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「サステナブルな社会を目指すお客さまのご意向は私たちの事業そのもの」 横河電機株式会社:Social Good Company #37

※この記事の情報は2019年09月24日メンバーズコラム掲載当時のものです

世界を代表する計測・制御機器メーカー 横河電機。80年代に掲げた企業理念は、サステナブル社会を実現するための道しるべとなり、様々な取り組みは結果として、本業を通した社会課題の解決に寄与する事業活動となりました。今回は、横河電機で、チーフ・サステナビリティ・オフィサーを務める黒須 聡さまにインタビューの機会をいただきました。

  • 長年培われた計測・制御ビジネスは、サステナブル社会を実現するためのコア技術

  • 2019年の ダボス会議では、Global 100(世界でもっとも持続可能な100社)に選出

  • サステナビリティの考えは、「もったいない」の精神を太古から持つ日本の価値観

<インタビューにご協力いただいた方> 
横河電機株式会社 チーフ・サステナビリティ・オフィサー
黒須 聡 さま
<プロフィール>
入社時から海外ビジネス拡大に関わる。欧州、東南アジアに駐在。2004年マーケティング活動を組織化し、B to Bブランディングで2009年「第1回日本マーケティング大賞 奨励賞」を受賞。長年経営に携わり、2019年よりチーフ・サステナビリティ・オフィサーとなる。日本マーケティング学会理事。WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)理事。

● 横河電機さんは、サステナビリティへの取り組みを積極的に進められています。

弊社は、90年代に地球環境室を組織化しています。2000年代からは、CSR専門の部署を作り、グローバルコンパクトにも署名しました。しかし、それはきっかけでしかありません。「計測と制御と情報をテーマに、より豊かな人間社会の実現に貢献する」、そして、従業員として「良き市民であり、勇気をもった開拓者であれ」という企業理念を掲げたのが80年代、この企業理念を30年以上、今も私たちは使い続けています。

2015年には、SDGsやパリ協定の採択により、私たちも社会課題の解決やCO2排出の削減にもっと積極的に取り組もうと、2017年には「サステナビリティ目標 Three goals」を策定し、注力分野を特定しました。気候変動分野では、2018年から2030年までに10億トンのCO2排出を抑制、ウェル・ビーイング分野では2030年に安全・健康価値創出額として1兆円、サーキュラー・エコノミー分野も2030年に資源効率改善額として1兆円の目標を掲げています。

一方で、2017年に、WBCSD(World Business Council for Sustainable Development:持続可能な開発のための世界経済人会議)にも加入したことで、海外企業のサステナビリティへの意識の強さを肌で感じることができました。そして、企業理念は、サステナビリティの側面から、時代を先取りしていたと言えます。

また、80年代の海外の売上比率は30%でしたが、今は70%を占めるまでになりました。海外のお客さまが増えたことにより、サステナビリティを求めるお客さまの声も自然と社内にも入ってくるようになりました。SDGsの取り組みもお客さまからの要請もあり、必要だったということです。

こうした過去からの積み重ねがありましたので、その流れのなかで、サステナビリティに取り組んできたという自負があります。サステナビリティも、それを目指していたわけではなく、これまでの取り組みが評価された結果、Global 100(世界でもっとも持続可能な100社)に選ばれることになりました。

● 一方で、ご自身はマーケティング部門を統括されていました。

私たちの主な取引先は、グローバルの巨大エネルギー企業です。また、私たちの競合企業は、シーメンスやABB、ハネウェル、エマソン・エレクトリック等、グローバルでも6社程度、海外の競合企業の売上は十兆円から小さくでも3兆円規模ですが、私たちは4,000億円規模の企業ですのでグローバルでの知名度も無いなかで戦ってきました。一方で、国内にはグローバルに展開する競合企業は存在しません。

製品の品質や信頼性への自信はありましたが、ある時期、海外企業に負け続けるという事態に直面しました。色々と調べてみると、米国企業を中心に、B to Bの企業ではあってもマーケティングに力を入れていることが分かりました。そうした海外の巨大企業と戦うには、マーケティングへの取り組みが欠かせないだろうと必要に迫られて対応したという背景があります。

これからも、自社で積極的に取り組んでいきますが、これからは、日本のプレゼンスを上げることに貢献したいと考えています。国連の会合にも、WBCSDの役員として何度か参加しましたが、多くの会合で参加する日本人は私1人でした。最近、国際的な会議の場に日本人が少ないことに危機感を持っています。

● 日本企業は以前から様々な取り組みをしているのに、海外企業と比べると、外部への発信力やマーケティングの取り組みが弱い印象を受けます。

海外のグローバル企業が積極的に取り組むマーケティングやサステナビリティに対応しないと、私たちは生き残ることができなかったと言えます。そうしたグローバルの流れに晒された稀有な日本企業の1つと言えるでしょう。

また、WBCSDに参加する日本企業は、世界でも第2位、20社程度が参加しています。しかし、総会に参加しても、会合が終わった後のVIPカクテルパーティに参加する日本企業がほとんどいないのが実態です。日本企業や日本人が興味を持たれているにも関わらず、そうした機会の場に日本人の参加が少なく、残念に思います。

今年の春には、宇宙開発関連の人材を育成する国際宇宙大学に短期留学する機会がありました。シンギュラリティ大学の創設者が1980年代に設立した大学です。世界中の様々な国からの参加がありましたが、日本人の参加は私1人でした。最近の留学生の大半はインド人と中国人が占めています。

マーケティングの取り組み以前に、日本企業はもっと日本自体のプレゼンスを上げることを真剣に考える時期に来ています。

● SDGsへの対応やThree goalsの発信等、社員の方々への浸透はいかがですか?

私たちの主要な事業である制御ビジネスは、プラントの頭脳と神経と言われています。プラントの状態を高精度のセンサーで計測し、ノンストップ・コンピューターで制御しています。そういったオートメーションによる、効率化/省エネ/省資源が生業となっていました。そうしたなか、最近の地球温暖化防止のためのCO2排出削減は私たちの強みと合致していると言えます。また計測ビジネスでは、多くの電気自動車の開発で、高精度な電力測定器が使われています。

最近では、省エネのテクノロジーやコンサルティングスキルを持つ海外の企業も買収していますが、化石燃料からエネルギーシフトしていく、というお客さまの意向は、私たちの事業そのものでした。つまり、サステナビリティの社内浸透以前に、ビジネスチャンスであったということです。そして、様々なプロジェクトを通して、お客さまをご支援することができています。

● 具体的なプロジェクトの内容を教えていただけますか?

工場単体でエネルギーマネジメントが確立できれば、10%程度のCO2削減は比較的簡単に実現できます。それを自治体レベルで取り組むのが北海道の下川町です。また、シンガポールでは、政府とともにサステナビリティ・ハブと呼ばれるクラウド・システムを作り、国レベルでのCO2排出削減に取り組んでいます。

また、トヨタ自動車さんとは、宮城県でF-グリッド宮城というプロジェクトを進めています。これまでの仕組みにプリウスのバッテリーも含めて、コミュニティでのエネルギーマネジメントを実現しています。インドでは、スマートシティのプロジェクトに参加しています。

共通しているのは、計測と制御、情報を繋ぎ、エネルギーを最適化して結果的にカーボンフットプリントを抑えるということです。お客さまの1つの工場の取り組みから、地域コミュニティや自治体、そして、国レベルまで拡げています。

● 下川町等、地域との共創はとても興味深い取り組みです。

これまでのモノ売りの営業からソリューション・プロバイダーへ転換することを目指すなかで生まれた成果です。下川町では、公共の熱消費量の60%はバイオマスで賄っています。そうした先進的な取り組みをより効率良く進めようとすれば、まず私たちのセンサーやモニタリングシステムで見える化することが重要です。見える化できれば、改善することができますので、効率化にも寄与することができます。将来は電力自給率100%を目指し、それに向けた様々な取り組みを行っています。

計測ということでは、見える化は従来からの得意分野でした。計測、制御し、蓄積したデータは様々な活用が可能になります。それらの基盤となるのが、正確に測るという技術です。蓄積した膨大なデータは、次の提案に活用しています。

● 高度な技術を持つモノづくりの製造業がソリューション・プロバイダーへ転換することへの難しさはありませんでしたか?

国内では高度経済成長と共に、私たちも規模を拡大することができました。しかし、これまでのような成長は国内では望めなくなり、工場も海外へと移転しました。海外では規模の拡大が求められますが、国内では、テクノロジーの高度化が求められます。これまでの技術をより高度化しなければ、生き残ることができないでしょう。

そうした危機感から生まれたのが、下川町であり、F-グリッドの取り組みです。計測や制御のコア技術を持ちながら、付加価値を提供することが重要です。

● 計測や制御等の製品の提供から、全体をデザインするパートナーとして、まさにビジネスで社会課題を解決しています。

サステナビリティはビジネスと繋がらなければ意味がないし、繋ぐからには、儲ける必要があると思います。まさにビジネスです。

従来のCSRだけでは継続していくことができません。7割を占める海外の売上も、プラントの新設では新興国も多く含まれます。新興国を豊かにするためには、製品やシステムの提供だけではなく、その後のメンテナンスやそのためのトレーニングも多く手掛けています。そうした社会貢献を、ビジネスを通して行っています。

ビジネスを通して世界の国々の産業を支援し、結果的にビジネス成果も上げている。持続可能な取り組みを行う日本企業として、世界にアピールしたいと思っています。そして、それが私の役割であると考えています。

● 日本企業は、CSOのポジション自体がまだまだ少ないなかで、まさにその役割を果たすことになります。

グローバルでは必ずしも私たちの取り組みが進んでいるわけではありません。近々発行するサステナビリティレポートも、WBCSDで指摘を受けた箇所を反映し改善しています。SDGsができて世界の共通言語になったことで、説明がしやすくなったかも知れません。

営業のアプローチも以前とは変わってきています。以前は製品カタログと説明資料を使っていましたが、今はトップへヒアリングを行い、そこから抽出したテーマを題材にお客さまとワークショップを実施しています。買収した海外のコンサルティング企業によるトップセールスの手法ですが、当初はカルチャーショックでした。

こうした取り組みにより、約2年前からモノ売りからサービスの提供、そして、お客さまの経営まで踏み込んだ提案ができていると思います。お客さまと一緒にその解決策を作り上げることになりますので、信頼関係も築くことが出来て、取引も持続することになります。

●B to B企業のセールスも変化していますね。

そうしたセールスは、多くの時間を割く必要があります。また、コンサルティング・セールスができる人は限られますので、きめ細かな教育が必要になります。こうした手法には全社的な理解が必要となるため、社長や役員も含めてトレーニングしています。

また、社内には、Yokogawa Universityという企業内大学があります。私は今、約150名の社員を対象に、世界で活躍するための人材育成講座を担当しています。先程も申し上げましたが、日本人が海外へ出ていかないという危機感を打破したいと思って取り組んでいます。

● 非常に多くの熱心な社員の方がいらっしゃいます。

もともと100人の枠を予定していましたが、すぐに募集枠が埋まったため、急遽講座数を増やしました。最終的に企業はヒトです。文化や宗教、価値観の違いまで含めて、これまでの経験やスキルを活かし、海外でも通用する次世代の人材の育成を進めています。

● ご自身のグローバル人材としてのスキルはどのように培われましたか?

父親の仕事の関係で、10歳の頃、タイに住む機会がありました。その頃にタイ語を少し学びました。また、海外に住む経験があったことで、日本とは異なる空や海があること、そして人種の多様性を理解したつもりです。英語は、社会人になってラジオ講座を聴いて独学で学び、海外での仕事を通して習得しました。

● 最後にSDGs達成の年、2030年に向けて、グローバルで活躍されているお立場から、日本企業や日本人へのアドバイスをお願いします。

日本のB to B企業には優れた高品質な製品とサービスを提供する力があり、世界のSDGsに貢献できます。そしてサステナビリティの考えは、「もったいない」の精神を太古から持っている日本の価値観そのものです。また欧州に駐在して初めて分かったのですが、ヨーロッパの知識人の日本の文化と芸術に対する評価は高く、最近ではそれが一般的な食文化にも広がっています。

そのような評価に自信を持ち、日本人個人としても日本の強みを学び、もっと世界に出て行って欲しいです。これをAll Japanでやれば、世界を持続可能なより良い場所へ変えられると信じています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年09月24日メンバーズコラム掲載当時のものです

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