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再エネの新たなカタチ

気候変動の主因とされるCO2排出を抑制するため、様々な再生可能エネルギーが登場しています。しかし、再生可能エネルギーは環境に与える負荷なしに発電できているのでしょうか。

風力や太陽光電力などはクリーンエネルギーと呼ばれており、一般的に環境に負荷がかかるリスクが少ないとされていますが、ライフサイクル全体にも目を向けた場合はどうでしょう。

今回はそんな再生可能エネルギー発電の持続可能性について考えてみます。

発電する、だけでいいの?

屋根上でソーラーパネルの工事を行う男性

日本で注目されている風力発電は今、約20年と言われる寿命を迎え撤去が進んでいます。しかし、風車の撤去後は放置され、処分しか選択肢がないことが問題視されています。

また、太陽光パネルも同様に寿命が20〜30年とされており、環境省は、2040年ごろには現在のおよそ200倍にあたる年間80万トンもの使用済み太陽光パネルが排出されると試算しています(※1)。  

このように、再生可能エネルギーはCO2排出を抑制する気候変動への対抗手段として注目される一方で、その製造や設置、廃棄などの一連のプロセスの中で、一定の環境負荷が存在してしまっている事実があるのです。

風力発電のアップサイクル:羽根から橋へ。

白い電気風車の写真

こうした事実が問題視がされている中、北アイルランドの「Re-Wind」研究・開発チームでは、風力タービンの羽根(ブレード)を有用な製品にアップサイクルするプロジェクトを進めています。(※2)

Re-Windプロジェクトチームは、風力タービンとして役目を終えたブレードを、歩行者や自転車用の遊歩道やカルバート(地中に埋設された水路)用の小さな橋として再利用する実証を行いました。

嬉しい誤算だったのは、ブレードが想像以上の耐荷重性能を持っていたこと。具体的には、設計時に想定されたブレードの「安全使用荷重」が6トンであったにも関わらず、試験的に作ったこの橋は34トンの荷重を支えることができ、さらに高い安定性をみせたというのです。

風力タービンのブレードの素材には、ガラス繊維強化ポリマー(GFRP)が使われています。この素材は耐久性に優れており、20年〜30年の繰り返し荷重に耐えられるほどで、歩道橋の橋桁などあまり荷重がかからないものに使用すれば、さらに60年は持つと言われています。

将来的にはブレードの数を2枚に増やし、橋の規模を拡大する計画もあり、子どもの遊具、自転車用シェルター、路面家具、通信塔など、多岐にわたる用途でのアップサイクルをRe-Windプロジェクトチームは目指しています。

アイルランド島では、2030年までに450基ものブレードが20年〜25年の耐用年数を迎えるため、これをどう処理するかが喫緊の課題となっていましたが、このRe-Windプロジェクトにより、2042年までに860万トンのブレードを何らかの形で再利用できると予測されています。

太陽光発電のアップサイクル:次世代型電池に

3枚のソーラーパネルの写真

実は、太陽光発電の方でも新たな取り組みが始まっています。

シンガポールの南洋理工大学(NTU Singapore)の研究チームは、耐用寿命に達した太陽電池パネルから高純度のシリコンを低コストかつ効率的に回収する手法を考案しました。(※3)

さらに、この手法を用いて、高容量の次世代型電池として期待されているリチウムシリコン電池へとアップサイクルできることが実証されており、太陽光パネル廃棄物の有効な資源回収方法になるとともに、リチウムイオン電池の性能向上に寄与すると期待されています。

現行のシリコンのリサイクル方法はエネルギー集約型であり、有毒な薬品を使用する必要があるなど、高コストで限定的な効果しか得られないという課題がありました。

NTU Singaporeの研究チームが新たに生み出した手法により、太陽光パネルを高温の希釈リン酸に浸漬することで、表面の反射防止膜を取り除き、金属成分を分離することが可能になりました。繰り返しの処理により、98.9%の回収率と99.2%の純度を達成したといいます。

研究チームは、この新しいシリコン回収方法が資源のアップサイクルを促進し、高純度シリコンに対する様々な需要に応えることができると考えているとのことです。

ここから見えるシグナル

太陽光発電や風力発電は、発電をする上ではCO2を排出せず、地球環境の負荷を減らすことができるという特徴から、より多くの設置作業が進められてきました。

しかし、設置をすることばかりにとらわれており、寿命が来た後の撤去作業のことまではまだまだ目が向けられていないという事実。

再生可能エネルギーのクリーンなエネルギーを供給できる点を生かし、導入を進めCO2の排出量を減らすことも大切ですが、発電の寿命が来て、撤去となる時のことも考えなくてはなりません。今後は風力タービンや太陽光パネルなどのパーツのLCA(ライフサイクルアセスメント)にも目を向けていく必要があるでしょう。

今回のRe-Windプロジェクトチームのプロジェクトやシンガポールの南洋理工大学(NTU Singapore)の研究チームが開発したリチウムシリコン電池のプロジェクトは、そのような撤去に関する問題の解決策になるだけでなく、社会全体に問題内容を知ってもらうきっかけにもなるのではないでしょうか。

これからは単に再生可能エネルギーを導入をするだけでなく、運用・撤去のことまでを考えた風車や太陽光パネルを製作をすることが求められているのかもしれません。

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【引用】
※1:太陽光パネル“大廃棄時代”がやってくる 
※2:羽根から橋へ。捨てるしかなかった「風力発電機」のアップサイクル
※3:寿命の尽きた太陽光パネルをアップサイクルしてリチウムイオンバッテリーを作る

ライター情報:
梶原実乃梨
法政大学 人間環境学部卒。大学では地方創生や農業について研究し、長期インターンではSNS運用を経験。SDGs達成に向けた学生団体で活動。2023年にメンバーズに新卒入社し、プロモーション領域を経験。
田邊慶太朗
武蔵野大学 文学部日本文学文化学科卒。大学時代はオウンドメディアを運営する企業のインターンに参加し、主にSDGsを取り扱うWEBマガジンの記事執筆や企画運営に携わった。2023年春にメンバーズに入社し、現在はnoteの運営に携わっている。

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