デジタルサステナビリティとは?デジタルがもたらす環境と社会への影響|脱炭素DXレポート #11
いま「デジタルサステナビリティ」や「サステナブルWEBデザイン」という言葉が、欧米のWEBサイト制作エージェンシーをはじめ、デジタル業界を中心に注目され、ガイドライン整備などが始まっています。
今や、私たちの暮らしやビジネスに欠かせないデジタル。デジタル業界やクリエイター職はもちろんですが、業界・職種を問わず、デジタルをどう活用するかはとても重要なテーマだと思います。
本レポートでは、デジタルを活用する上で今後押さえておくべき「デジタルサステナビリティ」の概念や、それが求められる背景について解説していきます。
デジタルサステナビリティとは
まず、デジタルサステナビリティという言葉には、2つの意味が含まれていると考えています。
前者の「Digital for Sustainability」は、サステナビリティを追求するためにデジタル技術を用いることを意味します。例えば、サーキュラーエコノミーの実現に寄与すると考えられている「デジタルプロダクトパスポート」が挙げられるでしょう。製品の製造から廃棄までのライフサイクル全体に関する情報にサプライチェーン全体の関係者がデジタル上でアクセスできるようにすることで、製品の透明性を担保し、製品の修理や再利用、環境負荷物質の使用抑制を促すとされています。
そのほかにも、環境保全のモニタリングにAIが活用されたり、カーボンオフセットの管理にブロックチェーン技術が使われていたりします。より身近なところでは、カーシェアや家具のサブスクリプションサービス、ECサイト上での洋服のVR試着なども、環境負荷の低減や資源循環の促進にデジタルが活用されている例だと思います。
後者の「Sustainable Digital」は、サステナブルなデジタル、つまり「デジタルそのもののサステナビリティを追求しよう」という概念です。ここからは後者のデジタルサステナビリティに焦点を当てていきましょう。
なぜ、デジタルそのもののサステナビリティが求められるのか?
そもそもデジタル自体のサステナビリティを追求する必要性はどこにあるのでしょうか?その背景を考察していきます。
デジタル世界が一つの国家なら、温室効果ガス排出量は世界第4位。
「デジタル」というと、物質的なモノに頼らず、なんとなく「エコ」なイメージを持ってしまいがちですが、実はデジタルがもたらす環境負荷は莫大です。デジタルを支えるICT(情報通信技術)の製造から輸送、利用、廃棄に至るまで、ライフサイクル全体における温室効果ガスの排出量は世界全体の排出量の1.8% ~ 2.8%を占め、国に例えるなら世界で4番目に相当すると言われています。
また、世界のデータは2年ごとに2倍になっていると言われており、「新しい石油」とも表現されるほどです(『The real climate and transformative impact of ICT: A critique of estimates, trends, and regulations』)。
5GやVR・AR、AI、ブロックチェーンなど次々とデジタルテクノロジーが進歩していくことによって、その環境負荷は加速度的に増えていくでしょう。
データはまるで使い捨てプラスチック?
増大し続ける世界のデジタルデータ量ですが、Active Archive Allianceの2018年のレポートによると、デジタルデータの80%は、保存された後はアクセスまたは再利用されることがないそうです。Gerry McGovern著の『World Wide Waste』)においても「Most data is like single use, throwaway plastic.(たいていのデータはまるで使い捨てプラスチック。)」と、データの無駄について厳しく言及しています。
無料アプリをダウンロードしてみたものの、数日後には使わなくなってそのまま放置していたという経験がある方も多いのではないでしょうか?
Digital is Physical.
環境負荷はデータ上だけではありません。世界では年間5,000万トンもの電子・電気廃棄物(e-waste)が排出されていると言われています。その重量はこれまでに製造されたすべての民間旅客機よりも重く、このうち正しくリサイクルされるのはわずか20%だそうです。
こうしたe-wasteの問題に対して、デジタル・サステナビリティを追求しているイギリスのデジタルエージェンシーwholegrain digital社は「the digital world is not “virtual” or “in the cloud”, but very much real and physical.(デジタル世界は、仮想でもクラウド上でもなく、極めて現実的で物理的だ。)」と表現し、ハードウェアによる環境負荷を軽減させるソフトウェア開発を探究しています(wholegrain digital『Can software and web design reduce e-waste?』)。
私たちのスマートフォンのなかにあるさまざまアプリケーションやソフトウェア、日々の検索で閲覧するWEBサイトは、データセンターや通信ネットワークなどのハードウェアやそれらを稼働させるエネルギーに支えられています。その膨大な環境負荷を鑑みると、「環境負荷が少ない名刺は紙か、それともデジタル名刺か。あるいは、音楽を聴くならストリーミングかCDか。」といった、物質と非物質の狭間の問いに答えるのは容易ではなく、デジタルサービスにおいてもライフ・サイクル・アセスメント(LCA)等に基づく検証・判断が必要なのです。
環境面だけでなく社会的な側面も。
デジタル・サステナビリティにおいて着目すべきは、環境の側面だけではありません。デジタルが及ぼす社会的な影響にも目を向けることが大切です。
例えば「デジタル・デバイド」。インターネットなどの情報通信技術(ICT)やスマートフォンなどのデジタル機器を持つ人と、持たない人の間で生まれる情報格差のことです。その要因は、収入やリテラシーの低さ、ITインフラの不足、精神的・身体的障がいなどさまざまです。気候変動による異常気象の発生時の災害情報や避難情報など、情報を本当に必要とする人に正しい情報が行きわたるようにするなど「デジタル・インクルージョン(Digital Inclusion)」の考え方が欠かせません。
また、デジタルサービスが偏見や差別を助長する危険性にも十分に注意する必要があります。画像検索サイトで例えば「家事」や「看護師」を検索すると女性の写真が多く出てきたり、画像生成AIで「beautiful woman」と検索すると白人女性の写真が多く生成されたりします。このように、デジタル世界においても実社会の差別や偏見が反映されていたり、デジタルサービスによって人々のなかに無意識のうちに先入観やバイアスが形成されていたりする可能性があるのです。
デジタルをつくっているのは誰か?
その背景として考えられるのが、デジタルサービスを生産する過程におけるジェンダー不平等や多様性の欠如です。世界経済フォーラムの調査によると、情報通信技術(ICT)分野の卒業生の男性の割合は女性の卒業生より4.8倍で、テクノロジー関連の労働者は男性が圧倒的に多く、技術職や指導的役割の大部分は男性が担っています。世界のAI専門家に占める女性の割合はわずか22%で、デジタル産業において大きなジェンダーギャップがあることが明らかになっています。
誰もが安心して快適にデジタルサービスを享受するために、デジタルビジネスを行う事業者には、こうした社会的な観点の配慮も不可欠です。
おわりに
ここまで見てきたように、デジタル技術はいまやサステナブルな社会の実現に欠かせない存在である一方、デジタルが引き起こす環境負荷や社会的な影響は無視できません。
カーボンニュートラルやサステナブルな社会の実現には、デジタルそのもののサステナビリティを実現させながらデジタルを活用していくことが重要です。では具体的には、どのような取り組みを行うことで、デジタル・サステナビリティを実現できるのでしょうか?
別編にて、具体的な手法として「サステナブルWEBデザイン」という考え方やその事例などを紹介する予定です。お楽しみに!
デジタルビジネス運用を主な事業とするメンバーズでは、デジタル・サステナビリティを追求するためのご支援を行っています。環境にもユーザーにも社会にもよい、なおかつ持続的なビジネス成果に繋がるサイト運用や広告運用などにご関心のある方はお気軽にお問い合わせください。
≪ メンバーズへのお問い合わせはこちら ≫
【追記】「サステナブルWebデザイン」ガイドライン公開中!
2023年12月、メンバーズ作「サステナブルWebデザイン」ガイドラインを公開しました!デジタルサステナビリティの実現の第一歩としてぜひご活用ください。
メンバーズではデジタル・サステナビリティをテーマとしたワークショップや、自社サイトの環境負荷軽減に向けた取り組みなども行っています。
▼ サービスのご紹介
≪ メンバーズへのお問い合わせはこちら ≫