「食に関する社会課題をビジネスで解決する」 オイシックス・ラ・大地:Social Good Company #22
※この記事の情報は2018年09月28日メンバーズコラム掲載当時のものです
オーガニック、無添加食品の宅配事業を行う、オイシックス・ラ・大地株式会社。
「食をつくる農家の方々が報われ、誇りを持てる仕組みを作り、食をつくる人と食べる人とをつなぎ進化させ、持続可能な社会を創る」、創業時からのそうした想いは、1つひとつの商品やサービスにより具現化されていると言えるでしょう。今回は、執行役員の奥谷 孝司さまにお話をうかがいました。
2000年の創業以来、会員数は加速度的に増加、現在は16万人(オイシックス単体)を超える。
3ブランドの力によって、日本でオーガニックという市場を創り、根付かせる。
生産者である農家を守り、健康づくりにも貢献、日本の食をより良いものへ。
● オイシックスさんは、生産者である農家の方々とともに、食の安全に対して、徹底的にコミットメントしています。もともとどういった理念から会社をスタートしていますか?
私たちは、これからの食卓、これからの畑、という企業理念を持っています。より多くの人がより良い食生活を楽しめるようにするということです。
また、食を作る人が報われて誇りを持てる仕組みを作ること、そして、食べる人と作る人をつなぐ方法を私たちは進化させ、持続可能な社会を作ることです。
最終的に、食に関する社会課題をビジネスの手法で解決することが、現在の会社のコンセプトとなります。
2000年に社長の高島が、ネットで野菜を買うという取り組みを始めてから事業展開をしてきていますが、安心できる食材を一般の家庭でも手軽に食べられる未来を作りたいという想いが原動力なように思います。
● 高島社長は、もともと食に関するお仕事や農家の方々とのネットワークをお持ちだったのですか?
まったくネットワークもないなかでスタートしています。創業時は全員が20代独身男性と、食に関しては素人が始めたビジネスでした。
将来は安心できる食のネット販売は意味のあることになるだろうと、つまり安心の食を普通にストレスなく、買い続けられる仕組みを作りたいということで、有機野菜の販売からスタートしました。
最初は農家の方々に色々と教えていただきながら、少しずつ契約農家の方々を増やし、2000年6月にOisixのサイトをオープン、2002年には黒字化を果たしました。この頃から、野菜のヒット商品が生まれています。不揃い野菜に焦点を当てたり、絶滅品種の野菜をリバイバル・ベジタブルとして販売をしました。
また、最近は、野菜のブランド化が進んでいます。特定農家の方が生産したさくらんぼ や小松菜等です。そうした商品の取扱いにより、野菜販売にマーケティングの視点入れました。単なる有機栽培のきゅうりとは異なる訴求をして、少しずつ売上を伸ばしました。
しかし、幸か不幸か、Oisixへの注目度が上がってきたのは、東日本大震災により、日本の食の安心・安全がより求められたことがきっかけとなっているように思います。消費者の意識が高まったことにより、私たちの価値も認められたということです。
大地を守る会や、らでぃっしゅぼーや等と統合する理由は、数百億規模の会社がそれぞれビジネスをするよりは、まさにこれからの食・これからの畑を考え、みんなで一致団結して進めていこうということです。
● 各社、経営理念は共通していると思いますが、今後は、ブランド統合等の計画もありますか?
ブランドには、それぞれ昔からのお客さまがいらっしゃいますので、当面はそれぞれのブランドがこれまで通り、進めていきます。
Oisixは、時短をテーマに忙しいお母さん達を対象に、安心・安全なものをクイックに食べられることを目指しています。また、大地を守る会は、子育てが終わった夫婦世帯に対象にしていますし、らでぃっしゅぼーやは、野菜も素晴らしいですが、化学調味料不使用のトマト・ケチャップ等、加工食品にも強みを持っています。
それぞれの得意な領域を分けて、お互いが将来の食と畑を考えられる企業になっていこうということは一致しています。それによって、自分達も成長し、食に関する社会課題をより多く解決していきたいと考えています。
● らでぃっしゅぼーやは、配達員の方が、提供している野菜にも詳しいし、野菜好きな方が多いと感じます。
Oisixはヤマト便での配達ですが、大地を守る会、らでぃっしゅぼーやは、自社便で配達をしているため、ドライバーが営業マンの役割を果たしています。店舗を持たないため、そうしたコミュニケーションはとても重要です。
カタログやネットで野菜を買う場合、お客さまの左脳を刺激する必要があると考えています。普通の野菜は、近所のスーパーでも手軽に手に入れることができますが、この野菜はこうやって作られている、こうした農家さんが作っている、といったことで脳を刺激することが重要です。
日本ではオーガニック商品や、特保の商品も少しずつ広がっています。そして、そうした商品を購入する消費者ほど、自分の消費行動が社会にどのような影響を与えているのかを意識していると考えています。また、オーガニック食品は、その考え方が進むヨーロッパでも、環境に良いという理解はありますが、健康にも良いという認識が低かったりします。
私たちは、お客さまに対して、1日3回に食を通して接点を持つことができます。その1日3回のチャンスのなかで、食への意識を高める取り組みをしていきたいと思います。
● 社員の方々も食に関する意識の高い方が多いのですか?
社員には食のプロも多いし、農家さんへの想いも強い方が在籍しています。しかし、何よりも社会課題を解決したい、新しいことに挑戦したいという人材が多いと思います。
また、店舗を持たないなか、どう顧客を理解するかを徹底的に考えていますので、問題解決思考が高くてパワフルな人が多いと言えます。
● 社会課題を解決する商品を扱うことでは、右脳への訴求はとても重要かと思いますが、ロジカルシンキングでありながら、そうしたことも兼ね備えているのですか?
基本はネットビジネスですので、ロジカルに考える必要があるため右脳センスが特別高いとは思いません。利益を出すことが難しい野菜を販売し、高い利益率を出すのは、徹底的に考える力があってですが、食のおいしさを担っているのは農家さんです。
● Oisixさんは、農家さんと一緒に右脳でコクリエーションしていると言えます。
まさに、そういうことかと思います。
エクセレント・ファーマーとつながり、弊社の目を通して、私たちがダイレクトにお客さまに届けることが、私たちのミッションだと思います。
そして、大量生産ではない契約農家さんとの長期的な取り組みにより私たちのビジネスは成り立っています。
● 農家の方にも喜んでいただける仕組みです。
毎週6~7万世帯のお客さまに商品を買っていただいていることから、野菜通販に取り組んできて理解したことは、逆算してものづくりができるためロスが少なく、環境にも良いと言うことです。
また、客寄せのために、大量の野菜を特売するわけでもありません。適性価格により、きちんと商品をお届けすることが重要です。
ついで買い等で売上を上げることは難しいのですが、安定して買っていただけるのは、食材の良さがあってのことだと考えています。
● 食材の美味しさに加えて、Oisixさんがやられているビジネスの共感性が高いからこそ、お客さまに継続していただけているのかと思います。
共感ということでは、大地を守る会で、つい最近も100万人のキャンドルナイトのイベントを開催していますが、お客さんもイベント運営に参加していただいています。都内で定期的に開催するイベントでも、実行委員長を務めるのはお客さまだったりします。良いブランドは良い意味で宗教に近い熱狂を持っているのかもしれません。
大地を守る会は、より生産者想いで、生産者のためにというのを徹底していますので、お客さまを消費者と呼んでいます。
わたしたちの会社が、大地を守る会や、らでぃっしゅぼーやと一緒になり、力を合わせることで、日本国内のエクセレント・ファーマーと私たちの3つのブランドで、つながりは広がり、強まったと言って良いでしょう。
● 現在、契約農家さんはどのくらいですか?
現在は、3ブランド併せて、数千にのぼります。今後、3ブランドの力によって、日本でオーガニックという市場を創る、もしくは根付かせることができると考えています。
● 日本では、オーガニックが海外と比べるとあまり広がっていません。
私たちが扱う野菜が高いという人もいらっしゃいます。また、飽食の時代において、今の日本は、500円で満腹になることができます。豊かになればエンゲル係数は下がるものとされてきましたが、私は今後先進国がエンゲル係数を上げるべきだと思います。食の安心・安全を農家さんが担いながら、日本人は日本のものを食べることが重要です。
日本の過剰な品質管理、大量のフードロスも問題になっています。誰の口にも入らない多くの食品が廃棄されていることを考えると、食糧自給率ももっと高めることができると思います。
そのためには、ネット販売に加えて、店舗も整備しながら、お客さまとの接点を拡げていきたいと考えています。
● 接点を拡げる具体的な取り組みを教えてください。
たとえば、Oisixのサイトでは、大地を守る会で取扱う野菜や、らでぃっしゅぼーやのトマト・ケチャップやソースが購入できます。現在は一部の商品に留まっていますが、今後はもっと充実していきたいと考えています。大地をの守る会のお肉も美味しくて本当にオススメです。
また、3社の人材交流も積極的に進めていますので、Oisixのネットに強い担当者が他ブランドで新規獲得に関わったり、私が所属する統合マーケティング部門では、すべてのブランドのマーケティング施策を考えています。
● 目指す方向性が一緒のため、統合しても進めやすいですね。
食というテーマのもとに、みんなが集まっていますので、手法は異なりますが、社会課題を解決したいという考え方を持っている社員が多くを占めています。
● 会社の存在意義が重視されるなかで、社員がその価値を共有できていると思います。
社長の高島が、ネットで売ることがもっとも難しそうな野菜を売ることからスタートし、現在では、複数の会社を経営統合しましたが、これからの食卓、これからの畑というテーマを持ち続けることは、意義あることと考えています。
● 話は変わりますが、奥谷さんがOisixへ転職された理由を教えてください。
前職では衣住に関わりましたが、食に関わることはできませんでした。そして、ネットで食を売ることにチャレンジしたい、新しいことに取り組みたいという考えから転職に至りました。
リアルの会社がネットをどう使うのかは経験しましたが、ネット企業がリアルビジネスをどうやるのかに挑戦してみたいということです。今後はネット企業がリアル企業を攻める時代が来ると感じています。
また、食はデータの塊でもあります。1日3回のチャンスが訪れるそのタイミングでデータを取得し、そうしたデータから、これからの食卓・これからの畑 というテーマに貢献したいと考えています。
● 店舗展開は今後も積極的に進められますか?
これまでもリアル店舗を色々と展開していますが、うまくいってない店もありますので、お店のリモデリングを進めたいと考えています。大手スーパーのように、上手な売場作りはできませんが、お客さまの帰宅導線やオフィス導線に入りこむことで、ブランド接点を増やしていきたいと考え、移動販売店舗の取り組みも進めています。
一方で、店で取扱う商品は、限られている方が良いと思っています。ミールキットだけ、大地を守る会の野菜だけ、らでぃっしゅぼーやの加工食品だけを売るような店で、会員になっていただくきっかけを作りたいと思います。
私たちの役割は、オフライン to オンラインであることが、コアコンピタンスと考えています。儲かるお店を作っていきたいと思っていますが、普通の野菜はどこでも買えますし、ついでに買ったりすることもあります。しかし、そうした買い方をするには、私たちが扱う野菜は少し高価です。
オフィスの前にもPOPUP店舗を出し、帰宅導線に入って、買い物3分、料理20分を訴求するミールキットを提供するなど様々な実験を行なっています。実は、ミールキットを購入していただいているお客さまは、Oisix会員の半数に達しています。料理にあまり時間を掛けられないお客様が、ミールキットを使うことによって時間を有効に使える、食べたことがないメニューを食べることができるようになります。
惣菜を買うよりは、Oisixの商品ですので、安心・安全ですし、まずはミールキットを買ってみようと思わせるマーケット作りをしています。
● ミールキットのご説明をいただけますか?
特定のメニューを作ることができる、あらかじめ下ごしらえした野菜等の食材をセットで販売しています。
より多くの人に料理の機会を提供したい、また、今日の料理、何を作ろうと毎日考えることは大変です。外食ではなくて、今日は何を食べよう?という感覚で選んでいただければと思っています。また、野菜を美味しくいただくために、ナスや葉モノの野菜は下ごしらえをしていません。忙しくてゼロから料理するほどの時間はありませんが、惣菜を買うには罪悪感がある、その間の層を狙っています。
● それはまさに社会課題解決ですね。
まさにミールキットはソーシャルプロダクトと言えると思います。当然ながら食材も無駄にしませんし、ゴミも出ません。
● 安心で美味しいものを短い時間で家族に食べさせることができるという、働くお母さんたちのニーズをポジティブに解決しています。
ミールキットのメニューはその家庭に残りますので、その後は、その家庭でアレンジしたり、味付けを変えたりすればいいわけです。料理の機会を提供することに加えて、20分で料理を終えて、食卓の時間を長くとっていただきたいという想いも込められています。
昔から、料理は、母から娘へ引き継がれていましたが、ミールキットを通して、プロフェッショナルから学ぶ場を提供したいと思います。料理初心者もミールキットの食材とレシピを見て、料理方法を学ぶことができます。
● 単に調理時間を短縮する簡単・便利以外の価値も提供しているところに価値があります。
料理の工程を楽しんでいただくことを重視しています。家庭で料理をしないと、外食か惣菜を買うことになりますが、そうなると不健康になります。つまり、料理をする人が増えることは良いことであると思っています。
ミールキットは、新しいジャンルの商品ですし、なかなか手に取っていただけることが難しい商品ですので、渡部建さんとのコラボレーションのように、様々なメニューを開発し、認知を広げ、社会的にも拡げていくべき商品だと思います。
今は店舗の一部にコーナーを設けて、積極的に販売していますし、オフィスの社員食堂での販売実験もしています。私たちのリアルの店舗作りは、巨大なスーパーを作るのではなく、お客さまのニーズがあるところに、小さなスペースでもたくさんの接点を作り、興味を持っていただくことだと私は考えています。
手に取って美味しいと思っていただいたら、会員になっていただく、そして、ご自分で料理を作る機会が増えればと考えています。
● Oisixさんも含めた、3社の売上が伸びることによって、日本も食も良くなります。
食に関することであれば、確実にそう言えると思います。生産者である農家さんも守れることになりますし、健康づくりにも貢献できるかと思います。
私たちは、リアル店舗でナンバーワンのスーパーになる必要はありません。ビジネスのコアコンピタンスはネット販売ですので、ネットにつげるリアルのタッチポイントを増やすことで、売上を伸ばしていきたいと考えています。
※この記事の情報は2018年09月28日メンバーズコラム掲載当時のものです
この記事を読んだあなたへのおすすめ
▼ セミナー/ホワイトペーパー(無料公開)
≪ メンバーズへのお問い合わせはこちら ≫