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「共創によりサステナブルなまちづくりを体現する」 三菱地所:Social Good Company #60

※この記事の情報は2021年02月18日メンバーズコラム掲載当時のものです

長い歴史を持つ日本有数のビジネス街 丸の内は、ショッピングや文化発信の拠点としても進化を続けています。今回は、丸の内エリアを中心に持続可能なまちづくりを進め、サステナブル経営を掲げる三菱地所 サステナビリティ推進部の方々にインタビューの機会をいただきました。

  • 脱炭素社会に向けてデベロッパーが果たす役割は大きい

  • 2050年に向けたCO2削減、再エネ電力比率向上などの取り組みを推進し、サステナビリティ先進企業を目指す

  • 世界で最もサステナブルなまちづくりを行うことを目標に掲げる

<インタビューにご協力いただいた方々>
三菱地所株式会社 サステナビリティ推進部 マネジメントユニット
● 梶川 圭太 さま(右)
● 同 業務主任 坂村 まどか さま(左)
<プロフィール>
● 梶川 圭太 さま
入社後、三菱地所レジデンスに出向し、事業用地取得に関する法人営業、法定再開発事業のプロジェクト推進などを担当。2019年4月よりサステナビリティ推進部に異動し、外部ESG評価機関・株主対応、サステナビリティレポート作成・HP開示対応、TCFD対応、サプライチェーンマネジメント関連業務などを担当。
● 坂村 まどか さま
ビル運営事業部にてISO14001を担当後、2017年4月より環境・CSR推進部(現サステナビリティ推進部)に異動。現在、SBT、CDP、RE100、GRESB等、環境イニシアティブ対応を担当。

●サステナビリティレポート 2020には、「三菱地所グループのSustainability Vision 2050」を策定するうえで、2050年における自分たちのありたい姿や、社会のなかでのパーパス(存在意義)から考えることからスタートしたことが明記されていました。三菱地所さんの社会における存在意義から教えていただけますか?

三菱地所グループの基本使命に、まちづくりを通して社会に貢献することを掲げていますが、私たちの存在意義は、不動産開発を通して、社会に価値を提供していくことであると考えています。

当社のまちづくりの特徴としては、丸の内エリアを中心に「面で」開発することで、エリアの価値を向上させていくことがあげられます。たとえば、オフィス街で働く人、まちを訪れる人が、心地良いと感じる空間を提供することが重要だと考えています。

● サステナビリティレポートのメッセージでも、持続可能なまちづくりが強調されています。

広大な土地を明治政府から譲り受けて以降、エリア全体でどのように価値を高めるかという視点でまちづくりを行ってきた創業当初からのDNAが引き継がれているのだと思います。我々は、まちづくりを通してどのような価値を提供できるのかを常に考えています。まちづくりをするうえでは環境に負荷がかかるようなこともありますが、目の前の利益だけではなく、環境にも配慮した取り組みが重要であると考えています。

● マテリアリティの1つとして「環境」が掲げらており、まちづくりを通して、気候変動や環境課題に積極的に取り組む姿勢が伝わります。三菱地所さんが果たす役割は何ですか?

不動産業界では、特に建物でのエネルギー使用にともない、排出されるCO2が非常に多いと言えます。さらに私たちは、自社保有物件の現在のCO2排出量に加えて、売却した建物が将来的に排出するであろうCO2排出量なども継続して算出していますが、そのような類のCO2排出量を減らすことも、重要な課題と認識しています。

自社保有物件における具体的な削減対策として、再生可能エネルギー(以下、再エネ)への切り替えをすることの効果は大きいと考えています。また、ビルやまちづくりの設計段階でエネルギー負荷を減らすことも勿論重要であり、総合的に環境負荷を減らしていくことが重要です。

● 環境に配慮した設計に関して詳しく教えていただけますか?

丸の内エリアには皇居のお濠がありますが、水質が良いとは言えません。生物多様性保全への取り組みとなりますが、お濠の水を浄化するための施設を隣接するビルに設置しています。お濠の水をその浄化施設に取り込み、浄化したうえでお濠に戻すことによって、水質の改善に貢献しています。最近では、絶滅危惧種と言われる生きものが皇居内でも見られるようになりました。

また、ビルの外壁やガラス等、外装の素材やデザイン上の工夫により、建物の断熱性能を高めることによってエネルギー使用量を減らすことも設計上の工夫としてあげられます。近年、ビル建設時に使用するコンクリート型枠パネルに、認証材や国産材を採り入れ、2030年度までに使用率100%を目指しています。こうした持続可能な調達も、CO2削減や森林保全に貢献しています。

● 不動産会社や住宅メーカーなどの企業が果たす役割は大きそうです。

環境負荷削減ということでは、脱炭素社会に向けて、その役割は大きいと言えます。近年急激に環境、サステナビリティへの注目度が高まっていますが、過去を鑑みると、あまり環境に配慮せず開発をしてきたデベロッパーも中には存在していると推測します。しかし、我々としては、従来からCO2削減や生物多様性保全は重要なテーマととらえており、最近ではNGOや専門家など外部の方々と意見交換をする機会も増えています。

● 以前から、生物多様性の観点からの評価や、環境に配慮した建物への認証制度がありますが、国内での認知や取り組み等はいかがですか?

投資家の方々との対話やESG評価会社の対応等において、不動産や建物に関する各種環境認証の取得に関して着目されるようになっています。第三者の認証を取得することにより一定の評価を得ることできますし、デベロッパーの立場から私たちも認証取得に積極的に取り組んでいます。

● CO2の排出量や廃棄物の削減に関するKPIを設定し取り組みの方向性を明確に打ち出していること、またそれらの成果が役員報酬とも連動していることがサステナビリティレポートに記載されています。

役員報酬への反映の考え方としては、単年での削減量などが直接的に報酬に連動しているわけではなく、「単年度業績評価項」の定性評価項目のなかに事業・機能グループごとに策定する年次計画の達成状況が含まれており、その年次計画の内容にサステナビリティの項目を設けられていることから、サステナビリティの達成状況に応じて役員評価に反映されるという位置付けになっています。

これまでは、どれだけ売上や利益を上げたのかという定量的な目標が着目されやすかったと感じますが、サステナブルな取り組みに関しても評価を加えたということです。このような取り組みは、会社全体、社員全員にサステナブルな価値感を浸透させる役割も担っていると思います。

最近は、現場の社員から私たちの部署に、再エネ導入に関する問合わせ等も増えています。社員の意識も変化していることを肌で感じています。今後は、このような枠組みを活用して、更に取り組みを加速することで、長期目標の達成を目指していきたいと考えています。

● サステナブルな取り組みを進めることは、企業価値を上げることにもつながりますし、リスクマネジメントの観点からもより重視されます。

まさに、TCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に基づく情報開示の中でも、サステナビリティへの対応が遅れることにより、顧客からのレピュテーションリスクが将来的に顕在化する可能性があるため、早期に対応する必要があることを記載しています。

● 2050年までに、事業で使用する電力の100%再エネ化を掲げていますが、社内外の変化を教えていただけますか?

再エネ電力に切り替えるということでは、先程の話の通り、現場からの相談を受けて私たちの部署から再エネ事業者を紹介する等、実際に具体的な動きがスタートしたことがもっとも大きな変化となります。再エネ電力導入に限らず、事業活動の中にどのようにしてサステナブルな視点を組み込むか、という相談も増えているように感じます。

まさに会社全体がサステナビリティへシフトしていることを多くの社員が実感しているのではないかと思います。また、従来の不動産価値に加えて、環境に配慮した不動産に対するお客さまのニーズも徐々に増えているように感じます。

● CO2排出ゼロの物件は今後ニーズも高まりそうです。

まさに、CO2フリー物件などの価値を顧客に上手く訴求していきたいと思っています。環境感度が高いお客さまに集まっていただき、サステナブルなまちづくりをできることは私たちも望んでいることです。

昨今の状況でテレワークが進み、都心のオフィス需要が減るかもしれませんが、環境に配慮したまちづくりや緑あふれるオフィス環境を提供することが、価値訴求のポイントになり得ると考えています。丸の内については、まちを面で開発していますので、エリア全体で緑を上手く活用するなど、居心地の良い空間を提供するのが私たちの役割です。

三菱地所グループ サステナビリティレポート2020より

● 2050年の理想とする事業像のなかで、低炭素社会形成、循環型社会形成、自然調和型社会形成、環境コミュニケーションとひとづくりの4つのキーワードを掲げています。今後の計画も含めて、具体的なお取り組みを教えてください。

自社保有するビルの再エネ電力導入を積極的に進めていきたいと考えています。2021年度には、丸の内エリアの19棟を対象に再エネ電力を導入する予定であり、そのほかのエリア物件についても積極的に検討を進め、CO2削減目標や再エネ割合目標の実現に向けて、取り組みを加速させていく所存です。

グループ会社が運営する全国のプレミアム・アウトレットでは、広大な敷地を活用して、太陽光パネルの設置や自家発電の設備も整備しています。物流施設などの他用途の施設でも同様の取り組みができないか検討を進めています。

循環型社会形成の取り組みとして、数年前より「丸の内エコ弁プロジェクト」をスタートしています。丸の内で販売されているお弁当の容器にP&Pリ・リパックという、食べ終わったあとに表面のフィルムをはがせるリサイクル容器を導入しています。きれいな容器を回収することで、効率の良いリサイクルを実現できる仕組みです。

● 丸の内エリア全体でそこで働く人たちと一緒に取り組む。まさに共創ですね。

お弁当の容器は燃えるゴミとして捨てられることも多いように感じるため、リサイクル率の向上に貢献できていると思います。容器を回収するBOXも様々なビルに設置して回収率を高めています。今後は、まち全体でゴミの分別やリサイクルを積極的に進めていきたいと思っています。

● 再エネを導入することで、貸し出したり売却する際に不動産の価値が上がったりしますか?

価値が上乗せされるというよりは、環境負荷軽減に対応していないことがディスカウント要因の1つになるケースが見られるようになったと感じています。世の中では定量的な分析なども公表されている事例もありますが、現状では、そこまで定量的に影響が出ている段階では無いように思います。

● こうした様々なお取り組みに対して、一般生活者や社会とのコミュニケーションやプロモーションはどのようにお考えですか?

環境への取り組みに対して、なかなか私たちの取り組みが浸透していないのは課題と感じています。

そうしたなか、当社他が主体となり「大丸有 SDGs ACT5」というSDGsを切り口としたプロジェクトをスタートしています。「サステナブルフード」「気候変動と資源循環」「WELL-BEING」「ダイバーシティ」「コミュニケーション」の5つのテーマを設定し、ほかの企業さまと連携し、数ヵ月にわたり、様々な実証実験やイベント等をエリア内で開催しています。まち全体でSDGsに取り組んでいることを発信する取り組みです。

まちのブランディングにも寄与していると思いますが、これまで行ってきた個別の取り組みをテーマ別に整理することで、分かりやすく発信する役割も果たしていると考えています。たとえば、社員社食でのフードロス削減の取り組みは以前から進めていましたが、この「SDGsACT5」の一環として組み込むことで、より多くの関係者に向けて取り組みが発信できるようになったと感じます。

また、様々なテーマに則した取り組みを複数企業が連携して行っていますが、各企業がオープンリソース型で参加することで、新たな人と人、企業と企業のつながりが生まれています。また、それぞれの企業が対応できていなかったことを互いに補完したり、新たな視点での気付きが生まれたりすることにも繋がっていると感じます。

大丸有 SDGs ACT5 Webサイトより

● プロジェクトの推進を通して、連携する企業の方々やまちを訪れる人の意識の変化等は感じることはできますか?

アンケートなどを通じてイベント参加者からの声も集めていますが、そうした意識の変化をどう具体的に測定していくのか、どうなればこうしたプロジェクトが成功したと言えるのかを把握することは、難易度が高い課題と言えると思います。

エリアの価値向上という観点からは、こうした取り組みを行うことによって、多くの人が街に訪れ店舗の売り上げが増加すること、賃料を上乗せできたり、物件を高い価値で売却できたりすることなどがわかりやすい成果指標になるかと思いますが、その影響が本当にイベント実施によるものなのかを検証することや、どのようにそれを調査するのかなど、解決すべき課題が多く、継続的して議論を重ねていくことが求められると思います。

しかし、賃料や不動産価格などの経済的価値向上だけに注目するのではなく、B2B2C、つまり賃貸しているテナントさまの先にいる一般の方々をはじめとした社会への価値訴求が最も重要だと考えています。プロジェクトの価値が経済的に測定できていないからといって、サステナビリティに関する取り組みを止めるということにはならないと考えています。

このような社会課題解決への取り組みによる、一般の方々へのブランディングが間接的に企業価値に影響しうるという考えもあると思うので、それを信じ、今後も取り組みを加速させていきたいと考えています。三菱地所の取り組み、提供するまちであれば、サステナビリティの観点でも信頼できるといったブランディングが確立されることが理想です。

● 日本政府も2050年の脱炭素目標を掲げました。事業に与える影響はどのようにお考えですか?

現在、2017年度比で、2050年に87%のCO2排出減の目標を掲げていますが、サステナビリティの先進企業を目指すうえでは、私たちもネットゼロ目標への見直しに向けた検討は避けて通れないと考えています。現在の目標は、2℃目標に則した水準であるため、1.5℃目標水準に則した目標見直しも今後検討する必要があると考えています。

● さいごに、2050年のありたい姿、脱炭素社会に向けてのメッセージをお願いします。

私たちは、サステナビリティ ビジョン 2050 で「Be the Ecosystem Engineers」というスローガンを掲げています。その意味は、経済、環境、社会等の様々な側面において、社会にとって不可欠な存在になることです。自然界において、ある生物が他の生物に自然と良い影響をあたえる生態系の「Ecosystem Engineers」になぞらえて、経済界において共生関係を下支えをする存在でありたいと考えています。

私たちのビジネスは、様々な企業の方々のご支援やご協力により成り立っていますが、そうした方々との協力によって、よりサステナビリティを体現していくことを目指します。そして、これらの活動を通じて、世界でもっともサステナブルなまちづくりを実現することが私たちの目標です。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2021年02月18日メンバーズコラム掲載当時のものです

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