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「創立者の信念を継承し伝える」LUSHジャパン:Social Good Company #34

※この記事の情報は2019年09月02日メンバーズコラム掲載当時のものです

カラフルな商品と様々な香りで満たされる店内。LUSHの商品はすべてが、新鮮なオーガニック原料を素材にハンドメイドで作られています。それは、1995年の会社創立以来、引き継がれる会社のDNAです。今回は、世界各国でオーガニックコスメの製造・販売を行う、LUSHジャパンさんに取材の機会をいただきました。

  • 創業以来、原材料の調達から製造~販売まで、すべてのプロセスにおいてサステナブルな取り組みを行う

  • 日本でのビジネスが軌道に乗った要因の1つは、自らの理念や考え方の積極的な発信

  • ビジネスの土台は、創業以来受け継がれる倫理観

<インタビューにご協力いただいた方> 
株式会社 ラッシュジャパン PRマネージャー
小山 大作 さま
<プロフィール>
米国留学から帰国後、PR会社での経験を経て米国系化粧品ブランドでのPRを担当。その後、デジタルマーケティングサービスプロバイダーでのコーポレートPRおよび業界全体の発展を目的にしたPRに従事。2014年、ラッシュジャパン入社。PRマネージャーとして現在に至る。

● はじめに会社の紹介をお願いします。

LUSHは、1995年にイギリスのドーセット州にある小さな港町で5人の創立者により立ち上げたブランドです。今でもそこには1号店と製造拠点があります。現在は、48の国と地域で、約930の店舗を構えています。日本では、1999年に最初の店舗がオープンしていますので、ちょうど20年目を迎えました。国内では、84の店舗を展開しています。

国内の私たちの本社は神奈川県愛甲郡にありますが、世界の製造拠点8ヵ所の1つで、日本でも製造し、近隣のアジア各国に商品を輸出しています。また、東京の新宿と京都には、スパもオープンしています。

● Webサイトを拝見して、もっとも目を惹いたのが、8つの項目として掲げる「ラッシュの信念」です。

これは創立から、今でも常にビジネスを進めていくうえで、これが起点となって、経営判断をしています。

新鮮でオーガニックなフルーツや野菜、高品質なエッセンシャルオイル、安全性の確認された合成物質も一部使っており、それらを原材料としてすべての商品をハンドメイドで作り続けています。また、原材料の調達先含め、関連する企業はすべて、動物実験には一切関与していません。

● サプライチェーンまで含めてというのは、徹底していますね。

安全性は動物を使うのではなくて、人間の肌で確認をすることが重要であると信じています。今では、安全性を確認するための方法の開発も進んでいますので、動物を使わなくても科学的に安全性が確認できるようになってきています。また、私たちは、代替法開発の推進や、動物実験廃止につながるための活動をしている方々を、LUSH PRIZEという基金により、経済的に支援しています。

また、合成保存料やパッケージ、そういったものはできる限り使わずに、使用するときも最小限にとどめることをお客さまとお約束をしています。また、すべての商品に製造年月日と使用期限が明記しています。これは新鮮なうちに商品を使って欲しいということです。

● 誰が作ったのかがわかるラベルも商品に貼っています。

こうしたステッカーを付け始めたきっかけは、自分が作った商品が並んでいて、そのご両親やご家族の方が店に来て、自分の息子、娘が作ったというのを誇らしく思える。つまり、作り手はそうした存在であって欲しいということです。創業したのが小さな港町なので、こうしたことを始めました。原材料の野菜や果物等も、誰が作っているのかすべてが分かります。

● 原材料から製造プロセスに至るまで、トレーサビリティが徹底していますね。

お客さまの視点からすると、やはり安心して使っていただけるのはもちろんですが、ブランドと親近感が湧くというご意見もお客さまからいただきます。

● 「ハッピーな人がハッピーなソープを作ることを信じています」という信念も興味深いですね。

これは、外向けというより、私たち自身に対して、ハッピーに自分らしく暮らせているか、働けているかという事です。スタッフ自身が幸せであることが、お客さまを幸せにする商品作りを実現するということです。

● 信念に関してもう1つ、「キャンドルを点灯しながらお風呂でくつろぎ・・」、「失敗してもやり直す権利がある」と掲げられているのが印象的です。

スタッフにもLUSHのファンが非常に多いので、やはり私たちの商品を、ただ体をきれいにするためだけではなく、人生を楽しく謳歌したり、キャンドルを灯すこと1つで、特別な空間を作ることができたり、人生やライフスタイルを豊かにする、そうしたことを私たちは大切に考えたいと思っています。また、皆さんのライフスタイルに寄り添うような、そんな存在でありたい、そうしたことに貢献できる商品を作りたい、心地良い香りで世界を幸せにしたいということです。

また、「失敗してすべてを失ったとしても、再びやり直す・・・」というのは、社内向けのメッセージです。前身の通販専門の会社は倒産してしまいましたが、失敗したっていいんだ、みんながチャレンジし続けることがもっとも大事であるという、社内向けのメッセージです。失敗したって、次にうまくやれば、その人はもう大成功だよということです。そして、スタッフみんなが積極的というか、一人ひとりがオーナーシップの意識を持って仕事をしています。

私たちの組織の考え方は、逆三角形です。逆三角形の上には、当然ながら1番大切なお客さまがいますが、その下に来るのがショップスタッフやショップマネジャーです。そして、私たちのようなサポートメンバーがいて、1番下に代表者や創立者がいるという考え方です。

多くの店舗を持つ企業は、エリアマネジャーのような、店舗を統括するような部署があると思いますが、私たちの組織にはありません。店舗一つひとつが、独立した会社のように運営しています。つまり、店長が社長のような存在で、目標設定や売上管理、人の採用等、すべてを任されています。

● 取材の準備を通して、広告を一切行わないということを知りましたが、マーケティングやリサーチ等は、どのようなことをしていますか?

マーケティングもリサーチもまったくしていません。こんな商品が世の中で売れているから、こういう商品を作るという発想はありません。また、環境面への配慮やプラスチックゴミ問題も、日本でもやっとトレンドになってきましたが、私たちは創業当初から、そうした取り組みを当たり前のようにやっており、自分たちのPRのために活動をしていません。

たとえば、社会に何かメッセージを訴求するとき、メッセージをキャンペーンとして発信しますが、そういうときはLUSHのロゴマークはすべて外します。私たちの会社が発信していることをPRしたいのではなく、その社会課題に注目して欲しいという想いから、メッセージだけを伝えます。

LGBTQの対応もそうです。東京レインボープライドというイベントも当初から協力をしていますが、協賛ではなくて、寄付をしていますので、協賛企業としてはロゴマークも入っていません。つまり、会社のPRとしてやっているわけではありませんので、ロゴを出す必要はないという考え方です。

● 通常の企業であれば、もともと取り組んでいる社会活動があって、関連するイベントがあれば、少し言い方は悪いかもしれませんが、それを逆手にとって利用しようと思います。

創立者が70年代のヒッピーのムーブメントが起きた時代に学生生活を送り、学生運動にも参加していました。そのときから、たとえば、自然環境や生き物を大切にするとか、政治や国に対して積極的に意見を言ったりする時代を生きた者が創立しているブランドです。

つまり、創業以来、社会に対して疑問を持ったり、倫理観を持つことを重要視してきました。もちろん私たちは、別に完璧な人間やブランドではありません。しかし、できる限り、地球や人、動物に負荷を与えないことで、ビジネスをしたいという考えでこのブランドを立ち上げています。

ここに掲げる信念もそうですし、ビジネスを通して、環境問題や、人権、動物関連の様々な問題を解決できる存在でありたいと思っています。

● まさに、CSVですね。

そうですね。今の言葉ではそうなります。

● しかし、Webサイトも見ても、CSVやCSR等のキーワードは一切見当たりません。

私たちは、それをしている意識はまったくないんです。時代の流れや環境のなかで、それぞれの会社が考えていることをメッセージをプロモーションやマーケティングとして世の中に発信していると思いますが、私たちの場合は、倫理観こそがビジネスの原動力になっています。

● 自らが、「エシカルカンパニーとは言いません」といったメッセージを発信しています。

私たちは、エシカルカンパニーになりたい、呼んでもらいたいからやっているわけではありません。創立者が日本のメディアの方々から取材をされることがありますが、「戦略は何ですか?」、「どういった方針でやっていますか?」という質問をいただきます。皆さんも子どもの頃から、一人ひとりが倫理観を持っていると思います。たとえば「お友達には優しくしなさい」とか、「ご老人がいたら手を差し伸べなさい」といった、非常にシンプルで当たり前のことです。ビジネスにおいても、そういった当たり前のことを実行するということです。

私たちの会社には、CSRの部署や、CSVのようなことを推進する部署はまったくありません。常に社員一人ひとりが意識しています。ブランドというのは、社員が作っていくものであり、これを継続し、成長させるのも社員です。

サプライチェーンすべてに自らが関わっています。つまり、原材料も農家さんの所に直接行って、本当に労働環境が整備されているか、児童労働はされてないか、また、土壌に負荷をかけるような作物の育て方をしてないかを直接確認しています。製造はもちろん、パッケージや販売する什器、販売の仕方は倫理的になっているのか、すべてのビジネスの基本は倫理観を持つということです。

● 創立者のDNAが社員一人ひとりまで受け継がれています。

LUSHには多くのスタッフが関わっていますが、そうした意識が浸透しています。そして、何よりも私たちのビジネスは、この地球環境が劣化してしまったら、ビジネスもできなくなってしまいます。私たちがビジネスをさせていただいている以上、やはり会社としての責任として、私たちのビジネスにも直結する環境問題はもちろん、そこに関わる人と動物すべてが幸せに、平たく言うとハッピーに暮らせることが大事であると考えています。

考え方はシンプルです。みんなが地球で幸せに暮らすために、ビジネスでどう貢献できるかという事です。同じ地球に共存する私たちがみんな自分らしく幸せに生活するという観点から、ビジネスでどう貢献できるかということです。私たちのビジネスの土台がすべて倫理観であり、ビジネス上の決断も全て倫理観が原動力になっているということです。

● 何億円もかけて世界中から多くの社員が集まるイベントがあることを知りましたが、そうした考え方を浸透させるためですか?

ラッシュ・ショーケースという、英国で開催される巨大なイベントがありますが、人材育成を目的に行っています。世界中の全ショップマネジャーや、私たちのようなサポートメンバーが参加します。また、熱狂的なファンの方とか、メディアの方も含め、3,000人以上が集まります。イベントで何を行うかと言えば、経営戦略や目標の話は一切ありません。ブランドとして気にかける重要なテーマをその都度掲げて議論をします。

たとえば、商品の製造に特化したものもあれば、原材料を作ることでどうやってコミュニティーが再生されたか、また、原材料の調達を通して、土壌が再生されたこと、また、様々な社会問題が私たちのビジネスとどう関わったのか、といったコンテンツが山ほど用意されています。環境問題は当然ですが、地球温暖化や原発、LGBTQ、死刑制度や難民等、化粧品の会社とはまったく縁がないトピックスも含まれています。

● なぜそうした幅広いトピックスを扱うのですか?

すべて、私たちが住んでいるこの地球上で起こっていることであり、他人事ではないからです。

化粧品は、一般的に原価を安くし、パッケージをいかにラグジュアリアスに見せて高く販売するかがキーになると言われています。広告を使って素敵なイメージを売って、商品を買っていただく。しかし、私たちは、パッケージもシンプルで広告にはお金をかけません。私たちの商品に、固形ジャンプーがありますが、パッケージを省いた、裸の状態で売っています。100% リサイクルの容器もありますし、容器の形状も全部同じです。では、何にお金を使っていると言えば、原材料です。

リサイクル会社さんもやったことがないようなことを、私たちが一緒に作り上げていくこともあります。原材料も通常であれば、できるだけ安い原材料を購入し、原価を抑えて商品を作るでしょう。しかし、私たちは、その原材料がどのように育てられたのか、オーガニックなのか、土壌に負荷をかけていないか、また、労働環境に問題はないか、そうした基準を大切にし原材料を購入しています。

私たちは、店舗が最大のメディアであると考えています。広告は実施しませんが、店舗では、私たちのスタッフが商品を通して、お客さまと様々な会話をします。そのお客さまの興味に応じて動物の話をしたり原材料の話をするわけです。

つまり、ラッシュ・ショーケースは、そうしたインスピレーションを感じる事ができるイベントとして位置付け開催し、各スタッフは納得し、本当の意味で理解するからこそ、店舗でお客様と会話をする際にも自分の言葉で伝えることができるのです。

● 社会課題解決に対しては、サプライチェーン全体を通して、自らが様々な取り組みを実践していることはとても良く理解できました。一方で、国内でのビジネス成果はいかがですか?

日本市場に参入して順調に売上を伸ばして来ましたが、2013年をピークに、売上が下がりました。しかし、ここ数年は非常に順調です。

●ここ数年の業績が好調な要因は何ですか?

私たちが取り組んでいることをきちんとお伝えしたことです。5年以上前では、そうしたことは敢えてしていませんでした。LUSHと言えば、石鹸やバスボムを売っている会社で、若い層に人気がある。商品もカラフルで香りも華やかなブランドとしては知られていましたが、私たちの取り組みや倫理観はまたく知られていませんでした。そして、私たちも積極的に伝えようとはしていませんでした。

● 私も初めて商品を知ったときは、店内の香りとカラフルな商品がとても印象的で、社会的な取り組みを行うブランドであることはまったく知りませんでした。

ほとんどのお客さまがそうかと思います。しかし、5、6年くらい前から、やはり原材料や製造、パッケージ等への考え方も含めて、それがLUSHであるということを正しく伝えることに向き合うようになりました。PRということではなくて、お客さまに正しい情報を知っていただきたいという考えから、様々な取り組みを行いました。

● 具体的にはどのようなことに取り組みましたか?

お客さまのニーズに合った商品をご提案するためのスタッフの接客方法をトレーニングしたり、話し方やコミュニケーションの仕方を変えたりしました。また、店舗のデザインやロゴも一新しました。ご指摘の通り、それまでは、社会的な取り組みの情報は、動物実験反対以外一切出していなかったに等しいと言えます。

● 商品の魅力に加えて、創業以来の企業理念や考え方を発信したことで、ビジネス成果にもつながったと言えますか?

そうした取り組みをすることで、色々な意味で私たちも変わりました。ショップでも本当の意味でお客さまに寄り添う接客ができるようになりました。新しいお客さまも増えています。それは、商品の良さはもちろん、商品の裏にあるストーリーも含めて受け入れていただき、ファンになっていただいているお客さまが増えていることを実感しています。

● 特徴的な商品性に加えて、原材料の調達やその理念を知れば、なかなかほかのブランドへのシフトはしにくいし、商品の購入を通して、LUSHというブランドを応援したくなります。

そうだといいんですが、ありがとうございます。

● 最後の質問です。LUSHさんが望む10年後の社会はどの様なものですか?

私たち自身は、製造方法や原材料の調達の仕方等、創立以来変わっていないように、ビジネスのやり方は今後も変わらないでしょう。そして、10年後も、やはり私たちのビジネスを通して、そこに関わるすべての人が今よりもより豊かで幸せになっていて欲しいと思います。

パッケージを無くしたときは、私たちのような会社を変な会社だなと思った人もなかにはいたことでしょう。今では、プラスチックゴミ問題はマジョリティの考え方になりつつあります。1社でも多く、色々な会社が同様の取り組みができればと思っています。私たちは今、コスメティック・レボリューションという言葉を掲げ、化粧品を通して社会に変革を起こすことを目指しています。気候変動や環境問題は深刻化しており、私たちにはもう時間がありません。

今回、私たちがこの取材お受けした理由も、この冊子がどういう目的で作られているかを理解したからです。こうした機会を通して、色々な会社さんに私たちの考えを理解していただき、社会を良くするというプレーヤーがもっと増えたらいいなと考えています。これは、競争ではありません。10年後にそうした未来が実現できれば、本当にうれしく思います。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年09月02日メンバーズコラム掲載当時のものです

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