プロダクトデザイナーの視点から見た「デザイン」の役割の変化と「デザイン」の可能性について
近年、気候変動対策や海外におけるエコデザイン規制への関心が高まっており、サーキュラーエコノミーの重要性が高まりつつあります。
サーキュラーエコノミーへの移行を実現していくためには、製品やサービスのライフサイクル全体を通じて、持続可能で環境に配慮された方法で設計・製造・使用・廃棄するサーキュラーデザインがプロダクトデザインに実装されていくことが重要です。
かつてプロダクトデザインは、大量生産・大量消費・大量廃棄を前提とした経済サイクルの中心にありましたが、今後はその役割が大きく変わる必要があります。
そこで今回、プロダクトデザインの専門家として東洋大学で教鞭をとりながらプロダクトデザイナーとしても第一線でご活躍されている大沼 敦教授に、現在のプロダクトデザインと今後の展望についてお話をお伺いしました。
「そこにしかない」をデザインの力で引き出す
大手電機メーカーに6年、デザイン事務所に15年勤め、その後独立してデザイン事務所を立ち上げました。これまで、家電、AV機器、電気自動車、生活雑貨、家具、伝統工芸品など、分野にこだわらずいろいろなプロダクト開発に関わってきました。「どんなモノでもデザインする」という意気込みで活動を続けています。
事務所設立当初、リサイクルを意識し、木とアクリル、アルミニウムを素材に家具と一体化した電気スクーターを手がけました。その名も「スマカルゴ」。
この「スマカルゴ」を「DESIGNTIDE TOKYO 2012」や、ミラノサローネに出展したことがきっかけで、フランスの建築雑誌「AA」やイギリスのデザイン誌「Wall paper」、日本のデザイン誌「casa BRUTUS」など、多くのメディアに掲載して頂きました。
当時、発売されたばかりのi-Padで運転できるIOTをイメージして、用途に合わせた材料の新しい使われ方を形にしました。これらの点が「人に優しく未来的なイメージ」として見て頂き、かねてより関心があった伝統産業や地方の方々からも注目され、「デザイン」の相談をいただく機会が増えていきました。
具体的には、地域の商品開発やブランドを立ち上げる際、「新しい時代に、何がマーケットに合うのかわからない」という状況でお話をいただくことが多いです。
このような場合、私はモノのデザインからコトのデザインまで、一貫したストーリーを意識して携わるようにしています。なぜなら、福島県会津若松市オリジナルのデザインの取り組み(会津ハンサムウーマンプロジェクト)や、東京都、現在も継続している山梨県など、これまで多くの地方自治体と活動を続けてきましたが、彼らの強みを引き出すためには「そこでしか作れない」モノ、でありコト、であることが重要だと気付いたからです。
この気づきをもとに、私は自治体の取り組みにおいては、その土地が持つ歴史を含めたオリジナルな価値観を大切にし、それらを世の中に出していくことに価値があると考え、提案・商品化してきました。
このように、私のデザイン活動は、地域の特性と文化を尊重しながら、現代のニーズに合わせた新たな価値を創造(デザイン)することに主眼を置いています。
「モノ」のデザインから「モノ・コト」のデザインへ
現在、私は大学・クライアントワーク・地方自治体の3つの領域でプロダクトデザイナーとして携わっているのですが、大学での「教育」という面での「デザイン」、クライアントの求める「デザイン」、自治体や中小企業の支援を目的とした「デザイン」、それぞれの分野で少しずつ役割が異なってきていることに気づきました。
なぜ、それぞれの領域で「デザイン」の役割は異なっているのか。それは「デザイン」を求める社会そのものが急速に変化しており、社会課題が複雑化し、あらゆる要素が絡み合っていることが要因であると感じています。
これまで「デザイン」と言えば、ビジュアルやモノを作るだけで済むことが多かったのですが、昨今その対象や領域は広がってきており、今までの「デザイン」の慣習や常識が通用しなくなっていると感じます。
そんな社会の変化に合わせて、ものづくりの「はじめ」に位置するプロダクトデザイナーはビジュアル面などのモノを「デザイン」するだけではなく、経営者としての視点や人とモノの繋がりやコミュニケーションなど、より高く多角的に課題をとらえていく視野と広義の意味でのデザインスキルが必要となってきていると思います。
現代の「デザイン」が抱える課題と可能性
先述したように「デザイン」の役割、対象は日々拡張しています。そんな現代の「デザイン」の課題としては、ユーザー側の「意識」「行動変容」「参加」にあると感じています。
社会が急速に変化し、それと同時にユーザーのニーズも変容していく中で、「デザイン」そのものも常に変化が求められている。この状況が、今後どのように変移するか予測がつかないことから、今まで以上にユーザーとの「共創」が「デザイン」に求められてくると思っています。
たとえば、コンポストという生活で発生した生ゴミで堆肥を作り出す容器があります。学生がこちらをテーマに研究したいということで、実際に私も自宅で挑戦したことがあります。それは、コンポストで出来上がった堆肥を郊外の農家に送り、畑で採れた美味しい食材を安価で購入できるというシステムでした。
コンポストで作られた堆肥は栄養価が高く、出来上がった野菜も美味しい。自宅で作る堆肥もスムーズに作られ、環境問題に携わっているという実感もありました。けれども、自分が集合住宅に住んでいること、回収してもらえる場所、日時、持っていく手段など、自分の生活スタイル、タイミングと合わせることが難しく、継続することができませんでした。(偉そうに言っていますが、自分の管理の問題も大きいです…。)
このように、これまでの社会を変えるべく、たとえサーキュラーデザインに基づいた高品質で持続可能な商品を提供、そして資源の回収や分解をできるように設計を行っても、結局はユーザーの参加や協力がないと実現は難しいのです。
また、作り手とユーザーの「共創」をデザインしていく上では、現場をしっかり把握し、リアルを追求していくことも大切です。
このような観点から、「人と人との介在の部分」を考慮することは非常に難しく、めんどくさい部分でもありますが、実は「デザイン」をする上で一番面白い箇所でもあります。この「共創」を追求していくことは、私自身も永遠のデザイナーの課題、役割だと思っています。
古くて新しい、これまでの経済サイクルを変える存在
これまでの大量生産・大量消費・大量廃棄という経済サイクルを変えるため、ユーザーに、より長期的に商品を使用して欲しいと、これまで多くのデザイナーが試行錯誤を行ってきました。
しかしながら、長く使えるプロダクトを開発したとしてもプロダクト開発、消費喚起のサイクルが高速になることで、モノに対するユーザーの「飽き」を加速させ、結果的に大量生産・大量消費・大量廃棄を助長してしまうといったジレンマがあります。
では、大量生産・大量消費・大量廃棄という経済サイクル、この流れを変えるにはどうしたらいいでしょうか。
その解決方法の一つとして、日本の伝統産業・工芸にヒントがあると私は考えています。
かつての産業は大量生産による「経済合理性」が優先され、伝統工芸、漆などの伝統産業が淘汰されてきてしまう結果となりました。しかし伝統産業の中には「モノを継承する・残す」という古くからの文化が根付いており、サーキュラーデザインにおける重要な要素を多分に持ち合わせていると考えています。
サーキュラーデザイン、と聞くと一見新しい方法論のように感じられることもあるかもしれませんが、伝統産業では昔から伝統的にSDGsや地産地消の理念に直結しています。
伝統産業は古臭いと言われることもありますが、実はこれらの要素を兼ね備えていることから最先端な分野ととらえることもできるのではないかと感じています。
理想的な社会を実現するための「未来予測
私のゼミでは、「共創」や読めない未来について考えていく力を養うために、学生たちに「未来予測」をするよう指導しています。
学生にも課題図書としている「世界のエリートはなぜ「美意識」を鍛えるのか?」/山口周著」の中で、”ビジネスの基本は今何が起きているのか、今後何が起こるのか”という記述があります。これまでの経験から、経営者がデザイナー目線で現代をどのように把握しているのか知りたい、というニーズがあることを感じていたので、この内容にはとても共感しています。
本書籍のような、最新の時事情報を把握する習慣、「未来予測」をする力を学生にも身につけてもらいたいと思い、私自身も続けている日経MJ誌の購読をゼミ活動では行っています。
学生には気になった記事についての感想やその記事に対するアイデアを記したレポートを作成し、自分の考えを文字化する癖をつけることで、業界にこだわらず今何が起きているのかを把握し、考えるきっかけや予測する力を身につけさせています。そうすることで自ずと「引き出し」が増えていき、「共創」を考える力を鍛えていくことにつながると思っています。
また、「共創」への思考力を身につける以外にも、伝統産業や地方共生、サーキュラーエコノミーなど、小さなコミュニティから生まれる「そこにしかない、そこでしか体験できない」という価値を表層化させることにも、デザイナーの役割があると感じます。
そして、その価値提供を行うためには、モノへの「愛着」や「一目惚れ」という「コト」の部分に、ヒントがあると感じています。
私は以前、液晶テレビのフレームにレザーや木材をフレームとして付けることで「愛着」や「オリジナリティ」をいかに持ってもらえるかというプロジェクトに参画したことがあります。人間の趣味嗜好はとても面白いもので、時にはダメージジーンズのように多くのデザイナーが想定できなかった「愛着」の需要があるため、未来のデザイナーには自由に、あらゆることに挑戦していってほしいと願っております。
取材を終えて
「デザイン」とは常に変化し、今後はビジュアルだけではなく、人とのコミュニケーションの設計を含むブランディングなど「モノ」と「コト」を考えアプローチしていくことが重要だと、今回の取材を通じて再認識しました。
そして、メンバーズが進めるべきプロダクトのサーキュラーデザインの支援、それは人とデザイナーの間の仲介部分にヒントがあるのではないでしょうか。
これからもメンバーズは脱炭素社会に向けてサーキュラーデザインを追求し、より一層推進していきます。
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