定数有効であると考えられます。一方で、多種多様なラベルが存在することにより、企業レベルや国レベルで、ラベルを統一化を図り、よりわかりやすいコミュニケーションを図る傾向にあることが読み取れます。

今後ますますスタンダードとなることが予想される環境ラベルの表示ですが、環境ラベル小野表示には、環境負荷を把握することからスタートしますその算出のためには製品ごとのライフサイクルアセスメント(LCA)評価を通じ、環境負荷を把握することが欠かせません。また、企業はラベル表示にとどまらず、その表示をどうコミュニケーションに活用し、生活者に選ばれるような設計をすることも求められます。

弊社では、LCAによる製品の環境負荷の算定をはじめ、ラベルを活用した生活者とのコミュニケーション・マーケティングの支援を行っています。
サービスなどについてご興味がある方は、ぜひご気軽にお問い合わせください。

参照・参考資料
※1:https://www.cfp-japan.jp/about/
※2:Amazon「環境ラベルで閲覧1割増」 対象商品55万点に - 日経GX
※3:https://docs.score-environnemental.com/v/en/

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