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「小売業のリソースを活かしたお客さまとの脱炭素化社会の共創」イオン:Social Good Company #49

※この記事の情報は2020年10月09日メンバーズコラム掲載当時のものです

日本の小売企業として初めてCO2削減目標を数値化し、いち早く気候変動対策に取り組んできた、国内小売業界首位のイオン。消費者との接点が多い小売業だからこそ可能な独自の取り組み、脱炭素化を目指す今後の展望等に関して、インタビューの機会をいただきました。

  • PPAモデル*等の導入により再生可能エネルギー100%を店舗が誕生

  • 電子マネー「WAON」を活用し、お客さまとの共創により、脱炭素社会を目指す

  • 今後も環境配慮型の商品の割合を高めていく

*PPA(Power Purchase Agreemen)モデル
 電力需要者と売電事業者とが直接電力の売買契約を締結すること

<インタビューにご協力いただいた方>
イオン株式会社 環境・社会貢献部 部長
鈴木隆博 さま
<プロフィール>
イオン株式会社に入社後、秘書室、業務提携、新規事業の立ち上げ等に携わる。環境省出向を経て、「イオン脱炭素ビジョン2050」をはじめとするイオングループの中長期環境戦略の策定及び推進等に従事。

● 「イオン 脱炭素ビジョン2050」の策定や、いち早く「RE100」に参加するなど、イオンは流通セクターとしてはもちろんのこと、日本企業のなかでもかなり積極的に気候変動の課題に対応しています。その理由を教えてください。

イオングループは国内外で約20,000店舗近くを展開していることから、店舗運営に多くのエネルギーを利用しています。つまり事業を通して膨大なCO2を排出していますので、企業としてその排出量を抑制していく責任があると考え、対策に取り組んできました。

「イオン温暖化防止宣言」を発表したのが2008年ですが、これは具体的な数値を掲げたCO2削減目標として、日本の小売業で初めての試みとなりました。その後、2012年には「イオンのecoプロジェクト」を立ち上げ、2020年までのエネルギー使用量の削減、再生可能エネルギー生産、店舗の防災拠点化、この3テーマを中心に取り組んでいます。

また、2018年3月に「イオン脱炭素ビジョン2050」を公表し、脱炭素化へと大きく舵を切りました。その背景には、パリ協定やSDGsの採択といった世界的な潮流があります。

さらに、近年の台風や豪雨など、大規模化する自然災害も理由として挙げられます。実際に各地の店舗が被害を受けた経験から、気候変動に対応しないことによるリスクの大きさを実感し、危機感を募らせたのです。地域のインフラとして消費者の生活を支える小売業だからこそ、その地域できちんと事業を継続していくためにも、脱炭素社会の実現に向けて先行して取り組む必要があるだろうと考えたのです。

イオン Webサイトより

● 環境課題に関する、具体的な目標を教えてください。

基本的には2050年脱炭素、中間目標として2030年CO2排出量削減35%です。目標実現に向けて、店舗での省エネに加え、使用するエネルギーをすべて再生可能エネルギーに切り替えます。

2030年の目標達成に向けてグループ各社がそれぞれの目標値を設定して取り組んでいます。各社の取り組み状況と計画を数値化し、3年間を1フェーズとして、モニタリングしながら推進しています。

● イオンは国内の消費電力の0.9%の電力を消費しているそうですが、生活者との接点も多い流通分野の企業として、環境課題に対する意欲的な取り組みを進めることは、社会的なインパクトも大きいように思います。

当社が日本企業としては5番目に「RE100」への参加を表明した2018年3月の時点ではもちろん、現在もまだ国内の再生可能エネルギーの市場は大きくはありません。制度も未整備のなか、私たち自身が「再生可能エネルギーを必要としている」とメッセージを発信することで、日本に再生可能エネルギー市場を創出したいと考えているのです。

また、再生可能エネルギーを高価格で調達すれば店舗の維持費がそれだけ増えることになります。そこで、発電事業者とパートナーシップを組み、発電事業者がイオンの店舗の屋上で太陽光発電を行い、そこで生まれたエネルギーを私たちが購入する仕組み、PPAに取り組んでいます。

● 現時点で再生可能エネルギーは高価格のため、事業としてコスト・マネジメントにしくい、というイメージが強いのですが、PPAで解決の可能性が見えてくるということですか?

初期投資がかかりませんし、発電用設備のメンテナンスも不要、当社としては空いている屋上スペースを貸し、そこで生まれる電気を購入するというものなので、追加の負担なく取り組むことができるというメリットがあります。

さらに価格も、現在契約しているその他の電力とほぼ同等にまでなっていますまた、この先、化石由来燃料の価格は上昇すると想定していますので、日本の再生可能エネルギー電気代はまだまだ下がる余地があるだろうと考えています。

すでに、2つのショッピングモールで再生可能エネルギー率100%を達成していますが、そのうちの1つであるイオンモール藤井寺など、PPAを導入した店舗でコスト削減を実現できた事例も出てきています。CO2排出量を削減しつつ電気代も抑えられる点には、大きなメリットがあると思います。

● 電力の調達に関しては、電子マネー「WAON」のポイントと連携させるなど、顧客を巻き込んだ取り組みも進めています。そうした顧客との共創は、どのように発想されたのですか?

先程お話した、店舗でのオンサイトPPAに取り組んでいますが、それだけではやはり足りないため、オフサイトPPAの仕組みについても検討していました。
太陽光発電の2019年問題――いわゆる家庭用発電機のFIT(10年間の固定価格買取制度)が2019年11月から順次切れ始めることから、これを調達できないかと考えました。再生可能エネルギーを売りたいお客さまと再生可能エネルギーを調達したい私たちをつなぐスキームができないかと。そこから、電力会社による再エネの買い取り価格に加え、CO2フリーの環境価値をイオンに提供いただくと「WAONポイント」を付与するというアイデアが生まれ、まず中部電力(現 中部電力ミライズ)さんと一緒に取り組みをスタートさせました。

予想以上に多くのお客さまからお申し込みがあり、中部エリアのイオンモール1店舗分ほどを賄う電力を確保でき、それを数店舗に供給しています。お客さまからは、電力を売れるということと同時に、お買物で「WAONポイント」を使えるという点が好評を得ています。「イオンの電気は我が家の屋根から供給している」とお客さまに実感いただけるということが、地域とのつながりの起点になるのではないかとも思います。この取り組みは、中国電力さん、四国電力さんでもスタートしており、さらに全国に広げていきたいと考えています。

こうした取り組みを通して、さまざまな小規模電源をそれぞれが融通し合うような社会が、すぐそこまで来ているのではないかと実感しています。

中部電力ミライズ Webサイトより

● 地域の顧客との共創という点では、「イオン ふるさとの森づくり」も興味深い取り組みです。

「イオン ふるさとの森づくり」は、新店舗がオープンする際に近隣にお住まいのお客さまとともにイオン店舗の敷地内で行う植樹活動で、1991年にマレーシアにジャスコマラッカ店(現イオン・マラッカショッピングセンター)が開店したときにスタートした取り組みです。

店とともに木が成長していく、その地域が成長していくことを、地域のお客さまと一緒に実現していきたいという思いが込められています。来店するたびに、自分が植えた木の成長を確認できるわけです。取り組みはじめてからすでに30年ほどが経過していますので、なかには20メートルを超えるまで成長し、野鳥が生息する豊かな森に育っています。

一方で、電気は目で見ることができませんから、コミュニケーションに関する課題があると思っています。しかし、地域の家庭で発電された電力をハブとして生まれる、イオン店舗とお客さまの生活とのつながりが、実践的に地域を支える力になるとも感じています。台風や地震などの有事の際には店舗は避難場所等の防災拠点や必要な物資の供給場所にもなります。こうした取り組みを通して、地域コミュニティの拠点の役割を果たしたいと考えています。

● 再生可能エネルギー活用を含む気候変動対応に関して、社内ではどのように意識を共有しているのですか?

脱炭素は、580,000人の従業員を擁するイオングループとしてコミットしている目標ですから、グループ各社ともしっかりと共有しています。

その一方で、店舗等の現場にいる従業員に、この目標をきちんと理解してもらうことは、非常に重要かつ課題でもあります。

「CO2排出をゼロにしましょう」より、「電気代いくらに削減しましょう」の方が、現場の感覚としてはわかりやすいというのが現状です。環境保全に関するイオンの活動の歴史を知らない若い世代を含め、グループ従業員が共感して一緒に目標に向かっていく、という仕組み作りは重要だと考えています。

● 消費者との意識の共有に関してはいかがでしょうか? MSC認証の魚介類やフェアトレードのチョコレートなど、これまでも社会課題の解決に資する商品をいち早く販売してきましたが、商品を通して気候変動対策を訴求するような取り組みはありますか?

すでにリサイクル素材を使用した商品は展開していますが、そうしたことだけでは、気候変動に対する当社の取り組みはお客さまにはなかなか伝わりにくいと感じています。あるいは、カーボンフットプリントを切り口として、輸送距離に応じたCO2排出量から商品を選ぶような消費活動の変容を起こすことも、現実的に難しいでしょう。だからこそ、事業そのものを通して実践するしかないのかもしれません。

今後は製造から消費までのサプライチェーンの全体のなかで、共働できるパートナーと一緒にCO2削減に貢献することが重要だと思います。消費活動で発生するCO2よりも、上流側の製造や輸送工程などの方が圧倒的に多くのCO2を排出していますので、サプライヤーさんと一緒に取り組んだうえで、リサイクルの仕組みなど、消費者にアピールできるユニークな施策に発展させることが理想です。

お客さまがイオンでどの商品を選んでもすべてが環境に配慮されたものになる。まさにこれこそが私たちが目指すことであると考えています。そのためには、まず環境配慮型の商品の割合を高めていくことです。

● 2017年にサーキュラーエコノミーの実現に向けたキックオフを宣言、2019年には製品容器の回収~再利用に関する国際プロジェクト「Loop」への参加予定を表明されています。

店頭で回収した資源をリサイクルして商品化していく――これは技術的にも即実践できる取り組みではあるのですが、強引に対応しても持続しないだろうと考えています。私たちの資源に対する考え方を店頭でお伝えしながら、お客さまの意識と行動を変えていく、そのなかで、どの分野の商品から始めるのかということを含め、経済合理性を兼ね備えた持続可能な仕組み作りを計画しています。

脱炭素化社会の実現に向けて、サーキュラーエコノミーの仕組みは必須だと考えていますので、イオンらしい循環モデルをできるだけ早く構築したいと思っています。

● 脱炭素化社会を進めるうえで、現在課題と感じていること、そして今後の展望をお聞かせ下さい。

新技術の開発など、政府も含めて実証実験を重ねながら、実用化につなげる施策が必要だと感じています。私たちが今できることにはすべて取り組んでいると自負してますし、JCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)などの企業ネットワークへの参画を通して、制度設計に関する意見交換や政府機関への提言にも取り組んでいます。

同時に、国民全体がそうした認識を共有したうえで、個々人が自分でできることを考えることも重要だと感じています。大規模災害の頻発や、生き物の生息地の消失、農産物の収穫量の変化など、気候変動によってさまざまな影響が出ていることからも、地球温暖化による暮らしのリスクが大きくなっていることは明らかです。

イオンに行けば、気候変動に関する取り組みに参加できるということを、より強く社会に発信していきたいと思います。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2020年10月09日メンバーズコラム掲載当時のものです

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