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将来ビールが飲めなくなる!?

未来の兆しとなる事例を紹介する「Signals for future」シリーズ。
第6弾は「ビール」の切り口から気候変動を考えます。実は、気候変動とビールは切っても切れない関係。もしかすると、将来あなたの大好きなビールは「高級嗜好品」になってしまうかもしれません….

気候変動とビールの関係性とは?

お風呂上りと仕事終わりのビールが日々のモチベーション、、というビール愛好家の方も多いのではないでしょうか。私たちにとって身近なビールですが、実は気候変動と深い関わりがあるのです。

ビールの主な原料は「麦芽」。麦芽由来の成分が発酵することにより、炭酸ガスとアルコール、そしてビールの香りや味の成分を形成、ホップの成分がビールの苦味と香りを生み出すことで、ビール独特の味わいが誕生します。そして、麦芽のもとは「大麦」。そのため、大麦はビール産業にとってとても重要な原料なのです。

しかし、植物の専門誌「Nature Plants」で2018年に発表された研究によると、大麦は干ばつと暑さが続くと急激に減少する「影響を受けやすい作物」であり、気候変動の影響によりビールの生産量が大幅に減少する可能性を示しました。くわえて、ビールの生産量が減ることにより、世界中のビールの価格が平均で2倍程度に上がることも示唆したのです。

現在は日本だと200〜300円で手に入る缶ビールも、近い将来は400〜600円になり、手軽には楽しみづらいものになるのかもしれません。

気候変動に強い大麦が誕生!?

こうした状況をうけ、世界のビール業界は対策すべく動きはじめています。

2011年からこの課題に対して研究をしてきた「サッポロビール」は、気候変動に強く、CO2排出量の削減にもつながる大麦「N68-411」の開発に世界ではじめて成功したことを発表しました(※1)。

近年の気候変動により、原料の大麦が収穫期に豪雨など激しい雨を受けることで、畑で発芽してしまう現象が起きていました。この現象が起きると、それらの大麦はビールの原料にすることができなくなります。しかし、この大麦はそのリスクを低減することが可能!

また、発芽の日数が6日から2日と工程が短くなることから、CO2排出量が抑えられるメリットもあるうえ、従来の大麦と比べ、水分量が約4%少なくても十分な品質の麦芽が作れることから、コストや環境負荷を低減できる可能性があると言われています。

ビール業界においても「適応策」が進んでいることがわかります。これからもビールを楽しみたい私たちにとっては、願ってもないニュースです。

「カーンザ」をビールの原料にする

しかし、ビールの生産は気候変動を生み出している側である場合もあります。工業化された大麦の生産は、温室効果ガスを生み出す1つの要因となっているのです。

そこでパタゴニアは、この工業的な生産のあり方を疑問視し、原材料の調達から変えてしまおうと、大麦ではなく「カーンザ」からビールをつくりました。

現在、世界の農業の大半は産業化されており、工業型農業が世界の地球温暖化ガスの約4分の1を放出しています。私たちは、工業的な方法で生産された原材料から作られたビールを飲むことは、この問題をさらに悪化させるだけだと考えています。むしろ、問題解決に役立つ美味しいビールを飲みたいのです(※3)。

小麦の親戚にあたる「カーンザ」は、地中およそ3.6メートルまで伸びる長い根を張り、貴重な表土が浸食されるのを防ぐだけでなく、この根は炭素を吸収し、本来あるべき地中に固定し維持するのに役立ち、環境再生型農業に理想的な作物なのです。

気候変動が進んだ世界のビール「Torched Earth Ale」

また、気候変動が私たちの生活に与える影響について、消費者たちに考えてもらおうと開発されたビールもあります。それが、気候変動が進んだ世界のビール「Torched Earth Ale」

アメリカのビール会社「New Belgium」によって作られたこの「気候変動ビール」は、気候変動の影響を受けた未来でも手に入るであろう素材を原料に使い、精製水の代わりに汚染水を用いています。あえて「不味いビール」を作ることで、消費者に気候変動について考えるきっかけを与えたキャンペーンのビールなのです(※2)。

ここから見えるシグナル

気候変動の影響を大きく受ける「ビール」。気候変動に対して適応策が進むことは、これからもこれまで通りビールを楽しみたい私たちにとって、とてもポジティブなニュース。応援したいと思う一方で、適応というの「追いかけっこ」のこの形では、いづれ限界がきてしまうのではないかとも感じます。また、これまで大麦の生産に適していた地域が、地球の気温が上昇するにつれて、変化する可能性は大いにあり、生産者にとっても多大な影響を与えます。

私たちがいつまでもビールを楽しめるためには、気候変動を食い止めるために行動することもやはり忘れてはなりません。気候変動は崇高な課題ととらえられがちかもしれませんが、シンプルな「ビールを飲みたい」という気持ちによる行動原理も、立派な動機。
今回の投稿が、気候変動が進んだ先の私たちの生活をイメージする機会となればうれしいです。

※1 気候変動に強い大麦 安定生産・SDGs寄与 サッポロビールが発表|FNNプライムオンライン
※2 アメリカの醸造会社がつくる「気候変動が進んだ世界のビール」 | 世界のソーシャルグッドなアイデアマガジン | IDEAS FOR GOOD
※3 なぜ、ビールなのか? | パタゴニア プロビジョンズ

ライター情報:中村優花
2020年メンバーズ新卒入社。大手銀行のユーザー調査の業務や、企業とNPOの共創プロジェクトに従事したのち、現在は企業の社会課題解決型マーケティング支援を担当。関心のあるテーマは「人と自然の共存」。

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