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「サステナブルな取り組みは、社会課題や事業課題の解決そのものである」 味の素:Social Good な企業とその取り組み #57

※この記事の情報は2021年01月19日メンバーズコラム掲載当時のものです

社会価値と経済価値の両立を目指して、以前からAjinomoto Group Shared Valueを掲げグローバルで事業を展開し、食を支える味の素

今回はサステナビリティ推進部の方々に、脱炭素社会に向けた現在のお取り組みをおうかがいしました。

  • 2014年より掲げるASVは、創業時の志そのもの

  • サステナビリティの取り組みは、グループ全体で目指す未来を伝えていく

  • 社会価値と経済価値の創出を一体化して進める

<インタビューにご協力いただいた方々>
味の素株式会社
● サステナビリティ推進部長
高取 幸子 さま
● 同部 環境グループ長
豊崎 宏 さま
● 同部 環境グループ シニアマネージャー
中村 恵治 さま
<プロフィール>
● 高取 幸子 さま
入社後、調味料、加工食品やスポーツサプリメントの開発マーケティングおよびR&D(研究開発)に携わったのち、上海味の素食品研究開発センター社総経理、味の素グループでのサイエンスコミュニケーション担当を経て、2020年より現職。
● 豊崎 宏 さま
入社後、バイオ技術の研究に従事したのち、国内外の工場にて新製品導入・生産技術管理に従事、コーポレート部門にてグループ全体の生産戦略策定を経て、2020年より現職。
● 中村 恵治 さま
入社後、工場のユーティリティ部門、コーポレート部門にて省エネルギー活動に従事、その後に研究所でライフサイクルアセスメント研究を経て、2020年より現職。

● 以前から、社会価値と経済価値を共創する、ASVを掲げています。その経緯や意義を教えてください。

味の素では、2014年からASVつまり、Ajinomoto Group Shared Valueを掲げました。1909年の創業時の志そのものが、ASVに通じるものだと考えています。

池田菊苗博士が、昆布からうま味成分であるグルタミン酸ナトリウムを発見したのが始まりです。当時の日本人は栄養状態が良いとは言えませんでしたので、その課題を改善したいという創業者の鈴木三郎助が博士の想いに共感し創業しています。

まさに社会への貢献が事業であるということからスタートしています。私たちの原点は、「おいしく食べて健康づくり」を目指すことにあります。そうした考えを現代版として掲げたのが、ASVとなります。私たちののミッション、ビジョンを達成するため、グループ全社、全従業員で、ASVの実現を目指しています。

味の素グループ Our Philosophy

● 従業員の方々のASVへの理解や自分事化はいかがですか?

定期的に従業員向けの調査を実施しています。2019年の調査では、自らがASVを実践し、自らの言葉で語ることができていると回答した従業員は55%でした。2030年までに85%にしたいと考えています。

現在は、CEOや経営層が全従業員との対話を行い、ASVを自分事化し、個人の目標も設定しながら活動し、PDCAを回す取り組みを進めています。

● 「味の素グループ ASV STORIES」を拝見させていただきましたが、様々な取り組みが紹介されています。興味深い内容として、それぞれの取り組みに対して、必ず社会価値と経済価値が明記されています。

現在は、社会課題の解決をしながら事業を存続していく、それを一体化し長期的に進めること、それ無しには、企業そのものの継続が難しいと考えています。10億人の健康寿命を延ばし、50%の環境負荷を削減を掲げていますが、これは事業を通して実現するということです。

ASVがスタートした当初と比べて、現在では、全社で社会価値と経済価値の創出を一体化して進めていると実感しています。

● 社会価値の提供ということでは、気候変動等、地球環境に関わる項目がマテリアリティとして挙げられています。気候変動が進むことにより自社に与えるリスクはどのようにお考えですか?

食品事業では、様々な野菜や肉等の生産や調達に関して、気候変動が進むことによるリスクを感じています。また、今後の炭素税の導入に関しては、財務的なリスクが大きいと考えていますので、今から準備を進めています。

● 食品メーカーとして、味の素さん独自の気候変動対策の取り組みを教えていただけますか?

豚や牛の家畜の排せつ物は窒素化合物が多く含まれアンモニアが発生し、大気中では温室効果ガスとなり、地球温暖化の要因の1つとなります。飼料にアミノ酸を加えることにより、窒素の排出量も3割減らすことができて、大気汚染や水質汚染の軽減にも貢献することができます。

また、アミノ酸の発酵生産の際には、多くのアンモニアを必要とします。現在は、ハーバー・ボッシュ法という、高温・高圧による大型のプラントで多くのエネルギーを必要としています。将来は、低温・低圧の条件で、小型設備でも可能な生産の研究を進めています。必要なアンモニアを必要とされる場所で生産する「アンモニアオンサイト生産」となりますので、輸送や保管のためのCO2排出も大幅に削減することができます。

サステナビリティデータブック2020より

さらに、私たちは以前から、バイオサイクルと呼ばれる資源循環を実現しています。アミノ酸は、サトウキビなどの糖源を原材料として発酵法で生産していますが、アミノ酸を取り出したあとの液体にも、多くの栄養成分が含まれています。こうした液体を有機質の肥料として、サトウキビなどの栽培に利用しています。無駄な廃棄物を出すことなく、循環させる取り組みを進めています。

● 2020年8月にはRE100にも参加し、2050年の再生可能エネルギー(以下、再エネ)100%の取り組みを進めています。現在の進捗状況や今後の取り組みを教えてください。

RE100の目標に加えて、私たちは、SBT (Science Based Targets) の認定を2020年4月に取得しています。(スコープ1、2:2030年度までに温室効果ガス排出量を2018年度基準で50%削減、スコープ3:2030年度までに温室効果ガス排出量を2018年度基準で24%削減)

工場を中心に、CO2排出の削減を加速するため、内部カーボンプライシングの導入を考えています。これまで、カーボンフットプリントを測定し排出量を測定していましたが、今後は企業内で炭素価格を設定し、その取り組みを加速させていきます。

今後は再エネへの切り替えも進めていく必要がありますが、現在は再エネの直接調達を視野に検討を進めています。石炭の利用から、これまでも利用しているバイオマス発電へのシフトを今後も積極的に進めていきたいと考えています。

● 気候変動対策を進めることでの外部評価やビジネスメリット等はどのようなことが挙げられますか?

以前からではありますが、多くの国内外SRIインデックスに採用されていますし、GPIFが保有する株式数も増えました。

最近では、中央省庁が主催するイベントへの登壇や発行媒体への掲載も増えています。最近では、環境省が発行する環境白書に取り組み内容を掲載していただきました。

● 食・健康に加えて、一般生活者に対して、気候変動に関するコミュニケーションやプロモーションの計画などはありますか?

一般生活者に対して、気候変動の取り組みをアピールすることは現時点ではできていません。しかし、すでにサステナビリティに関する取り組みは様々な部署や工場で進めています。今後はサステナビリティ推進部が、現在の取り組みを整理することが重要であると考えています。

そうしたなかで、サステナビリティ全般に対して、気候変動問題に限らず、プラスチック問題やフードロス、人権等、様々な社会課題に対して、味の素が何を目指して進めているのか、そうした内容を社内外にわかりやすく伝えていく必要があります。現在は具体的な情報発信を進めるための準備をしています。

CO2排出削減などの個別の取り組みを発信するよりは、気候変動とひとくちに言っても、プラスチック問題やフードロス問題等、様々な社会課題とも関連していますので、味の素グループ全体として、目指す未来をきちんと伝えていきたいと考えています。

● 社会課題が増え、その解決に企業は果たす役割や影響力も増すなかで、まさに存在意義や目指す姿を伝えることはとても重要です。

私たちは何をしていて、何をしたいのかをきちんと伝えることが重要です。なぜそれを進めて、どこに向かっているのかを明確にしたうえで、個別の取り組みを発信し、それぞれの取り組みに対する理解を深めることができればと思います。

気候変動への対応に関しは、もはやスコープ1、2は対応して当然と言えます。それ以上の取り組みをどう行うかが、企業価値の向上にもつながると考えています。今後は、自社の取り組みだけではなく、バリューチェーン全体を考え、一般生活者の方々に加え、地域や行政との連携する事も必要になるでしょう。

日本政府も2050年のカーボンフリーを宣言しました。今後は、私たちが商品として扱うプラスチックも廃棄物ではなく、資源として扱う必要があります。そういった意味でも、単なる自社取り組みのアピールではなく、お取引先や一般生活者の皆さんと一緒に取り組むことが求められます。これからは、味の素らしい取り組みをどう進めていくのか、考えていきたいと思います。

● 2050年の脱炭素社会に向けてメッセージをお願いします。

現在掲げる目標は、達成に向けて着実に進めていきたいと思います。しかし、脱炭素社会の実現は、個別の企業の取り組みでは達成できないと考えています。ほかの企業の方々以外にも、行政、地域、教育機関の方々などとの協力により実現できるものと考えていますし、それによって新しいビジネスを創ることができると思います。

サステナブルな取り組みを進めることは、社会課題と事業課題を解決するというASVそのものと言えます。ASVの御旗を掲げているため、社内の理解も深まっていますので、サステナビリティ部門としても様々な部門と連携し進めていきます。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2021年01月19日メンバーズコラム掲載当時のものです

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