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「街づくりを通して人々が安心して快適に暮らせる脱炭素社会を目指す」 東急:Social Good Company #56

※この記事の情報は2021年01月08日メンバーズコラム掲載当時のものです

RE100に加盟し、脱炭素社会への貢献を目指して環境経営を推進している東急株式会社グループ

創業以来、街づくりを通して社会問題に向き合い、新しい価値を提供してきた同社に、気候変動問題に取り組む意義と現在の取り組みに関してインタビューの機会をいただきました。

  • 「東急DNA」として創業時から受け継がれた社会課題解決への意識

  • 連結各社を含めた東急株式会社グループ全体で達成を目指すRE100

  • 多様な組織や人との共創・共働から生まれる安全・安心・快適な街づくり

<インタビューにご協力いただいた方々>
東急株式会社
● 社長室 サステナビリティ推進グループ 統括部長 
山成 敏彰 さま(左)
● 同 企画担当 課長
金澤 克美 さま(中)
● 同 企画担当 主査
高田 尚英 さま(右)
<プロフィール>
● 山成 敏彰 さま
1991年東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)入社、法務部門、不動産賃貸部門、病院医事・管理部門の他、関連会社にて店舗運営などの事業部門、経営企画部門を経て現職。
● 金澤 克美 さま
1990年東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)入社、鉄道事業において電気設備担当、人材育成担当などの業務に従事、東急総合研究所出向を経て現職。
● 高田 尚英 さま
1989年東京急行電鉄株式会社(現:東急株式会社)入社、関連会社で20年間バス事業に従事、ベトナムにおける街づくりで地域交通問題改善に向けたバス会社設立や運営支援などを経て現職。

● 東急は気候変動対応に積極的に取り組んでいます。その意義から教えていただけますでしょうか?

現代は、特に地球温暖化などの環境問題が、顕著な社会課題になっています。実際に当社も、洪水による関連施設の水没や、大型台風の影響で鉄道の現業員まで避難する必要に迫られるなど、気候変動による災害リスクを経験しています。

また、2020年9月2日に発表した長期経営構想では、「美しい時代へ」というグループスローガンのもと、企業が持続的に成長するための重要テーマ(マテリアリティ)を定め、そのなかの1つとして「低炭素・循環型社会」を掲げています。企業もサステナブルでないと、従業員はもちろんのこと、地域の生活者も安心して暮らすことはできないと考えているのです。そうした側面からも、当社が気候変動対策に取り組む意義は大きいと認識しています。

しかし、気候変動対策はグローバルな問題ですし、国の政策も必要です。当社だけが頑張るということではなく、様々な関係者と一緒に手を携えて進むことが肝心だろうと考えています。たとえ当社だけが残っても、街が面白くなくなると思いますし、多様な人や組織がバランスを図りながら存在していることが大切であると考えています。

● そうした気候変動をはじめとした社会課題に向き合う意識は、社内にも浸透していますか?

当社は2022年に100周年を迎えますが、1922年に目黒蒲田電鉄として創業する以前は、渋沢栄一らを中心に興った田園都市株式会社に、源流を求めることができます。街づくりに取り組みながら、たとえば、多摩川の汚染が悪化すれば環境浄化財団を設置するなど、生活のなかにある社会課題と常に向き合ってきた歴史があるのです。

そうした社会課題解決意識は、もともと東急DNAとして今に受け継がれ、社内にも根づいています。社会課題の解決に急に取り組み始めたということではなく、SDGsに代表される現在の社会意識と目指す方向が一致していますので、それに賛同しながら私たちの取り組みを進めて行こう、という立場です。

● 2050年までに、事業に関わるエネルギー調達の再生可能エネルギー(以下、再エネ)100%を目指し、RE100にも参加しています。

東急株式会社の連結各社を含めたグループ体制で、達成を目指しています。当社グループの主要事業の1つである鉄道は、ガソリンを燃料とする自動車などに比べると、もともと環境優位性の高い乗り物です。しかし、技術革新によって状況が一変する可能性もありますから、そこに甘んじていては、2050年までには東急電鉄全線の再エネ100%運行達成は難しいだろうと受け止めています。

RE100の場合は、いわゆるトレーサビリティが必要ですが、日本では、きちんとした証明書つきの電力の供給量がまだまだ少ないのが現状です。特に大量輸送手段である鉄道は使用する電力量も膨大で、当社グループ全体比トップに当たる実に3割もの電気使用量を、鉄道事業が占めています。これをRE100基準の再エネ100%で運用するということは、厳しい目標ではあります。

● RE100達成につながる取り組みの1つとして、2019年3月から東急世田谷線は、日本初となる再エネ100%の通勤電車として運行されています。社会的インパクトも非常に大きいと感じています。

たくさんのメディア取材をはじめ、その記事を読んだ高校生から「自分が乗っている世田谷線が非常に誇らしい」といった内容の感想をいただくなど、想像以上の反響です。RE100達成に向けた、私たちの意欲と自信にもつながっています。

東急グループ Webサイト内「美しい時代へ」より

● 路線全体に対して、世田谷線が占める電力の割合や再エネにしたことでの運行コストを教えていただけますか?

東急電鉄全体比で、世田谷線の電力使用量は0.5%程度に過ぎません。それでも、人々の生活の場である地域のなかを再エネ100%の電車が走るということ、そして、それが365日毎日走っているということは、私たちにとって非常に大きな意義があると感じています。

運行コストは、通常の電力と比べて、約2割高です。民間企業として、当然のことながらコストは着目しなければならない要素ですが、持続可能な社会を創るための環境課題の解決に向け、必要なコストがあるという認識も、社内で広がっているように思います。環境負荷軽減のためのコストを計算に入れた上で事業を進めていくことが、今後は非常に大切なことであると思っています。

● そのほか、RE100達成に向けた取り組みについても教えてください。

再エネ利用と同時に、省エネ対策も非常に重要だと考えています。リサイクル以前に、使わなくて良い余計なエネルギーは使わない、という取り組み方です。

たとえば、自動車と同じように鉄道も、運転テクニックによってもエネルギー消費量が変動します。地道な努力ですが、日々運行している電車の本数と走行距離を合算すると、決して無視できない効果です。鉄道事業以外でも、ビル建設の際に環境にやさしい設備を導入するなど、省エネの方向も含めてCO2削減に取り組んでいます。すでに、本社ビルで使用する電力は、再エネ100%を達成しています。

● 気候変動など社会・環境課題への取り組みを積極的に進めることにより、お取引先等の反応はいかがですか?

外資系企業を筆頭に、再エネ電源の要望が少しずつ増えているなど、当社が運営するビルのテナントさまのあいだでも、環境意識が高くなっていることを感じています。しかし実際の不動産事業の現場では、社会の意識は残念ながら、まだまだそこまで到達していないと感じていますが、日本政府が2050年に温室効果ガスの排出を実質ゼロにすると表明されて以降、急激に社会が脱炭素に向けて進んでいると感じています

サプライチェーン全体でCO2の排出量を削減することが当たり前になってくると、CO2フリーなビルを選んで入居するテナントさまも、もっと増えてくるのではないかと期待しています。現在は、ストレートに環境課題に対応する建物であることを訴求しても、テナントさまにとっては最優先のニーズではなく、家賃なども含めた選択材料の1つでしかないのが現実です。しかし、裏を返せば、そこに挙げられた選択材料の中に、環境対策が入る時代になってきた、ということでもあります。

すなわち、そこにはマーケットがあるという証ですから、ご期待に応えられるよう、さらに取り組みを進めていきたいと考えています。しかし、これは制度の整備を含めて、社会全体で仕組みを作っていく必要がある部分だとも思っています。

● 街づくりを通して、広く社会に対して、社会・環境課題の普及啓発に関して、実践していることはありますか?

生活者コミュニケーションの一環として、SDGsトレインを走らせています。この電車は、2020年から1年間の計画で導入したSDGsカラーの車両で、東横線、田園都市線、世田谷線および相互直通区間で運行しています。東横線と田園都市線では省エネ車両を使用するとともに、東急線内では実質的に再エネ100%で電車を走らせています。

もともと、当社と親交の深い関西の阪急阪神ホールディングスでは1年前から走らせていたのですが、だったら東でも一緒にやりましょう、と始まった企画です。実現に向けて企画を練っていく過程で、協賛企業さまや自治体などと共創する要素も多くなっていくなかで、東急色を打ち出すことよりも、「みんなで一緒に作っていこう」というような感覚が育った感があります。

もちろん、SDGsの特徴や17の目標の内容など、啓発につながるコミュニケーションも展開していますが、みんなで共創・共働することそのものが、大きなコミュニケーションのように感じています。

東急グループ Webサイト内「SDGsトレイン2020」より

● SDGsトレイン運行による、ビジネス面での成果は挙げられますか?

電車や環境といった要素を含め、沿線の地域が良い状態にあるということが、私たちのビジネスとしての成果であり財産だととらえています。もっと言えば、それこそが当社の誇りです。

事業エリアや運営している建物が立派だ、などということではなくて、生活している皆さんが生き生きと心豊かに暮らすことができていれば、その地域は非常に活力のある街になりますし、魅力がある街には自ずと人が集まると考えています。

正直なところ、SDGsトレインがビジネスの成長に直結するとは考えにくいのですが、SDGsトレインの存在によって、トータルで見たときにより良い街になる、という成果には期待しています。生活者の皆さんと一緒に、それから東急線沿線だけでなく、SDGsトレインをご利用いただいている皆さまが活動しているエリアとも一緒に、そのメリットを享受できることが、この企画の成果であり醍醐味なのではないかと思っています。

● こうしたお取り組みに関して、住民の方々へのコミュニケーションやプロモーションの計画はありますか?

世の中は今、地球環境に配慮した事業に取り組む方向へと動いています。私たちが進めているCSRやサステナビリティの活動は、事業をするうえでのベースになる部分だと思っています。その重要性を従業員に共有するための取り組みを進めているわけですが、新入社員研修で説明すると、全員SDGsを知っていました。SHIBUYA109 lab.がaround20男女を対象に実施した調査でも、同様の結果でした。若い世代は学校教育のなかで教わっているので、私たちの世代よりもずっとSDGsを理解しているのです。

その一方、それがビジネスとどうつながっていくか、生活とどうつながっていくかということは、なかなかイメージし切れていないということも、調査結果から浮き彫りになりました。日本には、人知れず行うのが美徳という価値観もありますが、やはりそういったことをメッセージ、もしくはコミュニケーションとして伝えていくことは、企業ブランディングにとっても必要だと認識しています。

● サステナブルな社会づくりに向けて、今後の展望をお聞かせ下さい。

サステナブル重要テーマとして、私たちは、6つのマテリアリティを設定しています。そのなかの1つが「低炭素・循環型社会」なのですが、意識としては脱炭素を目指しています。当社グループはRE100を宣言しているわけですが、私たちさえクリーンになればそれで良い、ということでは当然ないと思っています。渋谷の街も沿線も、そのほかすべてが2050年までの間に脱炭素を実現して、みんなでそのメリットを享受できる社会が目指すべきところです。

気候変動による自然災害のなかで生活するのではなく、人々が安心して快適に暮らせる場を作っていく使命が、当社にはあると自認しています。そのためにも、社会とともにみんなで作っていくムーブメントを創出したいと思っています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2021年01月08日メンバーズコラム掲載当時のものです

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