2021年度で日本のDXはどこまで進んだのか?
ここ数年で、「DX(デジタルトランスフォーメーション)」という言葉を耳にする機会が明らかに増えました。DXとは、デジタルを活用した業務プロセスや事業モデルの変革を指すものです。
言葉や概念こそ広まっているものの、日本企業は実際にDXの実現を推進できているのでしょうか。今回は、2021年度の日本企業のDXへの取り組み状況をまとめたデータを参照しながら、DXの実態を紹介します。
DX推進状況の実態
まずは、どれほどの日本企業がDXを進められているのか、どんな企業がDXに積極的なのかについて、調査データをもとにご紹介します。
◆DXの推進状況
電通デジタルが実施した「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)」(※調査期間は2021年9月29日~2021年10月8日、調査対象者:従業員数500人以上の国内企業所属者、3,000サンプル)によると、DXに着手している企業は81%にのぼります。ちなみに「完了済み」が11%、「複数の領域で取組中」が39%、「一部の領域で取組中」が24%、「計画策定中」が8%というものでした。同調査の2020年度版で着手している企業は74%だったため、着実にDX推進企業が増えてきていると言えるでしょう。
このデータだけを見ると、日本企業で順調にDXが推進されているように見えます。しかし、帝国データバンクが実施した「DX推進に関する企業の意識調査」(※調査期間は2021年12月16日~2022年1月5日、有効回答企業数は1万769社)を参照すると、「DXについて理解し、かつDXに取り組んでいる」企業は15.7%にとどまりました。
また、「DXの意味を理解し、取り組みたいと思っている」と答えた企業も25.7%ということから、DXについて理解はしているものの取り組むことに意欲的でなかったり、そもそもDXについて理解が進んでいない企業もまだまだ多かったりすることがわかります。
調査によってこうした違いが生まれる理由については、前者の調査の対象者が「従業員数500人以上の国内企業所属者」であることが挙げられるのではないでしょうか。つまり、従業員500名未満の企業ではまだまだDXが進んでいないと考えられます。
◆どんな企業がDXに取り組んでいるのか
業界別では、金融やサービス業(情報サービスなどを含む)でDXが進んでおり、建設や農・林・水産での推進率が低い結果が出ています。(参照:「DX推進に関する企業の意識調査」)
伝統的な金融業界がDXに積極的であるのは、一見意外に映るかもしれません。しかし、たとえば株式会社りそなホールディングスは、他の金融グループとバンキングアプリの共同開発を行ったり、新型タブレット端末を用いた店頭業務改革に着手したりして、経済産業省と東京証券取引所が選ぶ「デジタルトランスフォーメーション銘柄(DX銘柄※)2021」に2年連続で選定されています。
※「DX銘柄」とは、東京証券取引所に上場している企業の中から、企業価値の向上につながるDXを推進するための仕組みを社内に構築し、優れたデジタル活用の実績が表れている企業を選定するもの
DXの施策内容
DXといっても、具体的にどのような施策や変革を行っているのでしょうか。「DX推進に関する企業の意識調査」によると、「オンライン会議設備の導入」、「ペーパーレス化」、「テレワークなどリモート設備の導入」といった、DXの初期段階にあたる施策を推進できている企業は多いようです。
こうした施策については、新型コロナウイルス感染拡大に伴い、リモートワークやオンライン商談・会議が広がる中で、実際に体験したビジネスパーソンも多いことでしょう。
しかし、「既存製品・サービスの高付加価値化」や「新規製品・サービスの創出」、「ビジネスモデルの変革」といった本格的な DX に取り組むことができている企業は、3社に1社ほどの割合にとどまっています。(参照:「DX推進に関する企業の意識調査」)
DXとは、単にデジタルのツールやデータを活用することだけでなく、業務やビジネスモデル、組織構造、企業文化などを変化させる広範な変革を意味するからこそ、既存業務の置き換えにとどまらないDXの推進は、どの企業でもまだまだ課題のようです。
DXを推進できている企業の特性
では、DXを推進していくにあたって、重視すべき事項とは何なのでしょうか。「日本における企業のデジタルトランスフォーメーション調査(2021年度)」内で興味深いデータがありました。
それは、DXをすでに推進しており成果を実感できている企業ほど、DXにまつわる「ミッションやパーパスの制定」ができているということです。つまり、「DXを通して何を実現したいのか」、「顧客に対して何を提供できるようになるのか」、「DXに取り組むことは自社にとってどんな意味があるのか」を、経営層が明確に言語化して示し、それが社員に浸透しているということになります。
DXにおいては、慣れたやり方を脱却して新しい方法を模索しなければならないシーンも多く、面倒なものです。それでも、現状維持ではなく改革に取り組むことが大事だと社員が認識して、通常業務と並行してDXを進めるためには、やはりミッションやパーパスが重要なのです。目指すゴールが明確でメリットが期待できるからこそ、社員は優先順位を上げてDXに取り組むことができるからです。
DX推進を阻む壁
DX実現のためには、前提として「ミッションやパーパスの制定」が大切であることがわかりました。これらは、経営層の意識しだいで取り組むことができるかもしれません。しかし、結局DXを推進していくのは現場の社員であり、中小企業を中心に悩みの声は尽きません。
というのも、「DXに取り組む上での課題」という問いに対して、多くの企業が「人材やスキル・ノウハウの不足」を挙げているからです。また、「DXに対応する費用が無い」といった課題や、「そもそも何から手を付けていいのかわからない」という声も聞かれました。(参照:「DX推進に関する企業の意識調査」)
DX推進チームを組成するなど、けん引役を決めて進めていくのが理想ですが、DX周りの経験が豊富なメンバーは社内になかなかいません。だからこそ、DX推進を支援する事業者のサポートを活用し、ノウハウの提供を受けたり相談したりしながら進めていくことが理想でしょう。
一方、費用面を理由にDXの推進に消極的であったり、「そもそも何から手を付けていいのかわからない」あるいは「自社でDXを推進する必要があるのかわからない」といった企業においては、まず「DX推進をしない場合、数年後に起こりうる損失」がどれほどあるかを洗い出すことが必要ではないでしょうか。その結果しだいで、今思い切って投資をすべきかどうかの意思決定ができるはずです。
「顧客のニーズに応えるため」、「既存の業務フローにおいて課題があったため」、「労働人口が減少する将来を見据えて」、「漠然とした危機感を感じたため」など、企業がDXに取り組み始めるきっかけはさまざまです。ただ、誰もが納得できるようなDX推進における「ミッションやパーパスの制定」ができていて、かつ「誰が何に取り組むか」といった役割分担が明確になっている企業では、確実にDXが進んでいます。
最近では取り組み事例や成功事例も増えており、「【業種・業態・業務の種類など】 DX事例」などのキーワードで調べると、各社の取り組みの概要や、取り組みに関わった関係者の声などを参照することができます。こうした事例が表にたくさん出てくるにしたがって、中小企業を含めた多くの企業がDX推進の必要性やメリットに気付き、経営戦略上や業務上での優先順位を上げてDXに取り組めるようになると予想できます。
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