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「事業主と居住者との共創によるサステナブルな集合住宅」大京:Social Good Company #35

※この記事の情報は2019年09月05日メンバーズコラム掲載当時のものです

最新テクノロジーと地域の自然環境との融合に加え、入居後の持続性にも配慮した自然共生型の集合住宅。今回のSocial Good Companyは、そんな斬新なアプローチにより、港北ニュータウンにサステナブルな集合住宅を提供する、大京さんに取材の機会をいただきました。

  • 持続可能な住まいへの取り組みが評価され、大規模物件にも関わらず早期完売を達成

  • 居住者・地域コミュニティ・自然環境のサステナビリティを首都圏の集合住宅で実現

  • 自然豊かな環境を再現する壮大なプロジェクトの成功要因は、愛着を生み出す仕組みを構築した事業主と居住者との共創

<インタビューにご協力いただいた方々> ※2019年4月時点のご所属です
株式会社 大京
● 建設管理部 商品企画室長 兼 商品開発課 課長
中山 雄生 さま(右)
● 同部・同室 商品開発課 係長
内田 麻衣子 さま(中)
● 同部・同室 同課
近谷 春菜 さま(左)
<プロフィール>
● 中山 雄生 さま:1991年大京入社、2014年から現職。主に、全国の新築マンションの商品企画の統括的役割を担う。パッシブ中心の建築手法を導入し、日本初となる超長期住宅先導的モデル事業に認定された「ザ・ライオンズたまプラーザ美しが丘」等、当グループが掲げる「住文化の未来の創造」や「お客さまニーズの具現化」、「社会課題の解決」に向け、先導的な取り組みを推進。近年は、全世帯分を設置することで再配達ゼロを目指す宅配ボックス「ライオンズマイボックス」の開発や、集合住宅におけるZEHの推進に取り組んでいる。
● 内田 麻衣子 さま:2007年大京入社、2016年から現職。
● 近谷 春菜 さま:2016年大京入社、2018年から現職。

● 港北ニュータウンにて、自然との共生や生物多様性への配慮等、地域環境に配慮したサステナブルな住宅を実現させるために、どのように計画を進められたのか教えていただけますか?

大京は、家を壊しては作るという社会から、長く大切に使うストック型の社会への転換を目指し、「住まいも 長生きする国へ。」というブランドメッセージを掲げています。

こうした考えから、「ライオンズ港北ニュータウンローレルコート」(横浜市都筑区、全221戸)は、サステナブルな住まいをコンセプトに計画を進めました。港北ニュータウンは利便性が高く自然の豊かな場所です。今回ランドスケープのデザインに、ランドスケープ・プラスさんにも加わっていただき、その自然を敷地内に再現しているのが最大の特徴です。

実際に本物件にお住まいの方は比較的若く、お子さんの教育にも熱心な方が多いのですが、勉強だけではなく、緑や水とも触れ合い、自然からも学ぶ、そういった機会を生み出せていると自負しています。

● もう1つの特徴である維持管理コストの削減は、住民にとって非常に魅力的です。

サステナブルな暮らしのために、最新ノテクノロジーと自然の力を融合させることで維持管理コストの削減を実現しています。たとえば、敷地内に水辺を再現したマンションはたくさんありますが、維持管理コストが居住者の負担になると、使用を継続することが難しくなることもあります。

そのため、本物件においては、ソーラーパネルや蓄電池システムなどの最新テクノロジーと、光や水、風、緑などの自然の力を融合させることで、維持管理コストの削減を実現しました。

● 具体的な融合の例を教えていただけますか?

光は、太陽の光と、ソーラーパネル、蓄電池の融合です。当時、大規模な建物には、自家発電装置を備えるものもありましたが、よりクリーンな電力の確保を目的として、44kWhの蓄電池を設置しています。現在でもこれほどの大規模な蓄電池を集合住宅に設置するのは珍しいと思います。

蓄電池で貯めた電力は、井戸水をくみ上げるためのポンプを動かし、ビオトープや植栽の水やりに活用しています。敷地内には90mの深井戸を掘っていますが、東日本大震災の教訓を生かし、水と電源の確保に配慮しました。

こうした自然の力と最新のテクノロジーを組み合わせることにより、水道・電気代を年間180万円程度削減することに成功しています。

維持コスト面での削減に加えて、蓄電システムを備えることにより、停電時でも、電源やWi-Fi、生活用水を確保することができるので、防災面でも貢献しています。

● ソーラーパネルや蓄電システムが安心・安全な環境を提供しています。

ほかにも、ビオトープの水辺や豊かな緑を再現したことにより、クールスポットを創出しました。気圧の変化を生じさせ、風の流れを作り出すことにも成功しています。

生み出した風を効率的に室内に取り込んでいるのが、ライオンズパッシブデザインです。室内に風を取り入れるため、玄関ドアの換気機能や室内扉に通気ルーバーを採用しています。また、大型の給気口バルコニーにはグリーンカーテンを行うためのフックも備えています。

こうした取り組みが、自然を感じ、効果的に風が流れる仕組みを作っています。窓を開ける以上に換気効果が得られるので、結果的に涼しさを実感し、夏場の電気代削減にも貢献しています。

● こうした自然の力と最新テクノロジーを組み合わせて快適な空間を作ることで、維持管理コストを下げる考え方は、ほかのマンションや他社でも拡がっていますか?

私たちにとって初めての取り組みでしたし、業界全体でも再先端の事例と言っても良いかと思います。業界では太陽光パネルを備えたマンションを開発している会社もありますが、発電した電力を蓄電して利用する、さらに災害時にも生かす、そうした例はほかにないでしょう。

集合住宅を作り販売して私たちの役割を終えるのではなく、「長く使っていただきたい」という私たちの想いを理解していただくためには、住まいに愛着を持っていただき、そして居住者の方々も住まいをきちんと維持しようと考えていただくことが重要です。

● 3つ目の特徴である愛着を生み出すことに関して、詳しくお話をいただけますか?

生態系に配慮した環境を作るだけでなく、生態系への愛着や自主性を育むことで、持続可能な住まいが実現すると考えています。作って終わりではなく、何年にもわたり生態系をしっかり維持し、管理組合が自主的に管理できるようサポートする仕組みを構築しました。また、居住者が水や緑に愛着を持っていただけるよう、生態系育成プログラムの整備を行いました。

これまでのグリーンマトリックスの再現から、そこに人が関わり、緑と人と生きものがつながる、グリーン&ヒューマンマトリックスという考え方です。こうした考え方が、集合住宅だけではなく、街全体に拡がっていけばいいなと考えています。

● 愛着を生み出す活動の1つが、環境教育プログラムの導入です。

この集合住宅では、植栽管理会社をコンペで選定していますが、コンペの際は、植栽の管理能力に加えて、居住者に愛着を持っていただけるよう、環境教育イベントの開催等のノウハウを持っている会社を重視しました。

そうした具体的な取り組みの1つが、私たち事業主と管理組合、植栽管理会社が共同で行う、敷地内の巡回です。

● 巡回を通して、どのようなことに取り組まれていますか?

敷地内の植栽や、ビオトープの状態を確認しています。居住者の方も一緒に取り組み、共に学ぶというのが重要なポイントですので、管理組合には、ビオトープ担当理事も組織化しています。

● ほかにも様々なイベントを企画し開催しています。

ビオトープの生きもの観察会やメダカの放流会、野鳥の巣箱作りなど、様々なイベントを開催していますが、事業主である私たちも積極的に参加しています。参加することで、私たちの考えや想いを伝えていくことができます。

入居前には、植樹祭を開催し、400名以上の方々に参加していただきました。入居当初は、このようなイベントを私たちが企画していましたが、2年目からは、組合が中心となって、自主的に活動しています。

● そうした取り組みは、まさに事業主と居住者との共創と言えます。

こうした取り組みが評価されて、2015年には、生物多様性に配慮した施設を評価する「いきもの共生事業所認証」(ABINC認証)を集合住宅で初めて取得することができました。

● 生物多様性の保全ということでは、植栽の品種にも配慮しています。

敷地内に、3,700本の植栽がありますが、すべて在来種です。また、もともと港北ニュータウンは川が流れる地域ですので、そのせせらぎも再現しています。

ほかにも、広場を設け、居住者以外の地域住民の方々にも、緑と水を感じられる場を提供しています。エントランスの広いスペースの確保や、コミュニティルーム、カフェコーナー等の共用施設も充実しています。今では、コミュニティルームも入居者の方々自らが、使い方を考え、有効活用しています。

また、最近の大規模マンションで見掛けるライブラリーコーナーは、ほんの入れ替えやメンテナンスに手間とお金が掛かりますが、こちらのライブラリーは、管理組合が自主的に本の管理をしています。

● このような取り組みをしたことによる、営業面での成果はいかがですか?

おかげさまで、この物件は早期完売することができました。私たちのこうした思想に共感し購入いただいたお客さまが多かったと感じています。

● サステナビリティを訴求したことで、ほかの物件よりも営業面で有利だったと言えますか?

不動産の場合、お客さまの物件決定要因は、場所と価格が大部分を占めると言われますので、なかなかそこまでを関連付けて判断するのは難しいかと思います。

しかし、見学に来ていただいたお客さまからは、自然との共生や維持管理コストの削減に関して、関心を得られたのではないかと思っています。

● 事業主の想いが引き継がれ、管理組合自らが、様々な設備を積極的に維持管理していることは、マンションの資産価値にも影響を与えそうです。

資産価値に関しては、組合の皆さんがとても意識されています。こうしたコンセプトで同様の取り組みを行うマンションは他にありませんし、こうした取り組みをきちんと維持していくことで、住宅の価値を上げたいと考えられているようです。

組合自らが費用を負担しても、先程の共同巡回のような活動を積極的に行いたいという意向を持っているのは、そうした考えからだと思います。

資産価値が上がる取り組みに対して反対する居住者の方はいませんので、現在の活動を継続することは、合意形成が得られやすいのではと思います。

● サステナブルなブランド訴求は、営業面での貢献ができていますし、資産価値の維持や向上にも繋がりそうです。

持続可能な住まいという方向性を私たちは更に追求し、より一層力を注いでいく必要があると考えています。作って終わりではなく、継続して維持管理出来る仕組みまでを見据えることが重要です。

ZEH(消費するエネルギーより、住宅でつくったエネルギーのほうが多い、または差がゼロになる住宅のこと)の考え方も、一般の方々の認知度はまだまだ低いのが現状です。

こうした私たちの取り組みや考え方を、もっと分かりやすく発信していく必要があると感じています。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2019年09月05日メンバーズコラム掲載当時のものです

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