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「持続可能な脱炭素化社会への移行に向け、企業が果たす役割とは?」環境省:Social Good Company 特別編 #39

※この記事の情報は2020年01月24日メンバーズコラム掲載当時のものです

地球温暖化による気候変動、超高齢化社会による人口減少と大都市への人口集中等が進むなか、社会課題満載の日本における新しい環境行政の在り方とは?今回のSocial Good Companyは、特別編と題して我が国の環境政策を担う環境省のキーパーソンにお話しを伺いました。

  • 「地域循環共生圏」は、日本が世界に発信する具体的なソリューション

  • パリ協定やSDGsにより、環境省のミッションも大きく変わる

  • 持続可能な社会に向けて、地域や企業と一緒に脱炭素社会を目指す以外に道はない

<インタビューにご協力いただいた方> 
環境省 総合環境政策統括官
中井徳太郎 さま
<プロフィール>
東京大学法学部卒業。大蔵省(当時)入省後、主計局主査などを経て、富山県庁へ出向中に日本海学の確立・普及に携わる。財務省理財局計画官、財務省主計局主計官(農林水産省担当)、環境省総合環境政策局総務課長、環境省大臣官房会計課長、大臣官房環境政策官兼秘書課長、大臣官房審議官、大臣官房廃棄物・リサイクル対策部長を経て、2017年7月より現職。

● 第五次環境基本計画では、「地域循環共生園」の創造が掲げられ、経済の循環にまでに構想が示されています。

2015年に国連でのSDGsの採択に加え、気候変動問題に関しての国際条約での枠組みであるパリ協定が合意されました。

産業革命以降、これまで平均で約1℃の気温上昇が進んだことで、気候変動が激しくなり、災害が多発する異常気象が頻発しています。気温の上昇は、人類の活動により、温室効果ガスが増えたことが原因であることは、IPCCでも科学的にも証明されています。この気温の上昇を何とか食い止めたいという中で、産業革命以降の気温上昇を2℃もしくは、1.5℃の上昇に抑えるという努力目標がパリ協定の合意事項です。

地球のエコシステムでは、植物、森林、海水内の植物性プランクトン等が二酸化炭素(以下、CO2)を酸素に変えるという自然のメカニズムがありますが、人類はそのメカニズムを超えて、大量の化石燃料を地上化し燃やし、森林を伐採してきました。また、大量生産、大量消費をしたうえ、大量廃棄をしてきました。そうして、便利な都市文明を創ってきたわけですが、自然の吸収能力を超えてCO2濃度は上昇し、今や400ppmを超えています。

21世紀の後半までに、CO2排出を自然吸収の範囲までに抑えれば、今後の上昇は1℃で止まり、2℃目標が達成できます。そして、1.5℃目標達成には、30年後の2050年の時点でそうした状況を作り上げる必要があります。つまり、これまでの化石燃料を燃やし、大量生産、大量消費、大量廃棄をしてきた人類の活動を変える必要があるということです。

SDGsはまさに、そうした危機感を前提に17の目標が掲げられていますが、気候変動対策等の環境保全がその基本になっていると言っていいでしょう。

● 「地域循環共生園」は、パリ協定やSDGsの採択があったからこそ策定されたということですね。

パリ協定やSDGsを世界各国が進めていくことは共有できていますが、どのような状況であれば、CO2排出を抑え、持続可能な社会を実現できるのかを示した絵姿はありません。つまり、パリ協定とSDGsを真正面から受け止めて、それを実現した社会の絵姿が必要になります。

「地域循環共生園」とは、CO2排出が減る社会構造に移行し、環境・経済・社会が調和した新しい成長を目指すということです。環境・経済・社会が地球の生態系システムのなかで調和し持続可能な社会を実現するため、バックキャスト思考により策定した考え方が、でんでん太鼓と呼んでいるこちらの絵姿です。

森・里・川・海といった地域の生態系サービスがあってこそ、人間も生存しています。空気も水も食べ物もエネルギーもそして、観光や健康もすべて、自然の恵みがあるからこそ成り立っています。

これまでのように、安く大量に作ることを目的に化石燃料を使う社会ではなく、地域の自立分散、地産地消を前提にしています。地域には、再生可能エネルギー資源や、農地、食料等も豊富にあります。そうした身の回りのものを活かして地域で循環していこうということです。一方で、都市には多くのお金や人材がありますので、地域の農山漁村と都市とがお互いのポテンシャルを高めて補い合うことが必要です。

こうした「地域循環共生圏」が実現すれば、結果的にCO2は減ることになるでしょう。これを何とか日本で実現し日本発のモデルとして世界にも拡げていきたいと考えています。自立分散、地産地消といった発想が重要であり、地域には様々な資源があることを前提に考えるということです。

世界でサステナビリティと言われ、SDGsという柱はありますが、どうしたらそれを実現できるかは明確になっていない現状において、「地域循環共生圏」は、日本が世界に向けて掲げたソリューションとして、意義あるものと考えています。

そして、具体的にこれを進めていくには、地域のフィールドのポテンシャルを見つめ直す必要があります。民間主体の経済に加えて、行政サービス等、みんながこうした発想を持つことが必要です。つまり、SDGsの目標17、パートナーシップが重要になるということです。

再生可能エネルギーの発電コストを下げる、また、水素や蓄電池や素材開発等、技術のイノベーションも必要でしょう。しかし、技術だけではなく、技術が社会に実装されるためのライフスタイル、そして、そうしたライフスタイルに購買行動がシフトしていく価値観の転換が重要です。

技術のイノベーションと併せて、ライフスタイルも変わり、地域や生活者のニーズも変化する、そうなると法律や税制、金融のあり方も変える必要があります。つまり、社会システム全体を変えていく必要があり、トータルでのイノベーションが必要であるということです。これが世界に拡がれば、究極の持続可能性と環境・生命文明社会が実現するでしょう。

「地域循環共生圏」の構想は、環境省がこれまで担ってきた公害対策や環境保全等、従来の行政の枠を超えて、経済の質の転換まで踏み込んでいます。経済・国土・地域・暮らし・技術・国際といった各省の連携により進めることを掲げたということです。

● ”世界規模での「環境と成長の好循環」”というキーワードも掲げています。これはまさに、マイケル・ポーター教授が掲げるCSVとも合致するものであり、驚きがありました。

サステナビリティが求められる今日、環境省のミッションが変わったと言っていいでしょう。もともと環境省は公害行政からスタートしています。水俣病から、最近では東日本大震災の放射性廃棄物の問題等、壊れてしまった人の健康や自然環境を復元すること担ってきました。

こうしたことを二度と起こしたくないという未来の社会像を突き詰めていくと、現在の経済の仕組みやお金の循環を変えていく必要があります。つまり、環境省としても持続可能な社会に向けて、民間と一緒に脱炭素社会を目指す以外に道はないと考えています。

● 先程の話のなかで、技術のイノベーションと併せて、人々のライフスタイルや価値観の転換が必要であることを指摘されています。まさにその通りかと思いますが、欧米と比べて、相対的に日本人はその辺りの意識が低いように感じています。

従来、日本人は自然と調和した社会や経済の仕組みを持っていました。江戸時代の暮らしはまさに循環型社会と言えるでしょう。明治以降の国づくり、そして戦後の復興を通して、豊かな物質文明は実現しましたが、その反面、本来日本人が持ってきた自然観や「もったいない」の精神を失ってきています。今また、その意識を変えていく必要があるのではないでしょうか。

日本は自然環境も豊かで様々な食材にも恵まれています。本来の日本の地域が持つポテンシャルに目を向けることで、日本人は自然や地域の力に気付き、その恵みにコミットすることで意識改革の流れも促進されると考えています。

金融の世界でも、ESG金融への取り組みが急速に進んできており、お金の流れという面からも意識改革は促されてきています。

● 2050年までにはCO2排出ゼロを宣言する国があるなかで、日本はヨーロッパ諸国と比べて、再生可能エネルギーへのシフトも鈍いように感じます。

日本は脱炭素社会を目指す有志国の合「炭素中立性連合」に日本も参加していますし、パリ協定の長期戦略では、脱炭素社会を掲げ、その実現の期限も21世紀後半のできるだけ早い時期であることも表明しています。1.5℃目標における2050年に脱炭素社会という期限ではありませんが、21世紀後半は2051年も含まれるため、環境省としては、そういう意気込みでの達成を目指しています。

また、これからの環境と経済の好循環というのは、国内国外一体型で進めることが重要です。国内の取組みと併せて、日本企業の力により、グローバル規模で対応することを政府としても後押ししたいと思いますが、既に日本のグローバル企業は様々な取組みを進めています。気候変動対策に加えて、災害対応力も海外に還元していきたいと思いますし、「地域循環共生圏」を広めることで地球を救う発想にまで拡大できると考えています。

● 気候変動や地球温暖化に対して、民間企業が果たす役割は大きいと感じています。

まさにその通りです。環境省でも、森里川海プロジェクトを立ち上げ、SDGsを暮らしのなかで実践するための普及啓発を行っていますが、企業や自治体にも賛同し参加していただいています。サステナブルな社会への変化を生活者1人ひとりが受け止めて、購買行動を変えていくことを目指しています。

そして、企業が変わるということは、その企業の社員が幸せになることを通じて実現されるものです。先程のでんでん太鼓の絵姿は、都市圏の企業が、地域の自治体や企業と連携し、災害時に相互にサポートしたり、サテライトオフィスによって社員の働き方を変えたりすることまでをイメージできることを示しています。

企業の重要なステークホルダーの1つである社員も含めて、企業が豊かになっていくことが重要であり、企業が豊かになれば社会にも貢献できて企業価値も上がります。民間企業がそうした取り組みを進めれば、ボトムアップ型で「地域循環共生圏」が全国で実現できるでしょう。

● 個人の意識やライフスタイルを変えるということでは、ファストフード店のプラスチックストローの使用中止やサステナブル認証の食材調達等を通して生活者に影響を与えることは、非常に重要です。

個別の企業が取り組みを行うことにより、株価で評価され、生活者からの支持される、そうした動きに社会が変わろうとしています。

最近では、エコファースト企業でもあるアスクルさんの主催により、「アスクル環境フォーラム2019」が開催されました。私も登壇の機会をいただきましたが、参加者は350人を超え、気候変動や脱炭素社会の実現に向け、関心が非常に高まっていることを実感しています。

また、環境省では「COOL CHOICE」等の国民運動を進めているほか、「環境と社会によい暮らし」に関わる活動や取り組みを紹介、表彰する「グッドライフアワード」を運営しています。気候変動への対応やSDGsの達成に向けて、企業が様々な検討を進め活動していることは意義があることだと感じています。

このほかにも、「“よい仕事おこし”フェア」という、城南信用金庫さんが中心となって、全国の信用金庫のうち約9割が地元企業とともに東京国際フォーラムに集まる、地域中小企業のマッチングイベントがあります。今年度、環境省も「地域循環共生圏」を発信すべく出展しましたが、金融機関が地域のマッチングに尽力することはとても重要なことです。

● 地域活性化や地域でお金の循環を促すには、地域金融機関はとても重要なプレーヤーとなります。

地域資源を有効活用し地域が自立し、地域が元気になる。地域金融機関は、「地域循環共生圏」実現への大きな役割を果たすと言えるでしょう。

● 最後に、2030年のSDGs達成に向けて、また、今後の脱炭素社会に向けて、生活者と企業それぞれに向けて、メッセージをお願いします。

私たち生活者1人ひとりで構成され、成り立っているのが企業です。食の視点から見れば、自分の家族や子どもたちには問題のないものを食べさせたい、そう考える私たち生活者の大半は企業の従業員でもあるわけです。

生活者としての個人の考えを企業活動に活かせば、生活者で構成される企業そして、そこで働く従業員つまり、生活者の幸福度も上がります。従業員の幸福度が上がれば顧客サービスの質も向上するでしょう。そうなれば、企業は評価され企業価値も上がることになります。つまり、生活者と企業に向けてのメッセージは同じものであると考えています。

私たちの生活は、森・里・川・海といった生態系システムによって支えられています。CO2を排出しない自然エネルギーの方が地球環境にとっても望ましいでしょう。現代は、おいしい食べ物やきれいな水や空気、そうした自然環境豊かななかで快適に暮らすために、テクノロジーを上手く活用できる時代であると言えます。それを進めるのは生活者で構成された企業です。企業の従業員である私たち生活者にその想いがあれば、イノベーションも起きるし、購買行動を変えるギアも入ることでしょう。

人間は、細胞や組織が自立・分散して機能することにより成り立っています。末端細胞が活性化され血流を促し、元気になっていく、そういった意味では、「地域循環共生圏」は人間と同様にボトムアップ型です。SDGsの理念と同じ様に、誰も取り残さない、つまり、人間であれば、細胞レベルから、そして1人ひとりが元気であること、企業であれば、従業員であり生活者である個人が活躍することによって、地域や社会が元気になっていく。そうなれば、脱炭素社会実現の道も開けることでしょう。

ライター:萩谷 衞厚
2015年5月メンバーズ入社。様々なCSV推進プロジェクトを担当、2018年よりSocial Good Companyの編集長、2022年度からは、アースデイジャパンネットワークの共同代表を務める。

※この記事の情報は2020年01月24日メンバーズコラム掲載当時のものです

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