「メガバンクとNPOによる協働プロジェクトは、世界に発信すべきグッド・プラクティス」 みずほ銀行×アクセプト・インターナショナル:Social Good Company #41
※この記事の情報は2020年02月12日メンバーズコラム掲載当時のものです
「不正送金被害をゼロに。」をキャッチコピーに大きな成果を上げた第1弾プロジェクトに続き、第2弾のプロジェクトではワンタイムパスワードの申込み1万件達成の際にみずほ銀行さんがNPO法人 アクセプト・インターナショナルさんへ100万円を寄付するコーズリレーテッドマーケティングを実施。約2か月間で、1万件の申込みを達成するという素晴らしい成果を上げています。
今回は、本プロジェクトを協働で進めたみずほ銀行さんとアクセプト・インターナショナルさんのおふたりにインタビューの機会をいただきました。
メガバンクとテロや紛争解決に取組むNPOによるコーズリレーテッドマーケティングは、既存のコミュニケーションと比べて、28倍もの成果を上げる。
社会課題解決型のマーケティングで重視したのは、従来の機能や価格訴求型のマーケティングとは真逆のアプローチ。
SDGsの達成に向けて、今後もCSV(Creating Shared Value)を追求する。
● はじめに銀行で担当する業務内容を教えてください。
竹内:非対面チャネルの企画・運営を主とする部です。そのうち、インターネットバンキングの所管チームに所属しており、私はセキュリティをメインに利用促進や企画等を担当しています。今回のプロジェクトは、同チームの広告宣伝の担当者や他部署とのタイアップによって進めました。
● 銀行業務でのセキュリティ担当となるとご苦労も多そうです。どのようなアプローチでお客さまのセキュリティを担保していますか?
竹内:インターネットバンキングにおけるセキュリティは、大きく2分すると、お客さまに実施していただくものと銀行が行うものがあります。
お客さまに実施していただくものとして、ワンタイムパスワードの利用や、不正送金を防止するウイルスソフトのダウンロード、もっとも簡単な例としましては、ログインパスワードの入力等があります。一方で、銀行は、お客さまの預金や情報を守るため、24時間、365日モニタリングをして、不正送金が行われていないか等を監視しています。
● アクセプト・インターナショナルさんの活動もご紹介ください。
永井:私は、NPO法人 アクセプト・インターナショナル(以下、アクセプト)の代表理事を務めています。組織名の通り、受け入れるを理念として、テロと紛争の解決の分野で活動する、日本発の国際NGOです。
主な手法として、暴力的で過激主義組織、いわゆるテロ組織に若者が加入するのを防ぐ「加入防止」と、そうしたテロ組織に入ってしまった若者が脱退できるように「脱過激化」してもらうという2つの活動を軸として、テロと紛争の解決に貢献をしています。
主な活動場所は、紛争地ソマリアを中心に、ケニアやインドネシアとなります。また、現在の暴力的過激主義組織というのは、組織構造がピラミッド型ではなく、ネットワーク型やアメーバと言われていますが、非常に多層的、多角的な生態系のなかで活動しているのが特徴と言えます。
● 現在のインターネットバンキングにおける不正送金の実態はいかがですか?
竹内:警視庁の発表によると、ATM等と比べればインターネットバンキングの不正被害規模は実は少なく、更に数年以上前と比べるとかなり減ってはおりますが「0」ではありません。しかしながら、昨今ニュースになったフィッシング被害により銀行界全体では、ここ数ヶ月数億円規模で発生し、過去最大級ともいえる被害になってしまっております。
● インターネットバンキングでの不正送金の主な原因は何ですか?
竹内:数年前までは、ウイルス感染(マルウェア)が主な原因でした。たとえば、ウイルスが添付されたメールを受け取ったお客さまがメールを開封することで、パソコンがウイルス感染して大切な情報を盗み取られてしまう。また、感染したパソコンで、インターネットバンキングを使い振り込みをしようとした瞬間、犯人がネットワークを通して、異なる口座番号を裏側で入力し書き換えてしまうといった高度な手口もありました。
ここ数年は、お客さまによるウイルスソフトのパソコンへのインストールが常識になったことや、銀行業界全体がウイルス検知に力を入れてきましたので、こうしたケースでの不正送金はかなり減ってきています。そして、これらのウイルスは、ワンタイムパスワードや銀行が提供するウイルス対策ソフト等のツールを利用していただくことで、多くは防止できます。
しかし、対策が普及し非効率な犯罪になると、犯人の手口も当然変わってきます。たとえば、最近では、犯人がお客さまに直接電話をかけて、ログインのためのパスワードや第二暗証番号を聞き出す手口も多発しています。アナログかつ古典的な手法に見えますが、ウイルスに感染させるわけではありませんので、犯人は正規の利用者を装って操作できてしまいます。ここを更に強固に防御したい、と思っております。
●そうしたなかで、昨年度から不正送金ゼロを掲げたプロジェクトを実施しています。
竹内:私たちは、昨年度の第1弾に続き、今年度、第2弾として、ワンタイムパスワード利用促進のプロジェクトを実施しました。銀行として、不正送金問題を解決するというCSV(Creating Shared Value)と言えるでしょう。
第1弾では、主に、ワンタイムパスワードの利用を従来の機能訴求ではなくて、使う意義を訴求することを行いました。告知方法はメールマガジンが主ですが、かなりの成果を上げることができました。また、第2段ではお客さまの不正送金やセキュリティに対しての関心が高まったことも成果の1つとして挙げられると思います。
このサイトにアクセスしてくださいという、普段は見かけないメールが届くことや、銀行が暗証番号を電話で聞いたりすることに対して、おかしいなと思い立ち止まっていただくこと、また、ワンタイムパスワード等のツールを利用いただくことが、現時点では被害抑止に大変有効な方法です。
●第2弾プロジェクトは、アクセプトさんとの協働によりプロジェクトが進められました。
竹内:セキュリティへの関心を更に高めたいと考え、今回、第2弾のプロジェクトを実施しました。
永井:私たちとしても、過激化防止と脱過激化の2つの活動を軸としながらも、多角的なアプローチをしていこうという計画があり、今回のみずほ銀行さんとのプロジェクトは貴重な機会となりました。
実際に、テロリズムとファイナンスとの関係性において、テロ組織が不正送金で語られることは多いと思います。国連等が制裁として、資産の凍結をしても状況はなかなか変わりません。もちろん、上流での取り組みは必要ですが、金融機関を利用するエンドユーザーの方々の意識を変えていくことも重要です。
しかしながら、私たちとしてそのようなエンドユーザーの方々へリーチするというのは簡単ではありません。そうしたなか、みずほ銀行さんとのプロジェクトでは、様々な可能性があることが感じることができました。テロ紛争解決に対する一般個人へのアプローチとして、こうしたコラボレーションは、とても重要であることを実感しています。
● 不正送金の被害を「ゼロ」にするというメッセージが、今回のプロジェクトの特徴と言えます。
竹内:第1段の際、ワンタイムパスワードの利用を社会課題解決型施策で進めたいとメンバーズさんから提案をいただきました。まずは不正送金をゼロにするというメッセージを打ち出すのはどうかというお話をいただきましたが、強い言い切りの形式にもなりますので、恐らく行内で承認を得るのは難しいだろうと思いながら企画したことを記憶しています。
しかし、行内の承認は予想以上に早く、不正送金ゼロに向けて取り組んでいることを訴求する方向で、プロジェクトをスタートしました。
竹内:当初プロジェクト企画の際は、メンバーズさんと一緒に、ワークショップを実施しました。そもそも、なぜ、みずほ銀行がセキュリティに取り組むのか?その取り組みにどのような価値があるのか?取り組まなかったらどうなるのか?を、ワークショップを通して話し合い、熟考する機会を持つことができました。
第1弾では、ワンタイムパスワードの利用促進だけではなく、不正送金という社会課題にもしっかりと触れることによって、お客さまにもメッセージが届くのではないか、ということで企画しました。第2段では、第1弾をベースに、不正に送金されたお金は最後どういったところで使われているのか、を可視化することで更に効果があるのではないか。ということで、テロ被害撲滅のNPO 法人アクセプトさんをご紹介いただき今回に至りました。
● NPOとして、これまで、企業との協働での取り組みはありましたか?
永井:これほどの具体的な協働は今回が初めてです。テロ、紛争をテーマに、ソマリアで活動していることを伝えても、なかなか話を聞いていただける機会はありませんでした。
● 銀行と一緒に進めることに関しては、どのように感じましたか?
永井:銀行さんと言えば、もっともコンプライアンスには厳しい業種でしょう。活動地域がソマリアということで、本当に実現できるか半信半疑でした。
竹内:アクセプトさんの活動にはまず個人として共感しました。また、銀行業界の不正送金抑止とマーケティングを協働で進めることに非営利法人であるアクセプトさんが興味を持っていただいたこと、コンテンツを作成する際に当方と相談のうえ、マッチした素材をご用意いただけたことも大切なポイントでした。プロジェクトを通して支援する、お金の使い道も明確であり、ご相談させていただけたことも大きかったです。
どのようなプログラムにそのお金を使うのか、アクセプトさんに共有いただきながら推進しております。通常はNPO法人さんと何か実施するとしても結局のところ、寄付金授受のような関係でしかないことが多いように感じます。
永井:NPO/NGO自身も、官民連携、異なるセクターと、といった掛け声はよく聞きます。しかし、現地へのアクセスも難しく、テロや紛争解決の領域では、そうした連携はありません。民間とどう組めばいいのかを常々考えていたところでお声掛けをいただきました。
● このようなテーマのプロジェクトをメガバンクとNPOとが協働で実施したことは、画期的なことです。
竹内:今回の取り組みを通して、リリースが終わってみると、セキュリティと社会課題解決施策は相性が良いと感じています。不正送金0という取り組もやらない理由はないと思います。もちろん当初は、テロや紛争をテーマとした社会課題に直にフォーカスすることに、各担当者としては様々な観点で心配はありました。
しかしながら、不正送金をゼロにする、それを訴求することに反対する人はいません。こうした取り組みをNPO法人と進めることに前例がなかったことが何より大変でしたが、逆に今となっては良かったと言えます。行内でも関係各部に協力・ご理解いただき、コンプライアンス面等での課題はクリアできました。
● お客さまの反応はいかがでしたか?
竹内:銀行が特定の団体を援助するように見えることや、なぜ銀行がやらなければいけないのか?といったお客さまからのご意見を心配しました。しかし、そうしたネガティブな反応はほとんどありませんでした。むしろ、直接的に利益が上がるような施策ではなく、こうした社会課題解決に銀行がきちんと取り組むことについてポジティブなお声を、支店等を通していただきました。
要因としては、今回のプロジェクトをお客さまにお伝えする際に、内容を読んでいただかないと、何をアクションすれば良いか分からない、通常のマーケティングとは逆のアプローチをしたからかもしれません。
今年の第2弾の取り組みで、重視したのは、セキュリティの自分事化を高めることです。その重要性をお客さまにも理解していただきたくて、そのうえで、コンテンツの最後にワンタイムパスワードも使っていただけませんか?という伝え方をしています。
ワンタイムパスワード申込数の達成だけが目的であれば、もっと効率的なやり方もあったかもしれません。
●私たちは、マーケティング成果を上げるために、いかにクリックしてもらうかを前提に施策を考えます。しかし、今回は、お客さまに取り組む内容の理解を深めていただくことを最優先しています。通常のマーケティングの真逆のアプローチをしましたが、結果的に成果を上げることができました。
竹内:コーズリレーテッドマーケティングという手法で、お客さまと銀行が一緒になって社会課題を解決する、顧客参加型を採用したことも、成果を上げる要因の1つになったと感じています。
もともとは、ワンタイムパスワードの機能訴求のみであったものを、第1弾では社会課題を自分事化し、自らのアクションで解決できるというコミュニケーションを行いました。そして、第2弾は、アクセプトさんと組むことによって、不正送金の行き着く先を可視化することで、さらに良い成果を挙げることができました。
● 今回の成果に対して、行内の評価はいかがでしたか?
竹内:第1弾のプロジェクトで成果を収めていましたので、期待は大きくプレッシャーもありましたが、第2弾の成果は、想像以上でした。事務処理が追いつかないほどです。
● コーズマーケティングを行ううえでのターゲットとするユーザー特性等は考慮されましたか?
竹内:今は銀行に行かなくても、コンビニのATMでお金を下ろすことができます。支店に足を運ばない銀行に距離感がある若者層に対して、第1弾のプロジェクトは、うまく訴求できたと思います。
第2弾では、年齢層の偏りがあるかと思っていたところ、あらゆる層から幅広く支持されました。
● 私たちの意識調査でも、若者層に加えて、40代以上の社会課題解決に対する関心がこれまで以上に高まっています。
竹内:銀行として、社会課題解決を打ち出す際は、年齢やターゲットを絞らなくても、あらゆる層にそれ相応のご理解をいただけるものであると感じました。実際に、第2弾では、ワンタイムパスワードの申込み 1万件を予想よりも1ヶ月以上早い、約2か月程度の短期間で達成することが出来ました。
永井:私たちは、またまだ小さな組織で大きなネットワークも持ち合わせていませんが、短期間でこうした成果が出たことは、正直なところ驚きです。
竹内:KPIとしてはワンタイムパスワードの申込件数等を掲げており、その成果を出せたことは喜びですが、それ以上に、「セキュリティの自分事化」という点でもご理解いただけたこと、アクセプトさんをみずほ銀行のお客さまに、みずほ銀行のフィルターを通して認知いただけたことが、良かったと思っています。今回のお申込件数は1万件ですが、配信は既にご利用いただいている方にもお送りしておりますので、本当に多くのお客さまにみずほの姿勢をお伝えすることができました。
永井:プロジェクトを通して、普段はリーチできない方へメッセージを届けられたのはとてもありがたいことです。
● テロや紛争といった難しいイシューでありながら、これだけの成果を出せた理由はどのように考えていますか?
竹内:自分事化、可視化、というのがキーワードであると考えています。なぜ、銀行がそれに取り組むのか、それを分かりやすく伝えたのが第1弾のプロジェクトです。第2弾では、それに加えて、顧客参加型の要素を加えています。
お客さまが直接100円の寄付をするわけではありませんし、逆にお客さまが100円を貰えるわけでもありません。金銭的なインセンティブの観点からすれば、お客さまにとってはここで参加してもしなくても変わりません。そこで、必要性を訴え、不正送金の使われ方を可視化し、「なぜ」を明確化、「自分事化」していただけたことが要因ではないでしょうか。
永井:イシューと自分の距離が実は近いことをしっかりと提示できて、アクションがしやすく、しかも、参加性を上手く組み合わせることができたからだと感じています。参加者の100円、1,000円寄付ではなく、一手間加えるだけで、社会に良い影響をおよぼすことができる、アクションのしやすさが重要だったと思います。
●これまで、セキュリティ面での安心・安全を訴求しても反応が薄かったのに、今回、成果を挙げられたことは、興味深い結果です。
竹内:プロジェクトを通して、参加を促しエンゲージメントを高めることができたのではないでしょうか。また、自分だけの特典というよりは、様々な社会課題が身近になり、解決のために何かに参加する、そうした価値観も高まってきたのではないでしょうか。
● 参加できるということがインセンティブになったのかもしれません。
竹内:そうですね。現地で活動をするNPO法人と連携し、ソマリアでの活動等、現地を写した本物のコンテンツを活用できたことも成功のポイントであったと思います。
アクセプトさんから様々な素材をお預かりしてコンテンツを制作しました。今回の取り組みをきちんと伝えるため、ストーリーやクリエイティブをメンバーズさん含め皆で考えたことは、もっとも苦労したところかもしれません。その結果、インパクトがある、良いコンテンツを制作することができました。
● 今回のプロジェクトでは、1万人達成までの経過も可視化しました。
竹内:1万件という目標は、お客さまと一緒に、私たちとアクセプトさんと三者共通のゴールです。その達成件数に対して、現時点で何人の申込みがあったかをWebサイトに随時表示したことも、成功要因の1つであったかもしれません。
● ワンタイムパスワードの導入や利用率が上がることは、みずほ銀行さんにとっても意味があることですよね?
竹内:その通りです。不正送金が発生すると、調査や対応には莫大な手間・時間と人員が掛ります。お客さまにとっても大きな心理的負担となります。そのため、ワンタイムパスワードの利用が増えて、不正送金が減ることは、ビジネスとして非常に合理的で、それが社会課題を解決し、お客さまの安心・安全にもつながるということです。
ビジネス面での成果と、社会課題の解決を、NPO法人やお客さまと一緒に進められたことは素晴らしい成果でした。
● 最後に今後の展望をお聞かせ下さい。
竹内:ダイレクトバンキングのセキュリティ担当として、まずは、今回のプロジェクトを広め、今後も継続していきたいと思います。そして、プロジェクトの結果報告で、アクセプトさんが資金を活用いただいたプログラムの情報をしっかり公開していきます。
また、金融機関もSDGs達成への取組みが求められています。今回の施策に限らず、セキュリティの観点を持ちつつも、ほかにもできることを検討して行きたいと思っています。
永井:私たちも、寄付をしていただいたお金による成果をしっかりと報告していきます。近々、国連の会議でも登壇の予定がありますが、グッド・プラクティスとして、紹介したいと思います。
テロリズムとファイナンスをテーマとした取り組みが、日本発の事例として生まれたことは画期的なことです。国連を軸として、世界に発信していきます。そして、今後もCSVの可能性を模索して行きたいと思います。
※この記事の情報は2020年02月12日メンバーズコラム掲載当時のものです
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