「語れるもので、日々を豊かに。」ファクトリエ4年程度で売上10億円を達成:Social Good Company #18
※この記事の情報は2018年08月28日メンバーズコラム掲載当時のものです
創業者である山田社長のその想いは、これまでのファッション業界ではタブーとされてきた様々な商習慣を打破し、こだわりのものづくりと新しいビジネスモデルにより、右肩上がりの好調な業績を残しています。
その取り組みは、Made in Japanの次世代への継承であり、地域での働き方改革の取り組みと言えるでしょう。
Social Good Companyでは、ユニークで秀逸なSocial Goodな取り組みを行う企業や団体等の皆さまを、Shared Value ベスト プラクティスとして表彰させて頂いています。今回は、ファクトリエさまを対象に授与させて頂きました。
以下、ファクトリエ ブランドを自ら立ち上げた 山田社長にお話を伺いました。
● まずはファクトリエさんを知らない読者の方へブランドのご紹介からお願いします。
ファクトリエは日本の工場と直接提携して、服を企画・販売する、Made in JAPANのファッションブランドです。野菜にたとえると産直を、洋服を通して進めています。
また、これまでアパレル業界では、製造工場を見せるのはタブーの1つだったんです。生産を請け負う工場は、守秘義務契約により、表に出ることはありませんでしたが、ファクトリエでは、工場の方々もWebサイトに登場したり、タグに工場名を記載したりして、表舞台に出て頂いています。
そのきっかけとなったのが、ちょうど100周年を迎える僕の実家の婦人服店にあります。お店の上に自宅があって、子どもの頃から部活動がない日は、店番をするといった環境で生まれ育ちましたので、日本製の仕立ての良い洋服を大切に売るという血が流れています。
また、大きな転機となったのは、20歳でフランスに留学し、グッチのパリ店で働いていたときに、世界の一流ブランドはモノづくりからしか生まれないということを学びました。
● その学んだことをもう少し詳しく教えて下さい。
仕事が終わって、グッチの仕事仲間と飲みに行った時のことでした。現地の仲間から、「なぜ日本には本物のファッションブランドがないんだ?」と言われました。
「そんなことはない」と色々なブランド名を挙げて反論しましたが、彼らから、「そうしたブランドは日本製か?」と聞かれました。しかし、その当時、それらブランドがどこで作られているかは全く気にしていませんでした。そうした体験が大きな転機となり、日本発の一流ブランドをつくりたいと思ったのが、ブランド立ち上げのきっかけです。
● 世界に通用する一流ブランドを作りたいという原動力とかモチベーションはなぜ生まれたのでしょうか?
なぜかと言えば、幸せになるために生きていて、そのために仕事や全てがあると思っているからです。ですから、自分がやりたいことと自分の幸せが一緒で、しかもそれが仕事としてやれるのであれば、モチベーションは関係ないと思っています。
僕は、24時間365日、プライベートも仕事だと思っていて、つまり私事なんです。モチベーションというよりは、自分の人生を豊かにするために生きています。
● 山田社長にとっての幸せとか人生の豊かさとはどのようなことですか?
日本から世界ブランドを作るというビジョンに対して、そのビジョンが達成できている状態と言えるでしょう。そもそも洋服がどこで作られたかなんて、皆さんあまり気にしていないですよね?
価値観等も多様化し、経済のグローバル化が進むことによって、色々なものが製造コストの安い地域で作られています。しかし、どこで作られたのかということは、アイデンティティとしてとても重要であると考えています。
将来、さらにグローバル化が進み画一的な社会になったときに、Made in JAPANだからこそ、自分自身の日本人としてのアイデンティティをきちんと保つことができると思っています。
そうしたことを実現できることが、僕にとっても豊かな社会であると思っています。個人がそれぞれの個性を持って、ものづくりの職人さんも存在し、僕たちも生きていくためのアイデンティティを持っている、そうした世界を目指しています。
● 山田社長は既に日本国内の600もの工場を訪ねられていると伺っています。一方で、日本は少子高齢化で地方は疲弊し、人口減社会も進んでいます。また、サイトで拝見しましたが、国内アパレルの生産比率も、3%まで下がっていること知りました。地方の工場の現状はいかがですか?
そうしたことは、日本の人口減少や、地域社会、そして、日本のものづくり等、複数の課題があり整理する必要があります。
たとえば、地方でも3千人程度の小さな町でも、人気のカフェがあったりします。また、とても人気で遠方からお客さんが来たりする人気のパン屋さんもあるでしょう。日本の人口は減少し、地方も路線バスが廃止され、高齢者がとても困る状況になっています。私も全国様々な地方に行きますが、とても不便さを感じます。住む人が減ってしまうと、公共の交通機関がなくなって不便になりますが、地方を出ていく理由の1つがその不便さにあると考えています。
つまり、日本の人口が減ることは、地方という毛細血管の先の方から血が絶える、そういう状況だと考えています。そのなかで、ものづくりは何かと考えたときに、3Kと呼ばれて、みんながやりたがらない仕事であったりします。そうした意味では、人口減少社会に日本は、工場やものづくりの現場というよりは、地方自体がとても危機的な状況にあります。
そうしたなかで、ものづくりは個別に考える必要があって、ものづくりがしたいからそこに行くという環境を作らないといけないと思っています。つまり、その地方にある工場で働きたいということです。その工場なら働き甲斐があるから、どの町に住んでもいいということです。
● 住む場所のプライオリティよりも、それを超えるやりがいある仕事をその地方に見つけることですね。
毎年に秋に僕たちは、地方の工場と一緒に、工場サミットという就活イベントを開催しています。たくさんの学生を集めて、工場で働くことの魅力や楽しさを伝えています。そうしたことを伝えることにより、その地域に興味がなかった学生でも、その工場があるからその地域で働きたい、こうしたものづくりをしてみたい、そうしたことの気付きが提供できれば思っています。
国内の人口減少は全国共通の課題ですが、その地域に産業がないことに加え、あまりにも不便だからということが大きいと思います。
● 地方の工場の方々が人材採用に苦労されていることは容易に想像できますが、ファクトリエさんの提携工場には、海外の一流ブランドの生産を請け負っている工場もあると聞いています。
日本の縫製業は、最低時給との戦いになっていますが、その工場で働きたいという、そうした環境を作っていかないといけないと思っています。また、海外の一流ブランドの商品を作っているところは、技術力はありますが、儲かるかとは別の問題です。
技術力がある工場であっても、発注者側の言いなりにならざるを得ない状況なんです。一流の料亭が出す日本料理を作る技術があるのに、ファストフードと同じ価格で提供することを求められる、つまり、一流ブランドの商品を作っているのに、安い給料しかもらえていないのが現状です。
● つまり、ファクトリエさんがやられていることは、技術に見合った仕事をする職人さんや工場には、それに見合った報酬を還元するということですね。
そうしたことは、たとえば、モノ書きの仕事でも言えるかと思います。今後、様々な仕事がAIにとって変わられると言われていますが、単純な文字起こしの作業であれば、AIで代替できるかもしれません。しかし、そこに、伝えるプロである編集者の価値があるわけですが、その辺りのことにみんなが価値を見出せなくなっている。
洋服も大量生産がどんどん進むことによって、本物の価値が失われていると感じています。
● 本物の価値を商品を通して残していることが、ファクトリエさんの使命と言えます。
たとえば、醤油も大豆油をとった後の大豆かすを使って、醤油風の工業製品を作っているに過ぎないんです。本物の醤油は大豆から作らないといけないんです。
醤油風の商品を安く提供することで、多くの人は恩恵を受けていますので、悪いことばかりではありませんが、一方で、本物の醤油も僕たちは次世代に受け継がないといけない。それはそれでとても大事だよね、という価値が資本主義のなかでないがしろにされていますので、もう一度、そこにスポットライトをあてたいと思っています。
また、低価格でそこそこのものを大量に提供するのが当たり前であることを変えていきたいと思っています。効率的という言葉がビジネスでは優先されることに違和感を覚えます。本当に美味しいものを作ろうとしたら、一般的には経済的に非効率と言われることが、とても効率的であったりするわけです。
● そうしたものづくりにこだわる工場との直結したMade in JAPANのモノづくりは、ファクトリエさんの特徴的なビジネスモデルと言えます。そうした取り組みにより、中間マージンを無くすことができていますね。
商品を安く提供するためにマージンを無くしたわけではありません。工場の取り分をきちんと確保することを重視しています。
ファッション業界において、誰も泣いていない、誰もが幸せになる世界を作りたいという想いで進めています。高いクオリティの商品を安く提供できている理由は、僕たちは広告宣伝費をほとんどかけませんし、セールもしない、店舗もほとんど無くす等の企業努力によって、コストを圧縮しています。安く作り、高い値付けの商品は、巨額の広告宣伝費で成り立っている、そうした従来のファッションブランドビジネスとは一線を画しています。
● 広告宣伝にはお金を掛けていないとのことですが、お客さまがファクトリエさんを知るきっかけは何ですか?
広告宣伝もWebサイトやFacebookを少しやっている程度で、ほとんどが口コミです。
● ファクトリエさんは、2012年にブランドを立ち上げていますが、広告宣伝費をほとんど使わず、4年程度で売上10億円を達成しています。最近の業績も好調と聞いていますが、そうしたビジネス成果の要因はなんだとお考えですか?
理由は3つあると考えています。もっとも重要なことは、会社としてのきちんとした使命感があるか、同じようなモノが溢れるなか、誰から買いたいか?ということです。
先程もお話したように、僕は、日本製の仕立ての良い服のなかで生まれ育ったため、服が消耗され捨てられていくことにとても抵抗がありました。日本製の仕立てが良く、愛着を持って着ることができる服、Made in JAPANで多くの人を夢中にさせたいと思っています。そして、「語れるもので、日々を豊かに。」をファクトリエの理念にしていますが、それはアンチ・ファストファッションとなります。
これは世の中の服の大半がファスト・ファッションの時代において、革命と戦いだと思っていて、1人でも多くのお客さまを僕たちの仲間にしていきたいと思っています。つまり、自分たちが使命を持っていることが挙げられます。
2つ目は、最高のものづくりをしているということです。「語れるものづくり」というのはとても重要で、それはお客さまにとっていかに喜んで頂けるか、そうした、良いものづくりをしっかりと進めていることです。
最後は、こうした僕たちの考えに共感したお客さまが集まることができるイベントや工場見学のツアーをやっており、仲間になって頂いたお客さまとのコミュニティ化ができていることです。
お客さまも単に商品を購入することだけではなくて、コミュニティにいると、知的欲求が満たされたり、仲間としての所属意識が満たされたり、そうしたことが実現できていると思います。
● 業績好調の要因は、ご自身のミッションやものづくりへの想いに関することがメインですね。
重要なことは、僕たちが自らのポジションを明確にすることです。たとえば、何でも提供する食堂では魅力がありません。豚骨だけのラーメンを提供する店「豚骨ラーメン屋です」と言えることが重要です。
● ファクトリエさんを一言で表現するとどんなキーワードになりますか?
「語れるものがあるお店」です。それは、ものづくりのストーリーもそうですが、機能性等、あらゆることだと思っています。
● 「語れるもの」ということで、何か具体的な商品を挙げて、ストーリーを語って頂けますか?
最近、岡山で開発したホワイトデニム(https://factelier.com/2018/waterproof/)が挙げられます。ネスレの高岡社長から学んだことですが、イノベーションは課題解決だと思っていますが、何の課題を解決するかは、人にインタビューをしても出てきません。
インタビューで出るようなことは改善であり、イノベーションではありません。イノベーションとは、誰も言ってないものを作ることなんです。
ホワイトデニムは、雨が降ったり、泥水が付いたりするようなところでは穿かないわけです。食事をするときもワインをこぼしたりしないように気を使いますが、そんなことは誰も口にしません。
日本の昔からの技術を取り入れ、製品後から加工することにより、柔らかな風合いにも関わらず、汚れを弾くデニムを完成させました。
● お客さまが参加する工場ツアーや企業向けの講演も積極的に行っています。
工場ツアーに取り組む理由は2つあります。
1つは、お客さまに喜んで頂きたいということで行っています。工場ツアーは、地方の無人駅に現地集合・現地解散で開催していますが、毎回多くのお客さまに参加頂いています。工場で働く若い人たちが、その工場で働く理由をお客さまにも知って欲しいということでスタートしました。
若い人が、自分達のブランドが作れると思ってその工場に入ったとしても、実際は地味な作業もあって、夢と現実のギャップもあるわけです。
そうした工場で働く人たちと商品を手にしているお客さまをつなぐことで、働く人達は、お客さまの生の声を聞くことができるし、自分の仕事に誇りを持つことにも繋がったという声を多くいただいています。
また、企業向けのものづくりカレッジは、講演と体験がセットになっているのですが、これは「日本のものづくりを盛り上げる」ことを目的とした、僕たちのCSR活動です。口コミにより進めていますが、とても人気のある企画で、現在も2ヶ月先までスケジュールが埋まっています。
一流のモノに触れなければ、一流のモノは分からないと考えていますが、日本も一流を目指せば、これまで培ってきた文化もあるし、これからも絶対にチャンスはあります。
安いものを大量に作るのではなく、一流のものを目指していきたい思っていますし、フランスの価値を売るということを学ぶべきであると思っていますが、そうしたことを中心にものづくりカレッジでは話をしています。
● 最後に、山田社長の座右の銘をお聞かせ下さい。
「上手もとより上手ならず、下手最後まで下手ならず」という、武者小路実篤の著書「愛と死」のなかにもある言葉です。最初から上手な人はいないし、最後まで下手な人はいないという意味です。
僕は子どもの頃、劣等生だったのですが、その言葉と出会ってからは、救われた気がして、何事にも頑張っていきたいと思うようになりました。自分でビジネスも始めたときも、不器用だったし、最初はお客さんも誰もいませんでした。しかし、今も最後まで下手なことは無いだろうと思って今も頑張っています。
※この記事の情報は2018年08月28日メンバーズコラム掲載当時のものです
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