行動を促す「逆さ」デザイン
未来の兆しとなる事例を紹介する「Signals for future」シリーズ。
記念すべき10回目は、「逆転の発想」で人々の消費行動に変化をもたらした企業やアイデアに焦点を当てました。社会課題の解決にクリエイティブな発想や商品が求められることも多いですが、今の商品をベースとしたちょっとした工夫が固定観念を壊すような、問題解決のヒントにつながるかもしれません。
はじめに
昨今では、いままでの社会システムや経済行動を変えようとしている流れが高まっています。たとえば、廃棄で終わってしまうリニア社会から資源を循環させるサーキュラーな社会への移行、炭素を排出していたビジネスから炭素を排出しないビジネスへの改革など。しかし、企業はよりサスティナブルな社会を実現するために大きなキャンペーンを打ち出したり、商品を刷新したり、たくさんの労力や時間をかけている場合も少なくありません。
そんななか、ちょっとしたことで私たちのアクションを促すような商品デザインをしている企業があります。今回は、商品の逆さにする、裏表にし返却する、そんな逆転のアイデアをもとにした事例をご紹介します。
ポイントはバーコード?
実は、大量生産や大量消費により毎年約4兆ほどの産業廃棄物がでており、環境に多大な影響を与えています。そして、そんな人間の行動に起因した環境破壊を食い止めるべく、購買における環境への影響を考えるきっかけとして、斬新なバーコードを開発した企業があります(※1)。
サプリブランドの「LIFE NUTRITION」は、サプリの容器にリバーシブルバーコードを印刷するプロモーションを行いました。普通にスキャンすると定価での支払い。しかし、バーコードの向きを逆さにしスキャンすると1$の追加料金がチャージされ、環境保護団体のGreeners Action に寄付される仕組みです。この仕組みにより63%の消費者が寄付を行い、「LIFE NUTRITION」の売り上げも19%増加したそう(※1)!
環境問題の解決に貢献したくても、募金をしに行くことやサイトを見つけることは正直手間だと感じている人もいるのではないでしょうか?普段の購買を通して寄付をすることができるこの仕組みは、人々の購買意識を大きく変化させるかもしれません。
服の廃棄のあり方を袋から変える
ファッション業界の需要は年々増えており、それに伴い廃棄する服も増えています。国民生活センターによると、日本の衣料廃棄物は年間50万トンを超えると推計されています(※2)。そのうち、90%が焼却・埋立処分されていると考えれば(※2)、日本だけでも服の処分によりどれだけ地球温暖化に影響を与えているか想像は難しくないでしょう。
この課題を解決すべく開発されたのが「Rag Bag」です。Rag Bagとは、対象店舗で商品購入するともらえるショッピング袋で、袋をひっくり返し、不要になった服を中に入れてポストに投函することで服をリサイクルすることが可能です。服はチャリティーなどに寄付され、使用できる服に新たなサイクルを与えます。この取り組みは多くの出版社でも取り上げられ、世界中に広まりつつあります。
この袋の最大の特徴ともいえるのは、服の寄付に対するハードルを下げたデザイン。袋を裏表にするだけで消費者が環境に優しいアクションを起こせる仕組みは、服の廃棄問題の解決に貢献したとともに、アクションを起こしやすい環境を整備しました。新しい服を購入すると同時に、不要になった服は別の持ち主に渡せるRag Bagの存在は、ファッション業界における買い物のあり方や廃棄のあり方を大きく変化させるポテンシャルがあります。
ここから見えるシグナル
「新しい商品がほしい」という購買要求と「環境負荷をかけたくない」という気持ちが相反することがまだ多いのが、いまの消費のあり方ではないでしょうか?
今回ご紹介した事例は、罪悪感なく買い物を楽しみたい、環境負荷はかけたくない消費者に答えた商品デザインとなっていました。また、大々的な商品改革をしなくとも社会課題の解決に貢献したい、企業の悩みに対するヒントにもなっています。加えて、マルチユースできる商品は個別製造したり、別途プロモーションを打つ時のエネルギーを削減できるので、サーキュラーエコノミーの観点からもとてもいいデザインと言えます。
こういったことを踏まえても、バーコードを上から下に、袋を裏を表にする、そんな小さなアクションだけで世界を変えられるような商品デザインは今後さらに必要になります。特に気候変動に関する関心や行動をとる人が海外と比較して少ない日本では、ちょっとしたことで貢献できるような仕組みが、意識や行動の浸透につながるのではないでしょうか?
将来はますます発想の逆転やクリエイティビティが求められるようになりそうです。
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