【Web3】ビジネス活用と脱炭素実現の可能性|Members+対談#04
「経営x脱炭素」に関するトピックについて、有識者とメンバーズ専務執行役員である西澤が意見を交わし合うシリーズ企画。
#04では、Web3*と脱炭素の関係性や活用の可能性について、京都大学大学院の諸富 徹教授と意見を交わしました。
Web3のインフラ活用で脱炭素は実現できるか?
西澤:今はまだカルチャーや思想の側面にフォーカスされがちなWeb3ですが、Web3を「テクノロジー」としてとらえ「インフラ」として活用したビジネスには、脱炭素社会を実現させる多彩なポテンシャルが秘められているのでは?と考えています。その可能性について、諸富先生と考えてみたいと思い今回の対談テーマに設定しました。
Web3の活用には、色々な方向性があると思っています。たとえば、日本語で「非代替性トークン」と訳されているNFT*には、アートや音楽などの取引に活用され、JPEGなどの画像に対して何万円ものお金を払って売買するといういわば投資のような世界が広がっています。また、ブロックチェーン技術を用いて作品の所有権を可視化するなど、これまで手間がかかってきた「権利を可視化する」という側面のWeb3も誕生しています。
諸富:Web3は、今はまだ試行錯誤の段階なのではないかと感じるものの、活用の可能性は色々とありそうですね。現実としてFacebook社が「メタ」と社名を変えてまでこの分野の世界を追求しだしたように、世界的な動きが出ているところを見ると、今後どのように進むのかおおいに興味があります。
西澤:今の状況は、Facebookが流行る1,2歩手前ぐらいの空気感に似ているな、と思います。当時は「実名のSNSなんか流行らない」というのが一般的な風向きでした。しかし、大企業が少しずつFacebookでの発信に乗り出し、「Facebookはビジネスになり、ユーザと関わる良いツールにもなる」という実感が契機となって、活用が爆発的に広がっていったという歴史があります。
当時、お客さま企業のご支援を行っていたときのことを思い返してみても、そのような歴史をたどっていたなという実感があります。
諸富:そうですね。だからWeb3についても、可能性自体をはなから闇雲に否定すべきではないだろうと思います。
西澤:…ただ、Web3を企業にとってどういう形でビジネスに繋げていくのか、どのようにユーザとの新しいコミュニケーションの形を作っていくのか、という点について正直なところ手探りの状態です。それがDAO*という形なのか、あるいは技術を用いたロイヤリティマーケティングのような取り組みなのか…。まだ日本ではほぼ事例がないので、どの企業も様子をうかがっている感じなのかもしれません。
Web3の活用で支配的プラットフォームから脱却し、コンテンツホルダーが強い世界へ
西澤:実際にWeb3やNFT業界の起業家さんと直接話したり、イベントに参加したりする機会があり、これらの体験を踏まえると、基本的にはホームページ時代と呼ばれた「Web1.0のHTML」に代わるブロックチェーンを作ったうえで、ユーザとの関係づくりを施していく形になるのではないか…?と感じています。
ただ、日本企業にとっては、責任回避論的にDAOのような分散自立型な組織ではなく、従来の中央集権的なプラットフォームに依存していたほうが使いやすいのではないかとも感じています。自分たちが自分たちの責任のもとで何かをやろうとした際の社会的影響を鑑みると、個人にかかるリスクの大きさというのは相当でしょう。そのため、そこまでのリスクを許容できないケースも多いと感じるのです。
諸富:私の知る限り、HTMLは当初アメリカで研究者同士が結びつくために有用とされ、それぞれがホームページなどを作って発信するようになり、広がっていったという印象があります。その後、SNSなどのプラットフォームを介して双方向のやりとりが始まっていきましたよね。
それに対して、Web3の世界ではこれまでとは異なり、支配的プラットフォームがない世界となるわけですが、コミュニケーションはどのように変化していくのでしょうか?
西澤:現時点の日本社会では、Web3がどういう姿のものなのかということをあまりイメージできていないので、活用イメージもわかないというのが本当のところだと思います。
ただ先行事例を見ると、やはりコンテンツホルダーが強い世界になっていくだろうということは言えそうです。確固たる認知度を誇るブランドやキャラクター、物質世界の中での不動産、といったものと紐付いたNFT等は、うまくWeb3の技術を取り入れ、それをメリットにしていけると感じます。
たとえば、近年高級ブランドのNFT活用が活発化しており、今後NFTを購入した人だけに特別なイベントを案内するといった活用方法も出てくるのでは?と予測しています。その権利を持っていること自体が、高級ブランドの商品を持っているのと同じぐらいのステータスになるなどの新たな価値が生まれてくるでしょう。Web3は強いブランドやコンテンツを持っているところと、とても相性がいいと考えられます。
Web3が「見える化」する無形資産の価値
西澤:最近では、NFTで買える別荘なんてものもあります。一棟買いだと億単位の費用がかかる別荘を、NFTで毎年1泊だけの所有権を47年間分購入できるという仕組みです。
つまりはシェア別荘ですが、NFTが所有権を証明してくれるため、通常必要になる諸々の権利関係の書類や手続きが不要になります。また、仮に宿泊できない年があったとしても、その年の1泊分を販売することができ、なおかつ誰にその年の所有権が移り、どのような料金のやりとりが行われたのか、といったこともきちんと追跡できます。
諸富:デジタルにおける新技術という枠組みを超えて、リアルなものと結びついて使われていく可能性も高いということですね。
西澤:はい。これはある種のインフラともとらえられます。ビジネスを進めていくうえで、信用を担保する技術として使われているわけです。
諸富:そういう観点でとらえると、非常にイメージがつきやすいですね。たとえば、ファンクラブの会員証などをNFTにして、コンサートに行った回数などによってロイヤリティー度合いを測定し、ロイヤリティーの高い会員だけを特別なイベントに招待する、といった使い方もできそうです。また、NFTであればさまざまなシーンで個人が特定できるので、セキュリティー対策としても活用価値がありそうです。
西澤:その活用法はおおいに考えられます。予約困難な料理店などの予約を販売しているサイトがあることをご存知ですか? その店へ行く権利そのものをサイトで売買するというサービスです。
NFTとはまた別の事例ではありますが、こういった新たなビジネス形態の登場は、NFTを含めて「見えない権利や価値などにお金をかけていくという概念」が徐々に広がっていることを顕著に示していると感じます。クラウドファンディングで投資して、先に権利を得ておくといった世界にも近いですね。
諸富:それはすごいですね。であれば、さらなる応用も可能なのではないでしょうか。うまく表現できませんが何かもっとこう…社会的価値のあることに誰かと一緒に参加できる権利を得ることで、SDGsに寄与する行動を実践する…とか。
たとえば、今までだとCO2排出量をモニタリングして削減する、再生可能エネルギーを発電する、などのわかりやすく数字でとらえられる取り組みばかりが評価の対象とされてきました。それに対してこれからは、必ずしも数量的にはとらえられないが貢献を証明できる、といった活動も評価の対象になるかもしれません。
ブランド価値の高まったNPOや財団の活動を支援する権利だとか、実際の活動に参加できなくても参加したのと同等の価値が得られる仕組みなど、Web3の世界はそうしたことに応用ができると思うのです。
西澤:先生のおっしゃる通り、知的財産など「無形資産価値の可視化」に活用できる可能性はあると思います。ブロックチェーンなどを使うと、ブランド資産などもわかりやすく可視化できそうです。
諸富:たしかに、無形資産とは相性が良さそうですね。無形資産というのは固有性がありすぎて、取引する普遍的なマーケットが成立しないケースがほとんどです。「その料理店だから」「あの土地だから」「このブランドだから」という固有性に価値があるのです。同じ味、同じ機能を持っていても、ブランド力を有するか否かで価値はまったく違ってきます。そんなこんなで、今までは価値を市場で評価して比較して測ることが難しかったのです。
けれども、無形物の固有価値が評価されて個別につける値段が見えるようになると、無形資産の価値がおおやけになります。今まで見えていなかった無形資産の価値表示機能のようなものも生まれてくるかもしれませんね。
西澤:名誉のようなものかもしれませんが、金銭的価値に還元しない形でそういったものが表現されてくると面白そうです。
Web3の技術活用で脱炭素の動きが加速する
諸富:ブロックチェーンの技術を活用した取り組み事例の1つとして、ここ5年ほどのあいだに進んできた「電力の産地証明」があります。自分が購入している再生可能エネルギーがどこから来たのか、その産地証明にブロックチェーンを使うというというものです。
西澤:それはもう実用化されているのですか?
諸富:はい、実用化されています。欧米で電力産地の証書が真正なものであるかどうかを証明する必要性が生じ、シリアル番号つきの証書が発行されています。
その背景には「RE100」に代表される、企業による再エネ電力調達の動きがあります。工場敷地内などオンサイトで再エネ電力の調達ができない場合、遠隔地で発電された再エネ電力を購入することになります。しかし、電気は一旦電力系統の中に入ってしまうと物理法則に従って流れていくため、使用電気がどこでどのように発電された電力なのか、物理的な証明は不可能なのです。
したがって、日本を含め国際的に再エネ発電を手掛けている事業者とそれを購入する企業が「コーポレートPPA」という仕組みを使って契約を交わし、「みなしで契約発電量に相当する再エネ電力を買い取ることで、電力を消費した」とする仕組みになっています。
つまり、再エネ発電事業者は発電した電力を実際に系統へ流し、購入企業が同一時間帯に発電電力量と同一の電力量を系統から取り出して消費することで「その再エネ電力を消費した」とみなすわけです。貿易でいうと、個々の取引を現金で決済するのではなく、あたかも現金決済が行われたとみなして為替で決済をする感覚、と表現するとわかりやすいでしょうか。これを証明するのが、ブロックチェーンになるわけです。
国際的にも、こうして産地を証明した電力でないと本物の再エネと認められない、というルールになっており、企業側のブロックチェーン技術を用いた立証ニーズが高まっています。
西澤:なるほど…。
諸富:また、契約時点だけではなく、契約後も継続してきちんと再エネが発電され、その電力を当該企業は消費できているか、なども検証したうえで証明することが求められるようになっています。
CO2削減クレジットなども同様です。排出したCO2を吸収できるだけの植林を行い、そのぶんのクレジットが発行されたものの、5年後に該当地域を訪ねてみると植林したはずの森林が消えていた、といった事例もしばしば報道されています。だとすれば、現在発行され続けているクレジットは、実際のCO2削減の裏付けをもたない虚偽のクレジットだということになってしまいます。
この場合も、継続的に森林の状態に関するモニタリングを実施し、価値にはしっかりとした裏付けがあるとする証明が求められます。そこで、契約時点だけではなく継続して再エネに取り組んでいく仕組みづくりとして、ブロックチェーンを活用できないかということになってきたわけです。
脱炭素は、デジタル世界ではなく、あくまでもリアルな世界でやっていかないといけない話です。CO2排出という物理的現象そのものを減らさなきゃいけない。そのためには、エネルギーを再エネに転換していく、省エネを進める、植林を促進する、など実際の活動が必要です。しかし、その削減量を「価値」あるいは「権利」に転換するならば、それはいわば無形資産のようなものになります。
それをアイデンティファイして、活動が真正であるかどうかを証明するためにブロックチェーンが使われるわけですが、今日の議論を通して、今後Web3の世界が広がっていったときに「無形資産価値の真正性の証明」といった多彩な応用ができるのではないかと感じました。
西澤:同意見です。Web3の秘めたるポテンシャルは非常に大きなものですね。
諸富:だからこそ、脱炭素経営という方向に進んでいこうとする企業や経営者は、脱炭素の動きとWeb3の広がり、その両方に目配りをしていくべきでしょう。いつかどこかで2つの世界が重なり合う可能性を考慮し、アンテナを張っておく必要があるのではないかと思います。
脱炭素経営を実践すること自体がブランド化/無形資産化していくと、それをWeb3の世界で表現して価値にすることができるかもしれません。
西澤:脱炭素経営はもちろん、そもそもWeb3をビジネスとして活用していく可能性に関しても、積極的に追求していきたいと思っています。
文責:岡 小百合
※取材内容および所属・肩書等は2022年9月収録当時のものです
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