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「藻場復活」と「ブルーカーボン」によるサステナビリティ実現の可能性

温暖化にともなう海洋の変化が年々顕著になっています。日本近海の海面水温は上昇傾向にあり、下図の通り、今後の気候変動の予測ではさらに上昇する見込みです。気候変動にともない海水温が上昇すると、藻場がダメージを負い、磯焼けした海域が増加し、藻場を住処とする生き物が消え、結果として漁獲量は減少していきます。

気象庁:年平均海面水温の平年差の推移

このような状況を打破するべく、近年着目されているのが「ブルーカーボン」です。この記事では、ブルーカーボンが秘めるサステナビリティ実現の可能性についてお話します。

ブルーカーボンとは?

光合成などの作用によって植物が大気から吸収し、生物の体内や土壌に蓄積させた炭素のことを「グリーンカーボン」と呼ぶ一方で、「ブルーカーボン」は海洋生物の作用によって海中に取り込まれたCO2に由来する炭素のことを指します。

特に沿岸域の海洋生態系(海草・海藻藻場、マングローブ林、塩性湿地)の炭素貯留機能に着目した概念で、国連環境計画によると「海洋全体の1%程度にすぎない浅海域(=光合成ができる沿岸域)」が炭素貯留のために重要なエリアであるとしています。

藻場の炭素貯留は森林と同等以上

藻場の炭素貯留は森林と同等以上とされています。ブルーカーボンは沿岸域の面積は陸上の森林に比べると小さいため、CO2吸収総量はグリーンカーボンより少ないのですが、単位面積当たりのCO2吸収量は森林より多いという点が特長です。たとえば、人工林の場合 3.4t(年・ヘクタール)ですが、アマモは4.9t、昆布に至ってはなんと10.3tにもおよびます。

また、樹木寿命が進むとCO2吸収量が減少する森林に比べ、藻場は維持・保全させることが比較的容易であり、大量のCO2吸収量を見込むことができます。貯留性にすぐれ、海中(海中の土壌も含む)に長期貯留できることのメリットも大きいのですが、なにより、藻場は海の生き物のゆりかごとして生物多様性の維持に貢献し、我々に豊かな水産資源をもたらしてくれます。

さらに、海藻にはレッドバイオ(化粧品医療品)、グリーンバイオ(食料飼料)、ホワイトバイオ(エネルギー)などの新たなビジネス創出の可能性も秘めています。つまり、藻場の再生・海藻養殖は、さまざまな波及効果が期待できるのです。

気候変動対策の新たな施策「ブルークレジット」

気候変動対策の観点からメリットの多いブルーカーボンですが、多くの課題も抱えています。

  • 時間的課題:成果が出るまでに時間がかかる

  • 養育的課題:植食性魚類による食害

  • 技術的課題:安定栽培技術開発、予防研究

  • 地理的課題:地域地方に合った方法の確立

  • 測定精緻化:呼吸量および固定料の測定

などが挙げられますが、特に顕著なものは「金銭面的な課題」です。この課題を打破すべく、海洋の保全/再生/活用などブルーエコノミー事業の活性化を図ることを目的として、2020年7月に「ジャパンブルーエコノミー技術研究組合(以下、JBE)」が設立されました。そして、JBEが中心となり、ブルーカーボンによる気候変動対策を加速させるという目的で新たなクレジット「Jブルークレジット®」の審査認証・発行しました(※1)。

Jブルークレジット®の仕組みは、大手企業が気候変動対策の一環としてブルーカーボンに着目し、クレジット化したカーボンの購入することによって資金を流動させ、藻場を増やしていくという好循環を生み出すものです。米国社Verraでは、コロンビアのモロスキヨ湾で世界初となる「堆積物まで含むマングローブ生態系の保全に関するプロジェクト」を登録しました。約11,000ヘクタールのマングローブ林を対象に、年間33,000t-CO2程のクレジットを創出しており、2021年5月にアップルが17,000t-CO2を購入し話題となりました。

四方を海に囲まれた日本、この島国の特色を生かしてブルーカーボンの動きを活発化させることができれば、1つの強みとなりそうです。

※1:ジャパンブルーエコノミー技術研究組合 Jブルークレジット®とは
※その他:株式会社農林中金総合研究所 「ブルーカーボンで切り開く浜の未来 ~海草・海藻による炭素吸収の可能性~」

ライター:数藤 雅紀
循環経済スペシャリスト。オランダ マーストリヒト大学が開発したCircularity DECKを使い企業に循環経済を提言中。究極の循環経済はバーチャルファーストという観点でWeb3.0へも領域を拡大、事業化を模索中。

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