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脱炭素社会移行のためのDX

本記事は、秀逸でユニークなソーシャルグッドな取り組みなどを行う企業・団体のインタビュー記事「SocialGoodCompany」の編集長として、60本以上の記事作成に携わってきた株式会社メンバーズの萩谷 衞厚による連載コラムとなります。

自然由来の電源は不足し、CO2排出量は隠せなくなる

ここ数年、何度も読み返す一冊が『ビッグ・ピボット なぜ巨大グローバル企業が〈大転換〉するのか』(アンドリュー・S・ウィンストン)です。日本語版が出版されたのは2016年、SDGsやパリ協定が全ての国や地域で採択された翌年にあたります。

HP、ユニリーバのサステナビリティ・アドバイザリー・ボードメンバーであり、PwCのサステナビリティ・アドバイザーとしても活躍する著者のメッセージは、「エコビジネスやサステナビリティと呼ばれる分野は、脇役の部署やビジネス上のニッチな会話で留めるものではなく、メインストリームのテーマである」というものです。そして、「それに気付いている巨大グローバル企業は既に自らが積極的に大転換『ビッグ・ピボット』を進めている」と述べています。

本書前半では、以下の3つの脅威とチャンスが挙げられています。
・どんどん暑くなるから、クリーンなビジネスが勝つ
・いよいよ資源(水・食糧・エネルギー)が足りなくなるから、イノベーションが勝つ
・なにもかも見えてしまうから、隠さない者が勝つ

あれから5年、世界で本格的な脱炭素社会への移行が急ピッチに進められています。こうした状況下、3つの脅威はどのように置き換えられるでしょうか?

2021年の現時点において、石油、石炭などの化石燃料はもはや座礁資産と言われ、化石燃料の利用を前提とした既存アセットからの転換が求められています。商品やサービスの提供においても、温室効果ガスの排出量をCO2に換算して示す「カーボンフットプリント※」の開示が必須となる、そうした社会が近々到来するでしょう。

また、世界で再生可能エネルギー100%を目指す企業は増え、CO2排出量やカーボンフットプリントの開示も積極的に進められています。化石燃料を燃やすことができない社会では、自然由来の電力の争奪戦がますます激しくなり、CO2排出の削減や排出量の開示を怠る企業は、投資家から見向きもされないどころか、サプライチェーンからも外されることが予想されます。つまり、ビジネスのスタートラインにも立つことができない、そんな社会が現実のものとなりつつあります。

こうした社会の転換期において、足りなくなるのは自然由来の電力であり、隠せなくなるのは、温室効果ガスの排出量と言い換えることができるでしょう。

※ カーボンフットプリント:商品、サービスの原材料調達から生産・流通に加え、廃棄・リサイクルに至るまで、ライフサイクル全体を通して排出される温室効果ガスの排出量をCO2に換算したもの

120カ国以上のカーボンニュートラル宣言

2020年10月、遅ればせながら菅首相が2050年までのカーボンニュートラル(温室効果ガス排出の実質ゼロ)を表明しました。すでに120以上の国と地域が宣言しているカーボンニュートラル宣言。日本は、やっと欧州をはじめとする環境先進国と同じスタートラインについたのです。

もはや、温暖化への対応は経済成長の制約ではありません。積極的に温暖化対策を行うことが、産業構造や経済社会の変革をもたらし、大きな成長につながるという発想の転換が必要です。(菅首相 所信表明演説より

CO2削減を目的とした世界初の取り組みとなる「京都議定書」の議長国である日本ですが、かつての強みであった省エネ技術も現在はその力を発揮できず、国際社会では「脱炭素に消極的な国」というレッテルまで貼られています。

地球温暖化対策はコスト負担を増加させる施策ではなく、イノベーションの源泉として機能する経済成長のためのエンジンであるということ、そして、日本政府がカーボンニュートラルを目指すということは、当然ながら全ての企業や生活者が対象であり、当事者であることを、今私たちは改めて理解すべきでしょう。

DXは脱炭素社会転換のための手段である

脱炭素や気候変動と同様、デジタルトランスフォーメーション(DX)も、ここ最近誰もが耳にするキーワードになりました。

経済産業省によるDXの定義は以下となっています。

企業がビジネス環境の激しい変化に対応し、データとデジタル技術を活用して、顧客や社会のニーズを基に、製品やサービス、ビジネスモデルを変革するとともに、業務そのものや、組織、プロセス、企業文化・風土を変革し、競争上の優位性を確立すること。(デジタルトランスフォーメーションを推進するためのガイドライン(経済産業省)より

しかし、独立行政法人 情報処理推進機構の調査によれば、従業員数1,000名以上の企業でも、DXの取り組み内容は、業務効率化による生産性向上、既存製品・サービスの高付加価値化が上位を占めているのが現状です。
つまり、アナログデータのデジタル化、デジタルツールの活用といったデジタライゼーションの域を出ていないという実態が浮かび上がります。

情報処理推進機構の調査データ

DX導入の最初のきっかけは業務の効率化やコスト削減であるかもしれません。しかし、DX導入が顧客や社会のニーズに基づくものと考えれば、世界の脱炭素社会への転換期において、DXが果たす役割は非常に大きいと言えます。

そして、菅首相によるカーボンニュートラル宣言とDXの定義での共通点は、いずれも社会を変革するものであるということです。私たちメンバーズは、全人類が解決すべき喫緊の課題である気候変動問題に適用してこそ、DXの存在価値を示すことができると考えます。

近い将来、企業を対象としたDX導入の目的を問う調査では、「脱炭素のため」「CO2可視化のため」といった選択肢が調査票に追加されることでしょう。DXは、企業風土やビジネスモデルを変革させる手段であり、脱炭素社会における企業の変革ツールなのです。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月よりメンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長を務める。

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