Members+ 経営x脱炭素 ビジネスコラム
どう考える? 新電力事業者の撤退が相次ぐ再エネ業界と企業の電力調達戦略 Members+対談#01
「ロシア」「ウクライナ」に関係する内容の可能性がある記事です。
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どう考える? 新電力事業者の撤退が相次ぐ再エネ業界と企業の電力調達戦略 Members+対談#01

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「経営x脱炭素」に関するトピックについて、有識者とメンバーズ専務執行役員である西澤が意見を交わし合うシリーズ企画。
#01は京都大学大学院の諸富 徹 教授と「電力」をテーマに語り合いました。
政府が「電力需給逼迫警報」を発出したり、実際に首都圏で大規模な停電が起きたりするなど、電力不足は今、生活者にとっても身近な問題となっています。
電力高騰を受けて新電力の撤退も相次ぐ中、こうした事態に企業はどうリスクヘッジすべきなのでしょうか?
エネルギー業界の動向予測や、根本的な課題などについて、活発な意見が交わされました。

語る人 ※文中敬称略
諸富 徹氏(京都大学大学院 教授)
西澤直樹(株式会社メンバーズ 専務執行役員 EMCカンパニー社長)

なぜ電力不足? 本当に電力不足?

西澤:昨今の経済・社会において、電力は一つのトピックになっています。新電力企業の市場撤退が相次いでいること、そして日本経済自体が電力不足に陥る可能性が極めて高いということも報道されています。なぜ今、こういった電力危機が起きているのでしょうか?

諸富:ある程度、予想されていたことではあるのです。まず構造要因としては、電力市場自由化の影響で価格競争が激化したために、電力会社が運営する発電所の数を減らそうとしており、そういう側面から見ると供給力が下がっていることは確かです。電力需要に対する供給の予備比率はこれまで8%~9%ほどでしたが、現在は3%程度になってきています。実は3%というのは最適な水準だと思います。むしろ8~9%というのが過剰だったのです。

過剰設備でも経営的には問題なしだったので、電力会社は高コスト体質になりがちだったわけです。それが電力自由化をきっかけに通常の市場と同じような競争が始まり、過剰設備を削減することでコスト削減をはかった結果が今につながっていると言えそうです。

これまでの電力会社は基本的にエリアを棲み分け、それぞれがほぼ独占的に電力を供給してきました。電力会社をまたぐ電力系統についてはあまり投資して来なかった経緯があり、災害時を除いては電力を融通し合わないのが通例です。いわば、お互いを不可侵条約で結ぶ、競争のない棲み分けの世界だったわけです。
しかし状況が変わり、たとえば東京電力は電力自由化以来、首都圏の電力販売の競争により新電力との顧客の奪い合いが激しくなったと言われています。

加えて東京電力は、福島第一原発の廃炉費用といった課題も抱えています。そのため、非効率電源の廃止を進めてコスト削減をはかっています。データを確かめていないので私の予想ですが、まず相対的に見て1番値段が高い石油火力が廃止されていっているのではないかと思います。ガスは調整電源として生き残らせつつ、安い石炭を長く使いたいというのが本音でしょう。脱炭素が叫ばれている時代にも関わらず、です。そうした中で市場競争にさらされている結果、供給能力が全体的に下がってきているということなのです。

西澤:一方で、供給の変化としては再エネがやはり増えているのではないでしょうか?

諸富:そうですね。と同時に、変動電源といわれるとおり天気任せな部分があるので、欲しい時にその電力がすぐに供給されるとは限らない、というリスクは高まりました。そのことを象徴するかのように、2022年3月下旬に東京電力管内で起こったブラックアウト危機でも、「太陽光発電が不足したから」といった話が聞こえてきました。

西澤:東京は、4月間近とは思えないほど寒かったことを覚えています。

諸富:とはいえ考えてみれば、日本全国で一斉に太陽光も風も止まっている状態などあり得ないですよね。だから予備電力のあるエリアからひっ迫しているエリアへ、電力を融通できれば解決できるはずなのです。
今春のブラックアウト危機は、地震と季節外れの厳寒という、特殊な条件が重なったことが主な要因でした。あの時、西日本には多少予備電力に余裕があったので、東日本へと供給を融通できれば危機とはならなかったかもしれないのです。ところが、地域による周波数の違い(西日本60Hz、東日本50Hz)が、それをはばんだという現実があるのです。

お話したとおり、予備比率約3%は最適水準に違いないのですが、それを機能させるためには地域や会社をまたいで電力を融通し合えるしくみが必須です。電力系統にもっと投資をすべきでしょうね。

求められる抜本的な解決策

西澤:しかし一般的な論調としては、今春のブラックアウト危機の経験もあって、一足飛びに「やっぱり原発再稼働だ」となりがちな感がありますよね。
 
諸富:原発を再稼働させれば、石油火力などの削減分を底上げすることはできます。しかし当然、運転コストもかかってきます。また、原発の点検のためには2~3ヶ月の休止を経て、その後には1週間程度をかけて徐々に通常運転に戻す必要があるのです。さらに地震のリスクもあります。だから、緊急時にすぐ対応できる電源ではないのです。
 
西澤:原発再稼働は抜本的な解決にはならない、ということですね。では現在の電力に関する課題について、どんな対策が有効だと思われますか?
 
諸富:建物屋根や工場屋根での太陽光発電をはじめ、住宅建物やカーポートなどをどんどん活用していくべきでしょうね。電気自動車を蓄電池代わりに利用して、太陽光パネルで昼間に発電した電力を蓄電池で自動車に貯め、また自動車から電力供給を受けて、といった電力の循環を目指すことです。
将来は、たとえば家と家、あるいはビルとビルをつなぎ、家同士やビル同士がエリアで電力を融通するといったビジネスも生まれ得るでしょう。家やビルを電力システム末端の電力生産拠点として機能させ、かつ、蓄電池やデジタライゼーションの技術を使って電力の需給がバランスするよう最適に制御していくしくみです。電力市場マーケットと連動させ、電力価格が高い時には売電、低くなったら蓄電池に蓄えるようなアルゴリズムをつくっておき、あとはAIでコントロールしてつねに最適な状態にもっていくこともできるかもしれません。

先日、日経新聞に掲載されたフォルクスワーゲン社の社長インタビューを読んだのですが、似たような構想を話していました。自社の自動車を電気自動車にシフトして、それを住宅と結びつけて電池化し、単に電気自動車としての物体の価値だけでなく蓄電池としての価値も最大限に生かして収益化を図るのだ、と。つまり、電気自動車という移動蓄電池を各家庭に送り込むようなイメージですね。人口減によって新築住宅の需要が減っていく時代にあって、住宅業界としてはこうした他の業界からの殴り込みを指をくわえて眺めている手はないと思うのですが……。

「見えざる手」による新電力の淘汰

西澤:一方、日本経済新聞によると新電力約700社中、2022年3月までに31社が撤退したそうです(※1)。今後も増え続ける可能性が高いといいます。そうなると、やっぱり頼るは東京電力だ、ということになっていくのか。あるいは、新電力は新電力でまた別の道筋をたどるのでしょうか?
 
諸富:淘汰が必要だったという側面もあったのではないでしょうか。市場競争によって電力の価格が下がったり、様々な電力メニューが提供されるなど、新電力には消費者の選択を増やすという成果がありました。しかし、そのビジネスモデルが安易だったことも事実です。新電力=再エネと認識している方も多いようですが、新電力の大多数は、再エネに限らず化石燃料や原発由来のものも含め、仕入れた電力を売る、というビジネスモデルなのです。設備投資が不要である代わりに、今回のような価格高騰などが起きた場合に、市場の価格変動の影響をもろに受けてしまうリスクは避けられません。

今回の価格高騰問題は、コロナ禍が明けて世界需要が増加し、それに伴って化石燃料の需要も増えたことが1つの原因です。風が吹かなかったことで風力発電による電力が少なかったことも一因ではないか、という分析もあったので、私が代表を務めている京都大学の「再生可能エネルギー経済学講座」という研究拠点で実証研究を行いました。その結果、風力発電が足りなかったという仮説は否定されました。それに加えて、ロシアによるウクライナ侵攻が、さらに電力高騰に拍車をかけています。
 
西澤:現在、新電力が淘汰されていること自体は、どちらかといえば健全と理解できるのかもしれません。
 
諸富:こうした状況の中で、新電力側も鍛えられるだろうと思います。これまでのFITに代わり、今後は「コーポレートPPA」のようなビジネスモデルが発展し、再エネの直接供給を受けることができる再エネ会社を囲い込む動きが進展する可能性が出てきています。特に企業は、「RE100」へのコミットメントなどを迫られているので、再エネの需要が目に見えて高まっています。
 
西澤:企業としても、これまでは輸入エネルギー源に頼っていたものを、日本で生産できる再エネを使えば仕入れコストは削減できるわけですから、コスト競争力が高まるという考えもあるのでしょうか?中長期的な視点になりますが。
 
諸富:国内で調達できるのであれば当然その方がいいわけですよね。これまではコスト高と、天候にともなう発電量の変動性の問題、さらにはそれを制御して電力需給を安定化させるノウハウがないことなどを理由に、なかなか再エネは選ばれなかったのですが。ここへ来て徐々に、制御の技術などを含めた関連ビジネスも登場し、いわゆる生産量にも品質にも不足はなくなってきました。
たとえば上述の「コーポレートPPA」の具体的事例としてアマゾンは、太陽光をはじめとする再エネの直接購入契約を三菱商事と結びました。再エネの変動性を制御して電力を安定供給する役割は、三菱商事が電力小売り会社として担います(※2)。
 
西澤:資源がない日本にとっては良いチャンスですね。
 
諸富:一説によると、2022年は「コーポレートPPA元年」になると予想されているとか。特に、ロシアのウクライナ侵攻によって化石燃料の価格が高騰しています。そういう意味でも再エネには利があるのです。

BCPの観点からも進めるべき「脱炭素DX」

西澤:特に日本企業は今後、脱炭素化と電力の需要家としての確保という両面において、難しい課題に直面するのではないかと思います。その中で、コーポレートPPAは1つの選択肢となりそうですね。
また、電力需要のひっ迫を踏まえ、BCP対策にも取り組む企業が徐々に増えているというニュースも耳にします。現時点で、日本企業が電力のリスクに対して打てる対策や、やるべきことは、どんなことだと思われますか?
 
諸富:自衛の部分も必要という観点からいえば、自前電源を持つということになりそうですね。たとえば工場の屋根、カーポートがあればそこにも太陽光パネルを設置して、なるべく電力を自給できる水準にまで持っていく、といった取り組みです。欧州ではもう、完全に再エネだけで電力を確保する工場があるのです。

日本では、ガス発電によるコジェネレーションシステムを自前電源を持っている、六本木ヒルズの例はよく知られています。東日本大震災で電力がひっ迫する中、自社用の電力だけでなく、東京電力に供給したことも話題になりました。こうした事例からすると、系統電力が遮断された時にも自力で操業できるか否か、そういう視点で不足しているものを探してみることですね。

また、北海道のセイコーマートは、2018年の北海道胆振東部地震でブラックアウト(全域停電)が起きた際にも営業を続け、さらに地域の住民に電気供給までできたといいます。これは、非常用電源を普段から確保して営業継続に備えていたことが効いたわけで、普段から自前電源を確保することは、BCPの観点からも大事なのかなと思います。できれば、それを今後は再エネ電源でも確保する試みが求められると思います。
 
西澤:どこまで自衛するかを想定しておくべきということですね。一方で、自給自足ですべての電源を賄えるほど体力がない企業が多いとも思います。そこで、われわれメンバーズが推進している脱炭素DXのようなデジタル化とサービス化の取り組みが重要になってくるのではないか。電力リスク側の観点からも、あらためてそう思いました。

脱炭素自体は、どちらかといえば社会の要請で企業がやるべきことになっていました。しかし電力リスクと考えると、企業側にとっては待ったなしの話です。この待ったなしの話とDXを、ちゃんと両輪で回せることがポイントになってくると思っています。
 
諸富:例えば、電力不足による電力の価格上昇をAIが察知し、顧客の電力需要を柔軟にコントロールしていくような仕組みがあればいいですね。デジタライゼーションの力で、やっていくべきことですね。現にドイツなどでは、そうした仕組みが、すでに普及してビジネスモデルとしても確立しているのです。
 
西澤:想定よりも圧倒的なスピードで電力リスクが高まる中、DXと組み合わせた対策は急務といえそうですね。

文責:岡 小百合

※1 https://www.nikkei.com/article/DGXZQOUC27BGQ0X20C22A4000000/
※2 https://aws.amazon.com/jp/about-aws/whats-new/2021/09/amazon-and-mitsubishi-corporation-announce-first-corporate-ppa-for-renewable-energy-in-japan/

対談者プロフィール:
諸富 徹氏
京都大学大学院 経済学研究科 教授
メンバーズの脱炭素DX推進領域アドバイザー、環境経済学の専門家。特に環境税、排出量取引制度など気候変動政策の経済的手段(カーボンプライシング)の分析やグローバル経済/デジタル経済下の税制改革といったテーマに取り組まれる。直近では、資本主義が脱炭素化/デジタル化に向けて変容していく中で、市場と国家のあり方はどうあるべきかを問う研究にも従事される。
 
西澤 直樹
株式会社メンバーズ 専務執行役員 EMCカンパニー社長
2006年新卒でメンバーズに入社。大手セキュリティ企業のデジタルマーケティングプランナーとして5年間常駐したのち、2013年最年少部門長として現在のEMCに繋がる成果型チーム運営の基盤作りを行う。2017年にメンバーズ初のCSV事例を創出。同年から執行役員、2020年から現職。脱炭素×DXの両立をテーマに、脱炭素時代の新しいソーシャルバリューを生み出すことにチャレンジ中。

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