「1998年環境経営を提唱 環境保全と利益創出の同時実現を目指して」リコー:Social Good Company #46
※この記事の情報は2020年09月30日メンバーズコラム掲載当時のものです
今から20年以上前にCSVの理念を掲げ、2017年に日本で最初に「RE100」参加を表明したリコー。環境経営実践の先進的な取り組みについて、インタビューの機会をいただきました。
20年以上も前から環境経営が常識化している企業文化
徹底した現場主義から生まれる意欲的かつ挑戦的な目標設定
各事業部がESG目標(非財務目標)を設定し、役員報酬と連動
● リコーさんでは、1998年にはすでに環境保全と利益創出の同時実現を提唱――まさに「CSV」を掲げ、社会・環境課題に対する企業としての責任を表明されています。アメリカの経済学者:マイケル・ポーターによって「CSV」が概念化されたのが2011年なので、その13年も前のことになります。
リコーには、戦前の1936年の創業時から受け継がれた「三愛精神」――人を愛し、国を愛し、勤めを愛す――があり、これは単なる理念にとどまらず、事業のベースにもなっています。改めてSDGsの精神につながっていることと認識しています。
歴代社長が、自らの現場経験を通して環境保全の重要性を肌で感じていることも大きいと思います。1976年に環境推進室を設置し、CSRが部署名に踏襲されたのは2000年代前半です。社内では20年以上前から存在していた考え方ですので、「環境経営のリコー」と受け止めている社員が多いとも感じます。
● 国内企業としては初めて、「RE100」にも参加しています。創業の精神が受け継がれている、ということだけでは説明のつかない積極性を感じるのですが、なぜそれほど環境課題に対して意欲的なのですか?
「パリ協定」が採択された「COP21」が開催された2015年が、1つのターニングポイントになっていると思います。その際にスポンサーの一員として、世界の環境課題を議論する生々しい現場経験を通して、課題解決に取り組まなければグローバル企業として社会、顧客から選ばれなくなるという危機感を感じた、と聞いています。
また、創設メンバーの一員としてJCLP(日本気候リーダーズ・パートナーシップ)に加わりながら、勉強会や情報交換、ときにはJCLPを通じて政府への提言などもおこなってきました。そうした取り組みのなかで、やはり環境のリコーが日本で初めて、RE100に参加することは意味があるだろうと。
今年度よりリコーの環境目標を改訂いたしました。2050年にバリューチェーン全体の温室効果ガス排出ゼロは変わりませんが、2030年には63%削減(2015年比)と上方修正いたしました。製造業としては、相当な努力を必要としますが、高い目標を設定しなければ、社内で知恵を絞る文化が生まれませんし、社員一丸となって努力する風土もつくれないでしょう。こうした高い目標設定ができる背景には、経営陣が後押ししてくれたことも大きいのです。
● 高い目標設定による従来のプロセス変革は、まさにSDGsの根底に流れる思想と合致するように感じます。こうした取り組みは、社会貢献意識の強さが土台にある一方、挑戦志向もないと両立できないのではありませんか?
まさに挑戦です。創業の精神である「三愛精神」に基づく私たちのバリューとして、「WINNING SPIRIT」(失敗をおそれず、まずチャレンジし、成功を勝ち取る)をはじめとする7つの価値観を掲げています。
人材は宝であり、だからこそ1人ひとりが当事者意識を持ってプロになろうという認識は、社員の間にも強く根づいていますが、チャレンジ精神を含むこの7つの価値観は、そうした自律型人材の定義のベースとなっているものです。こうした価値を実現できるような心持ちでやっていこう、と考えています。
● 社歴が長い大規模の企業が、いわばベンチャースピリットにも通ずるフレッシュな挑戦心を持ち続けられる理由は、どこにあるのでしょうか?
現場で起きている現実を、非常に大切にしている会社だとは思います。そうした、ある種の現場主義は、部署間の考え方の違いなどを乗り越えて、チャレンジを推進する力になっているとも感じます。
たとえば、2020年からの経営目標を定めましたが、これは財務目標と非財務目標で構成されています。非財務目標は、「ESG目標」という呼称に変更し、財務目標と同軸にしました。通常は財務目標が前面に打ち出されるものだと思うのですが、当社は財務と非財務の両方を合わせたものを、全社の経営目標としました。
マテリアリティ(重要社会課題)についても、事業を通じた社会課題解決として4つ、経営基盤の強化として3つ合わせて7つに変更しています。
● そうした価値観を変えていくことは、どのように全社を通じて「自分事化」されていますか?
事業成長と同時に、現在はESG目標が達成できないと、投資家はもちろんのこと、お客さまからも選んでいただけない時代になっています。ですから、各事業部はサステナビリティ推進本部から言われた、ということではなく、お客さまから選ばれる企業になるためにどうすれば良いのだろう、という視点から考えてくれていると思います。各事業部の目標は自発的に設定した数字なので、「自分事」になる、というところがあると思います。
サーマルメディア関連の事業部や生産本部などは、事業の性質上、他事業部に比べてCO2排出量が多くなりますが、そうした事業部も「CO2の削減を何トンにしよう」と、目標を数値化して取り組んでいます。生産活動を上げながらCO2排出目標値を下げていくわけですから、財務指標と一体で考えていくことになります。ESG目標と財務目標を同軸として、全事業部の役員報酬とも連動しています。
● 環境課題に対して意欲的、かつ、こうした挑戦的な取り組みは、どのようなプロセスで設定されているのでしょうか?
ESG委員会を3ヶ月に1回実施しています。先程お話した環境目標の上方修正などESGに関わる方針/目標は、この委員会に参加する経営層が積極的に議論しながら決定しています。2019年にはTCFD(気候関連財務情報開示タスクフォース)に沿った情報開示を開始していますが、その開示内容やESG外部評価、たとえばDJSI等もこのESG委員会で議論されています。
当たり前なのかもしれませんが、このようなESGに関わる開示や外部評価対応は一切コンサルティング会社を使わず、自力で取り組んでいます。そうしないと社内に知見もノウハウも蓄積されませんし、他人事になってしまうリスクもあると考えています。
こうした取り組みを通して、気候変動のリスクと機会が会社にとって充分か否かといった認識が、経営陣、事業部にもしっかりと浸透してきていることは、自社の財産の1つだと思います。
● そうした取り組みを推進し、実践している企業として、日本の再生可能エネルギー率がなかなか進まない現実をどう受け止めていますか?
リコーグループ全社のCO2排出量は、やはり電力から出るものが圧倒的に多いのですが、地域別電力使用では日本で56%を占めています。しかし、リコーの国内の再生可能エネルギー率は、2%程度です。ここに手をつけないと、環境目標達成は実現できません。ヨーロッパなどは、それぞれの国の支援が手厚いと聞いております。
実は当社も「洋上風力発電の活用ができないか」など様々な検討をおこないましたが、発電施設をつくるとなると1,000億円規模という壮大な話になってしまうのです。さらに漁業従事者や住民との交渉なども必要で、とても1社では実現できません。もちろん企業としての努力は続けますが、やはり国の支援、環境整備なしにはできないので政府に後押しして欲しいと考えています。
● CO2削減と再生可能エネルギー率の増加に向けて、具体的にはどんなことに取り組んでいらっしゃるのですか?
欧州と中国を中心に、これまで再生可能エネルギーを導入してきたのですが、やはり日本とアメリカ、そして中国以外のアジアでも導入を進める必要があると思っています。太陽光発電設備の設置なども経費がかかるため、土地や屋根貸しで設備を設け、電気を安価に活用することも行っています。またアライアンスにより、小型風力発電を導入するようなチャレンジもしてみようと考えています。発電量は多くないものの、日照条件に左右されずに済むなどのメリットもあります。
設備投資も重要ですので、三菱UFJ銀行さんのサステナビリティ・リンク・ローンを活用して借り入れをしています。
● 「RE100」の達成に向けた取り組みの1つとして、2019年8月に、主力商品であるA3複合機の製造に使用する電力の100%再生可能エネルギー化実現を発表されました。
特に大手企業のお客さまは、「環境にやさしい商品を使いたい」「環境に配慮された工場で作られた製品を使いたい」という意向、特に欧州ではその傾向が高まっていることを肌で感じています。A3複合機の製造に使用する電力の100%再エネ化は、こういった顧客の声にこたえるための施策です。
また、リコーグループでは、使うエネルギーを減らす、新たなエネルギーを作る、エネルギーを融通する、使うエネルギーを選ぶの4つの観点から環境事業を進めてきています。国内販売会社リコージャパンは売電、太陽光O&M、LEDやエアコンを含むトータルのオフィスの環境提案、「RICOH Smart MES」――人感センサーで調光、空調を変えることができるシステムなどにも取り組んでいます。
また、リコージャパンではZEB導入計画を有し「ZEBリーディング・オーナー」に登録、和歌山支社が「ZEB」認証、岐阜支社/熊本支社が「Nearly ZEB」認証を取得しました。各社屋ともお客さま向けショーケースとしての機能を持ち、脱炭素の実践状況の紹介を行っています。今後新設する自社所有/一棟借り社屋は、「ZEB Ready」基準相当以上の建屋とする予定となっています。
● 環境配慮という姿勢そのものが、商品の付加価値にもつながっているわけですね?
そう感じます。当社は以前から、お客さま向けショーケースとして自社オフィスを「ライブ・オフィス」として社屋の中までお客さまに来ていただき体感いただく活動をしています。最近のコロナの状況下ではリモートライブオフィスも進めており、お客さまが会社に居ながらにして体感いただく工夫もしています。実際に商品を使用する場面と社員が働く様子を見ていただく体験そのものがが、お客さまに対する新しい働き方のご提案にもなっていると感じています。
※この記事の情報は2020年09月30日メンバーズコラム掲載当時のものです
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