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「すべての人の健康と未病を願う」 スマートスキャン:Social Good な企業とその取り組み #28

※この記事の情報は2019年03月18日メンバーズコラム掲載当時のものです

医療業界の外にいたからこそ実現できた、画期的な新しい画像検診サービス。その基本姿勢は、病気にならないための予防医学であり、すべての人の健康と未病を願う創業者の強い想いでした。

国内インターネットサービスの進化とともに、様々なサービスの立ち上げに関わってきた創業者が語る、世界に通用する日本発の新しい医療ビジネスとは?

  • 誰もが健康で病気にならない世界を目指す、インターネットやAIを活用した予防医学を提供

  • 創業から1年余りで、MRI脳ドックの受診者数は、既に1万5千人を突破。

  • 相場の半額と言われる受診料は、徹底的な無駄の排除と効率性の追求によりMRIの稼働率を高めたことにより実現

<インタビューにご協力頂いた方>
スマートスキャン株式会社 代表取締役
濱野 智章 さま

● はじめに、濱野さんのこれまでのキャリアを教えていただけますか?

以前私は、日本語版インフォシークの立ち上げ等、デジタルマーケティング黎明期からその業界に関わっていました。その後、楽天では執行役員を務め、楽天ツールバーや楽天レシピ等を立ち上げました。

医療関係ということでは、2012年に、女性向けの基礎体温サービスを立ち上げ、医療メーカーと共同で体温計を開発したことにより、初めてヘルスケアの分野に関わりました。

● デジタルマーケティングやインターネットの業界からまったく異なる医療関係のサービスをされています。現在の事業を始められたきっかけを教えてください。

8年位前、まだ楽天に勤めているときに、あるお医者さんが会社を訪ねてきました。そのとき、その先生から、トラックやバスの運転手は、首から下の検査しかしていない、つまり脳の検査はしていないから、健康リスクが高いという指摘を受けました。

ちょうどその時期、楽天トラベルで提供するバスサービスが、関越道で事故を起こしてしまいましたが、原因は運転手さんの脳疾患でした。最近でもそうしたことが原因による事故が増えていますが、その当時、その先生は、運転従事者の人たちは脳ドックを受診すべきだということを言われました。

脳ドックの受診料の相場は、4、5万円程度ですが、社員のために、一般の会社がその金額を毎年継続して負担することはなかなかできません。そのときは、その受診料では、運転従事者が会社負担で受診することは難しいという結論に至りました。

しかし、その先生が、減価償却が終了したMRIがあるので、試しに20人限定で、安くサービスを提供してみようということになったんです。そして、楽天のポイントメール250万人のなかから10万人を抽出し、脳ドック 1万円のサービス案内を行いました。すると、2日間で、500人以上の応募があったんです。

● すでに8年前にテストマーケティングを行っていたわけですね。

その取り組みを通して、低料金の脳ドックサービスであれば、ニーズがあることを実感しました。そこで、楽天ができることとして、病院への送客モデルを検討しました。

その当時から、日本には6千台以上のMRがあり、その数は世界一です。それだけの台数があれば、稼動していないMRIもあるはずだし、そうしたMRIの一部の時間帯だけでも提供してもらえれば、脳ドックを安く提供できると考えました。

検診は究極のストックモデルビジネスで、ライフタイムバリューが長いと考えています。脳ドックの検査を手頃な料金で提供することはビジネスとしてうまくいくと確信して、3つの病院を訪ねましたが、何れも断られました。

● 稼動していない時間帯に、受診者を送客できれば、病院にもメリットはあります。

脳ドックの受診には、放射線技師と呼ばれるMRIの操作をする人や、読影という検査結果の画像を見て診察する医者が必要です。MRIの稼動を上げるにも、そうした体制がなければ検査をすることができませんから、すべての病院に断られました。

そのときに、訪ねた先生から質問されたのは、「MRIは何のためにあるか?」という質問が投げかけられました。私は「検査のため」と答えましたが、「患者のため」という回答でした。

● 患者というのは、何かしらの病気を抱えている人ということですか?

そうです。医療機器は健康な人のために使うものではないというのが、その先生の考えです。

保険が適用されるMRIの患者でも、病院にとっては、2~3万円の売上が上がります。しかし、送客で受診者を紹介してくれるとは言っても、健康な人を対象に、なぜ、そんな安い受診料で対応する必要があるのか?、普段から病院は忙しくしているのに、低価格で検査を提供する意味がまったく分からないということで、一蹴されました。

● それは医者の考えであって、健康を守りたいという人の視点はまったくありませんね。

つまり、従来の医療機関で、脳ドックを自己負担で受診しようとすれば、当然ながら、最低でも4~5万円程度はかかるわけです。保険が適用されても、病院はある程度の収入は見込めるわけです。

しかし、健康な人がその健康を維持するために、自らがその費用を負担しても受診できる、つまり安く検査できる場を作りたかったということです。低価格ではあれば受診したいニーズがあって、受診すれば早期発見によって救われる人もたくさんいるわけです。しかし、8年前には、こうした経緯により、送客モデルも実現できず、サービスに関わることもできませんでした。

● 8年前からのその後の展開を教えて下さい。

ニーズがあるのは分かっていましたし、色々なサービスを継続して調べていましたが、一向に安い費用で検査を提供するところは現れませんでした。

そんななか、3年前位に、自らがMRIを買ってサービスを提供できないかと考えました。そして、以前に共同で体温計を開発した医療メーカーの紹介で子会社の医療機器を提供してる会社の社長にお会いすることができて、私が考えているビジネスを話したところ、MRIを販売していただけることになりました。

また、遠隔で読影をして頂ける会社や画像を読み込むAIの技術を持った会社との出会いがあり、楽天を退社しようと決意し、新会社を立ち上げました。今ではインターネットを通して、世界中どこでも読影ができる仕組みを構築しています。

● 読影は、お医者さんの目視に加えて、既にAIも導入されているのですか?

既にAIも導入していますが、国の認可がおりていないため、現在はお医者さんのサポートとなりますが、将来はAIに置き換わるでしょう。

AIに判断させるには、多くの画像を読み込み学習させることが必要ですが、既に私たちには15,000件近くのデータがあります。ここまで多くの脳ドックの検査結果のデータを保有しているのは世界中を探してもないでしょう。MRIの稼働率を上げたことにより、短期間でこれだけ多くのデータを集めることができました。

これまで、比較的若い年齢の脳の画像は、何かしらの疾患を抱える画像しかありませんでしたが、私たちは幅広い年齢層でしかも非常の多くのデータを保有することができています。

● それだけ多くのデータを蓄積できているのは、従来の診療方法に疑問を持たれ、生産性の高い方法を追求し確立できたからこそです。

事業立ち上げ前から、1台のMRIで、1時間に4人を検査するプランの話をしても、すべての医療関係者から否定されました。しかし、MRIの検査時間は、10分程度なんです。オペレーションを工夫することにより、1人当たり15分で検査ができると確信していました。

そして、今その仕組みができ上がり、受付からお帰りまで30分で終了することを実現しています。ほかの病院では必要となる、時間が掛かる着替えも必要ありません。また、1週間後に検査結果をWebやスマートフォンで提供しています。

検査自体も検査結果が出るのも早いということに加え、なんといっても安いのが特徴です。これまでのムダを徹底的に省き、MRIの稼働率を上げることによって、相場の半額である17,500円という料金で提供できています。

また、Webで簡単に予約できる仕組みを作り、忙しいビジネスパーソンも気軽に来ていただける環境を提供していますので、私たちのお客さまの8割強が新規のお客さまです。

日本国内の35歳以上の人口は、8千万人以上ですが、脳ドック受診者は、1%にも満たないのが現状です。検査が高価なため、なかなか受診が広がりません。しかし、MRIの稼働率を上げることにより、低価格を実現しました。

● 濱野さんご自身が医療関係の仕事をしていなかったのが勝因ですね。

良く言われます。事業立ち上げ前には現在のサービスの構想を医療関係者の方々に話しをしましたが、すべて否定されました。また、私たちのサービスは、自由診療つまり、公的な医療保険が適用されない診療ですから、マーケティングができることが大きいと言えます。

●その辺りを詳しく教えて下さい。

検査結果をスマートフォンで提供していますが、脳ドック1回の検診で最大6点の所見画像やコメントにより、診断結果を確認することができます。また独自に開発したビューワーで撮影した脳の画像をすべてみることができます。一般的には撮影画像はもらえません。私たちはこれがマーケティングだと思っています。

つまり、こうした検査結果の画像データは他人に見せますので、それがきっかけとなり、知り合いの方に受診をいただいていますし、最近では、ソーシャルメディアで受信者自らが検査結果の画像をアップし、それが口コミで広まっています。また、私たちのFacebookページでは、受診されたお客さまと私が一緒に撮影した画像を投稿していますが、メディアの露出は非常に効果的です。

これまでにない新しい市場を創り、何人もの命を救っていることを実感しています。受診者を増やすことにより、幸せになれる人も増えたと思っていますので、事業を立ち上げて良かったと考えています。

● 日本は今後も少子高齢化社会が進み、高齢者層の医療保険も膨らんでいくことが容易に予測できます。健康な人が増えるのは、個人的にもそうですが、国にとっても良いことです。

人生100年時代と言われ、高齢でも元気で健康に過ごすには、今の自分を知ることが必要です。従来の健康診断やレントゲンの検査では早期発見には不十分と言われています。

仕事もできて社会に貢献できる、つまり頑張れる老後を迎えられるために、何が必要かといえば、健康でいることです。そのためには、自分の健康状態を知ることです。

● 病気になってから病院にお世話になるのではなく、病気を防ぐための予防が重要であることが理解できました。

既にある仕組みや国の制度等を簡単に変えることはできませんが、自分たちが少しでもその現状を変え、道筋を作ることが重要です。そうすることによって、世の中が少しでも良い方向に変わっていくと信じています。そのために、多くの人に受け入れられる環境を作る必要があります。

私たちが対応できるのは、この銀座のクリニックだけでは、年間2万人程度です。繰り返しになりますが、35歳以上の対象人数が8千万人であれば、この仕組みをもっと拡げたいと考えています。

1年掛けて、オペレーションは確立できましたので、今後はよりブランドを高め、どう拡げていくかです。自社での多店舗展開やフランチャイズ等の検討も進めています。

また、小さな病院ではMRIの稼動に余裕があることも分かりましたので、私たちのビジネスモデルをシャアリングエコノミーとして提供していきたいと考えています。お医者さんと放射線検査技師の方さえいれば、読影は遠隔で出来ますから、整形外科でも脳ドックの検査ができるようになります。

●日本発のビジネスモデルとして、海外展開も考えられます。

当然、それも視野に入っています。日本の医療は世界的にも評価は高く、AIの技術と組み合わせより良いものにしていきたいと思います。医療の技術は進歩していますが、検査の現場は変わっていませんので、新しいモデルで変えていきたいと思っています。

●最後に、濱野さんご自身が目指す、2030年の将来像をお聞かせ下さい。

本来は健康でいられるのに、検査をしなかったことにより、健康な生活を送ることができなくなるようなことは無くしたいと考えています。健康になりたい、健康でいたいというのは、みんなの願いです。医療に関しては、最先端医療も含めて、すべての人が平等に受診できる環境を作っていきたいと思います。

末期症状の患者さんを延命する医療ではなくで、末期にしない、病気にならないようにすることです。がんを治療する技術も進歩していますが、そうならないためにどうするか、少子高齢化で人口が減る日本にとってはとても重要なテーマです。

私たちの会社は、総合ヘルスケアカンパニーでNO.1になるという目標を掲げています。検査の方法は進化し変わっていきますが、私たちが提供するサービスは、将来にわたって決して無くならないサービスであると自負しています。サービスを立ち上げて、1年間運営したことが自信にも繋がっています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年03月18日メンバーズコラム掲載当時のものです

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