「脱炭素社会の実現は、グローバルで成長していくための前提条件である」 三井物産:Social Good Company #72
メンバーズでは、2018年よりこれまで、Social Goodな企業や団体などを対象に、社会課題解決型のビジネスや取り組みを紹介するインタビューコンテンツを発信しています。今後は、noteコンテンツとして掲載しますので、よろしくお願いします。
日本を代表する総合商社であり、人の三井と言われるグループの中核企業、三井物産。目指すべきカーボンニュートラル社会に向けて、DX人材の育成と脱炭素実現のための事業を積極的に進めています。今回は、脱炭素社会を目指す意義、サステナビリティ戦略等に関して、インタビューの機会をいただきました。
・現在の中期経営計画におけるサステナビリティ経営の3大テーマは、気候変動・ビジネスと人権・サーキュラーエコノミー
・再生可能エネルギー転換への適切なトランジション・ルート提供が私たちの役割である
・ビジネスとデジタルの両方に精通するDXビジネス人材を育成する
<インタビューにご協力いただいた方々>
三井物産株式会社 サステナビリティ経営推進部 室長補佐
長島 一平 氏
<プロフィール>
2008年に三井物産株式会社入社。鉄鋼製品物流、LNGトレーディング、発電事業会社への出向等を経て、2021年4月よりサステナビリティ経営推進部に配属。現在は情報開示やESG評価機関対応等を担当。
●サステナビリティ経営推進部の役割から教えてください。
サステナビリティ経営推進部は、企画室・グローバル環境室・グローバルソーシャル事業室で構成され、約30名が所属しています。当社には経営会議の下部組織としてサステナビリティ委員会がありますが、私が所属する企画室は委員会の事務局も務めています。委員会で議論するテーマは気候変動、人権とサプライチェーンマネジメント、生物多様性など多岐にわたりますが、当社としての対応方針や課題などを事務局案としてまとめ、審議しています。また、部としてはサステナビリティレポートの発行や社有林の管理、社会貢献活動の推進なども担当しています。
サステナビリティ経営に関する業務は年々増えており、人員も増強しています。
●気候変動を中心とした情報開示の強化で業務も増えていますね。
レポーティングや情報開示のフレームワークも乱立している状況です。収斂されていくことになるかと思いますが、できる限り社会からの要請を踏まえた開示の拡充を進めたいと考えており、業務量としては増えています。今後は生物多様性、水などの分野でも開示拡充の対応が見込まれています。
また、昨年は改訂コーポレートガバナンスコードも踏まえ、従来当社に受け継がれているサステナビリティに対する基本的な考え方を、サステナビリティ基本方針という形で2021年11月に策定、開示しました。
●脱炭素に向けて様々な対応をしています。総合商社として取り組む意義を教えていただけますか?
気候変動は地球規模の課題です。グローバルでビジネスを展開する総合商社として、脱炭素社会の実現は、私たちがグローバルで今後持続して成長していくための前提条件であると考えています。
当社は経営理念の中で「世界中の未来をつくる」を企業使命としています。また、現在の中期経営計画におけるサステナビリティ経営の3大重要テーマとして、気候変動の他にも、ビジネスと人権、サーキュラーエコノミーを掲げています。
いわゆるマテリアリティと言われる重要課題の一つとして、「環境と調和する社会をつくる」を挙げています。こうした課題に向けた施策を事業計画の中に落とし込み、事業活動を通じて社会課題の解決に取り組んでいます。
●気候変動問題解決に向けて、貴社の提供価値は何でしょう?
当社の温室効果ガス排出量の削減と共に、事業活動を通じて広く世界の温室効果ガス排出量の削減へ貢献する取り組みを進めています。例えば、温室効果ガス排出量の可視化における取り組みです。具体的には、エネルギーコストとCO2排出量の可視化からそれぞれの削減までをサポートする、e-dashというサービスプラットフォームを立ち上げ、温室効果ガス排出削減に対して、多くの企業や自治体がどう実践するか悩まれている状況に対して、総合的なサポートを提供しています。また、サステナブル経営推進機構さまとは、サプライチェーン全体での製品ライフサイクルアセスメントの見える化を実現するプラットフォーム開発を進めています。
当社は以前から環境問題に取り組んできました。様々な企業との繋がりもあり、グローバルでの知見も蓄えています。パートナーの方々からの力添えもいただきながら、脱炭素に取り組む企業や自治体にこれまでのノウハウや知見を産業横断的に提供できることが、当社の強みであると考えています。
●総合商社が温室効果ガスの可視化サービスを提供していることは意外でした。
当社は資源分野からの収益も大きく、脱炭素社会の実現に向けた積極的な対応を社会から求められていると認識しており、脱炭素社会の実現に資する新しい取り組みを積極的に進めています。e-dashを推進するエネルギーソリューション本部は、2020年4月に組織化されました。
様々な事業領域において蓄積した知見、事業基盤、ならびに顧客・パートナー基盤を結集し、当社ならではの複合的かつ機動的な取り組みを推進することを目的とした本部となります。
●社内での脱炭素やサステナビリティへの理解や浸透はいかがですか?
他の企業も同じ悩みを持っているとは思いますが、脱炭素は中長期的な取り組みであり、短期的に結果が出るものではないので、成果がわかりづらい面があると思います。社員それぞれがサステナビリティを自分事化し個々の行動、事業に落とし込んでいけるよう、社員の意識向上・浸透は当部でも重点的に取り組んでいます。
●意識浸透のための具体的な取り組みを教えて下さい。
毎年、サステナビリティ月間を設定し、様々な取り組みを社内で企画しています。昨年12月には、MSC認証(※)を取得しているシーフード食材を用いたメニューを社員食堂で提供したり、エシカル消費をテーマに有識者による講義を実施しました。
※MSC認証:水産資源や海洋環境に配慮し適切に管理された、持続可能な漁業に対する認証制度
●グリーントランスフォーメーションを事業として積極的に進めていくことも掲げています。
当社がグリーントランスフォーメーションとして重視するのは、エネルギー、電力事業、電池・モビリティ、カーボンリサイクルの4つの事業を中核領域と位置付けています。
脱炭素社会の実現に向け、化石燃料から再生可能エネルギー(以下、再エネ)への転換が求められますが、インフラやコスト面を考慮し、適切なトランジション・ルートを提供することが私たちの果たすべき役割の一つです。当社の発電事業における再エネ事業比率の引き上げと同時に、蓄電池や燃料電池の開発や、カーボンリサイクルにおいてはCCS(Carbon Capture and Storage)も積極的に進めていきます。
●炭素吸収ということでは、広大な森林を保有しています。
国内の民間企業が保有する森林としては第4位の規模です。この社有林で年間に吸収するCO2は16万トン、蓄積されているCO2は1,000万トンになります。当社は、広大な社有林を持つ社会的責任を果たすため、持続可能な森林を育み維持する方針であり、その結果、適切なサイクルでの森林循環も実現しています。これにより、同じ面積であっても、ただ放置されている森林よりもより多くのCO2を吸収・固定できますので、当社らしい脱炭素化への貢献の一つであると考えています。
また、気候変動だけではなく、生物多様性の観点からも、取り組みができればと思っています。
●社有林を活用した脱炭素の普及啓発も進められそうです。
以前より、森林体験の開催や、親子で楽しみながら学ぶ森林・環境学習Webサイトを通じて、次世代を担う子どもたちに森の役割や人と自然とのつながりについて分かりやすく伝えています。
社有林を活用した事業も少しずつ増えてきており、北海道では間伐によってできた未利用材をバイオマス発電所の原料として活用しています。ヒノキから抽出した原料を用いたアロマオイルは、本社ビルの来客用会議室フロアでも活用しています。新しい例では、取引先企業の製品が1つ売れるごとに1本の苗木を植樹する場としての活用も行っています。もちろん事業的価値に加えて、公益的価値も大切にしたいと考えています。社有林の木材は新国立競技場や京都五山送り火で使用される松明にも使われています。
●人材育成ではDXにも注力しています。
DX総合戦略ということで、DX事業戦略、DX人材戦略、データドリブン経営の3つを柱にしています。人材戦略ということでは、普段の事業活動の中でビジネスに関する知識は習得できる一方で、デジタルに関して深い知識を保有し専門性の高い業務を行うニーズも増えており、この2つの分野の知見をバランスよく備えた人材の育成に取り組んでいます。
仮に、事業活動に従事している社員をビジネス人材、デジタルに精通している社員をDX技術人材と定義したときに、その両方をバランスよく兼ね備えた、DXビジネス人材と言われる、第3の層を育成したいと考えています。社内では、そうした人材育成のプログラムを整備しています。
具体的には、「三井DXアカデミー」という研修プログラムを昨年スタートさせました。eラーニングを中心としたスキル研修の基礎編は全社員が受講しています。基礎編の研修コンテンツはすべて社内で作成しました。それ以降は個人の自主性に任されていますが、DXに関連するプロジェクトに実際に関わる、ブートキャンプというプログラムを用意しています。さらに、より専門的な知識習得の場として、海外の大学での研修プログラムなど、挑戦する機会を提供しています。習得した内容に応じた社内認定制度の仕組みも整備しました。
●DXビジネス人材はどのようなスキルセットとお考えですか?
事業活動とDX両方のスキルを活かして、新しい事業活動やプロジェクトを創ることが可能な人材と考えています。DXビジネス人材は、ビジネス人材とDX技術人材の橋渡しや通訳の役割も果たし、3つの人材が絡み合うことにより、そこから化学反応が起こることを期待しています。プログラムを書くというよりは、データをどのように扱い、事業活動や経営に活かせるかということになるかと思います。
●DX人材育成の成果はいかがですか?
具体的な成果はこれからです。まずは3年間でDXビジネス人材を100名体制にするという目標を掲げています。一社員として、会社がDX人材の育成に注力していることを感じています。専門的な技術人材は他社からもご支援をいただいていますが、今後は社内の人材を底上げして、DXビジネス人材へと昇華させていくことが重要になるでしょう。
●DXビジネス人材の育成と併せて、脱炭素の観点からはDXでどのような取り組みを描かれていますか?
総合商社は、温室効果ガス排出量の測定も多岐にわたりますし、複雑なバリューチェーンのため、膨大な入力、検証作業が必要となっています。現在は、誰もが活用可能な排出量集計のためのクラウド上の社内プラットフォームを整備し、データベース化に向けて取り組んでいます。
●サステナビリティの重点施策の一つにサーキュラーエコノミーも掲げています。
サーキュラーエコノミーの考え方は地域ごとに考え方や浸透度合いも異なるため、社内でも戦略を議論しています。当社はものづくりを専門に行っている企業ではありませんが、サプライチェーンに関わるプロセスの中で新しい価値を付加することや、インフラの長寿命化のような分野で貢献できると考えています。
●最後に2050年の脱炭素社会実現に向けて、メッセージをお願いします。
当社も2030年に、2020年3月期比GHGインパクト半減、2050年のネットゼロエミッションを掲げています。GHGインパクトとは、自社の排出量から事業を通じて実現した削減貢献量を差し引いたものとして定義しています。当社は、自社の排出量削減に加えて、社会全体の脱炭素社会への移行に貢献することを重視しているため、こうした目標を掲げています。
他社・パートナーの排出削減に貢献できる事業にも積極的に取り組み、目標達成への進捗状況を定期的に世の中に開示していくことで、社会への責任を果たしていきたいと考えています。今後も、脱炭素をはじめとする様々なサステナビリティの課題解決に取り組んでいきます。
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