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お客さま・取引先と共に実践する大丸松坂屋百貨店のサステナビリティ活動
サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量削減に、積極的に取り組む株式会社大丸松坂屋百貨店さま。脱炭素社会の実現への百貨店における役割や、一般生活者への取り組みと課題、これからの展望についてインタビューしました。
プロフィール
<インタビューにご協力いただいた方>
伊藤 友博(いとう ともひろ)氏
株式会社 大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 経営企画部 スタッフ サステナビリティ戦略担当
店舗の営業部を経て、2018年よりCSR・環境マネジメントに携わり、2021年より現職。
社内の廃棄物削減や資源循環促進に関する計画測定、生物多様性の戦略策定を主に担当。
池本 飛雄馬(いけもと ひゅうま)氏
株式会社 大丸松坂屋百貨店 経営戦略本部 経営企画部 サステナビリティ戦略担当
2021年に大丸松坂屋百貨店に入社。2022年よりサステナビリティ戦略担当として、温室効果ガス排出量削減や資源循環、人権の分野を主に担当。
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3つの「Think」を軸としたサステナビリティ推進
3つの「Think」を掲げるに至った背景について
池本氏:
私たち大丸松坂屋百貨店は、J.フロント リテイリングのグループ中核企業で、「大丸」と「松坂屋」の屋号で全国に百貨店15店舗(関係店含む)を展開しています。グループのサステナビリティ方針「人びとと共に、地域と共に、環境と共に」にもとづき、当社ではステークホルダーとともに考える3つのThink、「Think GREEN」「Think LOCAL」「Think SMILE」を軸にサステナビリティ活動を行っています。
オフラインとオンラインの両方で生活者との直接接点を有する業種であることから、お客さまや取引先、従業員とともに環境や社会問題について考え、課題解決への一歩を踏み出す行動変容に寄与することを目指し、「Think」ということを大切にしています。
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サプライチェーン全体での温室効果ガス排出量の削減に積極的に取り組まれている背景を教えてください。
池本氏:
脱炭素社会の実現に向けて、私たちはグループ全体で中期目標と長期目標を掲げています。中期目標は2030年度までにScope1、2のGHG(温室効果ガス)排出量を2017年度比で60%削減、Scope3は40%削減すること。長期目標は、2050年度までにネットゼロ(排出量と削減量を差し引きゼロにする)とすることを目標としています。パリ協定の1.5度目標や日本政府の掲げる2050年にネットゼロおよび、2030年時の46%削減という排出量目標に整合した目標設定をしています。目標達成に向けて、RE100に2020年に加入し、SBTi(Science Based Targets イニシアチブ)のネットゼロ認定も2023年に取得をしています。
(※)Scope1:自社の事業活動における直接的な排出、Scope2:他社から供給された電気、熱・蒸気の使用により発生する間接的な排出、Scope3:Scope1および2以外の事業活動に関わるサプライチェーン(他社)の排出。
再エネ導入によるScope2削減とサプライヤーとの協働によるScope3削減
GHG排出量削減に取り組まれてきた上での所感や課題を教えてください。
池本氏:
Scope1、2については、大丸松坂屋百貨店単体では、2023年度に基準年度(2017年度)比で59%削減しており、2024年度には中期目標の60%削減を前倒しで達成する見通しです。ここまで順調にGHG排出量削減が進んできた理由としては、店舗の再エネ化の推進です。2024年4月には新たに梅田店が再エネ店舗となり、現在では15店舗のうち9店舗、本社ビルで再エネ導入し、全体の電力使用量に占める再エネ率は64%(2024年4月現在)になりました。
一方で、残り6店舗の再エネ化の課題としては、基本的に自社物件ではなく、賃貸物件のため、再エネ化が進みにくいという点があります。賃貸物件の店舗の再エネ化実現に向けて、継続してオーナー様との対話をしています。また今後は、RE100の「追加性」の要件を満たすために、自社でエネルギーをつくる「創エネ」が求められるため、検討を進めています。
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伊藤氏:
また、EV化とLED化にも注力して取り組んでいます。各店舗の外商部が使用する社用車のEV化を進めており、EV化率は約5割にまで進みました。今後EVの導入を増やしていくためには、EVの地理的・技術的課題があると理解しています。たとえば札幌の店舗では、冬は道内の雪道を長距離移動するため、地理的かつ技術的な制約があり、導入が難しいのが現状です。
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Scope3削減の進捗はいかがでしょうか。
池本氏:
Scope3のGHG排出量は、2023年度実績で基準年度比4.5%減となっています。
当社の場合、カテゴリ1「調達した製品・サービス」(※)がScope3全体の96%を占め、ホットスポットとなっています。取引先へのサプライヤーエンゲージメントを通して、当社と取引先がともに脱炭素取り組みの輪を広げてGHG排出量を削減していくことが、脱炭素社会の実現に向けて非常に重要だと考えています。
(※)カテゴリ1「調達した製品・サービス」:取引先から仕入れて販売した商品の原料調達から製造工程でのGHG排出量
取引先とともに脱炭素社会の実現を目指すため、2019年度と2022年度には「脱炭素社会に向けた取り組みに関する説明会」を開催しました。22年度の開催時には、主要な取引先を対象に、約250社にご参加いただきました。22年度以降は、主要な取引先を中心に1社1社に当社の脱炭素目標や脱炭素取り組みのご説明を継続して行っており、サプライヤーエンゲージメントを強化しています。
また、Scope3カテゴリ1のGHG排出量の現在の算定方法は、環境省が公表している製品カテゴリ平均の排出原単位(二次データ)を使用した算定による概算のため、今後は取引先のGHG削減努力が反映されるサプライヤ―固有の排出原単位(一次データ)を活用した算定への順次切り替えが必要だと考えています。主要な取引先には、各取引先固有のGHG排出量データの連携をご依頼しています。
最後に、現在はScope3のGHG排出量をExcelを使用して算定していますが、精確性と効率性の観点からグループ全体でのGHG算定ツール導入を予定しています。
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「共に」を大切にされているとのことでしたが、環境に関して一般生活者に対する取り組みにはどのようなものがありますか。
伊藤氏:
例えば、Think GREENの一つの取り組みとして衣料品回収の取り組みであるエコフがあります。衣料品の廃棄問題は大きな環境課題ですが、我々百貨店において衣料品は主力商品のため、廃棄問題に対しても責任を持って対応して行きたいと考え、衣料品回収を継続的に行っています。
現在、11店舗でエコフの活動を行っています。エコフキャンペーンは年2回の開催ですが、常時衣料品回収に対応できるよう、常設エコフと呼ばれる回収ボックスを設置している店舗もあります。
池本氏:
百貨店業界では初のファッションのサブスクリプションサービスである「AnotherADdress(アナザーアドレス)」を2021年より展開しています。アパレル業界の大きな問題点である大量生産・消費・廃棄の課題解決への貢献と「ファッションを愉しむ」の両立を実現したいという想いから、この事業がはじまりました。2024年夏には、アナザーアドレスの衣類循環アップサイクルプロジェクト「roop(ループ)」が、環境省の「脱炭素につながる新しい豊かな暮らしを創る国民運動」、通称「デコ活」の推進事業に採択されました。
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「roop」は、お客さまから「もう着る機会はないけれど、思い入れのある大切な衣類」を回収して、若手デザイナーや著名なデザイナーがその服にリメイクを施してアップサイクル品へと生まれ変わらせるというプロジェクトです。回収にご協力いただいた方々の衣類への想いやストーリーを託された多彩なデザイナーの手によって一つひとつ丁寧に紡がれアップサイクルされた衣類は、2025年2月に開催する「roop Award 2024-2025」でファッション形式でお披露目され、その後はアナザーアドレスのレンタル品として登場します。
大丸松坂屋百貨店が考える百貨店の役割
サステナブルな社会を創るうえで、百貨店の役割について、どうお考えですか?
伊藤氏:
生活者との直接の接点を有する百貨店だからこそ、サステナビリティへの関心を高めていただく機会の提供が重要な役割だと思っています。我々は15店舗を構え、館内では数千名規模の方々が働いていますが、その方々も生活者です。当社の従業員だけでなく取引先販売員にも業務や日常の暮らしにおいてサステナビリティの意識を持ってもらうための取り組みを継続して行っていく必要があると考えています。
例えば、サステナビリティへの自分ごと化に向けて従業員向けに「未来をつくるパスポート」というポケットサイズの冊子を配布しています。「未来をつくるパスポート」とは、毎年1回、取引先販売員を含む全ての従業員一人ひとりに3つのThinkとSDGs17の目標とのつながりなどについての教育を実施した後、業務と私生活でサステナブルな社会の実現に貢献できるようなアクション宣言をしていただいています。
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ご来店いただくお客さまには、お取り扱いする商品が「どのように」環境に良いから、お客さまの購買選択がサステナブルな社会の実現に貢献するかを、分かりやすく伝えることが求められていると考えています。例えば、環境配慮の認証を取得している商品を取り扱うだけではなく、「どのように」配慮されたから認証を取得しているのか、その商品の背景をしっかりと発信することが必要だと思っています。
池本氏:
また、我々はごみゼロ百貨店を目指しています。ごみゼロとは、事業活動で発生する廃棄物の最終処分、要は焼却・埋め立て処理される廃棄物をゼロにすることです。ごみゼロ百貨店を目指すにあたって、廃棄物集積場を捨てやすい、分別しやすい環境に整備することと、取引先の販売員一人ひとりに分別ルールを正しく理解していただくことを重視しています。
具体的には、売場単位で実施する朝会で、分別ルールについて説明したり、出店いただいている各ショップに1枚ずつ分別ガイドを配布したりしています。例えば、レシートは禁忌品で一般的にはリサイクルができない紙なので「可燃ごみ」に捨てる、包装紙や手提げ袋はリサイクルできるため紙資源なので「リサイクルできる紙」へ捨てるなど、具体的に「何をどこに捨てるのか」「何をどこには捨ててはいけないのか」を提示することで正しい分別に誘導するよう努めています。
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伊藤氏:
2024年夏には「紙ごみリサイクル率向上マニュアル」を制作しました。2024年9月からは、重点店舗を4店舗設定し、実際にリサイクルできる紙資源を中心にどのような資源が「可燃ごみ」に誤って混入しているのかをごみ袋を広げて調査し、分別精度の向上に向けた施策を効果検証しながら進めています。
廃棄プラの資源循環とバイオマスプラスチック導入の取り組み
その他、サステナビリティに関する取り組みがあれば教えてください。
池本氏:
服が納品される際に、服を保護するためのビニールカバーは通常焼却されています。その解決に向け、廃プラを活用するプロジェクト「POOL PROJECT TOKYO」に、大丸東京店、松坂屋上野店が参画しました。仕組みとしては、物流会社の浪速運送が当社を含む首都圏の複数の商業施設から効率的に回収し、マテリアルリサイクルする形です。回収されたカバーはマテリアルリサイクルされ、プラスチック製の緩衝材のプチプチになります。
また、食品用レジ袋は、バイオマス30%配合しており、使用抑制のために有料化しております。食品用のレジ袋の収益の一部は森林保全の団体などに毎年寄付しています。それから、ギフトラッピングやお歳暮、お中元の熨斗をバイオマス配合のプラスチックフィルムへ切り替えたりとバイオマス化を進めています。
さいごに
カーボンニュートラル、サステナブルな社会の実現に向けてメッセージをお願いします。
伊藤氏:
当社は小売業ですので、まずは取引先に働きかけるということ、そして生活者への啓発が重要です。脱炭素をはじめ、ネイチャーポジティブやサーキュラーエコノミーの実現に向けて、取引先や生活者と共になって取り組みを進めることで、サステナブルな社会の実現に寄与していきたいと考えています。
池本氏:
輪を広げるためには、共創していくことが重要だと思います。例えば、大丸東京店では、現在リサイクルができずに焼却されているプラスチックが一定量あります。これを東京店1店舗だけで資源循環させようとすると、物流やコストに多くの課題があります。他の百貨店や商業施設と共創することで、スケールメリットを生かして、それらの課題の解決になると考えています。
GHG排出量削減も1社のみではなく、取引先に働きかけ、サプライチェーン全体で脱炭素の輪を広げることで、脱炭素社会の実現に貢献していきます。
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