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「水産資源をサステナブルな再生資源として」 イオンリテール × MSC(海洋管理協議会):Social Good Company #25

※この記事の情報は2019年01月08日メンバーズコラム掲載当時のものです

健康志向の高まりにより、世界的に消費量が増加しているシーフード。しかし、日本人にとってなじみ深いニホンウナギやクロマグロは、絶滅の危機にさらされています。

こうしたシーフードを将来にわたり持続可能な水産資源として利用することを目指しているのが、海のエコラベル MSC認証。最近では、このラベル付き商品を店頭でも見掛ける機会が増えてきました。

今回は、その日本での認証プログラムを提供する認証機関とその認証商品を10年以上前から販売する流通業の方々にインタビューの機会を頂きました。

  • 昨年度、イオンで販売したMSC認証のシシャモは前年比で倍近くの売上を達成

  • MSC認証を取得した北海道のホタテは魚価も上昇、海外からの引き合いも増え、環境配慮商品として付加価値を提供

  • 国内水産業者のMSC認証の関心の高まりは、持続可能なシーフードを求める海外からの声が要因

<インタビューにご協力いただいた方々>(以下、敬称略)
● 
イオンリテール株式会社 商品企画本部 水産商品部長
松本 金蔵 さま(右)
● MSC(Marine Stewardship Council 海洋管理協議会) プログラムディレクター
石井 幸造 さま(左)

● はじめに、海のエコラベル MSC認証のご紹介をお願いします。

石井:世界的に水産資源が減少傾向にあるなかで、MSCの認証は解決策の1つになります。

私たちが進めているのは、持続可能で適切に管理された漁業を第三者の審査機関が審査し、審査を踏まえて認証された漁業で採られた水産物にMSCのラベルをつけ、ラベルをつけた商品を小売企業や飲食店で提供していただきます。そして、ラベルのついた商品をより多くの消費者に選んで頂くことで、そうした商品のマーケットが拡がっていき、それが漁業者の持続可能な漁業に向けた取り組みに対するインセンティブに繋がる取り組みです。

● MSC認証はいつからスタートしている仕組みですか?

石井:1997年からロンドンを本部としてスタート、日本事務所ができたのは、2007年です。世界で認証を取得している漁業は、2018年11月時点で360ですが、これら認証漁業による水揚高は世界の天然魚漁獲量の約1割を占めています。

国内は、北海道のホタテガイ漁業と宮城県塩釜市のカツオとビンナガの一本釣り漁業など3つの漁業が認証を取得しています。

それ以外にも、認証取得を目指し審査に入っている漁業が2つあります。最近では、本格的な審査に入る前の予備審査を行う漁業の数も増え、昨年あたりから日本の漁業者の認証に対する関心も急速に高まっています。

● 関心が高まっているその要因は何ですか?

石井:水産物を扱う企業の方々が水産資源に対して、危機意識を持ち始めたことが要因の1つです。自らのビジネスを継続するには、持続可能な漁業からの供給が必要であるという認識が浸透してきました。

2つ目の要因として、国内でSDGsが注目され始めていることが挙げられます。MSCの場合は、特に目標14の貢献に繋がる取り組みということで、認証に関わる企業も増えています。また、SDGsと関連するESG投資への関心の高まりもあるでしょうし、2020年の東京オリンピック・パラリンピックでは、サステナブルな食材の調達がテーマに1つになっていることも要因かと思います。

● そういった意味では、MSC認証にとって、外部環境は追い風と言えます。

石井:水産物を取り扱う関係者に加えて、消費者の関心も高まってきていますので、良い機会であると考えています。

● イオンリテールさんには、まず水産商品部の役割から教えて頂けますか?

松本:水産商品部では、イオンリテールの本社として、イオングループ会社への商品供給とトップバリュ商品の開発、イオンリテールの各エリア支社への施策方針の立案の3つが挙げられます。

特に、MSC、ASC認証(※1)を取得した加工品は、私たちが先頭に立ち指導していかないとなかなか商品化に結びつきません。つまり、私たちが設計を行い、漁業者の方々と商品作りをしているといった役割で、1番苦労していることです。

● イオンさんでは、MSCの日本事務所が開設前から、しかも、10年以上も前からこうした取り組みを行っていることは驚きです。

松本:私たちは、大手の小売業として日本で初めてMSC認証商品の販売をしています。その当時から、私たちは、天然資源である石油や石炭は枯渇資源ですが、同じ天然資源でも、水産資源は再生資源あると考えていました。

2006年当時から、水産資源の陰りが見え始めた時期でした。そうしたなか、水産資源も枯渇してしまう時代が来てしまうのではないか、そう考えて会社として、MSC認証の商品販売の意思決定をしたのがきっかけとなります。

● 2006年にその意思決定をされたというのは、とても先進的な取り組みです。

松本:MSCに加えて、ASC認証※1商品の取り扱いもしていますが、それ以前から、水産物の履歴をきちんと管理することも進めていました。

● 履歴というのは、トレーサビリティ管理ということですか?

松本:その通りです。水産資源に対しても、そうした取り組みを行っていました。消費者の方々へ提供する商品は、自らが責任を持たなければいけないという考えが、イオンという会社にはあるということです。

● 日本市場にMSC認証の水産品が登場して10年以上経過しています。世界の認証数を比べて、国内の認証漁業が3つに留まっているのはなぜですか?

石井:確かに認証数は少ないのですが、例えば北海道のホタテは、年間約30万トンの水揚げがあります。日本国内全体の漁獲量は、300~400万トンですので、認証のホタテだけでも1割近くを占めることになります。

欧米では持続可能な漁業で獲られた水産物の需要が非常に多いので、日本国内で獲れた水産物を輸出したい漁業者は認証に対する関心が高かったのですが、最近では国内でもイオンさん等の積極な取り組みにより認証水産物のマーケットが拡大しており、認証制度の認知度も高まっています。

松本:日本でMSC認証が拡がらない大きな要因の1つは、これまでの漁業法にあると言えます。ヨーロッパを中心に海外では、漁船の規模に応じて、獲れる量が定められています。漁獲量が限られていれば、サバを獲るにも、漁価の高い大きなサバを獲ることになります。小さなサバでも獲れば漁獲量に含まれます。そうなれば、漁価がつかない成長前の小さなサバは獲りませんので、それが結果的に持続可能な漁業に繋がっています。

しかし、日本はそうした規制がありませんので、MSC認証が国内で拡がらない要因は法規制のあり方にあると言えます。日本でもサンマ等、一部の魚には漁獲枠が決められていますが、まだまだ拡がっていません。また、日本は、アジ、サバ、サンマ等、一度に大量に獲れる多獲性の魚が多いということも要因として挙げられます。

● 海外は、海産物でもサステナビリティが重視されますが、日本国内では経済効率が優先されるということですか?

松本:日本国内では、これまで法規制がないことで、MSCが求める基準を満たせないということでしょう。しかし、ようやく日本でも水産改革ということで、70年ぶりに漁業基本制度が見直されました。

● 具体的な制度の内容を教えて頂けますか?

松本:改正のポイントはいくつかありますが、漁業の持続可能性の観点からは、水産資源の管理もMSY(maximum sustainable yield:最大持続生産量)、つまり、水産資源を減らさず、持続的に獲ることが可能な量の管理が挙げられます。

つまり、そうした国内でもそうした改革が実現すれば、日本の漁業もMSC認証を取りやすくなるのではないかと期待しています。

● これまでそうした法規制があったなかで、たとえば北海道のホタテは、どうしてMSC認証を取得しているのですか?

松本:1番の動機は、海外への輸出が挙げられます。海外が持続可能な水産物を求めているためと言えます。

●最近、日本産の農作物は美味しさの面から海外でも人気があります。北海道産のホタテも同様に美味しくて、さらにMSC認証によってブランド化されているということですか?

石井:欧米では、日本産の水産物の美味しさということで、ブランド価値が高いのだと思います。それに加えて、特にヨーロッパでは、サステナブルな水産物が求められていることが挙げられます。

松本:私たちも、MSC認証商品に対するヨーロッパの関心の高さを実感しています。北海道のホタテは、魚価も上がり、引き合いも非常に増えていますので、環境配慮商品としての付加価値を提供していると言えます。つまり、持続可能な水産物がヨーロッパを中心に求められています。

● 魚価を上げるための認証ということであれば、まさにサステナブルな取り組みがビジネス成果にも繋がっていると言えます。

松本:海外では、それぞれの水産物に応じたトップシーズンの時期にニーズがありますので、獲れる魚のサイズも必然的に大きくなり、当然ながら魚価も上がります。

しかし、日本では、シーズンや魚のサイズに拘らず、つまり日本の店舗には並ばない様な小さなサイズの魚も獲るだけとって、海外に輸出しているという漁業事業者も見受けられます。グローバルの観点からすれば、日本は非常に遅れていると言わざるを得ません。

石井:MSCの認証は、欧米で拡がり始めたのが、2006年頃ですが、そのきっかけとなったのが、ウォルマートさんです。

北米の店舗で販売する水産物を持続可能なものにしていくという発表で、他流通大手も追随したという背景があります。つまり、1997年にMSCの認証ができた約10年の2006年に欧米で拡がりはじめ、その10年後にやっと日本でも浸透し始めました。

そういった意味では、海外でウォルマートさんが取り組みについて発表した時期と同じタイミングでイオンさんが認証水産物の販売をスタートしたことは非常に先駆的な取り組みだったと言えます。

● こうしたサステナブルな商品の展開や消費者に認知度を上げるには、イオンさんのような大手流通業が進めソーシャルインパクトを高めていくことがとても重要です。店頭での消費者の意識や関心、販促宣伝の取り組み等は如何ですか?

松本:消費者の意識は大変高まっていること感じています。たとえば、MSC認証のシシャモは現在、世界に先駆けてイオンが買い付けをし、販売していますが、昨年度は前年の倍近くの売上がありました。また、昨年度、MSC認証の塩サバも、年間500万パック販売しています。

● MSC認証商品がこれだけ売上を伸ばしている要因は何ですか?

松本:シシャモであれば、MSC認証の商品は、卵率つまり、魚に占める卵の割合が高いという特徴があります。また、サバは脂が乗っています。つまり、認証によって漁を管理することによって、大きくて脂が乗った魚の漁獲に繋がりますので、食べ応えがあって美味しい。さらに、認証がない商品との価格差はほとんどありません。

● シシャモの認証有無による販売量の比較は如何ですか?

松本:明らかに認証商品の売上が伸びています。先程もお伝えしましたが、消費者の方々からの美味しいという声が非常に多くて、リピート購入に繋がっていると思います。私たちの役割は、MSC認証の商品は美味しいということを伝えていくことかと思います。

● イオンさんのような大手企業による消費者に対するコミュニケーションはとても重要です。

松本:私たちは、認証商品を1度に集めたフィッシュバトンという取り組みも60以上の店頭で行い、消費者の方々への啓蒙をしています。認証商品を水産物のマジョリティにしていくという想いで取り組んでいます。

そうした取り組みを積極的に行うことで、本年度のグリーン購入大賞 (※2)で農林水産大臣賞を受賞することができました。MSC認証商品の販売や消費者への普及啓発を通して、グリーン市場拡大への貢献、SDGs の目標達成への寄与が評価されました。

石井:日本企業は、様々な取り組みに対して、消費者の認知が上がらないからやらないといったことがこれまで多かったように思います。しかし、消費者の認知は、事業者が待っていても上がるものではありません。つまり、企業が消費者を啓蒙し、消費者に知って頂くことが重要です。

商品を通して消費者に問題提起をし、解決策を提供しているイオンさんの取り組みは素晴らしいと思います。

AEON Magazine vol.62より

● 特に欧米と比べると日本はオーガニックの市場規模は大きくはないですし、消費者の意識も低いと言わざるを得ません。

石井:特に私たち日本人にとって、水産物はあって当たり前と思われている商品ですから、持続可能な漁業への理解が進みにくいと言えるかもしれません。

● 消費者に知ってもらうには、MSC認証の魚が美味しいことを伝えることはとても重要です。

松本:私たちも、認証を取得した商品だから美味しいということを販促やプロモーションで伝えたいと思っています。

今では消費者にも浸透しましたが、ノルウェー産の生アトランティック・サーモンを「ごちそうサーモン」という商品名で販売しています。以前はノルウェー産のサーモンは値段も高く、気軽に買える商品ではありませんでしたが、ASC認証を取得したこの商品は美味しくて、消費者の認知も高まったことで、手軽に買える商品となりました。

石井:認証自体、美味しさを保証するものではありませんが、持続可能な漁業は、先程もお伝えしたように旬のものを美味しく食べることに繋がるのではないでしょうか。

また、認証を取得した漁業者は、自分たちが獲った魚に対しての思い入れも強いことから、獲り方や獲った後の処理も丁寧で、それが消費者にも伝わることもあるかと思います。

● 流通業のお立場から、SDGsの達成に向けた今後の取り組みや展望をお聞かせ下さい。

松本:水産商品部長としての個人的な立場からとなりますが、SDGsの目標14番に注力していきたいと思います。MSC認証商品によるこの取り組みは、イオン全体でもSDGsへの取り組みをリードしていると思います。

先日も、SDGs 14番の達成に非常に関心が高いスウェーデンのヴィクトリア皇太子が、日本での取り組みに関心を持っていただき、弊社にも視察に来られました。最近は、ヨーロッパからのイオン店舗の視察がとても増えています。

● MSC認証やサステナブルな取り組みでは先行するヨーロッパからイオンさんへ視察に来られる理由は何ですか?

松本:ヨーロッパはMSC認証では進んでいますが、魚の消費量は日本には敵いません。MSC認証商品の販売量もイオンは世界でもトップクラスでしょう。視察に来られた海外の流通業の方々から、イオンのMSCの取り組みや水産物売り場は高い評価をいただいています。

イギリスでは、2012年のロンドン・オリンピックが契機となり、MSCが拡がったと聞いています。2020年の五輪は通過点ではありますが、今後も私たちは、正しいことを消費者へきちんと伝えることをこれからも進めていきたいと思います。

● 持続可能性に関連するかと思いますが、イオンさんの企業理念の1つ平和というキーワードが掲げられているのが印象的です。

松本:イオンは、岡田屋という呉服屋を起源としていますが、第二次世界大戦で店舗が焼失ししばらくの間、営業することもできませんでした。

終戦から1年が経過し、営業を再開した際、「焦土に開く」と書かれたチラシを配布したそうです。そのチラシを見たお客さまが、「やっと平和が来ましたね」と喜んで買い物に来ていただいたということが、名誉会長 岡田卓也の実体験としてあり、「人間」「地域」に加え、「平和」を企業理念の1つとしています。

小売業が営業できることは、平和の象徴であるという考えに基づいています。企業としてそうした考えを忘れることのないよう、企業理念の1つに「平和」を掲げています。

● 最後に、MSCさんの今後の取り組みや展望をお聞かせ下さい。

石井:水産資源の減少への危機意識の高まり、SDGsへの貢献やESG投資への対応、東京五輪に向けた持続可能な調達に向けた関心の高まりなど、普及を後押しする複数の要因がそろっている非常に重要な時期であり、この機会を逃すことなく様々な方面に働きかけていきたいと思っています。

水産資源が本当に回復不可能なレベルになってしまってからでは遅すぎますが、今ならまだ間に合うと信じて頑張りたいと思っています。

※1 ASC認証:水産養殖管理協議会(Aquaculture Stewardship Council)が管理運営する養殖による水産物を対象とした国際認証制度。MSC認証同様、持続可能な水産業のため水産資源や海洋環境を守ることを目的としている。

※2 グリーン購入大賞:グリーン購入ネットワークが主催し、持続可能な調達を行う取り組みを表彰する賞

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年01月08日メンバーズコラム掲載当時のものです

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